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小平藍
57話 先輩たちと後輩たち
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「これからよろしくお願いします!」
「お願いします!!!」
ここはダンスレッスンを行っているいつものスタジオだった。
新メンバーである5期生8人が、居並ぶ先輩メンバーたちに頭を下げる。
先輩メンバーたちもそれを温かく拍手で迎え入れる。
新メンバーが加入する際の伝統的な行事ではあったが、何度見てもこの光景は感慨深い。……いや、というよりも私がWISHに関わるようになってからの月日が長くなるにつれセンチメンタルな感情も強まってゆくような気がする。挨拶をした5期生の彼女たちを見て、そしてそれを温かな眼差しで見つめる先輩メンバーたちを見て、それだけで涙が出そうになってくる。
……誰ですか?「歳をとってくると涙腺も緩む」とか言った人は?今後私の握手会は一生出禁にしますね!
5期生オーディションの最終審査から3週間ほどが経った。
そしてついに彼女たちが正式にWISHに加入したのだ。
感慨深くなってしまうのは、私も審査員として関わったという思い入れもあるのかもしれない。
その中には彼女、小平藍もいた。
今も少し居心地の悪そうな顔をしながら同期の皆に合わせて頭を下げていた。
私が今回のオーディションに審査員として関わったことは、他のメンバーたちも知っていた。
オーディション内容や合格者たちについて尋ねてくるメンバーもいたけれど、もちろん情報は時期が来るまで秘密にしておいた。やはりどんな子たちが後輩メンバーとして加入してくるのか気になるのが当然だろう。
彼女、小平藍に私が感じた強い直感を、社長に対して全部説明出来たわけではなかった。
けれど社長は私を信用して彼女を加入させてくれた。
そして「あの子は、少し変わっているから馴染めるか心配だわ。麻衣、あなたが責任をもってサポートしなさい。ただしあまり目立たないような形でね」とも言ってくれた。
社長の器の大きさはやはりこうした所に表れる。こうした形で信頼を示されると、この人に付いていこう、という気持ちにさせられてしまう。
それに伴い、半年間限定だった私のメンバーとしての活動も期間を延長することになった。あと2か月と少しで活動期間は終わる予定だったわけだが、彼女をサポートするためには同じメンバーとして活動する方が何かと都合が良いだろうと判断して、私からそれを申し出たのである。
だが、まあ、大人のズルさというか……それに関しては特に公式な発表をしないことにもなった。しれっとメンバーとして活動しつつ、いつの間にかマネージャー業務に戻りました……というフェイドアウト方式を採る方針だ。
ファンを悲しませることになるかもしれないという危惧はもちろんあったが、宣言通り半年で辞めたところでコアなファンは悲しむだろうし、「やっぱりもっと続けます」と宣言したところで怒り出すファンも間違いなくいるわけで、結局のところ誰も傷付けない方法などはないのだろうから、これもアリなのかもしれない。
「こんにちは、小田嶋麻衣です!皆さんがこうしてWISHに入ってくれて本当に嬉しいです!……あの、私は一応メンバーでもあるんだけど、マネージャーの方が本業みたいな感じだから、何でも聞いて下さいね。最初は本当に分からないことだらけだと思うので」
先輩たちとの対面の後、5期生の皆と個人的に顔を合わせるタイミングが出来たので私はそう挨拶をした。
もちろん一番気になっていたのは彼女……小平藍だったが、その他のメンバーにも平等に接しなければという気持ちもあったし、実際どの子も魅力的だった。
8人全員が10代で、中には14,5歳の子たちもいる。
もちろん今いるメンバーにも同程度の年齢差のある子たちもいたが、その子たちと比べてもどこかフレッシュな雰囲気は段違いだった。
「あ、小田嶋さん……オーディションの時もいらっしゃいましたよね?」
「あ、はい、えっと……須藤琴音さんね。もちろん覚えているわよ」
「え、本当に覚えていて下さったんですか?嬉しいです!」
琴音ちゃんは、パッと笑顔を咲かせ大袈裟なくらい表情を明るくした。
その反応に、思わず私も釣られてしまいそうになる。
意識的なのか無意識なのか定かではないが、自然とそういう態度が出てしまうのは彼女の天性のアイドル気質を示しているだろう。
「あの、小田嶋さん……私のことも覚えてらっしゃいますか?」
「もちろん覚えているわよ、小島さん」
須藤さんに続いたのは、私のファンだと言ってくれた小島慈子ちゃんだった。彼女以外の全員の名前を私は覚えていたが、それは多分私のマネージャーとして経験によるところが大きい。私以外の先輩メンバーたちは、まだ彼女たちの顔と名前が一致していないというケースが多いだろう。
ふと彼女と目が合う。小平藍だ。
他の新メンバーたちがWISHの一員としての活動が遂に始まり、憧れだった先輩たちとの対面を果たしたり……という状況に明らかにハイテンションになっているのに対し、彼女はほとんどそうした反応を示さなかった。最低限の自己紹介をして以降はほとんどニコリともしなかった。だけど、興味が無いわけでないことはその真剣な表情から伝わってきた。
(彼女はつい最近まで外国にいた……と自分で言っていたけれど、彼女の雰囲気が独特なのもその影響なのだろうか?)
ふと私は思ったが、別にその時はそこまで深く考えたわけでもない。
これからは彼女とも沢山同じ時間を共有するのだ。彼女のことも徐々に知っていけば良い。そんな気持ちだった。
「みんなのお披露目はまだ少し先になると思うから、焦らずゆっくり頑張ってね!」
あまり長く話過ぎるのも良くないと思い、私は颯爽とその場を後にした。
「何なんですか、麻衣さん……」
「……な、え、舞奈!?」
5期生たちの元を颯爽と去った直後に出くわしたのは舞奈だった。
どうやら先ほどの様子をすべて見られていたらしい。
「『焦らずゆっくり頑張ってね!』……ってすごい先輩ヅラするじゃないですか。ついこの前まで自分が一番後輩メンバーだったクセに」
舞奈は笑い出しそうになるの必死に堪えている表情を作り、私を揶揄ってきた。
もちろん舞奈がそう来るのなら、こちらもそれに応えてあげるのが礼儀というものだ。
「あら?舞奈ちゃんは、私が自分より若くてフレッシュな新メンバーたちに取られてしまったみたいで嫉妬しているのかしら?……ごめんなさいね、私も何分顔が広くて舞奈ちゃん一人に構って上げられなくなってきてしまったの」
5,6歳の年齢差があるのに同じ目線でやり返すのは大人げない……などという意見は一切受付けていない。
「な……そういうことじゃなくて、私は真剣な話をしようと思って来たんです!」
すぐムキになっちゃって相変わらず舞奈は可愛いなぁ……と思っていたが、どうやら舞奈が言いたいのはそれだけではなさそうだった。
「麻衣さんは……アイドルとしての自分にもう興味が無いんですか?」
急に核心を突かれてドキリとする。返事の言葉が出て来なかった。
「ちょっと悔しいから、あんまり言いたくもないですけど……麻衣さんは今アイドルとしての道が思いっきり開けてるんですよ?気付いてないわけないですよね?」
「それは……どういう意味なのかしら?」
勿体付けて返事をしたが、もちろん舞奈の言いたいことは何となく分かっていた。
「マネージャーからの転身で注目を浴びて、正式にメンバーとして認められて、人気も出てきて、この前のシングルでは裏センターまでやって……どう考えてもWISHのセンターを目指す場所まで来てるじゃないですか?どうしてもっと自分が前に出て行こうとしないんですか?もうアイドルとしての自分には興味無いんですか?それともマネージャーの方が良かったって後悔しているんですか?」
「……いや、そんなことはないけど……」
舞奈の質問攻めに息が詰まる。
「そうですよね。歌って踊る麻衣さん……レッスンの時だっていつも楽しそうでしたもんね?」
「それはそうよ。……でも、私の将来のこととかは社長が決めることでもあるし……」
「ウソです……社長だって、麻衣さんの希望を絶対に叶えてあげたいと思ってるに決まってます!麻衣さんがやりたいって言えば麻衣さんセンターの曲だって作ってくれるんじゃないですか?……もちろん、自分じゃなく後輩や他のメンバーを立ててあげたいっていう麻衣さんの気持ちも理解出来ます。ずっとマネージャーとしてやってきてくれたんですからね……。でも、それはもう少し後になってからでも出来ることなんじゃないですか?」
舞奈の思いがけず熱い気持ちを聞かされて、嬉しくもあったし……そしてその時になって初めて、自分がアイドルとしてセンターに立つということにあまり興味を持てなくなっていることに気付かされた。
「……そうね、舞奈の言う通りかもしれない。私はやっぱり誰かを後ろから支えてあげる方が好きなのかもしれないわね……」
選抜メンバーとして活動しつつも迷っていた心の答えが、図らずも今出てしまったという感じだ。
多分それが私の資質なのだ。
自分がセンターに立つためにどうするか?という考え方が出来る子がいる。そういう子は間違いなくアイドルとして強い。
私はそうではなかった。
全体の調和や、注目を浴びていない側ばかりに目がいってしまう生粋の裏方気質なのだ。
小田嶋麻衣として転生しても、元の松島寛太の性格は完全には変わらなかったようだ。
そして小平藍の登場である。彼女が表れた時、私はこの子を支えなければならない……ほとんど使命のように強くそれを感じた。
「そうね、今回オーディションの審査員をして余計に思ったの。これからの若い子たちを売り出すためにどうするか?それを考える方が私は性に合っているのかもしれないわね……」
「……まあ、それも大事なことだとは思いますよ。新しい風が入ることでWISH全体に活気が満ちて、良い影響が出るのは間違いないですよ。みんなすごく可愛いですし、守ってあげなきゃって思いますよ。……私としてはちょっと悔しい気持ちもありますけどね」
生意気で自分本位な子だとばかり思っていた舞奈も、先輩としての自覚が出てきたようだ。そんな成長が感じられてまた少し嬉しくなる。
「……舞奈……」
「あ、でも何か一人だけ、すごい眼付きの悪い子いません?私、あの子とは仲良くなれないかもしれないです。生理的にというか直感ですけど」
舞奈の言葉で感動しかけていただけに、続く一言で思いっきり不安にさせられてしまった。
「お願いします!!!」
ここはダンスレッスンを行っているいつものスタジオだった。
新メンバーである5期生8人が、居並ぶ先輩メンバーたちに頭を下げる。
先輩メンバーたちもそれを温かく拍手で迎え入れる。
新メンバーが加入する際の伝統的な行事ではあったが、何度見てもこの光景は感慨深い。……いや、というよりも私がWISHに関わるようになってからの月日が長くなるにつれセンチメンタルな感情も強まってゆくような気がする。挨拶をした5期生の彼女たちを見て、そしてそれを温かな眼差しで見つめる先輩メンバーたちを見て、それだけで涙が出そうになってくる。
……誰ですか?「歳をとってくると涙腺も緩む」とか言った人は?今後私の握手会は一生出禁にしますね!
5期生オーディションの最終審査から3週間ほどが経った。
そしてついに彼女たちが正式にWISHに加入したのだ。
感慨深くなってしまうのは、私も審査員として関わったという思い入れもあるのかもしれない。
その中には彼女、小平藍もいた。
今も少し居心地の悪そうな顔をしながら同期の皆に合わせて頭を下げていた。
私が今回のオーディションに審査員として関わったことは、他のメンバーたちも知っていた。
オーディション内容や合格者たちについて尋ねてくるメンバーもいたけれど、もちろん情報は時期が来るまで秘密にしておいた。やはりどんな子たちが後輩メンバーとして加入してくるのか気になるのが当然だろう。
彼女、小平藍に私が感じた強い直感を、社長に対して全部説明出来たわけではなかった。
けれど社長は私を信用して彼女を加入させてくれた。
そして「あの子は、少し変わっているから馴染めるか心配だわ。麻衣、あなたが責任をもってサポートしなさい。ただしあまり目立たないような形でね」とも言ってくれた。
社長の器の大きさはやはりこうした所に表れる。こうした形で信頼を示されると、この人に付いていこう、という気持ちにさせられてしまう。
それに伴い、半年間限定だった私のメンバーとしての活動も期間を延長することになった。あと2か月と少しで活動期間は終わる予定だったわけだが、彼女をサポートするためには同じメンバーとして活動する方が何かと都合が良いだろうと判断して、私からそれを申し出たのである。
だが、まあ、大人のズルさというか……それに関しては特に公式な発表をしないことにもなった。しれっとメンバーとして活動しつつ、いつの間にかマネージャー業務に戻りました……というフェイドアウト方式を採る方針だ。
ファンを悲しませることになるかもしれないという危惧はもちろんあったが、宣言通り半年で辞めたところでコアなファンは悲しむだろうし、「やっぱりもっと続けます」と宣言したところで怒り出すファンも間違いなくいるわけで、結局のところ誰も傷付けない方法などはないのだろうから、これもアリなのかもしれない。
「こんにちは、小田嶋麻衣です!皆さんがこうしてWISHに入ってくれて本当に嬉しいです!……あの、私は一応メンバーでもあるんだけど、マネージャーの方が本業みたいな感じだから、何でも聞いて下さいね。最初は本当に分からないことだらけだと思うので」
先輩たちとの対面の後、5期生の皆と個人的に顔を合わせるタイミングが出来たので私はそう挨拶をした。
もちろん一番気になっていたのは彼女……小平藍だったが、その他のメンバーにも平等に接しなければという気持ちもあったし、実際どの子も魅力的だった。
8人全員が10代で、中には14,5歳の子たちもいる。
もちろん今いるメンバーにも同程度の年齢差のある子たちもいたが、その子たちと比べてもどこかフレッシュな雰囲気は段違いだった。
「あ、小田嶋さん……オーディションの時もいらっしゃいましたよね?」
「あ、はい、えっと……須藤琴音さんね。もちろん覚えているわよ」
「え、本当に覚えていて下さったんですか?嬉しいです!」
琴音ちゃんは、パッと笑顔を咲かせ大袈裟なくらい表情を明るくした。
その反応に、思わず私も釣られてしまいそうになる。
意識的なのか無意識なのか定かではないが、自然とそういう態度が出てしまうのは彼女の天性のアイドル気質を示しているだろう。
「あの、小田嶋さん……私のことも覚えてらっしゃいますか?」
「もちろん覚えているわよ、小島さん」
須藤さんに続いたのは、私のファンだと言ってくれた小島慈子ちゃんだった。彼女以外の全員の名前を私は覚えていたが、それは多分私のマネージャーとして経験によるところが大きい。私以外の先輩メンバーたちは、まだ彼女たちの顔と名前が一致していないというケースが多いだろう。
ふと彼女と目が合う。小平藍だ。
他の新メンバーたちがWISHの一員としての活動が遂に始まり、憧れだった先輩たちとの対面を果たしたり……という状況に明らかにハイテンションになっているのに対し、彼女はほとんどそうした反応を示さなかった。最低限の自己紹介をして以降はほとんどニコリともしなかった。だけど、興味が無いわけでないことはその真剣な表情から伝わってきた。
(彼女はつい最近まで外国にいた……と自分で言っていたけれど、彼女の雰囲気が独特なのもその影響なのだろうか?)
ふと私は思ったが、別にその時はそこまで深く考えたわけでもない。
これからは彼女とも沢山同じ時間を共有するのだ。彼女のことも徐々に知っていけば良い。そんな気持ちだった。
「みんなのお披露目はまだ少し先になると思うから、焦らずゆっくり頑張ってね!」
あまり長く話過ぎるのも良くないと思い、私は颯爽とその場を後にした。
「何なんですか、麻衣さん……」
「……な、え、舞奈!?」
5期生たちの元を颯爽と去った直後に出くわしたのは舞奈だった。
どうやら先ほどの様子をすべて見られていたらしい。
「『焦らずゆっくり頑張ってね!』……ってすごい先輩ヅラするじゃないですか。ついこの前まで自分が一番後輩メンバーだったクセに」
舞奈は笑い出しそうになるの必死に堪えている表情を作り、私を揶揄ってきた。
もちろん舞奈がそう来るのなら、こちらもそれに応えてあげるのが礼儀というものだ。
「あら?舞奈ちゃんは、私が自分より若くてフレッシュな新メンバーたちに取られてしまったみたいで嫉妬しているのかしら?……ごめんなさいね、私も何分顔が広くて舞奈ちゃん一人に構って上げられなくなってきてしまったの」
5,6歳の年齢差があるのに同じ目線でやり返すのは大人げない……などという意見は一切受付けていない。
「な……そういうことじゃなくて、私は真剣な話をしようと思って来たんです!」
すぐムキになっちゃって相変わらず舞奈は可愛いなぁ……と思っていたが、どうやら舞奈が言いたいのはそれだけではなさそうだった。
「麻衣さんは……アイドルとしての自分にもう興味が無いんですか?」
急に核心を突かれてドキリとする。返事の言葉が出て来なかった。
「ちょっと悔しいから、あんまり言いたくもないですけど……麻衣さんは今アイドルとしての道が思いっきり開けてるんですよ?気付いてないわけないですよね?」
「それは……どういう意味なのかしら?」
勿体付けて返事をしたが、もちろん舞奈の言いたいことは何となく分かっていた。
「マネージャーからの転身で注目を浴びて、正式にメンバーとして認められて、人気も出てきて、この前のシングルでは裏センターまでやって……どう考えてもWISHのセンターを目指す場所まで来てるじゃないですか?どうしてもっと自分が前に出て行こうとしないんですか?もうアイドルとしての自分には興味無いんですか?それともマネージャーの方が良かったって後悔しているんですか?」
「……いや、そんなことはないけど……」
舞奈の質問攻めに息が詰まる。
「そうですよね。歌って踊る麻衣さん……レッスンの時だっていつも楽しそうでしたもんね?」
「それはそうよ。……でも、私の将来のこととかは社長が決めることでもあるし……」
「ウソです……社長だって、麻衣さんの希望を絶対に叶えてあげたいと思ってるに決まってます!麻衣さんがやりたいって言えば麻衣さんセンターの曲だって作ってくれるんじゃないですか?……もちろん、自分じゃなく後輩や他のメンバーを立ててあげたいっていう麻衣さんの気持ちも理解出来ます。ずっとマネージャーとしてやってきてくれたんですからね……。でも、それはもう少し後になってからでも出来ることなんじゃないですか?」
舞奈の思いがけず熱い気持ちを聞かされて、嬉しくもあったし……そしてその時になって初めて、自分がアイドルとしてセンターに立つということにあまり興味を持てなくなっていることに気付かされた。
「……そうね、舞奈の言う通りかもしれない。私はやっぱり誰かを後ろから支えてあげる方が好きなのかもしれないわね……」
選抜メンバーとして活動しつつも迷っていた心の答えが、図らずも今出てしまったという感じだ。
多分それが私の資質なのだ。
自分がセンターに立つためにどうするか?という考え方が出来る子がいる。そういう子は間違いなくアイドルとして強い。
私はそうではなかった。
全体の調和や、注目を浴びていない側ばかりに目がいってしまう生粋の裏方気質なのだ。
小田嶋麻衣として転生しても、元の松島寛太の性格は完全には変わらなかったようだ。
そして小平藍の登場である。彼女が表れた時、私はこの子を支えなければならない……ほとんど使命のように強くそれを感じた。
「そうね、今回オーディションの審査員をして余計に思ったの。これからの若い子たちを売り出すためにどうするか?それを考える方が私は性に合っているのかもしれないわね……」
「……まあ、それも大事なことだとは思いますよ。新しい風が入ることでWISH全体に活気が満ちて、良い影響が出るのは間違いないですよ。みんなすごく可愛いですし、守ってあげなきゃって思いますよ。……私としてはちょっと悔しい気持ちもありますけどね」
生意気で自分本位な子だとばかり思っていた舞奈も、先輩としての自覚が出てきたようだ。そんな成長が感じられてまた少し嬉しくなる。
「……舞奈……」
「あ、でも何か一人だけ、すごい眼付きの悪い子いません?私、あの子とは仲良くなれないかもしれないです。生理的にというか直感ですけど」
舞奈の言葉で感動しかけていただけに、続く一言で思いっきり不安にさせられてしまった。
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