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まだ注文されていない運命
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――理想の運命の出会い――
わたしの名前は、刀真葉音。
大好きな刀削麺を食べるために、超麺町までやって来た。
刀削麺の魅力は、まず食感だ。
外はもっちりとしていて、中はふんわり軽い。不規則な太さと厚みが、スープやタレを気まぐれに抱き込み、ひと口ごとに表情を変える。
付盛は、迷わず結晶菜。
それが刀削麺を愛する者の正義だと、わたしは信じている。
――そこまで語ったところで、横から鋭い声が飛んできた。
いい、いい、そういうのはいいから、と和尚が遮る。理想の運命の出会いを教えてよ、と。
刀削麺の魅力を語らずして、と言い返すと、またか、という顔をされる。
それを見て、本が声を上げて笑った。最高のコンビだな、と。
わたしは身を乗り出した。
いい? と念を押すように言う。
お店に入ると、もう人気店でごった返している。受付の人が「列を詰めて、順番にご注文くださーい!」と声を張り上げていて、列は思うように進まない。
周りは観光客ばかりで、誰がすでに注文を終えたのか、誰がまだなのか、その境目がだんだん曖昧になっていく。
その一瞬の混乱の中で――
運命のふたりが、同時に「きた」と思うの。
そして、同時に口にする。
麻婆刀削麺、と。
次の瞬間、和尚が盛大に叫んだ。
麻婆刀削麺なんかい。
本も首を傾げる。結晶菜のみじゃないの、と。
真葉音は、どこか飄々としていた。
和尚はその様子を一瞥し、即座に切り込む。
思想は結晶菜、欲望は麻婆。
理想と注文が、完全に別人だね。
そう言われても、真葉音はまったく動じない。
むしろ一度深く息を吸って、きっぱりと言った。
やり直し、と和尚が告げる。
同時に、と真葉音は仕切り直し、
特盛刀削麺、全付盛。
さらに、わざとらしく声色を変えて続ける。
あっ、同じ。
和尚は即座に首を振った。
同じじゃないのよ。麻婆は確かに美味しいし、全付盛は豪華だけど。
本も冷静に補足する。
名店巡りする人ほど、特盛頼まない気がする。
それでも真葉音は引かない。
でも運命なら、そこ超えてくるでしょ。
超えないよ、と和尚は即答した。
運命はカロリーに挑みません。
運命だから、と真葉音は言い切る。
夢見がちだな、と本が小さく呟く。
それでも真葉音は、また男性の声を演じる。
偶然ですね。僕も特盛刀削麺全付盛が好きなんです。小麦の風味が活きてくるというか。
和尚は頭を抱えた。
死んでるって。刀削麺を敬いすぎて、付盛という脇役をずらっと並べてるけど・・・主役の座、完全に奪われてるから。
それ、もう刀削麺じゃなくて、立派な華膳よ。
真葉音は、また声色を変えた。
今度は少し控えめで、どこか誠実そうな男性の声だった。
「あ、あの・・・実は、真葉音さんが考えてた“運命の出会い”の話。ちょっと前に聞いたことがあって・・・気づいたら、後ろに並んでました」
本が即座に首をかしげる。
誰?
和尚は腕を組み、呆れ顔のまま天井を見上げた。
すごいわ。妄想大暴走。
刀 真葉音。
本は淡々と名前を口にする。
苗字に刀削麺の「刀」が入ってるだけで、ここまで溺愛に育つとは。
真葉音は、まだ妄想から戻らない。
男性の声色のまま、きょとんと首を傾げる。
刀真葉音?
そして、並んでいる列の後方を眺める仕草をする。
近所に住んでた、削くん?
「そう。僕、削。今はこっちで刀削麺専門店をやってるんだ」
え!
真葉音は素に戻り、目を輝かせた。
削くんのお店にも行きたい!
本は静かに結論づける。
刀削麺屋に、嫁ごうとしてる。
和尚は現実を突きつける。
これ、近所に削くんって人が実在して、しかも今、刀削麺専門店をやってないと成立しないけど・・・大丈夫?
それでも真葉音は止まらない。
再び男性の声色になる。
真葉音ちゃん。ずっと、結晶菜みたいに純粋な君を探してたんだ。
和尚が即座に切り返す。
麻婆刀削麺食べてる口で言うな!
本は冷静さを保ったまま、別の角度から刺す。
麻婆刀削麺。どうやって運んだの?
そんな現実的な問いも、真葉音の耳には届かない。
彼女は胸に手を当て、小さく息を吸った。
どの運命が、待ってるんだろ。
和尚は、わざとらしく冷めた声で告げる。
小休、終わるから戻るよ~。
その一言で、妄想はぷつりと途切れた。
―――休日明け。
控えの間の空気が、少しだけ現実の重さを取り戻していた。
けれど真葉音の胸の奥では、まだ小麦の香りと、ありもしない運命が、あたたかな湯気を立てている。
「お疲れ~」
本が軽く手を上げる。
「お疲れ~」
和尚も続く。
本は首を傾げた。
「あれ? 真葉音ちゃん、どうした?」
和尚は即答した。
「超麺町から帰って、霊魂残影になりました」
「あ、超麺町といえば・・・」と本が思い出したように言うと、
和尚が被せる。
「出会い。運命の出会いだったよね」
「うんうん」
本は笑いながら頷く。
「休日の間、真葉音ちゃん今ごろ出会ってるかなって気になってさ。宮廷風即食麺、食べてたよ」
「即食麺かーい!」
笑い声が二つ重なり、控えの間に弾んだ。
――一人、足りない。
本が少し声のトーンを落とす。
「それで・・・どうだったの?」
和尚が肩をすくめる。
「腹痛と運命の出会いを果たしたらしいよ。全付盛しちゃったんだって」
「やるねー、さすが真葉音ちゃん!」
本は言いかけて、はっとする。
「あっ、ごめん・・・」
「霊魂残影のうちは、気遣ってあげて」
和尚の声に促されるように、真葉音は顔を上げた。
その表情は、さっきまでの飄々としたものとは違って、妙に神妙だった。
「・・・友だちのお母さんがね」
唐突な切り出しに、二人は黙る。
「入庁して、わずか一節で職を辞したことがあるんだって。
入庁して一年間は巡府勤務って聞いて、務めてたらしいんだけど・・・」
真葉音は、言葉を選ぶようにゆっくり続けた。
「巡府に、同じ条件で入庁した先輩が何人もいて。
みんな『一年間って聞いてたんだけど、まだなの』って・・・何年も、そう言ってるんだって」
控えの間が、しんと静まる。
本は小さく息を吐き、苦笑した。
「いきなり話し出したと思ったら・・・巡府の霊魂残影の話だった」
笑いに戻そうとする声だった。
けれど真葉音の胸の奥に残った不安は、まだ完全には消えていない。
小麦の香りの向こう側で、
倉庫の時間が、静かに、重く、積もっていく気配がした。
「しかもね」
和尚が、少し声を落とす。
「今のわたしたちの状況に、似てる・・・」
真葉音は頷いた。
「そのお母さんが、入庁した局っていうのが・・・」
和尚と本が、同時に息を呑み、続きを待つ。
「・・・昨日見た夢!」
一拍置いて、
「えええ?」
本が思わず声を上げた。
「真葉音ちゃん、夢の国・超麺町から帰ってきて見た夢が、それ?」
「なんかさ」
和尚が探るように言う。
「本宮、行けるかなって・・・不安になってきた?」
「本宮、希望出したんだ?」
本が真葉音を見る。
「わたしも真葉音も、本宮を希望してる」
和尚が言い切り、ちらりと本を見る。
「本くんは、違うの?」
「あ、うん」
本は少し照れたように笑った。
「太井炭って街が、好きだからね」
「・・・そっか」
真葉音はそれだけ言った。
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
その空気を、勢いよく切り裂く声がした。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
配属発表の日が、いつか発表されたぞ!」
口だった。
「今年も、十二節一日じゃないの?」
本が言う。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
当てるなよ!」
「おいが多いな」
和尚が即座に突っ込む。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
みんな、どこ希望してるの?」
「わたしと和尚さまが本宮で、本くんはこのまま太井炭」
真葉音が答える。
「口くんは?」
和尚が腕を組む。
「おい無しで教えて」
「本宮希望だよ!
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
真葉音ちゃんと和尚ちゃん、一緒だね!」
「あ・・・」
本は、ふと視線を落とした。
そして、真葉音が抱えていた中祐の本を指さす。
「それ、見せてもらっていいですか?」
「あ、どうぞ!」
「(小声で)いっ、イケメン!」
和尚が即座に反応する。
「倉庫勤務者なら、希望すれば貰えますよ」
本は穏やかに言った。
「絶対、貰った方がいいです」
真葉音が身を乗り出す。
「最高傑作です。大好きなんです」
「あ、ありがとうございます」
和尚の目が見開かれる。
「も、もしかして・・・」
「本宮の方ですか!?」
二人の声が重なった。
「ええ」
男は頷いた。
「これを制作した内の一人です。
色彩の確認はしているんですが、工場生産だと、どうしても若干の差が出てしまって」
「本、お持ちしますね!」
真葉音はもう立ち上がっている。
「何冊にしますか?」
和尚も続いた。
控えの間に、
不安と期待と、少しの高揚が入り混じった気配が、再び満ちていった。
「・・・良いんですか? さっき倉庫を覗いたら、かなり硬く梱包されていましたけど」
男が遠慮がちに言うと、真葉音は即座に笑顔になった。
「お任せください」
その声音には、なぜか妙な自信があった。
真葉音と和尚は連れ立って倉庫へ向かう。
戻ってきたとき、男は少し驚いた顔をしていた。
「・・・すごく、気が利く方々ですね」
「あ、はい・・・」
本は、なぜか自分が褒められたわけでもないのに、曖昧に頷いた。
「お待たせしました!」
和尚が声を張り、
真葉音は布鞄を差し出す。
「先月の行事で余ったものですけど。これに入れておきました」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「いえいえ、とんでもないです」
男は丁寧に頭を下げた。
「では、早速、本宮に持ち帰ります」
「お気をつけて!」
男の背中が控えの間から消えると同時に、
和尚が小さく息を吸った。
「・・・イ、イケメンだった・・・」
そこへ、間髪入れずに口の声が飛び込んでくる。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
さっきの人、中祐だってな」
「え!?」
真葉音と和尚の声が、きれいに重なった。
わたしの名前は、刀真葉音。
大好きな刀削麺を食べるために、超麺町までやって来た。
刀削麺の魅力は、まず食感だ。
外はもっちりとしていて、中はふんわり軽い。不規則な太さと厚みが、スープやタレを気まぐれに抱き込み、ひと口ごとに表情を変える。
付盛は、迷わず結晶菜。
それが刀削麺を愛する者の正義だと、わたしは信じている。
――そこまで語ったところで、横から鋭い声が飛んできた。
いい、いい、そういうのはいいから、と和尚が遮る。理想の運命の出会いを教えてよ、と。
刀削麺の魅力を語らずして、と言い返すと、またか、という顔をされる。
それを見て、本が声を上げて笑った。最高のコンビだな、と。
わたしは身を乗り出した。
いい? と念を押すように言う。
お店に入ると、もう人気店でごった返している。受付の人が「列を詰めて、順番にご注文くださーい!」と声を張り上げていて、列は思うように進まない。
周りは観光客ばかりで、誰がすでに注文を終えたのか、誰がまだなのか、その境目がだんだん曖昧になっていく。
その一瞬の混乱の中で――
運命のふたりが、同時に「きた」と思うの。
そして、同時に口にする。
麻婆刀削麺、と。
次の瞬間、和尚が盛大に叫んだ。
麻婆刀削麺なんかい。
本も首を傾げる。結晶菜のみじゃないの、と。
真葉音は、どこか飄々としていた。
和尚はその様子を一瞥し、即座に切り込む。
思想は結晶菜、欲望は麻婆。
理想と注文が、完全に別人だね。
そう言われても、真葉音はまったく動じない。
むしろ一度深く息を吸って、きっぱりと言った。
やり直し、と和尚が告げる。
同時に、と真葉音は仕切り直し、
特盛刀削麺、全付盛。
さらに、わざとらしく声色を変えて続ける。
あっ、同じ。
和尚は即座に首を振った。
同じじゃないのよ。麻婆は確かに美味しいし、全付盛は豪華だけど。
本も冷静に補足する。
名店巡りする人ほど、特盛頼まない気がする。
それでも真葉音は引かない。
でも運命なら、そこ超えてくるでしょ。
超えないよ、と和尚は即答した。
運命はカロリーに挑みません。
運命だから、と真葉音は言い切る。
夢見がちだな、と本が小さく呟く。
それでも真葉音は、また男性の声を演じる。
偶然ですね。僕も特盛刀削麺全付盛が好きなんです。小麦の風味が活きてくるというか。
和尚は頭を抱えた。
死んでるって。刀削麺を敬いすぎて、付盛という脇役をずらっと並べてるけど・・・主役の座、完全に奪われてるから。
それ、もう刀削麺じゃなくて、立派な華膳よ。
真葉音は、また声色を変えた。
今度は少し控えめで、どこか誠実そうな男性の声だった。
「あ、あの・・・実は、真葉音さんが考えてた“運命の出会い”の話。ちょっと前に聞いたことがあって・・・気づいたら、後ろに並んでました」
本が即座に首をかしげる。
誰?
和尚は腕を組み、呆れ顔のまま天井を見上げた。
すごいわ。妄想大暴走。
刀 真葉音。
本は淡々と名前を口にする。
苗字に刀削麺の「刀」が入ってるだけで、ここまで溺愛に育つとは。
真葉音は、まだ妄想から戻らない。
男性の声色のまま、きょとんと首を傾げる。
刀真葉音?
そして、並んでいる列の後方を眺める仕草をする。
近所に住んでた、削くん?
「そう。僕、削。今はこっちで刀削麺専門店をやってるんだ」
え!
真葉音は素に戻り、目を輝かせた。
削くんのお店にも行きたい!
本は静かに結論づける。
刀削麺屋に、嫁ごうとしてる。
和尚は現実を突きつける。
これ、近所に削くんって人が実在して、しかも今、刀削麺専門店をやってないと成立しないけど・・・大丈夫?
それでも真葉音は止まらない。
再び男性の声色になる。
真葉音ちゃん。ずっと、結晶菜みたいに純粋な君を探してたんだ。
和尚が即座に切り返す。
麻婆刀削麺食べてる口で言うな!
本は冷静さを保ったまま、別の角度から刺す。
麻婆刀削麺。どうやって運んだの?
そんな現実的な問いも、真葉音の耳には届かない。
彼女は胸に手を当て、小さく息を吸った。
どの運命が、待ってるんだろ。
和尚は、わざとらしく冷めた声で告げる。
小休、終わるから戻るよ~。
その一言で、妄想はぷつりと途切れた。
―――休日明け。
控えの間の空気が、少しだけ現実の重さを取り戻していた。
けれど真葉音の胸の奥では、まだ小麦の香りと、ありもしない運命が、あたたかな湯気を立てている。
「お疲れ~」
本が軽く手を上げる。
「お疲れ~」
和尚も続く。
本は首を傾げた。
「あれ? 真葉音ちゃん、どうした?」
和尚は即答した。
「超麺町から帰って、霊魂残影になりました」
「あ、超麺町といえば・・・」と本が思い出したように言うと、
和尚が被せる。
「出会い。運命の出会いだったよね」
「うんうん」
本は笑いながら頷く。
「休日の間、真葉音ちゃん今ごろ出会ってるかなって気になってさ。宮廷風即食麺、食べてたよ」
「即食麺かーい!」
笑い声が二つ重なり、控えの間に弾んだ。
――一人、足りない。
本が少し声のトーンを落とす。
「それで・・・どうだったの?」
和尚が肩をすくめる。
「腹痛と運命の出会いを果たしたらしいよ。全付盛しちゃったんだって」
「やるねー、さすが真葉音ちゃん!」
本は言いかけて、はっとする。
「あっ、ごめん・・・」
「霊魂残影のうちは、気遣ってあげて」
和尚の声に促されるように、真葉音は顔を上げた。
その表情は、さっきまでの飄々としたものとは違って、妙に神妙だった。
「・・・友だちのお母さんがね」
唐突な切り出しに、二人は黙る。
「入庁して、わずか一節で職を辞したことがあるんだって。
入庁して一年間は巡府勤務って聞いて、務めてたらしいんだけど・・・」
真葉音は、言葉を選ぶようにゆっくり続けた。
「巡府に、同じ条件で入庁した先輩が何人もいて。
みんな『一年間って聞いてたんだけど、まだなの』って・・・何年も、そう言ってるんだって」
控えの間が、しんと静まる。
本は小さく息を吐き、苦笑した。
「いきなり話し出したと思ったら・・・巡府の霊魂残影の話だった」
笑いに戻そうとする声だった。
けれど真葉音の胸の奥に残った不安は、まだ完全には消えていない。
小麦の香りの向こう側で、
倉庫の時間が、静かに、重く、積もっていく気配がした。
「しかもね」
和尚が、少し声を落とす。
「今のわたしたちの状況に、似てる・・・」
真葉音は頷いた。
「そのお母さんが、入庁した局っていうのが・・・」
和尚と本が、同時に息を呑み、続きを待つ。
「・・・昨日見た夢!」
一拍置いて、
「えええ?」
本が思わず声を上げた。
「真葉音ちゃん、夢の国・超麺町から帰ってきて見た夢が、それ?」
「なんかさ」
和尚が探るように言う。
「本宮、行けるかなって・・・不安になってきた?」
「本宮、希望出したんだ?」
本が真葉音を見る。
「わたしも真葉音も、本宮を希望してる」
和尚が言い切り、ちらりと本を見る。
「本くんは、違うの?」
「あ、うん」
本は少し照れたように笑った。
「太井炭って街が、好きだからね」
「・・・そっか」
真葉音はそれだけ言った。
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
その空気を、勢いよく切り裂く声がした。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
配属発表の日が、いつか発表されたぞ!」
口だった。
「今年も、十二節一日じゃないの?」
本が言う。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
当てるなよ!」
「おいが多いな」
和尚が即座に突っ込む。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
みんな、どこ希望してるの?」
「わたしと和尚さまが本宮で、本くんはこのまま太井炭」
真葉音が答える。
「口くんは?」
和尚が腕を組む。
「おい無しで教えて」
「本宮希望だよ!
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
真葉音ちゃんと和尚ちゃん、一緒だね!」
「あ・・・」
本は、ふと視線を落とした。
そして、真葉音が抱えていた中祐の本を指さす。
「それ、見せてもらっていいですか?」
「あ、どうぞ!」
「(小声で)いっ、イケメン!」
和尚が即座に反応する。
「倉庫勤務者なら、希望すれば貰えますよ」
本は穏やかに言った。
「絶対、貰った方がいいです」
真葉音が身を乗り出す。
「最高傑作です。大好きなんです」
「あ、ありがとうございます」
和尚の目が見開かれる。
「も、もしかして・・・」
「本宮の方ですか!?」
二人の声が重なった。
「ええ」
男は頷いた。
「これを制作した内の一人です。
色彩の確認はしているんですが、工場生産だと、どうしても若干の差が出てしまって」
「本、お持ちしますね!」
真葉音はもう立ち上がっている。
「何冊にしますか?」
和尚も続いた。
控えの間に、
不安と期待と、少しの高揚が入り混じった気配が、再び満ちていった。
「・・・良いんですか? さっき倉庫を覗いたら、かなり硬く梱包されていましたけど」
男が遠慮がちに言うと、真葉音は即座に笑顔になった。
「お任せください」
その声音には、なぜか妙な自信があった。
真葉音と和尚は連れ立って倉庫へ向かう。
戻ってきたとき、男は少し驚いた顔をしていた。
「・・・すごく、気が利く方々ですね」
「あ、はい・・・」
本は、なぜか自分が褒められたわけでもないのに、曖昧に頷いた。
「お待たせしました!」
和尚が声を張り、
真葉音は布鞄を差し出す。
「先月の行事で余ったものですけど。これに入れておきました」
「ありがとうございます。本当に助かります」
「いえいえ、とんでもないです」
男は丁寧に頭を下げた。
「では、早速、本宮に持ち帰ります」
「お気をつけて!」
男の背中が控えの間から消えると同時に、
和尚が小さく息を吸った。
「・・・イ、イケメンだった・・・」
そこへ、間髪入れずに口の声が飛び込んでくる。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!
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「え!?」
真葉音と和尚の声が、きれいに重なった。
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