70 / 79
第三章
12話
しおりを挟む
「栞季くんに今から行くところハマってもらえたら、オフの日の栞季くんとの遭遇率高くなるかなって!」
そう言って、玲央はわざとらしくウインクしてきた。
「お前、そんなこと狙ってたのか」
「狙ってたって言い方やだな~。俺はただ、偶然を装った運命の再会を演出したかっただけです~」
「それは偶然じゃなくて、計算だろ」
呆れまじりにそう返して、視線を窓の外に逸らす。流れる景色をぼんやりと眺めながら、俺はふと考えていた。
こいつと飯食ったり、出かけたりするのは、そんなに悪くない。最初の方に断ってたのも、別にこいつのことが嫌いで断ってたわけじゃないし。今になっては、断ることも少なくなってることに、こいつは気づいてるのか。
こういうのが一緒にいて居心地がいい……っていうんだろうな。
だから、別に普通に誘ってくれたら一緒に行くのに。
「えっ?」
いきなり、隣から小さな悲鳴のような声が上がった。驚いて顔を向けると、玲央が固まったみたいに目を見開いて、顔を真っ赤にしていた。
「……え?何?どうした?」
「え、ええっと……ちょ、ちょっと待って……!」
思わず聞き返すと、玲央は焦ったように手をバタバタと振りつつ、何かを言いたそうにも言葉が出てこない。しばらくの沈黙のあと、目を泳がせながらぽつりと呟いた。
「それ、ほんと?冗談とかじゃないよね?」
「なにが?」
意味がわからなくて眉を寄せる。玲央はますますしどろもどろになりながら、俺の顔を見て、俯いてを繰り返す。
「えー、無自覚なの?それ……」
その小声は、確かに耳に届いた。
「だから、何?」
素で問い返すと、玲央は唇を噛んで視線を泳がせた。
「今、!『誘ってくれたら一緒に行くのに』って……心の声が!ダダ漏れでした!!」
玲央は目元を抑えて深くうなだれた。何がそんなにダメージなのかはわからないが、どうやら本人の中では致命傷らしい。
「お願いだから、急にデレないで……心の準備ってもんがあるの……死ぬかと思った」
自覚がなかったとはいえ、あいつの反応を見てると、少しだけ、腹の奥がくすぐったくなる。
「悪かったな、殺しかけて」
冗談めかしてそう言ってやると、玲央は顔を真っ赤にしたまま、指の隙間から俺を睨んでくる。
「まじで、もうちょい手加減してください……」
その情けない声を聞きながら、俺はまた外に視線を戻す。
このやりとりをやってるうちに職場の駅に停車していたようで、ゆっくりと電車が発車し、次の停車駅を知らせる車内アナウンスが流れる。
「それで、もう次で降りるわけだが……生きてるか?」
「う……もう平気……」
玲央が小さく息を吐いて、ようやく手を下ろす。
「ならよかった」
俺はそっけなくそう言ってから、腕を組んで座り直す。すると、隣からこっそりと視線を感じた。
チラと視線を向けると、玲央は俺の顔をじっと見ていた。
「……なに」
そう声をかけると、玲央は照れくさそうに眉尻を下げ、口元に微かな笑みを浮かべる。
「さっきの……栞季くんの本心だと思うと、めっちゃ嬉しくてさ」
そう呟きながら、「まだ心臓ばくばくしてる……」と、自分の胸のあたりを押さえて、胸の鼓動を落ち着かせるように軽く手のひらでなぞる。
「俺、本っっ当に不安だったんだよ?無理してご飯とか付き合ってくれてんのかなって……でも、あれが栞季くんの本心なら俺の杞憂だったなって」
彼は少しだけ間を置き、視線を泳がせながら、改めて言葉を紡ぐ。
「いつも俺が誘ってるじゃん?……だから、栞季くんもさ。行きたいところとか、食べたいものとか……なんでもいいから。そういう時は、いつでも俺のこと、誘ってくれたら嬉しいな。なんて……」
ほんの少し頬を赤く染めた玲央は、それ以上何も言わず、膝の上で手を握りしめた。
「……わかった」
俺は短く、けれど確かにそう返した。
それだけで、隣から「ひゅ……っ」と息を呑むような音が聞こえてくる。チラと横目で見やると、玲央は真っ赤になった顔を両手で覆って、耳まで真っ赤に染めていた。
「っ、やっぱり、デレ期だ……っ」
照れすぎて崩壊寸前の玲央を見て、思わず口元が緩む。
それを悟られないように、俺は視線をそらし、窓の外へと向けた。車内アナウンスが次の停車駅を告げ、ゆっくりと電車が減速を始めた。
「ほら、案内してくれんだろ?降りるぞ」
「う、うんっ!」
減速していた電車が、やがて静かに停車する。ドアの開く音が、やけに大きく響いた。
「お前、その顔、冷やした方がいいぞ」
「こ、これは栞季くんのせいだからねっ!?」
耳まで真っ赤なまま、必死に言い返してくる玲央を横目に、俺は思わず鼻で笑った。
「……はいはい」
そう言って、玲央はわざとらしくウインクしてきた。
「お前、そんなこと狙ってたのか」
「狙ってたって言い方やだな~。俺はただ、偶然を装った運命の再会を演出したかっただけです~」
「それは偶然じゃなくて、計算だろ」
呆れまじりにそう返して、視線を窓の外に逸らす。流れる景色をぼんやりと眺めながら、俺はふと考えていた。
こいつと飯食ったり、出かけたりするのは、そんなに悪くない。最初の方に断ってたのも、別にこいつのことが嫌いで断ってたわけじゃないし。今になっては、断ることも少なくなってることに、こいつは気づいてるのか。
こういうのが一緒にいて居心地がいい……っていうんだろうな。
だから、別に普通に誘ってくれたら一緒に行くのに。
「えっ?」
いきなり、隣から小さな悲鳴のような声が上がった。驚いて顔を向けると、玲央が固まったみたいに目を見開いて、顔を真っ赤にしていた。
「……え?何?どうした?」
「え、ええっと……ちょ、ちょっと待って……!」
思わず聞き返すと、玲央は焦ったように手をバタバタと振りつつ、何かを言いたそうにも言葉が出てこない。しばらくの沈黙のあと、目を泳がせながらぽつりと呟いた。
「それ、ほんと?冗談とかじゃないよね?」
「なにが?」
意味がわからなくて眉を寄せる。玲央はますますしどろもどろになりながら、俺の顔を見て、俯いてを繰り返す。
「えー、無自覚なの?それ……」
その小声は、確かに耳に届いた。
「だから、何?」
素で問い返すと、玲央は唇を噛んで視線を泳がせた。
「今、!『誘ってくれたら一緒に行くのに』って……心の声が!ダダ漏れでした!!」
玲央は目元を抑えて深くうなだれた。何がそんなにダメージなのかはわからないが、どうやら本人の中では致命傷らしい。
「お願いだから、急にデレないで……心の準備ってもんがあるの……死ぬかと思った」
自覚がなかったとはいえ、あいつの反応を見てると、少しだけ、腹の奥がくすぐったくなる。
「悪かったな、殺しかけて」
冗談めかしてそう言ってやると、玲央は顔を真っ赤にしたまま、指の隙間から俺を睨んでくる。
「まじで、もうちょい手加減してください……」
その情けない声を聞きながら、俺はまた外に視線を戻す。
このやりとりをやってるうちに職場の駅に停車していたようで、ゆっくりと電車が発車し、次の停車駅を知らせる車内アナウンスが流れる。
「それで、もう次で降りるわけだが……生きてるか?」
「う……もう平気……」
玲央が小さく息を吐いて、ようやく手を下ろす。
「ならよかった」
俺はそっけなくそう言ってから、腕を組んで座り直す。すると、隣からこっそりと視線を感じた。
チラと視線を向けると、玲央は俺の顔をじっと見ていた。
「……なに」
そう声をかけると、玲央は照れくさそうに眉尻を下げ、口元に微かな笑みを浮かべる。
「さっきの……栞季くんの本心だと思うと、めっちゃ嬉しくてさ」
そう呟きながら、「まだ心臓ばくばくしてる……」と、自分の胸のあたりを押さえて、胸の鼓動を落ち着かせるように軽く手のひらでなぞる。
「俺、本っっ当に不安だったんだよ?無理してご飯とか付き合ってくれてんのかなって……でも、あれが栞季くんの本心なら俺の杞憂だったなって」
彼は少しだけ間を置き、視線を泳がせながら、改めて言葉を紡ぐ。
「いつも俺が誘ってるじゃん?……だから、栞季くんもさ。行きたいところとか、食べたいものとか……なんでもいいから。そういう時は、いつでも俺のこと、誘ってくれたら嬉しいな。なんて……」
ほんの少し頬を赤く染めた玲央は、それ以上何も言わず、膝の上で手を握りしめた。
「……わかった」
俺は短く、けれど確かにそう返した。
それだけで、隣から「ひゅ……っ」と息を呑むような音が聞こえてくる。チラと横目で見やると、玲央は真っ赤になった顔を両手で覆って、耳まで真っ赤に染めていた。
「っ、やっぱり、デレ期だ……っ」
照れすぎて崩壊寸前の玲央を見て、思わず口元が緩む。
それを悟られないように、俺は視線をそらし、窓の外へと向けた。車内アナウンスが次の停車駅を告げ、ゆっくりと電車が減速を始めた。
「ほら、案内してくれんだろ?降りるぞ」
「う、うんっ!」
減速していた電車が、やがて静かに停車する。ドアの開く音が、やけに大きく響いた。
「お前、その顔、冷やした方がいいぞ」
「こ、これは栞季くんのせいだからねっ!?」
耳まで真っ赤なまま、必死に言い返してくる玲央を横目に、俺は思わず鼻で笑った。
「……はいはい」
0
あなたにおすすめの小説
眠れない夜を数えて
TK
BL
はみ出し者の高校生、大野暁は、アルバイトに明け暮れる毎日。
ふとしたきっかけで、訳ありな雰囲気のクラスメイト坂下と親しくなり、二人の距離は急速に縮まっていく。
しかし坂下には人に言えずにいる秘密があり、やがて二人の関係は崩れていく。
主人公たちが心の傷や葛藤と向き合い乗り越えていく物語。
シリアスでせつない描写が中心です。
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる