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154 心を鍛える

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勇者は恥ずかしそうにしている。
でもバラエティという物を知っているせいか、ちょっとウケた事を喜んでいるようにも見える。

笑いが収まった頃に、皆に発表する。

「こんな感じで、上手い人と下手な人の絵を見て楽しむんだ」
「……笑い者にするのですか?」

支配人から疑問の声が。
それを聞いたアイドル達も、自分達がこれをするのかと気づき、驚きの表情をする者や怪訝な顔をする者が。

「笑い者にするという言い方はダメだね」
「ではどういう意図が?」

何と説明すれば良いだろう?
変な説明をすれば、反対されそうだ。

「……個性、そう、個性だよ」
「個性、ですか?」
「そう、個性。
 例えば『あの娘は歌が上手いけど絵は下手だよね』とか『絵も歌も上手いな』とか。
 コレが個々を区分する個性だ。
 ほら、そこに居るヒジリ君も紹介する時に言ってただろ?
 『ショートカットの似合う、ティナちゃん』って。そういう事だよ」
「しかし、心の弱い娘には苦痛では?」

食い下がるね……。
やはりテレビの無い世界では難しいのか?
いや、ここは押し切ろう!

「逆に心を鍛える試練だと思ってくれないとダメだ。
 今はチヤホヤされているけど、これから先もそうだとは限らないんだ。
 ダンスや歌も今は珍しいけど、他に同じ様な事をする人達が出てきたらどうする?
 そちらに人気を持っていかれるぞ? それからアピールしても遅いんだぞ?
 それらと比較されたらどうだ? 君達の方が下手だよね、とか言われたら?
 そういう時に乗り切れる方法はただ一つ。心を鍛えて置く事なのだ!」
「……は、はい」
「ついでに言えば、歌とダンスだけでは集客も限界がある。興味の無い人も居るからね。
 そういう人を呼び込むには、こういう面白い事をやってるとアピールする事も大事だ。
 来てもらわないと歌もダンスも見てもらえないだろ?
 そういう事で興味を持ってもらって来てもらい、そこで歌やダンスも見てもらいファンになってもらう」
「……なるほど」

勢いで話したけど、どうかな?
混乱しながらも理解してもらえたかな?
……頷いてるのは勇者だけか~。

「判りました! 頑張ります!」

突然声を上げたのはキャプテンのモサちゃんだった。

「ここまで考えてくれているんだよ! 私達がやらなくてどうするの!
 リョー様にここまで言ってもらったのにやりたくないなんて言う娘は、今すぐ辞めて!」

その声で、皆の覚悟が決まったようだ。
……ゴメンね。適当な事を言ってるだけなんだ。

ヤベェ、この娘達の人生を背負った気分だ。
王様にお願いして、卒業後は仕事を斡旋してくれるようにしないと!

「ではリョー様、漫才というのはどういう物なのか、教えて下さい!」
「「「「お願いします!」」」」

おっと、別の試練がやってきた!

「え、え~と、じゃあヒジリ君が……」
「無理です! ピン芸人じゃないんですから!」
「って言われてもなぁ」
「リョーさん、一緒にやりましょうよ!」

悪魔か、お前は!
悪魔使いは俺なんだけどな。

……周囲の期待する目に負け、俺は舞台に上がる。


舞台袖で、勇者と打ち合わせをして、日本で見たショートコントをやる事になった。

「はい、ど~も~」
「お願いしま~す」
「ショートコント、ドラゴン」

空を指差して
「あっ、ドラゴンだ!」
「えっ?! どこだよ?!」
「ほら、あそこの雲」
「雲じゃないか!」
ペコリ


ウケなかった。
……死にたい。
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