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■第3章 孤児院と新たな仲間

第3-4話 急襲、謎の刺客!(後編)

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「にはは! コイツがいいかな?」
「とうっ!」

 ブオンッ!

 薪探しのため、森に入ったレン……獣人族の鼻を生かし、ある程度乾燥した倒木を探し出す。
 彼女が肩に担いだグレートソードを一振りすると、乾いた音を立てて大木が両断された。

「にしし、イイ感じなのだ!」

 レンは自身の身長よりも大きいグレートソードを器用に操ると、倒木をちょうどよい大きさの薪に解体していく。

「仕上げは……弱めの”フレア・ブラスト”!」

 ブアッ!

 薪に向かって伸ばされたレンの小さな手のひらから、攻撃魔法をつかさどる赤魔力がほとばしる。
 器用に調整された爆炎魔法は熱風となり、一瞬で湿っていた薪をカラカラに乾燥させる。

「ふふふ、流石はレンちゃん、見事な手際なのだ……って!?」

 これだけの良く乾いた薪があれば、ミアねーちゃんがさぞかし美味しいピザを焼いてくれるだろう。
 鼻歌交じりに薪を担いで孤児院に帰ろうとしたレン。

 だしぬけに森の奥から感じた”魔”の気配に全身が総毛だつのを感じる。
 彼女の耳も尻尾もピン!と立てられ、得体の知れない気配に自然と全身が警戒態勢をとる。

「むむっ……この気配は……タダのモンスターじゃない?」

 レンが孤児院に引き取られるきっかけとなった、故郷の村へのガイオス軍の襲撃……まだ物心が付くか付かないかぐらいの歳であったが、記憶の底にしっかりと刻まれているねばつくような不快感……。

 ごくり……汗ばんだ手でグレートソードの柄を握るレンは思わず生唾を飲み込む。

 がさり……。

「ななっ? ニンゲン……? いや……!」

 すっかりと暗くなった森の奥、レンの目の前の茂みを揺らしながら現れたのは、一人の男。
 2メートルを超えるずば抜けた長身、漆黒の長髪は夕闇に溶け消えるようだ。

 浅黒い肌からのぞく目は爛々と赤く輝いており、黒髪からのぞく耳は、わずかに尖っているのが見て取れる。

「にはっ? まさか、エルフ族なのだ?」

 思わずきょとんとした表情を浮かべるレン。
 エリン先生の授業で聞いたことがある……エルフ族は深い山の奥に棲んでおり、めったに人前に姿を現さない。

 穏やかな種族で、肌は透き通るように白い……違う、コイツはエルフ族ではない。
 なにしろ、夕日を反射してぬらぬらと怪しく輝く尻尾が生えているのだ。

「ふん、オレはエルフのような下等生物じゃない……下賤な獣人くん」


 威圧的でもなく、しゃがれているわけでもなく……少しだけ軽蔑の感情が混じった、ごく普通の澄んだ声。

 だが、普通の人間よりはるかに鋭い感覚を持つ獣人族であるレンには分かってしまう。
 目の前の相手が、底知れぬ力を持った人型モンスターであると。

「くっ! 先手必勝なのだっ!」

 ブアッ!

 静かにたたずむ目の前の男から、底知れぬ悪意を感じ取ったレンは、孤児院で学んだ戦闘訓練を思い出し、全身に赤魔力をまとわせる。

「レンは詠唱技術がいまいちですが、たぐいまれな身体能力と赤魔力を持っています」
「初級魔法でも、物理攻撃と組み合わせれば飛躍的に威力を向上させることができる……さあ、素振りと詠唱を100セットずつです!」
「に、には~っ!」

 やけにスパルタなエリン先生の戦闘訓練……だけどそれが今役に立っているのだ!
 レンは先生に感謝しながら、全身の筋肉を躍動させ、弾かれるように加速する。

 同時に、Cランクの爆炎魔法を発動させる!

「食らうのだ! 必殺フレア・ブラスト斬りっ!」

 取った!
 必殺の間合いで放たれたグレートソードは、命中の瞬間激しい炎を周囲にまき散らした。


 ***  ***

「……ん? 何だろうこの魔力?」

 エリン先生にも手伝ってもらい、石窯の準備を整えてマルゲリータを焼き始めていたわたし。
 ほのかに感じた赤魔力に視線を上げます。

「これは……レンちゃん!?」

 孤児院に到着したときに、わたしに挑みかかってきた時の魔力パターンを思い出します。
 でも、あの時に比べると感じる魔力は激しくて……相手を倒してやるという敵意のようなものを感じるような……。

「……すみませんエリン先生、レンちゃんを探しに行ってきますっ!」

「は、はい……ミアさん、気を付けて」

 何か妙な胸騒ぎがしたわたしは、料理するには邪魔なので外していた手甲を掴むとレンちゃんの魔力を感じる方向へ走り出します。

「……念のため僕たちも行こう!」

「ああ」

 アシュリーさんたちも着いて来てくれるようです。

 このふたりが来てくれれば絶対大丈夫……頼もしさを感じたわたしは、両脚にさらに力を込めて走るのでした。
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