その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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 諏訪湖畔に建つ小ぎれいな観光ホテルに着くと、女性陣は、さっそく温泉に入ると言い出した。この時点で遼はようやく、厄介な事態に気づいた。

 予約してある部屋数は、二つ。フロントで渡された二つのキイのうち、一つを知香が持ち、なぜかもう一つのキイを、当然のように恭臣が受け取ったのだ。

「……姉さん、東條さんと部屋、別?」

 恐る恐る遼がそう確認すると、知香は呆れた表情になる。

「何いってんの」

 当然でしょう、とでも言いたげだ。だが、いったい何が当然なのかが、遼にはわからない。

 じゃあねと言い残し、あっさりと自分たちの部屋に入って行った女二人を呆然と見送り、遼は部屋の前で途方に暮れた。

 確かに、母親や弟が一緒の旅行で未婚のカップルが同室になるのもどうかとは思うが……遼と恭臣が同室になるのも、いろいろ問題はあるのだ。

 遼の複雑な視線を受け止め、恭臣は肩をすくめて先に部屋の中へ入っていく。遼はため息をつき、その後を追った。

 夕食までには、まだずいぶん時間がある。この後の時間を、いったいどう過ごせと言うのだろう。
 だがそれでも、知香のいる前で恭臣と会話を交わすよりはまだマシなのかもしれない。少なくとも、嘘はつかずに済むのだから。

「……断ってくれるかと思った」

 部屋のドアを閉めると、遼は静かにそう言った。奥の和室へと続く襖を開けながら、恭臣が苦笑して首を傾げる。

「どうやって? 弟さんが来るのは嫌だなんて言ったら……君の姉さんを、がっかりさせる」

 大事なのは、知香の気持ち。その点は、遼の意見も同じだ。だから、我が儘も言わずに着いて来た。

 それはわかっているのに……どうしようもなく、辛いのだ。息苦しい。

「俺が……」

 俺が苦しむとは、思わなかったんだ? そう聞こうとして、やめた。

 遼の気持ちなど、恭臣にとってはどうでもいいことだ。そんなこと、最初からわかっていた。

 五年前から、ずっと。
 


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