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第三章
19話
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気づけばそのまま連れ出されるようにして店を出ていた。まだ唇に残る感触が消えてくれなくて、足元が少しふわふわしている気がする。
「……ちょ、おい、会計は?」
思わず足を止めかけた俺に、玲央はちらりと後ろを振り返り、にやっと笑った。
「もう終わってる~!栞季くんがぼーっとしてる間にね」
玲央はそう言って、俺の手を引く力をぐっと強めてくる。自覚があるのかないのか分からないが、有無を言わさない行動に、されるがままでついていく。
「んー、このまま駅まで戻って電車乗っちゃってもいいけど、また歩くの疲れちゃうかもだし……タクる?」
玲央はスマホを取り出して配車アプリを立ち上げながら、こちらを向く。別に歩けない距離ではないが……
「どっちでもいいぞ」
「ならタクろ~、すぐ呼びまーす」
すかさずスマホを操作し出した玲央の横顔を盗み見る。こいつ、なんでいきなりキスしたんだ。いつもは、わかりやすい表情ばかり浮かべてるくせに、こういう時に限って何考えてるのかわからなくてモヤモヤしてしまう。
ふと静寂が落ち、道沿いに吹く風がやけに耳に残った。
俺はと言えば、地面の石畳を意味もなく見つめ、玲央はスマホに視線を落としたまま、何も言わない。
その沈黙がほんの数秒だったのか、それとももっと長かったのかはわからない。やがて玲央はスマホの画面から、俺のほうへと視線を向けた。
「ねぇ、栞季くん」
「……ん?」
名前を呼ばれるだけで、キスされた時の感触が否応なしに蘇ってしまう。短く返事すると、並んで立つ俺に体を預けるようにもたれかかってくる。
「さっきの……キスしたこと、怒ってる?」
その言葉に、わざとらしく溜め息をついた。
「……別に怒ってねぇよ」
そっけなく返したのに玲央は嬉しそうに笑って、俺の肩にこつんと軽く額を寄せてきた。
「よかった~!いきなりキスしちゃったから、怒ってるかもって思っちゃった~」
「……怒らせるかもって自覚あんなら、やめろよ」
「うわ、正論。でも、したくなっちゃったんだもん」
悪びれずに笑うその顔が眩しくて、俺はそっぽを向いた。
その時、タイミングを見計らったかのように、前方から一台のタクシーがこちらへ近づいてくるのが見えた。ハザードが点滅し、路肩に止まった車体に、玲央がスマホの画面を見て「来た来た~」と軽く声をあげる。
「栞季くん、お先にどーぞ」
開いたドアを片手で支えながら、俺が頭をぶつけないようにと、車内の天井付近に手を添えてくる。所作が本物の執事みたいで思わずドキッとしてしまった。
「気をつけてね」
「あ、あぁ……うん。ありがと、」
乗り込もうとして、ふと視線を上げると、すぐ近くに玲央の顔があった。目が合うと首を傾げてくる。距離が近いせいか、キスされた記憶がまた蘇って顔に熱が集まりそうになる。
思わず視線をそらしながら車内に滑り込むと、玲央も後を追って乗り込んできた。ドアが閉まる音とともに、車内にはドライバーがナビを操作する音だけが聞こえる。
「運転手さん~、一応その駅にしてるんですけど、止めにくかったら止めやすいところで全然いいんで!」
「かしこまりました、道順など指定はありますか?」
「特にないんです!早くつければ、どこからでも!」
玲央とドライバーが何か話しているのは聞こえるが、まだ鼓動は落ち着かないままで、窓の外を眺めながら、無理やり落ち着かせようとする。
タクシーがゆっくりと動き出す。隣では玲央がスマホをいじっていて、俺の方は見てもいない。
その様子が、なんとなく癇に障った。
「……ちょ、おい、会計は?」
思わず足を止めかけた俺に、玲央はちらりと後ろを振り返り、にやっと笑った。
「もう終わってる~!栞季くんがぼーっとしてる間にね」
玲央はそう言って、俺の手を引く力をぐっと強めてくる。自覚があるのかないのか分からないが、有無を言わさない行動に、されるがままでついていく。
「んー、このまま駅まで戻って電車乗っちゃってもいいけど、また歩くの疲れちゃうかもだし……タクる?」
玲央はスマホを取り出して配車アプリを立ち上げながら、こちらを向く。別に歩けない距離ではないが……
「どっちでもいいぞ」
「ならタクろ~、すぐ呼びまーす」
すかさずスマホを操作し出した玲央の横顔を盗み見る。こいつ、なんでいきなりキスしたんだ。いつもは、わかりやすい表情ばかり浮かべてるくせに、こういう時に限って何考えてるのかわからなくてモヤモヤしてしまう。
ふと静寂が落ち、道沿いに吹く風がやけに耳に残った。
俺はと言えば、地面の石畳を意味もなく見つめ、玲央はスマホに視線を落としたまま、何も言わない。
その沈黙がほんの数秒だったのか、それとももっと長かったのかはわからない。やがて玲央はスマホの画面から、俺のほうへと視線を向けた。
「ねぇ、栞季くん」
「……ん?」
名前を呼ばれるだけで、キスされた時の感触が否応なしに蘇ってしまう。短く返事すると、並んで立つ俺に体を預けるようにもたれかかってくる。
「さっきの……キスしたこと、怒ってる?」
その言葉に、わざとらしく溜め息をついた。
「……別に怒ってねぇよ」
そっけなく返したのに玲央は嬉しそうに笑って、俺の肩にこつんと軽く額を寄せてきた。
「よかった~!いきなりキスしちゃったから、怒ってるかもって思っちゃった~」
「……怒らせるかもって自覚あんなら、やめろよ」
「うわ、正論。でも、したくなっちゃったんだもん」
悪びれずに笑うその顔が眩しくて、俺はそっぽを向いた。
その時、タイミングを見計らったかのように、前方から一台のタクシーがこちらへ近づいてくるのが見えた。ハザードが点滅し、路肩に止まった車体に、玲央がスマホの画面を見て「来た来た~」と軽く声をあげる。
「栞季くん、お先にどーぞ」
開いたドアを片手で支えながら、俺が頭をぶつけないようにと、車内の天井付近に手を添えてくる。所作が本物の執事みたいで思わずドキッとしてしまった。
「気をつけてね」
「あ、あぁ……うん。ありがと、」
乗り込もうとして、ふと視線を上げると、すぐ近くに玲央の顔があった。目が合うと首を傾げてくる。距離が近いせいか、キスされた記憶がまた蘇って顔に熱が集まりそうになる。
思わず視線をそらしながら車内に滑り込むと、玲央も後を追って乗り込んできた。ドアが閉まる音とともに、車内にはドライバーがナビを操作する音だけが聞こえる。
「運転手さん~、一応その駅にしてるんですけど、止めにくかったら止めやすいところで全然いいんで!」
「かしこまりました、道順など指定はありますか?」
「特にないんです!早くつければ、どこからでも!」
玲央とドライバーが何か話しているのは聞こえるが、まだ鼓動は落ち着かないままで、窓の外を眺めながら、無理やり落ち着かせようとする。
タクシーがゆっくりと動き出す。隣では玲央がスマホをいじっていて、俺の方は見てもいない。
その様子が、なんとなく癇に障った。
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