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第一章
執事のアルカーナ
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私がこの邸にお仕えする事になったのは、数十年前の事。数多の種族が共存するこの世界で、魔族である私は逸れ者として生きていた。そんな私を迎え入れて下さったのが、ノエル・ピエスドール…先々代の伯爵様だ。この邸には、私以外にも逸れ者の魔族が仕えていた。例えば私の良き友である悪魔のイグニスとエルフのクゥラ…彼等2人は私より少し前に邸に拾われた者達だった
先々代が亡くなり伯爵の代替わりが終わった3年後、坊ちゃんはお生まれになられた。柔い金髪は太陽のようで、真ん丸い瞳は青空のように美しい色をしていた
「ハハッ、まん丸で、ぷにぷにしてて可愛いな!…元気に育てよ、アトレ坊ちゃん」
「…濁りのない瞳だ…どうかこのまま穢れなく育って欲しい」
イグニス、クゥラの2人は坊ちゃんにそれぞれ加護を与えていた。それが何なのかは私は知る由もないが…坊ちゃんの為となるものだろう
「アルカーナー?」
「はい、アルカーナは此方に」
「アルカーナいたー!」
有り難い事に坊ちゃんは私にとても懐いて下さった。その様子を見ていた奥様は「あらまあ」と微笑んでいたが旦那様は「俺の息子なのにっ」とハンカチを噛み締めていたのを思い出す。申し訳ないと思い嫌われようと試みた事もあったが…それはかえって逆効果だった
「なんで!アルカーナはぼくといるのヤなの!?」
「そうではございません、坊ちゃん。私よりも旦那様や奥様とのお時間を大切になさって欲しいからです」
「おとうさまも、おかあさまも、兄さまといるからぼくとあそぶお時間ないもん…!」
そう言って自身の服を掴み俯く坊ちゃんに私は思わず言葉を詰まらせてしまった。確かに、この時は旦那様も奥様も跡継ぎである坊ちゃんの兄君に付きっきりで、坊ちゃんの相手をなさる時間を取れてはいなかった。…それを私は承知していた筈なのに、この方の寂しいという傷を私は抉り広げてしまったのだ
「…坊ちゃん、大変申し訳ございませんでした。貴方の状況を把握していたというのに、私は一身上の都合で貴方を遠ざけようとしてしまった。今この邸の中で一番優先すべきなのは貴方だというのに…」
「…」
「どうか、私にもう一度チャンスをくださいませ。私に、今一度貴方の手を取る機会を」
「……いいよ…」
「ありがとうございます、坊ちゃん」
「アルカーナは…ぼくと、いっしょにいてくれる?…アルカーナは、ぼくのことおいて行かないでくれる…?」
「えぇ、勿論です。それが貴方の望みとあらば、私は貴方様のお傍に居ります。置いてなど行くものですか…同じ過ちは致しません。いついかなる時も、私は貴方のお傍に居りますよ」
「…ずっと、いっしょにいてくれる?」
「はい」
それまで涙を堪えながら仰っていた坊ちゃんは、私が頷くとその小さな体で私に抱き着いた。堪えきれない涙が嗚咽と共に吐き出され私の執事服をしっとりと濡らす。今のこの方には広すぎる部屋の中、私はただ坊ちゃんの体を抱きしめた
それからというもの、私は何時でも坊ちゃんと共に在った。最初は尊敬の眼差しを向けてくださっていた坊ちゃんの瞳に、何時からかそうでない感情が孕まれていた事を私は知っていた。そして私もまたいつしか坊ちゃんに敬愛以上の感情を向け、坊ちゃんからの感情を利用し、あの方を離れさせない様にした。キスも、キスではない事も…一から十まで全て教えられるように、私以外には恋愛感情を向けられない様に仕向けた
だが…ここ数週間前から、坊ちゃんへの違和感が拭えない。確かに坊ちゃんである筈なのに……坊ちゃんではない何者か、のように感じてしまう
「俺もそれは思ってるぜ。ミロもそれを感じたから坊ちゃんに威嚇したんだろ?」
「僕も思っている。……あの坊ちゃんは、坊ちゃんではない」
私の言葉にイグニスとクゥラは顔を見合わせ頷いた。彼等も言うのであれば、この違和感は間違ってはいないのだろう。だがもしそうなのであれば……あの坊ちゃんは一体誰で、坊ちゃんは一体何処へ消えたのだ
「…私の坊ちゃんは、何処へ行ったのです」
先々代が亡くなり伯爵の代替わりが終わった3年後、坊ちゃんはお生まれになられた。柔い金髪は太陽のようで、真ん丸い瞳は青空のように美しい色をしていた
「ハハッ、まん丸で、ぷにぷにしてて可愛いな!…元気に育てよ、アトレ坊ちゃん」
「…濁りのない瞳だ…どうかこのまま穢れなく育って欲しい」
イグニス、クゥラの2人は坊ちゃんにそれぞれ加護を与えていた。それが何なのかは私は知る由もないが…坊ちゃんの為となるものだろう
「アルカーナー?」
「はい、アルカーナは此方に」
「アルカーナいたー!」
有り難い事に坊ちゃんは私にとても懐いて下さった。その様子を見ていた奥様は「あらまあ」と微笑んでいたが旦那様は「俺の息子なのにっ」とハンカチを噛み締めていたのを思い出す。申し訳ないと思い嫌われようと試みた事もあったが…それはかえって逆効果だった
「なんで!アルカーナはぼくといるのヤなの!?」
「そうではございません、坊ちゃん。私よりも旦那様や奥様とのお時間を大切になさって欲しいからです」
「おとうさまも、おかあさまも、兄さまといるからぼくとあそぶお時間ないもん…!」
そう言って自身の服を掴み俯く坊ちゃんに私は思わず言葉を詰まらせてしまった。確かに、この時は旦那様も奥様も跡継ぎである坊ちゃんの兄君に付きっきりで、坊ちゃんの相手をなさる時間を取れてはいなかった。…それを私は承知していた筈なのに、この方の寂しいという傷を私は抉り広げてしまったのだ
「…坊ちゃん、大変申し訳ございませんでした。貴方の状況を把握していたというのに、私は一身上の都合で貴方を遠ざけようとしてしまった。今この邸の中で一番優先すべきなのは貴方だというのに…」
「…」
「どうか、私にもう一度チャンスをくださいませ。私に、今一度貴方の手を取る機会を」
「……いいよ…」
「ありがとうございます、坊ちゃん」
「アルカーナは…ぼくと、いっしょにいてくれる?…アルカーナは、ぼくのことおいて行かないでくれる…?」
「えぇ、勿論です。それが貴方の望みとあらば、私は貴方様のお傍に居ります。置いてなど行くものですか…同じ過ちは致しません。いついかなる時も、私は貴方のお傍に居りますよ」
「…ずっと、いっしょにいてくれる?」
「はい」
それまで涙を堪えながら仰っていた坊ちゃんは、私が頷くとその小さな体で私に抱き着いた。堪えきれない涙が嗚咽と共に吐き出され私の執事服をしっとりと濡らす。今のこの方には広すぎる部屋の中、私はただ坊ちゃんの体を抱きしめた
それからというもの、私は何時でも坊ちゃんと共に在った。最初は尊敬の眼差しを向けてくださっていた坊ちゃんの瞳に、何時からかそうでない感情が孕まれていた事を私は知っていた。そして私もまたいつしか坊ちゃんに敬愛以上の感情を向け、坊ちゃんからの感情を利用し、あの方を離れさせない様にした。キスも、キスではない事も…一から十まで全て教えられるように、私以外には恋愛感情を向けられない様に仕向けた
だが…ここ数週間前から、坊ちゃんへの違和感が拭えない。確かに坊ちゃんである筈なのに……坊ちゃんではない何者か、のように感じてしまう
「俺もそれは思ってるぜ。ミロもそれを感じたから坊ちゃんに威嚇したんだろ?」
「僕も思っている。……あの坊ちゃんは、坊ちゃんではない」
私の言葉にイグニスとクゥラは顔を見合わせ頷いた。彼等も言うのであれば、この違和感は間違ってはいないのだろう。だがもしそうなのであれば……あの坊ちゃんは一体誰で、坊ちゃんは一体何処へ消えたのだ
「…私の坊ちゃんは、何処へ行ったのです」
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