【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

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私の光明

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 ふんわりと草花の香りを纏い風がゆれる。

 無意識にブレスレットを片手で転がしていると暖かい手に包まれる。
 視線を上げれば、真横にリリーが労わるように慈しむように微笑んでいた。
 胸の内から湧き上がる――憤怒・恐怖・不安・悲哀・失望・羞恥――全ての負の感情が堰を切るように流れ出る。
 十八歳から何のために独り立ちしたのか。
 何のためにがむしゃらに走ってきたのか。
 恋を知ったから、現を抜かした罪なのか。
 自問自答しても答えが出ない。
 暗闇に飲まれていく。

 リリーはただ何も言わず、優しく腕の中に包み込み背中を何度も何度も撫で続ける。

 ――彼女の涙が枯れるまで。

 声を殺し、貴婦人の胸の中で幼子のように肩を震わし泣く最愛を見つめる男達の目には憤激の情が色濃く浮かび上がる。
 男達は彼女に声をかけることはなく静かに部屋を後にした。

 ――――

 執務室には重い空間が支配し何人も口を開こうとはしない。

 拳を強く握りしめる者、虚空を見つめる者、身体を震わす者、それぞれがそれぞれの思いを抱え時を過ごす。

「失礼します」――と消え入りそうな声でロゼッタが入室してきた。
 男達は立ち上がりロゼッタに向き直るが誰も動くことができない。
 僅かに空気が揺れ、一人の男が力強くロゼッタに歩み寄る。
 その深淵の海の瞳に宿るのは贖罪か慈愛か。
 肩を抱き力強く抱きしめ――「ロゼは何も悪くない」と優しく促すよう囁いた。
 ピクリとロゼッタの肩が揺れるのも厭わず男は尚も腕に力を籠め「お前は悪くないんだ」と何度も何度も言う。
 その声色はロゼッタの心を代弁するかのように深い深い悲哀を響かせた。

 ストン――と“何か”が心の隙間を埋める。

 先ほどまで全てに絶望し暗闇の中を足掻いていた「どこから間違った」「何が違った」「何を望んでいた」「何の為に」「誰の為に」




 ――誰のために――

 ――望んだ――

 ――何を――

 ――私は――

 ――何のために――

 ――どうしたい――

 ――だれのために――

 ――私は――




 自分の肩が濡れている。

 強く抱きしめる自分より遥かに大きい体が僅かに震えている。

 暖かく全てを包み込むように、守るように抱く男が――愛おしい――

 自分のことのように感傷におぼれる男が――愛おしい――


 逞しい大きな背中に腕を回し優しく撫でる。

 私はここにいると、
 貴方が愛おしいと、

 何度も何度も。

 ――もう、大丈夫
 ――間違わない
 ――見失わない
 ――貴方を愛している、心から
 ――共に生きたいと願うから

 男に伝わるように撫でる。

 何度も、何度も――――

「――――ノア、ありがとう。…もう、大丈夫」

 濡れて冷たい頬に熱を分け与えるよう両手を添え、その大好きな青い瞳を見据える。

「――大丈夫、もう迷わない。ノアが、そばにいてくれるから」

 貴方がいる。貴方が見守っている。
 それだけで心底のドロドロとした滓のような感情を全てすくい上げてくれた。

「――っ、ロゼ」

「…名前を呼んで、ノア。私はそれだけで強くなれる」

「――っ、ロゼ、ロゼっ、ロゼッタ…っ」

「――っ…ノア」

 何度も何度も確かめさせて。
 何度も何度も――――

 名前を呼んでくれる貴方がいれば、私は戻ってこれる。
 前に進める。

 貴方は私の光明だから――――

「大変失礼しました。集まっていただきありがとうございます。もう、大丈夫です」

 ノアの手を強く握り、男たちに向き直る。

「さぁ、作戦会議といきましょう!」
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