その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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 長野県の伊那、という場所に母の田舎がある。冬には深い雪の積もる場所だ。都会とはお世辞にも呼べない、昔ながらの風習が色濃く残る、小さな町。

 恭臣の運転する車の後部座席の窓から、遼はその穏やかな町並みを眺めていた。
 幼いころに、何度か連れられて来た覚えがある。そのときは確か、父も一緒だったのだが……。

 観光するような場所もないからと、母と合流したあとはすぐに伊那を離れ、恭臣の運転で諏訪の方まで車を走らせた。諏訪湖の近くの宿に、予約を入れてあるという。

「遼ったら、高速入ってから、ずーっと車で寝てるのよ」

 母に向かってそう文句を言う知香の台詞を、遼は聞き流した。
 ……別に、眠くて寝ていたわけじゃない。起きて、知香と恭臣の会話に加わるのが億劫だっただけだ。寝たふりでもしていなければ、母の実家に着くまでの長い時間をやり過ごせなかった。

「……車に酔った?」

 ミラー越しに、恭臣がそう聞いてくる。遼は首を振った。

「大丈夫です」

 何も会話がなければ、知香や母親が不審に思う。それはわかっていたが、この馬鹿馬鹿しい芝居から、早く解放されたかった。

 ……たった、二日だ。明日までを耐えきれば、あとはしばらく、この件に関して煩わされずに済む。

 これで最後だと思えば、少しは気分も落ち着く気がした。


 
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