転生先の執事が愛しているのは「僕」であって「俺」ではない

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2話

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俺が転生した少年、アトレの執事を務めるアルカーナ…彼は誰もが認める凄腕執事。どんな無茶な要望をぶつけても、この男は必ず答えてくれる。それ以外にも体術、剣術、魔法等々何でもござれの有能執事…加えて顔もスタイルも良いときた。この男には欠点など無いのではないかと思っていた時が俺にもありました


「貴方は一体、何をなさって…!」

「…え、えぇと……」


ある昼下がり、鳥の巣から落ちた雛鳥を巣に戻してあげていた時…血相を変えてこの男が走って来たのだ。今すぐに降りて来いという叫び声に驚嘆し足を滑らせ木から落ちたが、アルカーナのにお姫様抱っこという形で受け止められ、今に至る

「…その、鳥の雛が巣から落ちて鳴いてたから、戻してあげてて」

「雛鳥が…?」

「うん…ほら」

そう言って指差した先には、巣に戻って来た我が子に餌を与える親鳥と兄弟と共に餌を食べる先程の雛鳥の姿がある。アルカーナはそれを見ると小さく息を吐き、腕の中にいる俺にコツンと額を合わせてきた。思わず短い悲鳴を零してしまうが、彼はそれに気付いていないのか、俺の身体を強く抱きしめる

「…ご無事で良かった」

「アルカーナ…」

「二度とこのような真似はなさらないでください…こんな……私の目を盗んで、危険な真似はなさらないで下さい。貴方のお身体に何かあったら、私は……」

「ごめんなさい…もうしないよ」

微かに震えた声に罪悪感が押し寄せ、謝罪の言葉が自然と口から零れていた。ボールを抱えるように頭をやんわりと抱き締めれば、アルカーナの肩がピクリと揺れる。大丈夫という意味を込めて髪を撫でてあげようとしたけれど、それよりも早く彼は俺から離れてしまった


「…本日は何かなさるご予定が?」

「とくに予定は、ないけど……あっ、でも最近魔導書見て覚えた治癒魔法の練習がしたいな」
 
「治癒魔法の練習、ですか…ふむ」


俺を地面に下ろした彼は口元に手を当て考え始めた。これは最近わかった事だけど、アルカーナは考え事をする時に口元を隠すクセがある。幾らアトレとしての記憶があるとはいえ、そこまで細かくは見ていなかったからね


「でしたら、私が練習台になりましょう」

「え?」

「先ずは切り傷程度の軽いものから治癒していくとよろしいかと」


そう言って彼は懐からナイフを取り出し躊躇う事なく自身の腕を切り付けた。そんな躊躇いなく!?とかなんでナイフがあんの!?とか言いたい事は山ほどあるが、そんな事よりもこの傷を治すことが最優先。アルカーナの腕についた数センチの傷に両手を翳し、意識を集中させる。手のひらに魔力を集めたら、その魔力を傷口に向かってゆっくり静かに放出する…この時に魔力を一気に放出してしまうと、治癒魔法は攻撃魔法へと変わってしまうらしい

「うむぅうう」

「アトレ様、焦らず、ゆっくりですよ」

「わかってるぅうううっ」

この僅かな魔力のコントロールがほんっとに難しい。例えるならば……そう、蛇口の水を途切れさせる事なくミリ単位で出す時の、あの微妙に難しい感じ。ほんの少しでも力加減を間違えたら治癒は出来ないし最悪は怪我を悪化させてしまう。それからひたすら集中し続けること数十分。漸く傷口が塞がったアルカーナの腕は綺麗な肌に元通り……対して俺は精密な魔力コントロールに疲弊しその場に倒れ込んだ

「うへぇ…できたぁ」

「大丈夫ですか?」

「だい、じょーぶ………魔導書でみた時は簡単そうだったのに……治癒魔法って、実際にやってみるとすごい難しいんだね」

「えぇ。その通りでございます。ですから、国々を渡り歩く冒険者達の中にも回復役ヒーラーというその道のプロが居るのですよ」

「そうなんだ…」

でも、言われてみれば確かに、よくやってたゲームでもそうだったな。回復系の魔法しか使わないキャラは必ず居た

「攻撃系統の魔法も属性により精密な魔力の操作が必要ですが、治癒はそれに加えて繊細さが求められます。生き物だけでなく武器や防具、建築物等もそうです。"壊す"と"なおす"とでは…どちらが手間がかかるか貴方もご存知でしょう?」

「たしかに。壊すのはすぐできるけど、なおすのは時間がかかるね」

「えぇ、何事も壊す事は簡単ですがなおす事は容易には出来ません」

「そっかぁ…」

言われるまで考えたこともなかった。分かりやすくする為に、魔法で建造物やら人物やらの幻影を作り出しながら説明するアルカーナの言葉に感嘆の息を漏らす

「じゃあ、攻撃魔法を極めるよりも治癒魔法を極めよう!」

「…それは何故か、お聞きしても?」

「だってその方がかっこいいじゃん!…悪い奴らを倒す勇者みたいなのもかっこいいけど、そういう勇者が傷ついた時に助けてやる方がかっこいいと思って。表立って目立たないけど……影の勇者みたいな感じでさ!」

「なるほど…」

「アルカーナはどう思う?」

「貴方様がそう決めたのでしたら、私から言うことはございませんよ」

ふ、と微笑を零すアルカーナにドキッと胸が高鳴った。いやいやおかしいと慌てて視線を逸らし深呼吸を繰り返す俺だったが、此方を見て微かに首を傾げるアルカーナを見た瞬間、言い難い感情が胸の奥底から湧き上がった











































✧• ───── ✾ ───── •✧


その日の晩、深い眠りの中で不思議な夢を見た





真っ白な空間に跪くアルカーナと、その先に立つ俺の姿……否、アトレの姿。これは記憶だろうか……アルカーナが幼い少年アトレの手の甲に口付けを落とし、それが終わるとアトレは彼の首に腕を回し抱きつく



『…アルカーナ。アルカーナは、僕のだよ。僕の執事だよ』

『えぇ、坊ちゃん。私は貴方の執事です』

『…何があっても、ぜったいに、ぜったいに…僕からはなれないでね。僕のそばにいて…』

『勿論…私は何時でも貴方の傍に。離れていても、貴方の元へ駆け付けます』




…何故だろう。何故こんなにも、胸が締め付けられるのだろう




この2人の主従関係が、ただの主従では無いことは分かっていた。アルカーナがアトレを見る目には、慈愛が含まれていたからだ…まぁその他にも色々とあるのだが……それはともかくこれは、この光景は…決して甘いものではない








『アルカーナは、僕のだよ…』









…この言葉は執着や束縛等ではなく…










『…僕の、なんだよ』













懇願、だ
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