【完結】堅物司書と溺愛魔術師様

3R.M

文字の大きさ
26 / 41

遺跡調査いよいよ1

しおりを挟む
 
 禍々しい岩肌に、時折見える灼熱のマグマ。
 黒と赤のコントラストが荘厳と大地の息吹のように蠢いている。
 岩肌から溢れ出た深紅のマグマが深淵の海に飲み込まれると白い煙が辺りを漂う。

「……すごい」

 その一言に尽きる。

 この地の息吹が目の前にある。
 凄まじいエネルギーが肌をじりじりと刺激し粟立つ。

「この裏手に回ればいいんだな?」
「っあ!はい、そうです!!」

 二日間の航路は順調で懸念していた賊の襲撃はなかった。
 今見えた島の光景の裏に、森が広がりそこから遺跡に向かう予定だ。

 まだ、私やノアが狙われていることは変わらない。
 ノアの実力は皆が知るところ、だから狙われるならきっと私だろう。
 義父二人も護衛にと駄々をこねていたが、丁寧に断りを入れた。

 危険なのは百も承知。

 もともと未開拓、しかも未知数の魔術が眠っている島。
 それが今更人為的に狙われようが、事故であろうが変わらないと開き直った。

 先遣隊として海軍と騎士団が上陸し偵察を行う。
 ほどなくして魔術団が防御壁を施し本陣をつくり、私たち非戦闘員の研究員隊が上陸した。
 今回は五人一組で各ポイントを開拓していて、事前準備通りに各々が作業を開始した。

 私はというと集められた資料や、新たに発見された痕跡を見たりして走り回っている。

 というのも、事前に解読していた魔術書に記載されていた場所に遺跡の入り口がなかった為だ。
 時間経過で自然に入り口が崩壊したか、何か別の理由があるのかは今のところわかっていない。
 少しでも目的地周辺を調べ、何としても術式を解読したい。

 今回の調査は二週間と限られた時間しかない。

 最後に行った鉱山発掘は実費だった為時間の指定は設けられていなかった。
 評議員という組織のしがらみがここにきて響く。
 善は急げとあちらへこちらへと移動している。
 え?なんで広大な島々をあちらへこちらへできるかって?
 それはもちろん総責任者の特権をフル活用して魔術師長の膨大な魔力で転移をしているからです!!

 島に降り立ってからの私の落胆ぶりにノアが焦り提案してくれたのだ。
 ディランもそれに合意し、各班の司書にマーキングを施して今に至る。
 当初は絶望的だったが、さすが魔術師長様だ。
 本来、転移魔法は魔力消費も激しい上、調整も最上級に難しい。
 それをいとも簡単に行うノアはやっぱり努力と才能の人だと感心し惚れ直してしまったのは本人には内緒だ。

 本当は私もブレスレットを外せばノアの負担を軽減できるのだが、二人が頑なに首を縦に振らない。
 ――効率がいいはずなのに。
 効率より安全が優先と言われれば何も言えない。
 研究者としては少しでも効率を良くし、多くを調べたいのだが、我儘を言う雰囲気ではないしここは最愛の人たちの言うことを聞くことにした。

 上陸してから新たな発見もないまま四日が経っていた。
 少し焦りを感じているが、おおよその目星が付いている。
 今を逃してしまえば、またいつここに来られるかわからない。
 闇の魔石を完全に封じることもできない。
 じりじりとマイナスの思考が自分自身を侵食していく感覚が拭い切れない。

 ――冷静に分析し研鑚する。やれることをするのよ。

「ロゼ」

 声を掛けられ我に返る。
 見上げればノアが訝しげに見下ろしていた。

「少し休憩しよう」
「え?でも、私まだ……「ダメだ、一旦休むんだ」

 向けられたことのない怒気を含んだ声色に自然と肩が跳ねる。

 肩を抱かれたのと同時に、ふわりと浮遊感が訪れる。
 転移魔法を使い降り立った場所は火山島のカルデラが望める高台にいた。

「ぅわぁぁ、すごい」

 思わず感嘆の声を上げ、先ほどのざわざわとする悪感情は消え去り壮大な景色に圧倒される。

「ああ、お前と来られて良かったと思うよ」
「え?」
「今回は仕事だけどな。暇をつくって二人で気ままに旅をするのもいいかもな」
「魔術師長が?それは非現実的じゃない?」
「じゃ、しわくちゃの爺と婆になったら旅に出よう」
「それじゃ、体力が持たなくて二人して野垂れ死ぬよ?……っふ、ふふ、あはは!」
「やっと笑ったな……」
「え?」

 寄り添い景色を見ていたが、ノアを仰ぎ見る。
 ここに来てから久しく見ない深い青い瞳に見つめられる。

「やっと笑ったと言ったんだ」

 少し眉間にしわが寄っているが、その瞳はどこか安堵の色を含んでいる。

「お前が焦っているのはわかっている。でも遺跡を見つけ出すだけが答えじゃないだろ?収穫はあった。そこからいくらでも研究ができる。お前がしたいこともできるはずだ。それに俺個人としては、こうして堂々と四六時中お前のそばにいれるのは役得でしかない」

 大きな節くれだった手のひらが頬を擦る。
 風で冷えていた頬はノアの手のひらから伝わる熱で赤みを帯びていく。

「今回結果を出せなくても胸を張れ。お前は俺の嫁だ。そして閣下と殿下の娘。セスの愛弟子。それ以外に何かタイトルがいるか?お前は、お前が思っている以上にこの国に必要な人材だし、俺たちの最愛だ。それ以外にまだ欲しいものがあるとはな……俺の嫁は強欲だな」

 くつくつと肩を震わせ揶揄うように言う。

 目の前が僅かに霞み、それを隠すかのようにノアの胸の中に飛び込んだ。
 力いっぱい抱きしめてみたが、ノアにとってはじゃれ合いのようで未だ肩を揺らして笑っていた。
「さぁ帰ろう」と伸ばされた手に手を乗せる。
 その手はどこまでも温かく、いつまでも導いてくれる光明そのものという気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

多分、うちには猫がいる

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
傭兵のコウの家には、いつの間にか猫が住み着いていた。 姿は見えないけれど、多分、猫。 皿を洗ったり、洗濯をしたり、仕事を手伝ったり、ご近所さんと仲良くなったりしているけど、多分、猫。 無頓着な傭兵の青年と、謎の猫のステルス同居物語。 ※一話一話が非常に短いです。 ※不定期更新です。 ※他サイトにも投稿しています。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~

exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。 家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。 愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。 一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。 ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。 涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。

薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。 そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。 互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。 彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!? ※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

処理中です...