転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

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卒業

78話 最後のプロモーション活動

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「これから『PHANTOM CALLINNG』の鑑賞会をメンバー何人かでします。MVの解禁は今日の21時です。皆さんもぜひチェックして下さいね!!」

 MV解禁日の当日、私がブログに上げた文章である。
 実際のCDの発売日は2週間ほど先なのだが、先行してフルのMVが動画サイトに上げられることがWISHでも恒例になっていた。当然多くのファンがこの日を待ち望んでいる。
 鑑賞会というのもプロモーションの一環としてよく行われている方法だ。MV解禁の時間に合わせてメンバーも同時に鑑賞し、感想や撮影時の裏話などを語る様を動画サイトで放送するのだ。
 メンバーの生の声でこうした話を聞ける機会は貴重だし、リアルタイム感があってこれもファンの間では好評だった。メンバーたちは事前にMVを確認する機会もあるのだが、この解禁の時間をファンと共有したいということで、それまでは完成したMVは観ない……というメンバーもいる。



 予定通り20時から配信が開始された。

「はい、ということでですね、『PHANTOM CALLINNG』のMV鑑賞会を始めたいと思います~、はい拍手~!」

 司会はキャプテンの高島彩里だ。
 配信番組はテレビとは違ったゆるい雰囲気の中で行われる。メンバーだけの出演のためグダグダと内容の薄い時間になる場合も時としてあるが、ファンの方でもそのゆるい雰囲気を求めているのだから何の問題もない。
 今回は主要メンバー7人ほどが集まってわちゃわちゃと話す会ということで、私、藍、それに舞奈もこの場に参加していた。

「えっとまずは小平藍ちゃん、初選抜で初センターということだったけど……どうだった?」

「あの……そうですね、本当に驚きました。最初話が来たときは5期生でやる曲がもらえて、そのセンターに私が立つという意味だと思ったんですよ。……でも、そうしたらいきなりシングル曲のセンターだなんて言われて……未だにちょっと信じられない気持ちですね」

 最初の話題はやはり藍についてだった。
 センター抜擢の経緯、その時の気持ち……また周りのメンバーたちはどう感じたかなど、これだけでも話題は尽きない様子だった。
 当然ファンの人からも多くコメントが寄せられた。驚いた……ということがほとんどのコメントで最初に述べられていたが、多くは好意的なものだった。中には5期生ライブの際から注目していたという人も多かった。もちろん純粋に藍に注目していたという人もいただろうが、世代交代をなんとなく応援しなければならない……という気持ちの人もいたかもしれない。
 センターに抜擢された藍の本当の評価はこれからということになるだろう。



「そして……この曲で麻衣さんがついに卒業ということですね……私も寂しいですよ、ええ、ホントに」

 どこまで本気か分からないおどけた彩里の言葉で、話題は私の卒業について移った。
 私はそれについて今の自分の正直な気持ちを語った。
 もちろん事情をすべて明かすことは出来ないが(正直に語ったところで誰が転生してきたなどという3流ラノベのような話を誰が信じるだろうか!)、今後は違う場所からWISHのために働いてゆきたい、この曲で選抜として最後に皆と活動出来てとても嬉しい、ファンの人には感謝しかない……といった話をした。どれも今の正直な気持ちだった。
 そして藍をオーディションの時に見つけ、是非とも加入するように促したのが私だったことも明かした。藍のすぐ後ろでその成長を見守って来れたことに達成感を感じている……ということも語った。

 その他も新たに選抜に入ったメンバーのことや、今後のWISHについて、この曲の独特さ……話題が尽きることはなさそうだった。
 配信に参加しているメンバーたちは皆、思い思いに自分の気持ちを語っていた。皆配信であることも忘れリラックスして普段に近い言葉を語っていたと思う。
 ただ舞奈の口数がいつもより少し少なかったように思う。前作のセンターから落ちたことを気にしているのか……とも少し思ったが、今さらそれを気にするほど彼女も子供ではないだろう。藍を見つめる眼差しは穏やかだったから、彼女を引き立てるために舞奈はあえて少し引いたのだと思う。



 そしていよいよ定刻を迎えMVが解禁された。
 撮ったその場での映像は私と藍も確認させてもらったが、編集され完成したMVを観るのは初めてだった。
 ……スゴイ!映像の迫力に圧倒された!というのが正直な感想だった。
 断片でしかなかった映像が細かく編集され、一つ一つの表情にストーリーがもたらされる様はまさにプロの仕事だった。

「センターの藍ちゃんスゴイ!」
「初センターでこれはたしかにすごいと思う。5期生ライブの時から輝いていたけど」
「でも曲攻め過ぎじゃない?いくら何でもWISHでやる曲じゃないのでは?」
「カッコいいと思う。WISHはこんなことも出来るんだっていう新境地だと思う」

 案の定と言うべきかコメント欄には様々な意見が飛び交った。
 もちろん数としてみれば純粋な応援のコメントの方が圧倒的に多いが、生配信を見ているというのは割とコアなファンたちだ。彼らの間でさえ戸惑いの声が聞こえてきたというのは、世間の人の厳しい反応を予想させた。
 そしてそれはある意味で社長や滝本先生の予想の範疇内でもあるのだろう。

 

 次の日から本格的にプロモーションの期間が始まった。
 歌番組、バラエティ番組、ラジオ、雑誌の取材、多数のネット媒体……卒業が発表されているからか、あるいは良いポジションを与えられているからなのか、私は藍と共に様々な媒体に出演させてもらった。
 抜擢された藍に注目されることが多かったのはもちろんだが、今までとは大きく異なった音楽性も話題になることが多かった。私の卒業に注目してくれたメディアもちょくちょくあった。

 しかしやはり一番話題になったのは生のパフォーマンスを行った音楽番組だろう。
 曲が異色でもそのパフォーマンスが代わり映えしないものだったら意味がない。いや、意味がないどころかマイナスイメージだろう。その曲をやるのにWISHは何ら相応しくなかったということになってしまうからだ。
 だがパフォーマンスの内容は自分たちで言うのも何だが……とても純度の高いものになっていった。曲の持つ悲しみや狂騒といった、とても今までのWISHにはなかった部分を私たち自身が楽しんで踊っていくようになった。
 特にセンターの藍のパフォーマンスは出色だった。小田嶋麻衣としての記憶を取り戻してからは失ったと思われていた色が、かつての藍が憑依したかのような表情を何度も見せた。

(……この子は、何者なんだろうか?)

 すぐ後ろで踊りながら私は藍について何度もそう思った。
 心が見透かせるほど理解したと思っていた彼女が、また分からなくなってゆくようだった。一度身に付いたかつての彼女のパフォーマンスを身体が覚えていたのかもしれない。
 センターに立つ藍がそんなパフォーマンスを見せれば、周りのメンバーもそれに負けるわけにはいかない。ましてや新人の藍に負けることを良しと出来るほど、他のメンバーもお人好しではない。相乗的にパフォーマンスの熱量は上がっていった。
 曲が始まった瞬間に誰もが自然とスイッチを入れられるようになっていったのだった。



 MVの公開から2週間が経ち、いよいよ『PHANTOM CALLINNG』の本チャンの発売日となった。

(……お願い!売れて欲しい!)

 マネージャー時代も含めて、こんなに直接的に売り上げが落ちることを心配したことはなかった。
 MV公開から方々で話題には上ったが、それは否定的意見も強かったからだ。
 アイドルに詳しくない層からの批判も聞かれたが、一番大きなものは元からのファンによる批判だ。かなりキツイ言い方の批判もあったし、「もうついていけない。WISHのオタクは卒業します」というような直接的な声もあちこちで聞かれた。

 そして発売日の3日後。
 またしても事務所にメンバー数人が集められた。ただし今回は選抜メンバー全員というわけではない。私、藍、舞奈、それにキャプテンの彩里の4人だけだった。
 
「みんな、忙しいのに悪いわね!」

 4人で会議室で待っていると、社長が例の如く早足で入って来た。

(……何か、あんまり良くない報せなのかな?)

 声はいつもの如く朗らかだったが、社長の表情はどこか浮かないというか少し不機嫌なようにも思えた。
 敏感にそうした空気を察したのだろう。私たち4人の表情にも緊張感が走る。


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