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第19話 覚悟
第19話 覚悟
しおりを挟む「そんじゃ、周防。ごちそうさんでした。」
「はいよ。また待っとるからな。」
常連の客とそんなやり取りをしながら見送った周防は、ドアを閉めて一息つくと、店内を見渡してみる。
彼が経営している喫茶店、『Cafe ベイカー』。
もちろん、あのシャーロックホームズの舞台である、ベイカー街からとった。
その為、店内のイメージが周防のお気に入りのシャーロック・ホームズ、その友人のワトソンが使っていたという部屋をイメージしたものだ。
作り物の暖炉や、本棚の壁紙などレトロな雰囲気が出ている。外の階段にも、アルファベットで『ベイカーストリート』という小さな看板を付けたり、出入口の上には、『221』という標識を飾り、とにかくこだわりを貫いている。
それはそれで評判が良く、いつも昼頃になるとランチを食べに来るお客で店は混んでくる。
だが、今日は珍しくシン。と静まり返り、店内に流れるBGMだけが、心地よく流れている。
カランカラン。
と、ドアが開かれると共に鐘が鳴り出す。入ってきたのは、藍色の髪の毛をした女性。森野藍里だ。
「おう。お疲れさん。」
「…お疲れ様です。着替えてきます。」
藍里はそう言うと、事務室と更衣室に繋がる階段を無言で上がって行った。
その様子を見た周防は、目をぱちくりさせる。
(今日はなんだか元気がないな。)
普段の彼女なら、店内を見渡すなり、興奮気味に
「やっぱりいいですね!ここ!落ち着きます!」
と笑顔で言う。バイトで何回も来てるのにも関わらず…だ。
もともと、シャーロック・ホームズや推理物が大好きで、しかも自身も探偵をしている彼女だから、そう言うのも無理ないだろう。しかし、今日は違って、店内を見渡す事もせずに、着替えに向かって行った。
(なにかあっただな…。)
後で聞いてみるか。と、周防が心で決めた。
そして、その後にその判断が正しかったと分かった。
バイト中の藍里は、何度かお客様の注文を間違えたり、コーヒーを零してしまったりと、とにかくいつもよりもそそっかしい様子が伺えた。
周防は、スプーンを落としてしまい、お客様に平謝りしてる藍里の様子を見届けてから厨房の方へと向かって行った。
(最悪だ………。)
終業後、藍里はテーブルに伏して肩で大きなため息をついていた。
今日のバイトが踏んだり蹴ったりだったからである。
さすがの周防も『気をつけろ。』と軽く注意してしまうほど今日は色々とやらかしていた。
原因はわかっている。
あの時のミステリングの言葉のせいだ。
あの男は、藍里の両親のことを知っているようであった。
死んだ理由もだ。
そのことを悶々と考えていた結果、バイトの方が疎かになり、ミスが目立ったのだ。
コトン。
その時、テーブルになにか置かれた音に顔を上げる。
そこには、3分間のオレンジ色の砂時計とミルクティー。
そして、クロワッサンのピザトーストが置かれていた。
立ち上る湯気と、上にかかってあるベーコンが『ジュー』っという音をしているところから、出来たてであることが簡単にわかった。
どちらもこの店のメニューであり、藍里の好きな物である。
「お疲れさん。いいから食べな。」
向かい側に周防が座ると、持ってきたコーヒーを1口啜った。
「どうも、来た時から元気がないなーとは思っていたんだ。色々と考え事しとるな。だから今日ミスが多かったんだろう。」
「………ご最も…。」
周防の前では、何もかもお見通しらしい。
と、藍里は改めて感じた。
「それはいいから、食べながら話してごらん。」
周防の言葉通り、藍里は「いただきます。」と言って手を合わせると、クロワッサンのピザトーストにフォークを刺す。
『サクッ』という音を出したクロワッサンをすくい上げると、チーズで隠れていた卵がひょっこりと姿を現し、その上にかかっているチーズが『とろーん。』と溶けている。
「おいし…。」
口の中をはふはふ!とさせながら、藍里はポロリと呟いた。
そして、3分たったミルクティーを、空っぽのティーカップに注ぐと、そちらも1口すする。ミルクティーが体の中に入り、じんわりと心身を温めてくれた。
そこで少し落ち着いた藍里は大きく深呼吸をして
「実は……。」
と、話し始めた。
ミステリングの言葉。
秘密が隠されているという村のパンフレットを貰ったこと。
そこまで聞いた周防は『なるほどな。』と呟きながら椅子の背もたれにもたれかかった。
「行くべきなのかもしれませんが、なかなか踏ん切りがつかなくて……。」
「…なんで踏ん切りがつかんか知ってるか?」
突然、問われた周防の言葉に、藍里は首を傾げながら周防の言葉に対しての言葉を探した。
「えっと……距離とお金の問題……ですか?」
「まぁ。それもあるかもしれんが、君の場合はそれだけじゃないだろう。
それは、『今いる安全地帯から離れようとしてるから』だ。」
周防の言葉に、藍里はハッと目を見開く。
「君は今まで、両親はずっと事故死だと思って生きてきた。だけど、今回の事で、事故死ではないという可能性が出てきたんだろう?
本当のことを知る。
それが、1番怖いんじゃないのかい?」
周防の言葉に藍里は大きく頷いた。
言う通りなのである。
ここで真実を知ったら、藍里は両親を軽蔑するかもしれない…。
大事な人を失うかもしれない…。
自分が傷つくかもしれない…。
そうなるのが怖いのだ。
何も言えなくなった藍里に、周防はコーヒーをすすると
「覚悟が決まったならいつでもいいなさい。その日に合わせて休みにするから。」
と、背中を押してくれた…。
ポカンと口を開けていた藍里は
「……賛成……してくれるんですか?」
と、ぽつりと尋ねた。その言葉に、周防が『なにが?』
とでも言いたそうな顔でこちらを見てきた。
「……大学の友人達が……知らない方がいい。って言って反対されてたので………だから、知らない方がいいって……周防さん言うかな?って思ってたので……。」
「あー……君は意外と他人に流される傾向あるからね……。僕は基本止めないよ。やりたきゃやるでいいんだ。それは森野くん自身が決めることだ。」
周防の言葉の後、
ゴロゴロゴロ……。
と、いう音がハッキリと聞こえてきた。
周防と藍里がハッと顔を上げて外を見る。
いつの間にか空は真っ黒に覆われ、遠くの方がピカッ!と光ったかと思うと再び『ゴロゴロゴロ…』という音が聞こえてきた。
「雷…!?」
「これは、一雨くるな……。森野くん。君、ここから近いと言っても結構歩くでしょ。今日はもういいから、早めに帰りなさい。あ。ピザトーストも持って帰って。皿はバイト来た時に返せばいいから。」
周防の言葉に、素直に甘えた藍里は
「はい!ありがとうございます!」
と告げて、ミルクティーを一気飲みするとタタタタッ!と階段をかけ上がって行った。
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