TSサキュバス

藤塚ソラ

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第1章

第6話:禁断症状

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 身体が燃えるように熱い。
 特にお腹の奥の方から熱を感じる。
 お腹の中で何かがうごめくのを俺ははっきりと感じていた。
 身体全体が何かを欲しがっているのが分かるが、いったい何を欲しいのかは分からない。

「……」

 こぽこぽと樽に溜まっていく水をぼうっと眺める。
 さっき吐いたときから頭がずっとぼーっとしている。

「あ、アリア大丈夫?」

 うん。
 特に気持ち悪いとかではない。
 さっきまでの逆さま飛行酔いの方が遥かに嫌な気分だった。

「……」

「あの、アリア……ごめんね……? まさか吐いちゃうなんて、思わなくて……」

「ん。全然だいじょーぶですよー」

 うん、大丈夫なのだ。
 全然身体は大丈夫、なはず。

「そ、そう……? その割には顔色が悪いけど……」

「え、そーですか? ぜんぜん、大丈夫ですー」

 よし、水がたまった。
 俺とリリーはせーので樽を大河から持ち上げた。
 リリーが水にぬれた樽の栓をしめる。

「じゃあこれ持って戻るけど大丈夫……?」

 広い平野の向こう側、長い長い道の向こうに小さくマンションが見える。
 行きは飛んで行ったが、帰りは徒歩で行かなければならない。
 悪魔と言えど流石にこの重さの物は飛んで運ぶことは不可能だ。

「せーのっ!」

 樽の右側を俺が、左側をリリーが支える。
 分かってたけどやっぱり重い。
 本当にこんな物を持ってあそこまで帰れるのだろうか。

「リリーさんはいつも一人でこれをやっていたんですか?」

「うん、そうだよ。だいたい戻るまで一時間くらいかかるかな。休み休み運んでたんだけどね」

「へぇ、すごいですね……」

 あれ、なんだろう……。
 身体がふわふわする……。
 だんだんと視界が傾いている気がする。

「あ、アリアっ!?」

 ドサッと何かが落ちる音が聞こえた。
 ああ、俺が倒れたのか……?
 なんか眠たい、身体がすごく重い。


 ♂→♀


「あ、アリア!」

「……?」

 あれ?
 ここはどこだ……?

 白い天井に白のカーテン、俺が寝てるのはベッド?
 病院なのか?

「アリア、私のことわかる?」

「……リリー、さん」

 喉からは弱々しい声が出た。
 リリーがほっとした顔をした。

「ようやくお目覚めかい?」

 カーテンの隙間から見たことない女性が現れた。
 俺は上半身を起こそうとする。

「いや、横になっていてくれ」

 お言葉に甘えさせてもらう。
 なんか頭痛いし。

「ここは見ての通り病院だ。私はここの唯一の医者、ドクターピアと呼んでくれ。種族は見ての通りで吸血鬼だ」

 彼女、ドクターピアには長い牙があった。
 羽は俺たちサキュバスとほぼ同じ感じのものを持っている。

「まあ君のことは彼女から聞いているから、今はゆっくりやすんでくれ。そして私の話に耳を傾けてくれ」

 こくん。

「アリア君、君はここに来る前に嘔吐したようだね。実はあまり知られてないのだけど、悪魔の体液には多くの魔力が含まれているの。体液っていうのは血はもちろん、唾液や汗や、吐瀉物にもね。そしてそれを一回でたくさん失ったときに、身体が熱くなったりして倒れてしまうの、そう今の君みたいにね」

「ごめんねアリア……。私、なにも知らなかった……」

 目に見てわかるほどリリーは落ち込んでいた。

「さらに転生したばかりの君は体内の魔力量が極端に少ないの。魔力は私たち悪魔にとっては命の源、それがすべてなくなることはそのまま死を意味する」

「っ」

 まじか……。
 俺、死ぬの……?

「端的に言うと、今の君には魔力が足りていない。正直死ぬのも時間の問題。だけど一つだけ生き残る方法があるのは君にもわかるよね」

「魔力をたくさん補給する……?」

 そのあとに言われる言葉は簡単に予測がついた。

「そう。だから元男の君には酷だけど、人間の男と一回、ね?」

 生きるか死ぬか、それはすべて俺の選択にかかっていた。
 そして俺はもちろん、

「……わかり、ました」

 まだ死にたくはなかった。
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