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■第3章 孤児院と新たな仲間
第3-2話 孤児院で演奏……アイドルっぽい?
しおりを挟む「戦災孤児院の慰問……ですか?」
”パナケアウィングス”が本格始動して数か月余り……すでに何度か出撃を繰り返し、わたしとアシュリーさんたちのコンビネーションも高まってきた今日この頃。
王都を走り抜ける風には、初夏の香りが混ざっています。
ガイオス軍侵攻正面の圧力が弱まったという事で、少し余裕が出てきたわたしたちは、広報活動にも力を入れていました。
その一環として、孤児院で慰問のミニライブを開くことになったようです。
さわやかな朝日が差し込む居間で、朝食のハムサンドを作りながらアシュリーさんの説明を聞きます。
「うん、僕の従姉妹……オーレリアが理事を務める国際機関が設置した孤児院なんだけどね、子供たちがパナケアウィングス……特にミアに興味津々らしくてね」
「彼女から依頼されたんだ。 ミア、来てくれるかい?」
「はいっ! それはもちろん大丈夫ですけど……」
わたしも孤児院の慰問には何度も参加したことがありますし、子供たちの笑顔を見ると癒されるので大歓迎なのですが、いくら小康状態になっているとはいえ、わたしたちが戦場に出なくて大丈夫なのでしょうか。
わたしは全員分のハムサンドを作り終えると、新鮮なミルクをコップに注ぎ、食卓に着きます。
うっ……先日のおにくちゃん事件のトラウマがありますので、食パン二斤分食べたいところですが、一斤だけにしておきましょう。
これも魅惑のボデーラインを保つため……アシュリーさんの視線も気にする複雑な乙女心です。
「…………」
レナードさんの視線が、「一斤も二斤も変わらないと思うが……」と語っている気もしますが、気にしないようにしましょう。
「良かった! ……実はね、”パナケアウィングス”も形になって来たけど、僕はミア一人に負担をかけ過ぎていると思うんだ」
「オーレリアの話では、孤児院の中に特別な才能を持った子がいるらしくて……ふむ、このハムサンドは野菜の食感とスパイスのバランスが絶品だね、さすがミア」
なぜこの時期に孤児院へ行くのか……わたしの作ったハムサンドを美味しそうに頬張りながら、アシュリーさんが説明してくれます。
はうっ……”ミアに負担をかけ過ぎている”……気づかいの言葉に嬉しくなっちゃいますが、先日の”修行”はその、ミアの不摂生がすべての元凶と言いますか。
ってお料理も褒めてもらってるしっ!
アシュリーさんの無自覚褒め殺し攻撃に、ミアちゃんブレインは沸騰しそうです。
それにしても、孤児院で新メンバーのスカウトですか……長引くガイオス軍との”大戦”で、街が焼かれたり、前線で戦っている兵士さんたちが亡くなったり……戦災孤児は増加傾向にあります。
彼ら彼女らを保護する戦災孤児院は各地に作られているのですが、孤児たちの中から、魔法や攻撃スキルの才能を持った子供を見出す活動は恒常的に行われています。
親を喪った子供たちをまた戦場に送り出す……戦争のためとはいえ、やるせない話です。
せめて”パナケアウィングス”に来た子には、楽しい生活を送ってもらえるように!
わたしは改めて、むん! と心の中で気合を入れます。
「それじゃあ、ミアが大丈夫ならさっそくこの後行ってみようか……オーレリアにも連絡しておくよ!」
「もぐもぐ……はいっ!」
「……カンタス」
子供たちに歌を披露するなら、莫大なカロリーが必要でしょう。
そう結論付けたわたしは、朝食のハムサンドをもう一斤追加するのでした。
*** ***
「あそこに建っているのが、オーレリア戦災孤児院だよ」
「ふぅ、なかなかの山奥にあるんですね……」
「従姉妹の方針で、子供たちには将来の事を考えて職業訓練と戦闘訓練を施しているんだ。 そのためには、広大な敷地が必要らしくてね」
朝食を終えたわたしたちは、アシュリーさんの転移魔法でレンド王国の北にあるライズ大公国までやってきました。
ライズ大公国は数日あれば端から端まで歩けるくらいの小さな国で、深い山と森におおわれたとってものんびりした国です。
大公国唯一の街であるライズから街道を登ること数時間……そろそろお昼になろうかという時刻に、ようやく戦災孤児院の近くまで到着したようです。
三段に分かれた勇壮な滝が流れる川の脇に、大きく山を切り開いて建てられた孤児院の敷地が広がります。
レンガ作りで温かみを感じる3階建ての建物からは、お昼休みなのか元気な子供たちの歓声が聞こえます。
「僕たちが行くことはすでに連絡済みだし、この後午後の授業が終わったら講堂で演奏をすることになっている」
「さっそく行ってみよう」
「むぅ、子供たちにはゆっくりとした讃美歌は退屈ですかね? 先日レナードさんが作曲してくれた、ノリのいい曲にしますか?」
「そうだな……」
子供たちにどうやって楽しんでもらおうか……がやがやと話しながら、孤児院の門をくぐるわたしたち。
と、わたしたちが到着したことに気づいたのか、食事を終えてグラウンドで遊んでいた子供たちが真っ先に歓声を上げます。
「あっ!! ”パナケアウィングス”のおねえちゃんたちだ~!」
「こうたいしさまもいる~!」
「オレ、レナード兄ちゃんのドラムがかっけーと思うな!」
たちまち、笑顔の子供たちに囲まれてしまいました。
みんな6~10歳前後の少年少女たちです。
「わわっ?」
「ははっ、大歓迎だね」
「うむ」
嬉しそうに抱きついてくる子供たちの頭を優しく撫でてあげます。
わたしは一人っ子で、一緒に育った親戚のお兄ちゃんお姉ちゃんはいますが、つねに末っ子扱いだったのでこういう体験は新鮮です。
うふふ、可愛いなぁ……キラキラした瞳で見上げてくる子供たちに癒されっぱなしです。
「……そこにいるのは、なんとかウィングスのねーちゃんだな!」
「レンと勝負するのだっ! とうっ!」
と、その時……ひときわ元気な声が辺りに響いたかと思うと、グラウンドにそびえる大ケヤキが揺れる音がします。
ばっ!
大きくグラウンドに張り出した枝から飛び降りてきたのはひとりの女の子。
年齢的には周りの子供たちよりやや年長……12,3歳といったところでしょうか。
ボリュームのある緑髪をサイドテールにまとめ、動きやすそうな半袖シャツにこげ茶のショートパンツ。
すらりと伸びた足先にはスニーカーを履いています。
何より彼女を特徴づけるのは、側頭部にぴんっ!と立つ一対のもふもふな耳と長い尻尾で……。
獣人族の女の子!?
どうやら血気盛んな彼女は、わたしに挑みかかって来たようです。
不肖ミア、わが故郷ではこういう戯れは日常茶飯事ですので、落ち着いて対処します。
彼女がケガしないように、勢いを利用して軽くひと投げしますか……。
「!! にししっ!」
しゅんっ!
なっ……早いっ!?
イメージ通りに彼女の肩と腰を掴むはずだったわたしの両手は、空中で素早く身体をくねらせた女の子の動きに追従できず、空を切ります。
まさか……紅閃のハヤブサと呼ばれたわたしの投げ技をかわすなんて!
いささか慌てたわたしは、彼女に対してバックステップで距離を取ります。
追撃を狙っていたのでしょう……それを読んで回避したわたしの動きに、彼女も驚きの表情を浮かべます。
「!! すげ~! このコンビネーションをかわすなんて、さすがパナケアウィングスのつるペタおねーちゃんなのだ!」
「……あっ」
「……うむっ」
ぴきり……空気が硬化する音がします。
わたしは音も無く両手の拳に闘気を練ると……。
しゅんっ……バシイッ!
「うおおおおっ! あのコンビネーション! レンねーちゃんのスピードを超えたっ!?」
「……きゅう」
「……はっ!? ……あああ、やっちゃったぁ!?」
思わず自然に出てしまったカンタス流究極奥義……ぎりぎりで我に返り、威力は落としましたが……一陣の風が舞った後、わたしの腕に抱かれていたのは、きれいに入った当身で目を回している獣人族の女の子でした。
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