その声で囁いて

UTAFUJI

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第三章

20話

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 むかつく。こいつにここまで翻弄されてしまっている自分が、なんかもう腹立たしい。こうして黙られると、俺だけがこんなに意識しているのが明白な気がして……つい、口が勝手に動いた。

「……なに見てんの」

「ん?これ?」

 玲央はスマホから視線を外して、俺の方を向く。そして、何か考えるように少し黙った後、ニヤッと笑って、手にしていたスマホを胸元に伏せた。

「ひみつ~」

 無邪気にそう言いながら、こっちの反応を窺うように目を細める。まるで猫だ。

「は?」

「んふふ~、そんなに俺のこと気になっちゃう?俺のこと大好きじゃ~ん!」

「おい、調子乗んな」

 つい語気が強くなるが、玲央はたじろぐ様子もなく、にっこにこのまま俺を見つめてくる。

「ねぇ……俺がなに見てたか、ほんとに知りたい?」

「……別に」

 本当は気になって仕方がないのに、負けた気がして、本心とは裏腹のことを言ってしまう。それに気づいてるのか、玲央は唇の端を上げて、またスマホに目を落とした。

「じゃあ、言わなーい」

 俺は舌打ちしそうになるのを我慢して、無言のまま視線を逸らした。

「ふん……」

「え~、栞季くん、拗ねちゃった!?」

「うるせぇ。黙ってろ」

 俺は渋い顔をして、そっぽを向いた。なのに、元凶である玲央は嬉しそうに俺の顔を覗き込んでくる。

「ほら、こっち向いて~?ね、仲直りしよ?」

「仲直りもなにも、喧嘩してねぇし」

 そう返しても、玲央はわざとらしく身を寄せてきて、俺の肩に頬を擦り寄せるような仕草までしてきやがる。タクシーの狭い車内じゃ避けることもできなくて、ますます逃げ場がない。

「俺の顔見て?いじわるしてごめんね?許して?許してくれるよね?」

「近い」

 じわりと滲む熱を誤魔化すように顔を逸らせば、すかさず玲央の手が俺の頬に添えられた。

「近いのは今に始まったことじゃないじゃん。ね、仲直りしよ?」

 くいっと頬を押され、強制的に玲央の方を向かされる。逃げ場も言い訳も奪われて、どうしようもなくなった俺は、つい小さく溜息をこぼすしかなかった。

「わかったから……頼むから大人しくしといてくれ……」

 玲央は俺の反応に満足したのか、ふっと微笑んで、俺から少しだけ身体を離した。

「あ、そろそろ着くね」

 そう呟いた玲央の言葉に、俺も思わず窓の外へ目をやる。そこには、駅の高架と複数の商業ビルが広がっていた。この駅は、いつ来ても賑わってるな。窓の外をぼんやり眺めながら、そんなことを思った。

「栞季くん、もう着くよ」

 玲央の声に我に返る。タクシーはもう駅前のロータリーに滑り込んでいて、運転手がメーターを止める音が聞こえた。

「ありがとうございま~す!じゃ、降りよっか」

「……ん、いくら?」

 短く返事をしてから財布を取り出そうとした瞬間、玲央の手が俺の手首を掴んだ。

「え、なに」

「タクシー呼んだ時点でクレカ決済にしてるし、それしまって?」

「は?……いや、だったらなおさら半分は……」

「いいからいいから。さ、降りるよ~」

「え、あ、ちょ……あ、ありがとうございます」

 こちらの言い分を一切聞く気はないらしい。抗議する暇もなく、玲央は開けられたドアから外に出ていく。しかたなくドライバーにお礼を言ってから、俺も玲央のあとを追ってタクシーを降りた。

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