93℃の執着

UTAFUJI

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第三章

15話

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 奥のカウンターからマスターらしき男が軽く会釈してくる。

「いらっしゃいませ」

「二人いけますか?」

 玲央の問いかけに、マスターはにこやかに頷いた。

「もちろん。どうぞ、お好きな席へ」

 カウンター席の他には、木のぬくもりを感じさせるテーブル席が数卓。壁際には古書の並ぶ本棚や、さりげなく飾られた花が目を引く。アンティークのランプが柔らかな灯りを落としていて、店内全体が落ち着いた空気に包まれていた。

「奥の席って、空いてますか?」

 玲央が尋ねたその一言に、俺は一瞬だけ首を傾げる。

 奥?まだ席があるのか?

 視線を巡らせても、店内に見えるのはテーブル席とカウンターだけ。だが、マスターは慣れたように頷く。

「はい、空いてますよ」

 そう言って指し示されたのは、本棚の隣にある扉。なるほど、どうやらその先にも客席があるらしい。

 驚いた顔をしていると、マスターがやわらかな声を続ける。

「もし、よろしければお先にご注文お伺いしましょうか?」

「はい!俺は、レアチーズケーキのセットで~……ドリンクはこのコーヒーで!」

 玲央がすかさず元気よく注文を告げると、マスターは笑みを深めながら控えを取り始める。

 続けて俺も、控えめにメニューを手に取る。

「じゃあ、俺もレアチーズケーキのセットで、オリジナルブレンドティーのホットでお願いします」

「かしこまりました。ケーキは少々お時間いただきますが、お飲み物はすぐにお持ちしますね。奥のお席、ご案内いたします」

 マスターの手により、木製の扉はゆっくりと軋みながら開かれた。その向こうに現れたのは、まるで“隠れ家”の名にふさわしい部屋だった。

 少し広めのホールのような空間。そこには、アンティーク調のテーブルが数卓、ゆったりと間を空けて配置されていた。

 表の内装がダークウッドと深い赤を基調にしていたのに対し、こちらの内装は同じダークウッドに、白やベージュの柔らかな彩りが添えられている。

 すべての席がソファ仕様になっていて、革張りの背もたれにはロココ調のクッションが添えられていた。まるで高級ホテルのラウンジのような、優雅な空気が漂っている。

 窓辺に目をやれば、小さな庭が広がっていた。季節外れの草花が、まだ静かに咲き残っているのが見える。

「……なんか、別世界だな」

 思わず呟いた俺に、玲央は得意げに胸を張る。

「でしょ~!隠し部屋みたいで、ちょっと特別感あるでしょ。俺こっちの席好きなんだ」

 そう言って、玲央は先にテーブル席のひとつに腰を下ろす。俺も対面に静かに座った。

 この空間の空気は、駅前の喧騒とは違い、ゆっくりと時間が流れているような、不思議な静けさがあった。

 二人で庭に迷い込んだ小鳥を見ていると、足音とともにマスターがドリンクを持ってきた。

「お待たせいたしました。ホットのオリジナルブレンドティーと、こちらがコーヒー。ケーキは、ただいまお持ちいたしますね」

 丁寧にカップと白い磁器のポットがテーブルへ置かれると、芳醇な香りがふわりと立ちのぼる。思わず、目元が緩んだ。
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