93℃の執着

UTAFUJI

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第三章

13話

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 ホームに降り立ち、改札口に向かおうとするも、肝心の案内役は機能していないようだった。

「お~い」

 ホームの柱に体を寄せて、その場から動かなくなった玲央に呼びかけると、彼はちょっと拗ねたような声で返事をした。

「なにさ」

 彼はまだ頬を赤くしたまま、こちらを見ようともしない。どうやら、さっきのやりとりを引きずっているらしい。

「大丈夫か?案内は?」

「……わかってるけど、ちょっと待って」

 そう言って、玲央は手のひらで頬を扇いでいた。

「顔から湯気出そうだな」

「だとしたら栞季くんのせいだからね!!」

 俺は小さくため息をつきながら、ポケットに手を突っ込んだまま近づいた。

「そんなに限界なら、自販機でなんか買ってこようか?」

「大丈夫、すぐ復活するから!今、自分の顔の赤さ自覚してるから……なんか、すっごく浮かれてる奴みたいで恥ずかしいじゃん……!」

「いや、実際浮かれてただろ」

「ぐっ……そ、それは否定できないけど……!」

 赤い顔のまま、天を仰ぐその様子が、どうにも可笑しくて笑ってしまった。

「れ~お」

 ゆっくり名前を呼ぶと、ぴくんと彼の肩が跳ねた。

 まるで怒られてる時の犬みたいに、俺の声に反応してビクつくのがちょっと面白い。

 こんなの見ると、いたずら心が働いてしまうのは仕方ないだろう。

「な、なんでしょうか……」

 そう言いながら、おずおずと顔をこちらに向け、距離を取ろうとする玲央に、俺は構わず距離を詰める。

 人気が落ち着いた駅のホームでは俺らのことを気にしている人もいない。これは好都合だ。

 何をされるのかわかっていない彼の視線は泳ぎ、瞬きを繰り返している。そんな彼の耳元へ顔を近づける。吐息がかかるくらいの位置で囁いた。

「復活できないならさ……」

「このまま、二人で”休憩”できるとこ、行くか?」

 玲央の呼吸が一瞬止まったのがわかった。

「……っ」

 喉が鳴る音だけが、小さく響いた。どんな表情をしているのか、ふと顔を離して覗き込む。頬に残った熱は引くどころか、耳の先までじわじわと広がっていた。

 期待どおりの反応に、口元がわずかに上がる。

「……な~んて。本気にした?」

 その言葉に、玲央は目を丸くした。ほんの一瞬の沈黙のあと、ぐぬぬ……と悔しそうな唸り声を漏らしながら、頭を抱え込む。

「うわああああ、なんでそんなことすんの……っ!」

 しゃがみ込んで膝に額を押しつけるその姿は、傍から見たらただの不審者だ。

「俺のHPが……どんどん削られてるんだけど……っ!」

「知らん」

 ため息まじりにそう返すと、一瞬間を置いて、玲央は勢いよく地面から顔を上げ、頬を真っ赤に染めたまま立ち上がった。

「よ、よし……!じゃあ、まずは向こうの改札をっ!出よう!!」

 耳の先まで赤く染めながら、すたすたと歩き出す玲央の背を、俺は少し遅れて追いかけた。
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