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■第2章 レイル・フェンダー、世界を釣る(まず近所)
第2-2話 レイルとフィルの旅立ち
しおりを挟む「なるほどなるほど……魔術理論に関してはまだまだ粗削りなところがありますが……面白い発想もありますね」
「はっ!? この”感度3000倍魔法”という術はいったい……何の必要性があってこんなものが?」
旅立ちの準備と、フィルに魔法書を読ませるため、オレの下宿にやって来た。
「お前は一人暮らしだから、女の子連れ込み放題でいいよなぁ~」
悪友ロンドの言葉が脳裏によぎる。
将来を嘱望される冒険者の卵で、女の子をナンパして連れ込み宿に行きまくってるヤツが何を言ってんだ……そう思っていたけれど、実際自分が女の子を自宅に連れ込んでみると、ドキドキが優先してそんな気分にはなれないのだった。
って、まだ出会ってから半日だぞ!
そーいうのはもっと仲良くなってから!
エロい妄想を垂れ流そうとする脳内悪魔に渾身のグーパンをかましながら、ちらりとフィルの様子をうかがう。
オレのベッドにちょこんと座り、長い脚を組んで魔法書を読みふけるフィル。
窓から差し込む午後の日差しが彼女の褐色の肌にハイライトを映す。
すらりと伸びた足先に引っ掛けられたローファーは半脱ぎになっており、彼女が感嘆の声を上げるたびにプラプラと揺れる。
くっ……いけないっ!
またもや妄想の悪魔がっ!
オレは邪念を振り払おうと、戸棚にガンガンと頭をぶつける……悪友ロンドとコンビを組んでパリピを装っていても、好みドストライクの女の子の前ではこの程度なオレである。
「……レイル? どうしました? クスリの打ち過ぎで幻覚でも見えましたか?」
「大丈夫、わたくし秘伝の解毒魔術を使えばアレな疲労もまとめてポン! ですわっ!」
オレが必死に下半身の荒神様 (意味深)を鎮めていると、オレの様子をおかしく思ったのか、やけにアングラなことを言いながらぴょこんとフィルがオレの隣にやってくる。
その拍子にふわふわのエルフ耳がオレの首筋に触れて……。
うわっ!? 近い、近いですよフィルさん!?
この子、パーソナルスペースが狭いのか無意識なのか……不意打ちでオレをドキドキさせてくるから困る……こういう子が将来魔性の小悪魔になるのだろうか……。
ともかく、このままではオレの荒神様が邪神に進化してしまうので、オレは必死に話を逸らすことを試みる。
「ふぃ、フィル? 準備にはもう少しかかるから……さっき買っておいたお菓子でお茶でもしといて!」
「あら……手伝わなくても大丈夫ですか?」
「…………それではおなかもすいていますので、お言葉に甘えて……」
オレの申し出に、さらに身体を密着させ、手伝おうかと言ってくるフィル。
絶体絶命のピンチに陥ったオレを救ったのは、開けた窓から吹き込んだ一陣の風だった。
ふわり……机の上に置かれたレイリーお菓子店のカスタードシュークリーム。
薄皮からこぼれ出る卵黄たっぷりの絶品カスタードクリームから立ち上る甘い香りが、風に乗ってフィルの鼻腔をくすぐる。
その魅力にあっさりと陥落したフィルは、身体をひるがえすと、テーブルに移動し、シュークリームをぱくつき始める。
「こ……これはっ!? 宮廷の購買で売っているアンパンをはるかに凌駕する甘味……くっ、やはりレイル……あなたはこの世界の王族に連なる者ですのねっ!」
ふぅ、助かった……やけに庶民的な宮廷とやらの購買は置いとくとして、ようやくオレの中の荒神様が収まった。
幸せそうにシュークリームを頬張るフィルの様子にほおを緩ませながら、オレは旅立ちの準備を続けるのだった。
*** ***
「とりあえず、海都レンディルを目指そうと思う。 ここからなら大陸への船便もあるし」
「レンディルへの道すがら、釣りスキルを試してみるという事で」
着替えに大型コテージ、各種調理器具など……野営に必要な道具をバックパックに詰め込み終わったオレは、王国の地図を広げながらこれからの旅のプランをフィルに説明する。
余談だが、コイツは先ほど稼いだ金貨で購入した高価な魔法のバックパック。
荷馬車一台分の荷物を、この中に詰め込むことが出来るのだ!
……一人旅ならともかく、可愛い女の子との二人旅なので、コテージは大型で内部に仕切りを設置可能なモデルにした。
あ、やべ……またドキドキしてきた。
悲しいほど貧弱なオレの自制心にムチを入れていると、フィルが興味津々な表情で地図をのぞき込んでくる。
「ふむふむ……結局レイルの「アイテムフィッシング○」と「深淵の接続者」は、先ほどの滝では一度しか発動しませんでしたからね……」
「色々な”水辺”でスキルの発動を試してみるというのは、理にかなっていますわ」
そうなのだ。
「アイテムフィッシング○」でフィルが住んでいた世界……ロゥランドのレアアイテムを釣り上げられるなら、今後の冒険を見据えていくつか釣っておこうという話になったのだが、その後は何度試してもアイテムは釣れなかった。
フィルの術式解析では、おそらくスキルの反応エリアと反応回数が決まっており、この滝では一度しか発動しないのではという事だ。
そこで、目に付く水辺でスキルを試してみようという方針になっている。
ちなみに、街の中心部にある公園の池では何の反応もなく、ただ小魚が釣れただけだった。
「ふふ……なにかくじ引きみたいで面白いですわね」
楽しそうな笑みを浮かべるフィル……旅を通じて調査を繰り返していけば、彼女を自分の世界に戻せるスキルが見つかるかもしれないんだ……。
オレは改めて、この旅の目的を再確認し気合を入れなおすのだった。
「よし、準備完了だ……出発しよう、フィル!」
「承知しました……!」
フィルが指に残ったクリームをぺろりと舐める。
しっかりと戸締りをし、オレたちは下宿を後にした。
*** ***
「よ、レイル。 旅にでも出るのか?」
もうすぐ街の出口……生まれて初めての大冒険?に向かって、不安とわくわくが入り混じっている。
そんな時にオレに話しかけてくるヤツがいる。
このタイミングの良さは……ロンドだ!
振り返るといつもの恵まれた身体と人懐っこい笑み……オレの親友ロンドがそこに立っていた。
一つだけいつもと異なるのは、着ているのが冒険者学校の制服ではなく、しっかりとしたつくりの冒険着で……胸元には剣を意匠化したバッジが付いている。
「ロンド……って、お前まさか、正式な冒険者になったのか!?」
コイツが身に着けているのは、冒険者学校で評価され、正式に冒険者になった者だけが着けられるバッジ。
驚いたオレは、ロンドのもとに駆け寄る。
「ああ! 新理事長……ザイオンの奴に評価されてね」
やったじゃないか!
冒険者の卵であるオレたちは、一定の成果を上げると在学中でも正式な冒険者として登録できるようになる。
そうなれば、受け取れる報酬も大幅アップするのだが……言葉とは裏腹に、あまりうれしくなさそうなロンドの様子に気づく。
「あの理事長……なかなかの曲者だぜ」
「理事長の立場を利用して、何か良くないことを企んでいる気がする……学校に残った奴らは、冒険者への道を潰されたくないから我慢してるが……」
「ロンド……」
最初に顔を見た時……オレが放校を言い渡された時……妙に嫌な印象をザイオン新理事長に覚えたことを思い出す。
「ま、それはそれとして……”エリクサーの件”をやったのはお前なんだろ? 奴の慌てっぷりと言ったらなかったぜ♪」
何のことだ……と思ったが、どうやらオレが釣ってフィルが闇に流したエリクサーが、なぜか理事長にダメージを与えたらしい。
嬉しそうに笑うロンド。
「しばらく寂しくなるな……ボクは冒険者として活動を始めるから、困ったことがあったらいつでも呼び出してくれ!」
ロンドはそう言ってオレに連絡先を手渡してくれる。
大抵の街には冒険者学校の下部組織である冒険者ギルドがあり、そこに備え付けてある魔法通信装置を使えばロンドと連絡を取ることが出来るらしい。
なにかあった時、将来S級間違いなしと言われているコイツの助力を得られるならありがたい……持つべきものは親友である。
だが、シリアス友情モードは長く続かず、傍らでぽかんとしているフィルを見やると、とたんに悪戯っぽい表情になるロンド。
ガシイッと肩を掴まれる。
「……そ~れ~よ~り~、なんだよこのかわいい子は~?」
「お前好みの美脚っ子じゃねえ~か? どこでナンパしたん?」
「お前もついに彼女もちか、やったじゃん!」
「いやいや、オレとフィルは、まだそんなんじゃないって!」
いつもの調子なロンドに、必死に弁解を試みるオレ。
ちらりとフィルの方を見ると、下を向いて真っ赤になっている。
え、何その乙女な反応?
ドキドキするんですけどっ!
「へえ、フィルちゃんっていうのか……コイツは頼りないときもあるけどとってもいいヤツだから!」
「ボクが保証する! ふたりの旅が上手く行くように祈ってるぜ!」
そう言って陽気に笑うロンド。
まったくコイツは……ともかく、オレたちは愛すべき親友に見送られ、ラクウェルの街を後にするのだった。
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