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人間と獣人
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スタシア国第一王子、カイル。
端麗な顔立ちに育ちの出た堂々とした姿勢。柔らかな癖を持つ髪はほんのりと優しい栗色で、それは不思議な魅力を帯びていた。
彼は誰がどこから見ても好青年であり、人柄の良さが顔立ちにもよく表れていた。優しく美しい王女にふさわしい、お似合いの二人なのだろう。
『貴様...』
カイルは身体を皮膚がめり込むほど強く押さえつけられながらも、王女を庇うように男の前へ立ちはだかる。
『お前、その研究が獣人を殺すためのものだと、本当に思っているのか』
『....。』
『研究の様子ならクロウも見ていただろ?』
『....あぁ見ていたとも。だからこそわかるのだ。これは我々を虐殺するために作られた文書だとな。』
『何を言って...、』
『貴様は昔から心底気に入らなかった...。』
男が小さく、そう呟く。
『見ろ。』
そう言って男は自身の右腕を見せる。
目を背けたくなるほどの赤黒い痣が、まくられた袖から姿を現す。
『今貴様が俺に体当たりをしたせいでできた傷だ。』
『な、なにを。そんな訳が...』
『虐殺計画の一族による暴行だ。貴様をこの場で処刑する。』
『なっ』
『動くな。急所がずれて苦しむことになるぞ』
『や、やめて…、』
掠れた声で、王女がクロウに訴える。
『...姫を捕らえておけ。』
『やめ、やめてください……。どうして。どうしてこんなことを…。私たち、ずっと仲良しで育ってきたじゃない、ねぇ、クロウ…!』
『黙れ。』
『ッ、』
何処までも冷たい目をした彼が、腹の底が冷えるような低い声で言葉を吐く。娘が金縛りにあったように何も言えないでいると、クロウは王の首を斬り落とした時と同じように、大きく剣を振りかざす。
王女の脳裏に先程の光景がフラッシュバックし、ぐらりとよろめいた。その時。
『あの、』
その様子を見ていた他の獣人が恐る恐る声をかけた。
『...何だろうか。』
『クロウ様……。ここにいる私たち獣人は、昔から王家の方々と共に暮らしてきた者達です。それはもちろん、クロウ様も同じことだとは思うのですが...。王家の皆様が我ら獣人の虐殺を計画していたなど、突然告げられ私たちはとても混乱しています。もちろんクロウ様のお言葉も信じます。ですがやはり、どうにも我々はそう簡単に飲み込めず..、』
まだこの事態を受け入れられず、また情もあり、王宮に使える獣人達は戸惑いの色を見せていた。
その様子にクロウは、優しく、穏やかに笑う。
その表情は人々が信じてやまない英雄のソレで、彼の言っていることはやはり真実なのかと獣人達は混乱してしまうばかりだ。
『我らが同胞の思い、しかと受け止めよう。しかし奴ら人間が我らを抹殺しようとしたことは事実。このまま野放しにしておくことはできない。よって人間共を殺しはせず、谷底のノディル山峡に隔離することする。あそこは住むには少し不便かもしれないが、自然に囲まれた美しいところだ。恐ろしい計画を企む悪魔の種族には勿体ない場所だろう。』
そう言ったクロウの予告通り、王宮で捕らえられた人間達は殺されることなく、全員が都から遠く離れた地へ送り込まれることとなった。
▼▼▼
『ミア…』
『カイル。』
『どこか辛いところは無いか。腹の子は無事か?』
『うん、大丈夫。今日も元気にお腹を蹴ってる。強い子ね、この子。』
『そうか…。こんなことになってしまったが、僕は何があっても君と腹の子を守り通すよ。って、あんまり説得力ないかな』
『ううん。ありがとう。クロウもきっと、話せば分かってくれるはず。お父様や大臣の方たちは、疫病についての研究をしていただけだって。』
『…ミア。それは奴が一番よく分かっていた筈だよ。共に研究を進めていたんだから。あいつは、クロウは、ただ謀反を起こしただけなんだよ。あんなのは辻褄合わせのこじつけだ。』
『そ、そんなこと…、』
ガタン!
王女らを移送する荷馬車が大きく音を立てて揺れる。ただのワゴンは幾度となく身体を揺らすため、乗り心地は最高に悪かった。
ミアとカイルはまた無言になって、重苦しい空気が再び二人の間に流れるのだった。
クロウ。どうして……?
端麗な顔立ちに育ちの出た堂々とした姿勢。柔らかな癖を持つ髪はほんのりと優しい栗色で、それは不思議な魅力を帯びていた。
彼は誰がどこから見ても好青年であり、人柄の良さが顔立ちにもよく表れていた。優しく美しい王女にふさわしい、お似合いの二人なのだろう。
『貴様...』
カイルは身体を皮膚がめり込むほど強く押さえつけられながらも、王女を庇うように男の前へ立ちはだかる。
『お前、その研究が獣人を殺すためのものだと、本当に思っているのか』
『....。』
『研究の様子ならクロウも見ていただろ?』
『....あぁ見ていたとも。だからこそわかるのだ。これは我々を虐殺するために作られた文書だとな。』
『何を言って...、』
『貴様は昔から心底気に入らなかった...。』
男が小さく、そう呟く。
『見ろ。』
そう言って男は自身の右腕を見せる。
目を背けたくなるほどの赤黒い痣が、まくられた袖から姿を現す。
『今貴様が俺に体当たりをしたせいでできた傷だ。』
『な、なにを。そんな訳が...』
『虐殺計画の一族による暴行だ。貴様をこの場で処刑する。』
『なっ』
『動くな。急所がずれて苦しむことになるぞ』
『や、やめて…、』
掠れた声で、王女がクロウに訴える。
『...姫を捕らえておけ。』
『やめ、やめてください……。どうして。どうしてこんなことを…。私たち、ずっと仲良しで育ってきたじゃない、ねぇ、クロウ…!』
『黙れ。』
『ッ、』
何処までも冷たい目をした彼が、腹の底が冷えるような低い声で言葉を吐く。娘が金縛りにあったように何も言えないでいると、クロウは王の首を斬り落とした時と同じように、大きく剣を振りかざす。
王女の脳裏に先程の光景がフラッシュバックし、ぐらりとよろめいた。その時。
『あの、』
その様子を見ていた他の獣人が恐る恐る声をかけた。
『...何だろうか。』
『クロウ様……。ここにいる私たち獣人は、昔から王家の方々と共に暮らしてきた者達です。それはもちろん、クロウ様も同じことだとは思うのですが...。王家の皆様が我ら獣人の虐殺を計画していたなど、突然告げられ私たちはとても混乱しています。もちろんクロウ様のお言葉も信じます。ですがやはり、どうにも我々はそう簡単に飲み込めず..、』
まだこの事態を受け入れられず、また情もあり、王宮に使える獣人達は戸惑いの色を見せていた。
その様子にクロウは、優しく、穏やかに笑う。
その表情は人々が信じてやまない英雄のソレで、彼の言っていることはやはり真実なのかと獣人達は混乱してしまうばかりだ。
『我らが同胞の思い、しかと受け止めよう。しかし奴ら人間が我らを抹殺しようとしたことは事実。このまま野放しにしておくことはできない。よって人間共を殺しはせず、谷底のノディル山峡に隔離することする。あそこは住むには少し不便かもしれないが、自然に囲まれた美しいところだ。恐ろしい計画を企む悪魔の種族には勿体ない場所だろう。』
そう言ったクロウの予告通り、王宮で捕らえられた人間達は殺されることなく、全員が都から遠く離れた地へ送り込まれることとなった。
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『ミア…』
『カイル。』
『どこか辛いところは無いか。腹の子は無事か?』
『うん、大丈夫。今日も元気にお腹を蹴ってる。強い子ね、この子。』
『そうか…。こんなことになってしまったが、僕は何があっても君と腹の子を守り通すよ。って、あんまり説得力ないかな』
『ううん。ありがとう。クロウもきっと、話せば分かってくれるはず。お父様や大臣の方たちは、疫病についての研究をしていただけだって。』
『…ミア。それは奴が一番よく分かっていた筈だよ。共に研究を進めていたんだから。あいつは、クロウは、ただ謀反を起こしただけなんだよ。あんなのは辻褄合わせのこじつけだ。』
『そ、そんなこと…、』
ガタン!
王女らを移送する荷馬車が大きく音を立てて揺れる。ただのワゴンは幾度となく身体を揺らすため、乗り心地は最高に悪かった。
ミアとカイルはまた無言になって、重苦しい空気が再び二人の間に流れるのだった。
クロウ。どうして……?
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