転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

文字の大きさ
19 / 85
黒木希

19話 微睡の中で

しおりを挟む
(……?)

 目を覚ますとそこは見覚えのない場所だった。
 窓から差し込む赤い陽光が、朝日なのか夕日なのか判別出来なかった。
 ……もしかしたら何もかもが夢なのかもしれない。別にそれならそれでも構わない気がした。ほんの束の間でも幸せな夢を見られたのなら、それだけで充分なのではないだろうか?

(ああ、そうか……)

 傍らにある黒木希の安らかな寝顔を見て、ようやく俺は状況を思い出した。
 俺自身も希に付き添っているうちに眠ってしまっていたようだ。
 スマホには社長からの着信とメールが入っていた。 
 すぐに社長に折り返しの電話を掛けながら、希の目を覚ましてはいけないと思い、部屋を出てゆく。

 状況を説明し、俺も眠っていたことを正直に説明すると、社長は笑いながら「麻衣も疲れていたのね」と笑ってくれた。理解のある人が社長で本当にありがたかった。
「希の体調はどうなの?」とも質問された。言うまでもなく社長にとってはこちらが本当に尋ねたかったことなのだろう。

「どうでしょうね?もう少し安静にしておいた方が良いと思いますが……」

 俺はやや曖昧な返事で逃げた。
 もちろん会社として、彼女にすぐに仕事に復帰してもらうことが望ましいことは分かっていた。彼女をメインに据えた仕事が明日からも何本もあり、そこにどれだけの大人が動いており、大きな予算が注ぎ込まれているのかも分かっていた(無論正確な数字を把握しているわけではないが)。
 だけど……彼女のさっきの状況を目の前で見せられたのに「体調が治ったのならまた明日から仕事がんばりましょう!」などと彼女に告げることは……今の俺には出来なかった。可能な限り少しでも休んでいて欲しかった。……例え希本人がすぐに働きたいと言い張ったとしてもだ。

「……分かったわ。とりあえず明日の仕事は全部飛ばしておくから……。状況分かり次第すぐに連絡してちょうだいね。……あと、麻衣。あなたも体調に気を付けるのよ。あなたまで伝染うつっちゃったらダメだからね」

 社長の言葉は、俺のそんな気持ちまで見透かしたかのように優しかった。
 伝わるわけもない最敬礼をして、俺は電話を切った。



「どうですか、希さん?」

 とりあえずそう声を掛けながら、俺は希の部屋に戻った。

「ん……」

 俺の問いかけに返事をしたように思えたが、彼女は目を覚ましたわけでもなさそうだった。寝惚けたまま返事をしたのだろう。

「ね?……今はゆっくり休んで良いんですからね……」

 寝言に返事をするのは眠りを妨げるので良くない、という話を聞いたことはあったが思わず俺は答えていた。普段の彼女は言うまでもなくとても魅力的だけど……こんな状態の方が身近に感じられる存在な気がして、たまらなく彼女が愛おしかった。

「だめやに……ウチはもっと頑張らなあかんのよ。おかん……」

 不意に聞こえた希の寝言に俺はハッとした。



 WISHのメンバーの多くはお嬢様と呼んで差し支えないような良家の娘さんばかりである。別に元々そういったコンセプトでメンバーを選んでいったわけではないのだが、自然とそうなったようだ。それがグループの清楚で上品なイメージを作っていったのは間違いない。
 余裕があるためか、アイドル活動に関してもほとんどの家が全面的に応援してくれているという印象だった。
 だが、そうだった……。黒木希の家は必ずしもそうとは言い切れない部分がある……ということを社長から聞かされていた。父親は全面的に応援・協力してくれているそうなのだが、母親が芸能界に進むことに反対し、今でもあまり積極的には応援していないとのことだった。

(……たしか三重県だったな。……そうか。もしかして、そういうことなのか?)

 彼女の出身は確か三重県だったはずだ。関西弁に似ているけれど少し柔らかいイントネーションの寝言は、恐らくその地元の言葉なのだろう。
 そして俺は思い至った。先日の密着大陸のロケを二つ返事で引き受けた彼女のことだ。もしかしたら……もちろんこれは推測の域を出ないが、一般層にまで届くような……普段あまり娘の活動に興味を示さない彼女の母親にも届くような活動だから、彼女はそれを積極的に引き受けたのではないだろうか?
 証拠はもちろんないし、希本人に問いただしても認める可能性は低そうに思えたが……俺には間違いないように思えた。

 何だろう?……多分希の母親にも母親なりの理由があるし、彼女を愛しているがゆえに芸能界の活動を反対しているのだろう。だからもちろん、赤の他人が母親の姿勢を頭ごなしに否定することなど出来ない。
 でも、黒木希以上に成功した人間を探すのが難しいほどに彼女は芸能界で成功した……と言って良いだろう。だから、もう希のことを認めてあげても良いんではないだろうか?と、無責任かもしれないがどうしても思ってしまう。……いや、もちろん親子の関係には他人が口を挟めない部分がきっとある。そこに我々が口を挟むのは……どうなのだろう?と思ってしまうのではあるが。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...