森野探偵事務所物語~1~

巳狐斗

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第19話 覚悟

第19話 覚悟

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教会に数台のパトカーが止まる。

警察官達によって降ろされた遺体が、藍里達の前にゆっくりと横たわり、姿を見せる。


「女性…?」


そこで初めて性別がわかり、藍里は思わず呟いた。その直後………牧師の後ろにいた一人の男性が悲鳴をあげ、その遺体にすがりつく。




「あああ……!紗弥!紗弥ぁぁぁぁぁ…!」



「さや…?知り合いか?」



「知り合いも何も!!この人は僕の婚約者だ!!!」


クワっ!と噛み付くような勢いで振り返った男は唇を強く噛むと、再びその遺体に泣きついた。

これでは話にならなさそうだ…。

そう思って笠村が肩を下ろすと、その様子を見ていた牧師が近づいてきた。

「私が補足致しましょう。彼女の名前は、

『新野  紗弥(にいの   さや)』さん。

あの男性………『藤沢   俊輔(ふじさわ   しゅんすけ)』さんの婚約者で、今年の春に式を挙げる予定でした。
私は、この教会で牧師を勤めております、『前田  春臣(まえだ  はるおみ)』といいます。」


前田と名乗った男は、深々と頭を下げて自己紹介をした。



「新野………紗弥…って、どこかで聞いたことあるような…。」

顎に手をやって唸る笠村に、近くにいた女性が付け足す。


「この地域では有名ですが…地元アイドルです。…たまに、イベントとかにも来てて…あだ名は『さややん』で………。」


「ああ!思い出した!地元アイドルグループのか!!」


思い出した笠村が声を上げる。そして、遺体に目をやると、既に藍里が遺体を調べていた。






(十字架で刺されたところ以外の外傷は………後頭部…何かで殴られてる…。……それに、右腕がパンパンに腫れてる……骨折してるのかな?)


藍里が隈無く遺体を調べている最中、


「そこのあなた!ここからは警察の仕事です。お引取りを!」



という声が聞こえてきた。



「あ。すみません。少し、気になって……。」


言いかけて、振り返った藍里は、直後その人物と一緒に


「あ…!」



と声を漏らした。

茶色のスーツにポッチャリ体型……。




「藍里ちゃん!?」


「稲垣さん!」


「こんな所で……何してるんだい?」

「あぁ。稲垣さん。話すと長くなるんで、ここで…。」


そう言って近づいた笠村と藍里を交互に見る。
その様子で何かを感じたのか、稲垣はニヤニヤしながら笠村を見る。


「へぇ?なるほどねぇ?笠村…。」


「稲垣さん。考えてること、絶対違います。てか、被害者の情報いっすか?」


話を切り替える笠村。稲垣は『はいはい。』と言いながらも口元はまだニヤニヤしていた。




一方の藍里は、理解が未だにできていなくて首を傾げるだけであった。








【事件ファイル】

被害者……新野 紗弥

地元のアイドルグループ『JanJan』に所属。
人気はそこそこあり、センターを取れるほどであった。

外傷は十字架で刺さった腹の刺傷の他に、後頭部に殴られた後、異様に腫れている右手が見られた。



「近くにビルがある。その屋上から飛び降りた……或いは突き飛ばされた可能性が高いな…。」


地図を確認した稲垣が唸った直後だ。

「警部!」

と、1人の捜査官が慌ただしくやってきたかと思うとポリ袋に入った色紙を持ってきた。



「被害者のカバンの中から、本人による遺書が…!」



「遺書?」



稲垣がそれを受け取った物を、藍里も覗き込むように確認する。






遺書


私は罪深い女です。
私の魅力は偽物の塊です。

人を陥れて    のし上がり
更には、人の男を寝取りました。

そんな人間が生きていてはいけません。
先立つ事をお許しください。

俊輔、渚と幸せになって。




新野   紗弥




「渚……?」


「渚……紗弥と同じアイドルグループのメンバーで、僕の元恋人だ…!」


「元とはどういうことですか?」


藍里が尋ねると、俊輔は一つ一つ吐き出すように答える。



「な、渚との生活に嫌気が差して…………そ、それで同じアイドルグループでこっそり紗弥に一目惚れして…………渚と別れたんだ………。」



「ほぉ。それで?」

笠村が、腕を組みながら聞く。

「渚は直ぐには別れてくれなかった………。しつこく付きまとって……ストーカー化して………。紗弥と付き合ってから、無くなったと思ったのに…!」


地面をダン!!と、叩きつけると悔しそうに目を固く瞑り、奥歯を噛み締めた。



「渚…………そいつが関わってると考えてもいいな。」


「お願いします!!何とか……なんとか渚を自白させて逮捕してください!」



「落ち着いてください。まだ、その方が犯人と決まった訳ではありません。ひとまず、明日事情聴取を……。」



「明日!?待っていられない!!!今すぐにでも!!」

「まぁまぁ、藤澤さん。警察のおっしゃる通り、今日はもう遅いし、日を改めていただきましょう。それよりも今、優先すべき事は、紗弥さんを葬ることだと思いませんか?」



牧師さんの優しい言葉に悟られた俊輔は、魂が抜けたように立ち上がるとフラリフラリと紗弥の側までより、彼女を抱えて歩き出す。




(……この遺書………手書きで書かれている………。本人のものと発覚したら、自殺も考えた方がいいのかもしれない……。…だけど、なんだろ?なんかこの遺書……違和感がある………。)




何か?と聞かれてもパッとしないが、何となく、藍里の中でその遺書に違和感を感じた……。

本当に、本人が書いたのだろうか?
それとも、ただの自分の思い込みなのだろうか?




藍里は手元の遺書を見ながら、ぼんやりと考え込んでいた。





    
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