転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

文字の大きさ
74 / 85
卒業

74話 卒業発表

しおりを挟む
「…………またメンバーの小田嶋麻衣に関してですが、今回のシングルの活動をもちましてWISHから卒業することとなりました。卒業まで短い期間ですが変わらぬ応援のほどをよろしくお願いいたします」

 それから数日が経ち、WISHの公式サイトで今回のシングル『PHANTOM CALLINNG』の発売が発表された。
 レコーディングなどの製作活動はまだこれからなのだが、シングルの発売が正式に決まるというのはファンにとって大きな出来事だ。WISHの場合は年に3~4枚発売されるシングル毎に体制が変わってゆく。自分の推しのポジションがどうなるか、というのはファンにとっても最も重大な関心事と言っていい。

 当然今回のシングルで一番大きな話題を集めたのは、藍のセンター抜擢だ。
 ファンの反応としては賛否両論だった。
 5期生ライブでの藍の存在感を覚えているファンもいたが、多くは「小平藍?誰?」という冷ややかな反応だった。
 もちろんこうした冷ややかな反応の多くは「俺の推しがロクなポジションを与えられていないのに、何で入ったばっかりの5期生が選抜のセンターになってるんだよ!」という反感が後押しになっていることが大部分だ。
 そもそもドルオタというのは(WISHのような国民的アイドルのオタクは特にそうかもしれないが)保守的な傾向が強いものだ。だからこそ『推し』などという概念が成立するのだと思う。
 もちろんアイドルの推し方は千差万別だ。オタクの数だけ推し方があると言って良い。特定の推しメンを持たない「箱推し」と呼ばれるオタクも多いし、次から次へと目新しいメンバーに「推し変」してゆくオタクももちろんいる。 
 ただどちらかと言えば多くのオタクは自分の一度決めた推しメンに対して忠実だ。推しを選ぶポイントは様々だが、単にルックスが良いから、パフォーマンスが優れているから……といった合理的理由はむしろ少ない。大事なのは出会うタイミングであり、出会い方なのだ。偶然性に満ちた出会い方のほうが運命を感じるものなのだろう。当然、一度推しを決めて応援してしまえば、それに伴って思い出は増えてゆく。それが情となり、推しの卒業まで離れられなくなる……というサイクルの中にいるオタクは多いだろう。

 情に厚いオタクは一見美談に聞こえるかもしれないが、話はそう単純でもない。誰かを推すということは、誰かを推さない、ということなのだ。
 過激なオタクは得てして、推し以外のメンバーに批判的だったり、攻撃的な態度をとってしまうことがある。もちろんそれは全然褒められた行動ではないし、度が過ぎればオタクとして人として失格である。
 だが誤解を恐れず言えば、そうしたオタク同士の煽り合いが、アイドル文化をここまで大きくしてきたし、WISHの運営もそれを意識的に利用してきた面がある。

 だからこそ、フライング気味とも言える藍のセンター抜擢は意味のあることなのだ。
 批判が巻き起こることで起爆剤となり、オタクは自分の推しに対する愛をもう一度声高に叫びそれを形にしようとする……簡単に言えばそんな構図だろうか。
 今回の藍の抜擢に対する批判は久しぶりに強いものだった。
 社長が私をメンバーに転向させる際に言っていた気がする。「同じことを繰り返しているだけではWISHは緩やかに落ちていってしまう。常に新しい話題を提供し続けなければならない」……そういうことなのだろう。





「こんばんは~、皆さんお疲れ様で~す。小田嶋麻衣です。よろしくお願いします」

 公式な発表があった日の夜、私は『LIVER ROOM』を開いた。
 最近多くなったリアルタイムの動画配信サービスである。
 動画中に何か企画をすることもあるが、画面にメンバーが登場し視聴者はリアルタイムでコメントをして、配信者はそれを読んで応えるという、どちらかというと双方向のコミュニケーションツールという感じだ。メンバーと素に近いおしゃべりが出来るような感覚が人気でWISHのメンバーも度々これを行っている。

「あ、すごい。もう1万人の人が見てくれているんですね!」

 事前に告知をしていたとはいえ、開始2分で視聴者数が1万人を超えるというのは中々のペースだ。

「今日、公式に発表があったので見てくれた人も多いと思うんですけど、次のシングル『PHANTOM CALLINNG』で私は選抜メンバーに選んでいただきました~。はい、拍手、パチパチ~」

 コメント欄には拍手の絵文字や8888(パチパチという意味らしい)の文字が一斉に並ぶ。

「……はい、で、ですね……それと共に今回のシングルの活動を持ちまして、私はWISHから卒業することになりました」

 コメント欄には一斉に卒業を悲しむコメントが溢れかえる。もちろん中には意味の分からないコメントや誹謗中傷的なコメントもあるが、無視するのがこの場ではお互いにとってのマナーだ。

「『もう歳だから社長に肩を叩かれたのかな?』って……ヒドーイ!もうこういうコメントは時代的にダメですね。あのさ、私はWISHでは最年長だしね、そりゃあ周りには若い子が揃ってますよ。でもね、一般的に見ればさ25歳なんて若い部類に入ると思いません?」

 これもオタクとは信頼関係のあるやり取りであり、そこに悪意がないことが分かっているからこうしてコメントをピックアップするのだが……知らない人間から見ればこうした微妙なニュアンスは伝わり辛いだろう。

『今日もめっちゃ可愛いよ!』『とても綺麗で憧れます!』

 私が(ポーズとして)憤慨したのを見てファンからフォローのコメントが沢山飛んで来る。

「え~、皆さんありがとうございます。ちょっとお風呂上りでして……スッピンで髪もボサボサで失礼しております」

 これに対しても可愛い、綺麗、とのコメントが飛んで来る。
 まあこうした個人のライブ配信というのはコアなファンしか見ていないものだから、基本的には全肯定されるというか、何をしてもネガティブなことは言われない。メンバー側にとってもファンからの愛を確認出来る場なのだ。
 今も私は本当に風呂上がりで自宅の部屋から配信を行っていた。
 ライブ配信が人気なのは、メンバーのかなり素に近い姿や表情、生活感までもが感じられるからだろう。

「え~と、はい……まあ少し真面目な話をしますとですね、元々私はマネージャーで、そこからメンバーとして活動することになったんですけど……最初は半年間限定の活動という話だったんですよね。……え、そうでしたよね?」

 コメント欄にはすぐさま『知らん』『そんな話は聞いたことない』とのコメントが並ぶ。

「いや、そうだったんですよ!最初は半年間限定っていう話だったの!……で、まあ色々あってこうして1年くらいですかね?ズルズルとメンバーとして活動させてもらってですね、まあちょうど良い区切りとして今回のシングルで卒業……という形を取らせてもらいました」

 少し話を区切り、またコメント欄に目を通す。
 
「え~と『メンバーとしての活動が嫌になったの?』……ってそんなことは全然ないです!でも逆に言うと、マネージャーとして近くで皆の活動を見てきたから、メンバーとしての苦労は知ってるつもりだった……でも実際に自分がメンバーになると、また少し違いましたね。ただ、メンバーとしてだけでなくてマネージャー・社員としてWISHに携わってきた人間なんて他にいませんからね。誰よりも近くでWISHに関わってきて、誰よりもWISHのことを好きな自信はあります」

『やっぱり麻衣さんはWISHのことが大好きなんですね』『普通に感動した』と言ったコメントが返ってくる。
 この場の短いやり取りで、どこまで伝えられるか不安だったのだが、ある程度は私の気持ちが伝わったようで少しホッとする。

「『卒業後はどうするの?マネージャーに戻るの?』ですか。……えっと、まだ完全に確定ではないんですけど、少し海外の方に留学させてもらおうと思ってます。現場のマネージャーは私以外にも今は人が育ってきているので、そこに戻ることは多分ないかと思うんですけど、経営とかのことを含めて少し海外で勉強して来たいと思っています」

 社長に申し出た時のことを私は繰り返した。
 建前かもしれないが何度も繰り返し自分で話すうちに、それが本当に思えてくるから不思議だ。

『コスフラを辞めるわけじゃないの?』

「はい、そうですね。元々私は社員として入った身ですし、これからもWISHのために働いていきたいと思ってますよ」

『またマネージャーに戻って、握手券の回収とかやってよ!そうしたらまた麻衣ちゃんに会えるじゃん!』

「あら、私が握手会にマネージャーとして参加していた時のことを知ってらっしゃるのですね?かなり古参の方ですね~。もう何年前になりますかね?そんな時もありましたね~」

 これに対しては驚きのコメントが多かった。
『マジで?麻衣さん握手券の回収なんてしてたの?』『実質もう一人と握手できるようなもんじゃん?』

「いやいや、今はこうしてプロの人の手で作り上げてもらってアイドルとしてやらせてもらってますけどね……私オーラないですから。普通に社会人として仕事出来ますよ」



 その後も視聴者とのやり取りは続き、合計で約1時間ライブ配信は続いた。
 視聴者数は最終的には3万人を超え、本当に多くの人に小田嶋麻衣は愛されてきたのだな……と改めて思った。
 もちろん、何もかもをさらけ出して話せるわけではなかったが、自分の口できちんとファンの人に卒業を伝えられたことは良かったと思う。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...