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■第3章 孤児院と新たな仲間
第3-6話 王子サイド・人生大ピンチ王子、陰謀を巡らせる
しおりを挟む「……ぐうっ、このままでは干からびてしまう」
「早くなんとかしないと……」
キラキラと初夏の日差しが差し込むボブ王子の私室。
僅かに開いた窓からは、豪華な絹のカーテンを揺らしながらさわやかな初夏の風が吹き込む。
だが、そんな季節の移り変わりを感じる余裕もなく、汗で濡れた身体をベッドから起こすボブ。
ズキズキと痛む腰をさすりながら何とか立ち上がる。
ボブの婚約者……胸も腹も腰回りも爆裂しているベティは侍女に身支度をさせているのか、今はこの部屋にいない。
哀れなボブは、昨夜も一晩中ベティに”食べられて”いたのだ。
「正式な婚姻の儀は盛夏……まだ時間はあるとはいえ、”世継ぎ”まで出来てしまっては、いよいよ後戻りが出来なくなるぞ……くそっ!」
その前に俺が腹上死するのが先かもしれん……思わず冗談めかして口に出したことが案外ありそうな気がして、ボブは恐怖に身体を震わせる。
それに、ベティは独占欲の強い女……側室を持つことなど、認めてもらえそうにない。
せっかく王子として生を受けたというのに、ひとりの女と添い遂げるなど一般庶民みたいなことを……!
今まで恵まれていたはずの俺の人生に、こんな瑕疵があって良いはずがない……納税者である王国民が聞いたら激怒しそうなことを考えつつ、ベッドの脇にあるサイドテーブルの上に置かれた、王国の日刊紙であるレンドタイムスを手に取る。
「まったく……1面はまた”パナケアウィングス”か!」
否応なく目に入る1面の記事……極大のフォントで書かれた見出しには、
『パナケアウィングス、ライズ大公国の戦災孤児院で慰問ライブ!』
『ガイウス軍の奇襲を排除す! 彼女らこそ人間界の救世主になるだろう!』
などと、彼らを称える内容が踊っている。
わざわざ最新技術である総天然色の魔導写真が使われており、キラキラと照明を浴びながら笑顔で歌唱するミアと、レイトン皇国皇太子であるアシュリーの姿が写っている。
「くそっ! 本来ならスポットライトを浴びていたのはこの俺だったはずなのに……!」
「俺が目を付けていた女を寝取りやがって……!」
くしゃり、思わず力を入れた両手に、しわになったレンドタイムスが抗議の音を立てる。
寝取ったも何も、突然の婚約破棄でミアを捨てたのはボブの方なのだが、幼いころから甘やかされて自分の思い通りに育ってきた彼には自分が悪いという考えはなく……。
ただメラメラと嫉妬の炎を心の内で燃え上がらせるだけだった。
「幸せそうな顔をしやがって……ん?」
なおも愚痴をこぼすボブであったが、見出しと写真の下、記事の本文の端に小さく書かれた識者のコメントに目を留める。
どうやら、レンド王国魔導研究機関の主任が寄稿しているようだ。
この研究機関は活躍の場をアシュリー皇太子たちに取られており、しばしば彼らに批判的な声明を出すことで知られている。
口だけで何の役にも立っていないので、ボブもただのムダ飯喰らいだと軽蔑していたのだが……。
『パナケアウィングスの活躍は確かに素晴らしいのですが、まだ完全には解明されていない古代遺物の力を利用しているのも事実……孤児院で遭遇したという謎の人型モンスター』
『不確かな古代遺物の力が引き寄せた可能性も排除できないと考えます。慎重な運用を期待すると、当研究所の立場から申しあげておきます』
ふむ……いつもなら何の根拠もない負け惜しみと流すところだが……「謎の人型モンスターの襲撃を古代遺物の力が引き寄せた」……か。
ふぅむ、悪くない……このタイミングで後方国家である我がレンド王国にガイウス軍の襲撃があれば?
目障りなアシュリー皇太子が王国に居られなくなり、ミアを奪える可能性もある。
時期が悪いと強弁して、ベティとの婚姻の儀を延期できるかもしれない……この俺なら、時間さえあれば婚約を破棄することも不可能ではない!
ふ、ふふふふっ……いいぞ、この俺様の頭脳はまだ諦めちゃいない……!
冷静に考えると、近い将来に王となる自分の国にモンスターを招き入れるなど、正気の沙汰ではないのだが、嫉妬に狂い……自分で選んだくせに望まない婚姻に抵抗するボブ王子はそのことに気づくことは無く。
「は、ははっ……奴らに連絡を取るのも久しぶりだな」
ボブは震える手で鍵の掛かった私物の棚を開けると、怪しく光る小さなクリスタルを取り出す。
これは、少年期から付き合いのある非合法組織へのホットライン……小さくは門限破りの手伝いから、大きくは遊び過ぎてトラブルになった女の始末まで。
あらゆる汚れ仕事を請け負ってくれるボブの切り札である。
正式に王位継承者として指名されてからは使用を控えていたが……今は非常事態、これは正当な権利である。
朝日の差す私室の中に、ボブのくぐもった笑い声が響くのだった。
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