在庫、あります!~魔本師サリーの蔵書充実計画~

奈倉 蔡

文字の大きさ
2 / 27

二話

しおりを挟む
「またお越しくださ~い」

 先ほどのお客さんは卓上釣り鐘が鳴り終わると、魔力が供給されたゴーレムのように急に動き出していってしまった。



 カランコロンと退店を知らせる音はすぐ、魔本たちに吸収される。



 店内は静寂に包まれた。



「やっぱ店主には見えないかぁ」

 静かになれば先ほどのことを思いだす。



 つい、カウンター上の魔本を撫でてしまった。今日は二回目。



 落ち込んだり、何か考え事をするときに魔本を撫でてしまうのは私の癖だ。よく師匠に「売り物を撫でまわすんじゃない!」って怒られたっけ。



 ふと、私は撫でていた魔本に何か挟まっていることに気が付いた。



「スリップ」



 もうこれ使ってないのにな。



 三年位前、師匠が使うのをやめたのだ。「お前も店の在庫くらい、頭で覚えとけ」とか言っていた。理不尽な、と当時は思ったが今はもうほとんどの在庫を覚えている。



「はぁ……」

 一回昔のことを思い出してしまうと、どんどん余計なことが頭に浮かんできた。



 師匠は今どこにいるのだろう、とか。

 そもそも生きてる? とか。

 本当に私にお店を任せて不安じゃない? とか。



 師匠は私が15で成人を迎えるとすぐ、旅にいってしまった。もう老いぼれの時代ではない、これからはお前のような若い世代が主役だと。



 正直、まだ師匠にはいってほしくなかった。自分の未熟さは理解していたし、もっと教わりたいことがたくさんあったのだ。



 思考がぐるぐる頭を回り、三回目の魔本撫でをしようと魔本に手を伸ばした。



「……いけない!」

 パチンと、両手で頬を叩く。程よい痛みが少しだけ気分をシャキッとさせてくれた。



 この魔本、片付けなきゃ。



「どこにあったものかな~」

 この店は魔本を級と種類で分けている。

 魔本を開いてパラパラめくる。真ん中ぐらいまでめくったところで一節、「気が落ち着くかもしれない魔法」



 知らない魔法だ。

 

 やっぱり私はまだまだだ。



 そんな私を置いていくなんて、師匠は……。



 再び思考がよくない方向にいってしまう。もう一度頬を叩いてリセット。魔本を片付けようと手に持った。



 そこで思いつく。「せっかくなら一回この魔法を使ってみよう」と。



 思い立ったがなんとやら。魔本を閉じ、両手で持つ。そしてゆっくり魔力を流し込んだ。



「お、おぉぉぉ~」

 魔本を中心にふわぁっと花の匂いが広がった。

 目を閉じて深く息を吸う。一本じゃない。まるで花畑にいるのだと錯覚するような匂いが鼻腔をくすぐり、突き抜けていく。



 私は時間を忘れ、しばらくその香りを堪能した。




 気が落ち着くかもしれない魔法のおかげでいい気分だ。思いがけず良い魔法を手に入れてしまった。



 これはお店に出さないでおくか……。

 そんな微妙にゲス、微ゲスな考えを巡らせる。



 あ、掃除しなきゃ。



 放り出され、悲しく転がっているはたきを手に取った。



 まずは空気の入れ替えを……。



「よし、心機一転。頑張るぞ!」

 この扉の先には新たな世界が広がっている。私のお店がさらに発展する、輝かしい未来が!



 そんな思いを胸にガチャッと扉を開け放つと、「あうっ」と弱弱しい声が聞こえた。



 ………。



「――人だ」

 人がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...