君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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優しい世界の作り方

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 *

 人生四回目の葬儀を蹴り出されたのは、焼香を終えた直後の事だった。
 夏を待つ空は暗い。鈍色に沈んだ雲が遠くの山に引っ掛かって、慰めるような小雨を僕に注ぐ。
 蹴り出された手前、傘は持っていない。喪服に染みた雨が、のっぺりとした黒を斑に染め上げていく。

浅海あさみ家葬儀式場。この先二〇〇m》

 矢印を真逆に歩きながら、重い足を家に向ける。
 バスには乗らなかった。安い仏花くらいなら、浮いたバス代で墓に供えてやることも出来るかもしれない。
 自分の決断とは真逆に質量を増していく足を引きずり歩いていると、女の子の声が二人分僕に近付いてくる。

「ねえ『愛結晶』って知ってる?」
「聞いたことあるー。なんだっけ?」

 怪談でも話すかのような二人の口ぶりに、僕の耳が反応する。
 チラと見た制服は僕と同じ高校のものだった。地味な紺色に縫い付けてあるから、左胸の校章だって味気ない。

「なんか、愛が結晶化する病気なんだってー」
「都市伝説っしょ?」
「それがちゃんと病名もあるらしいよ」
「あーそれ、昨日テレビで聞いたわ」

 忙しない二人の会話を聞きながら、僕は暑苦しい制服のネクタイを緩める。
 彼女たちの下らない都市伝説は愛結晶を議題にしながら、僕を追いかけてくる。

「その病気を持ってる人を好きになっちゃったら、体のどこかが結晶化して死んじゃうんだって」
「死ぬのはやだなー」
「可哀想だけど綺麗でドラマチックだよねー、悲劇的な愛!」
「死んだら無意味じゃね?」

 噛み合わせの悪い会話を重ねながら、二人の女子生徒が僕を抜き去って行った。

 無責任な言い方だ。愛結晶はそんな高尚なものじゃない。
 結晶なんて死んで灰になるまで見えもしないし、基本的に結晶化するのは子宮や心臓などの主要臓器だ。そして死ぬ瞬間には、真っ黒な血を吐き散らして苦しみもがく。
 本当に優しい人間なら、きっとすべての人間関係を避ける。けれど臆病な僕は、結晶を利用することでしか生きられなかった。

「薄情者でよかったよ。最高の気分だ」

 宛て先のない負け惜しみを零して、スマホを取り出した。
 暗いままの画面に一度だけ微笑んでみる。なかなか上手く笑えている。僕は傷付いていない。全く平気だ。

『ただいま到着の電車は十八時十五分発、普通、小夜ヶ丘さよがおか行きです。停車駅は遠光台えんみつだい山ノ鳥居やまのとりい──』

 高架上の駅のホームから、機械的なアナウンスが聞こえてくる。足は痺れたように進みが遅い。
 僕が声をかけられたのは、その直後のことだった。
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