73 / 79
第三章
15話
しおりを挟む
奥のカウンターからマスターらしき男が軽く会釈してくる。
「いらっしゃいませ」
「二人いけますか?」
玲央の問いかけに、マスターはにこやかに頷いた。
「もちろん。どうぞ、お好きな席へ」
カウンター席の他には、木のぬくもりを感じさせるテーブル席が数卓。壁際には古書の並ぶ本棚や、さりげなく飾られた花が目を引く。アンティークのランプが柔らかな灯りを落としていて、店内全体が落ち着いた空気に包まれていた。
「奥の席って、空いてますか?」
玲央が尋ねたその一言に、俺は一瞬だけ首を傾げる。
奥?まだ席があるのか?
視線を巡らせても、店内に見えるのはテーブル席とカウンターだけ。だが、マスターは慣れたように頷く。
「はい、空いてますよ」
そう言って指し示されたのは、本棚の隣にある扉。なるほど、どうやらその先にも客席があるらしい。
驚いた顔をしていると、マスターがやわらかな声を続ける。
「もし、よろしければお先にご注文お伺いしましょうか?」
「はい!俺は、レアチーズケーキのセットで~……ドリンクはこのコーヒーで!」
玲央がすかさず元気よく注文を告げると、マスターは笑みを深めながら控えを取り始める。
続けて俺も、控えめにメニューを手に取る。
「じゃあ、俺もレアチーズケーキのセットで、オリジナルブレンドティーのホットでお願いします」
「かしこまりました。ケーキは少々お時間いただきますが、お飲み物はすぐにお持ちしますね。奥のお席、ご案内いたします」
マスターの手により、木製の扉はゆっくりと軋みながら開かれた。その向こうに現れたのは、まるで“隠れ家”の名にふさわしい部屋だった。
少し広めのホールのような空間。そこには、アンティーク調のテーブルが数卓、ゆったりと間を空けて配置されていた。
表の内装がダークウッドと深い赤を基調にしていたのに対し、こちらの内装は同じダークウッドに、白やベージュの柔らかな彩りが添えられている。
すべての席がソファ仕様になっていて、革張りの背もたれにはロココ調のクッションが添えられていた。まるで高級ホテルのラウンジのような、優雅な空気が漂っている。
窓辺に目をやれば、小さな庭が広がっていた。季節外れの草花が、まだ静かに咲き残っているのが見える。
「……なんか、別世界だな」
思わず呟いた俺に、玲央は得意げに胸を張る。
「でしょ~!隠し部屋みたいで、ちょっと特別感あるでしょ。俺こっちの席好きなんだ」
そう言って、玲央は先にテーブル席のひとつに腰を下ろす。俺も対面に静かに座った。
この空間の空気は、駅前の喧騒とは違い、ゆっくりと時間が流れているような、不思議な静けさがあった。
二人で庭に迷い込んだ小鳥を見ていると、足音とともにマスターがドリンクを持ってきた。
「お待たせいたしました。ホットのオリジナルブレンドティーと、こちらがコーヒー。ケーキは、ただいまお持ちいたしますね」
丁寧にカップと白い磁器のポットがテーブルへ置かれると、芳醇な香りがふわりと立ちのぼる。思わず、目元が緩んだ。
「いらっしゃいませ」
「二人いけますか?」
玲央の問いかけに、マスターはにこやかに頷いた。
「もちろん。どうぞ、お好きな席へ」
カウンター席の他には、木のぬくもりを感じさせるテーブル席が数卓。壁際には古書の並ぶ本棚や、さりげなく飾られた花が目を引く。アンティークのランプが柔らかな灯りを落としていて、店内全体が落ち着いた空気に包まれていた。
「奥の席って、空いてますか?」
玲央が尋ねたその一言に、俺は一瞬だけ首を傾げる。
奥?まだ席があるのか?
視線を巡らせても、店内に見えるのはテーブル席とカウンターだけ。だが、マスターは慣れたように頷く。
「はい、空いてますよ」
そう言って指し示されたのは、本棚の隣にある扉。なるほど、どうやらその先にも客席があるらしい。
驚いた顔をしていると、マスターがやわらかな声を続ける。
「もし、よろしければお先にご注文お伺いしましょうか?」
「はい!俺は、レアチーズケーキのセットで~……ドリンクはこのコーヒーで!」
玲央がすかさず元気よく注文を告げると、マスターは笑みを深めながら控えを取り始める。
続けて俺も、控えめにメニューを手に取る。
「じゃあ、俺もレアチーズケーキのセットで、オリジナルブレンドティーのホットでお願いします」
「かしこまりました。ケーキは少々お時間いただきますが、お飲み物はすぐにお持ちしますね。奥のお席、ご案内いたします」
マスターの手により、木製の扉はゆっくりと軋みながら開かれた。その向こうに現れたのは、まるで“隠れ家”の名にふさわしい部屋だった。
少し広めのホールのような空間。そこには、アンティーク調のテーブルが数卓、ゆったりと間を空けて配置されていた。
表の内装がダークウッドと深い赤を基調にしていたのに対し、こちらの内装は同じダークウッドに、白やベージュの柔らかな彩りが添えられている。
すべての席がソファ仕様になっていて、革張りの背もたれにはロココ調のクッションが添えられていた。まるで高級ホテルのラウンジのような、優雅な空気が漂っている。
窓辺に目をやれば、小さな庭が広がっていた。季節外れの草花が、まだ静かに咲き残っているのが見える。
「……なんか、別世界だな」
思わず呟いた俺に、玲央は得意げに胸を張る。
「でしょ~!隠し部屋みたいで、ちょっと特別感あるでしょ。俺こっちの席好きなんだ」
そう言って、玲央は先にテーブル席のひとつに腰を下ろす。俺も対面に静かに座った。
この空間の空気は、駅前の喧騒とは違い、ゆっくりと時間が流れているような、不思議な静けさがあった。
二人で庭に迷い込んだ小鳥を見ていると、足音とともにマスターがドリンクを持ってきた。
「お待たせいたしました。ホットのオリジナルブレンドティーと、こちらがコーヒー。ケーキは、ただいまお持ちいたしますね」
丁寧にカップと白い磁器のポットがテーブルへ置かれると、芳醇な香りがふわりと立ちのぼる。思わず、目元が緩んだ。
1
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる