森野探偵事務所物語 ~2~

巳狐斗

文字の大きさ
上 下
7 / 19
第1話 ホストクラブ

第1話 ホストクラブ

しおりを挟む
「ライト。誕生日おめでとう。ごめんなさいね。予定よりも来るのが遅くなってしまったわ。」



「玲子さん。お会いできて光栄です。」


ライトが玲子に頭を下げる。


玲子は、スタスタと中に入ると、ピタリと足を止めた。視線の先には、内勤の格好をした藍里。


「あら?見かけない子ね?」


「あ…バイトで働かせていただいてます。森野……。」

藍里と続けようとしたところを、ライトが間に入った。


「森ノ宮  優作です。今日からなんです。」


「あら。そうなの。なら、しっかりと頼むわね。」

玲子の言葉に、藍里は頷く。玲子は、にこりと微笑むと、

「ならば早速だけど、お酒のオーダーをするわね?ライトを、このホスト界1にするのよ…。」

「ホスト界1……ですか。いったい?」

そう言いながら、ライトと玲子はソファに座ると、玲子は勝ち誇ったような顔をライトに向けて

「ペルフェクションを……もらうかしらね?」

「ぺ、ペルフェクション!?」


玲子の言葉に、ライトの声が裏返り、クラブ内もざわつき始めた。




「聞いたかよ!」
「うっそ。ペルフェクションなんて私無理。」
「さすがライトさん…。」





口々にそう言ってるのが聞こえるが、高級なお酒に無縁な藍里は、近くにいた内勤に
 
「すごいんですか?その……フェルダクション?っていうお酒……。」


と尋ねた。内勤の男は口をあんぐりと開いたまま藍里の方を見た。


「ペルフェクションね。ハーディーペルフェクション。究極のウルトラボトルだよ。値段は2000万円。」



「にっ…!!」



とんでもない額に藍里は持っていたお盆を思わず落としてしまった。
上になにも乗っていなかったのが幸いである。


「フルーツ盛り合わせもお願いしまーす!」

驚愕している中、ライトのそんな声が聞こえてきた。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

噂のペルフェクションの盛り上がりのせいか、藍里が持ってきたフルーツの盛り合わせがものすごく影が薄いものになっていた。


「フルーツ盛り合わせでございます。」


藍里が持ってきたフルーツ盛り合わせをみた玲子は、目を白黒させた。


「あら?チョコレートは?」

「へ?チョコ?」

「私ね、ここのフルーツ盛り合わせは、いつも追加でチョコソースをお願いしてるの。」


それを聞いた藍里はハッとして、伝票を確認する。




確かに、自らの字で『チョコソース付き』と書かれていた。





「大変失礼致しました!すぐにお持ちします!」





頭を下げた藍里。その直後に、別の内勤が慌ててやってきた。




「玲子様申し訳ございません!こちら、チョコソースでございます!」



と、静かにそれを置いた。




「玲子さん。申し訳ございません。」



「いいのよ。今日初めてなんだからしょうがないわ。次からは、気をつけてね?」





玲子の言葉に藍里は頭を下げる。



「ほーら!そんな顔しないの!これ食べて元気だしな!」


と、玲子はフォークでいちごを突き刺すと、チョコレートソースに絡め、藍里の口の中に運んだ。





「むぐ……すみません……。」




口の中で苺とチョコレートの味がいっぱいにひろがる。





藍里が、その席から少し離れたところからライト達の席を見ると、ライト達はお酒を嗜みながら、談笑をしたり、時々フルーツも口にしていた。




「大丈夫?」



「ん?」



不意に声をかけられ、振り返るとそこに居たのは麻田のヘルプに入っていたタツルだった。


タツルは、手に持っていた水を藍里に差し出すと


「これ飲んで落ち着きなよ。」


と言ってきた。



「あ。ありがとうございます。いただきます…。」



藍里はそれを両手で受け取ると、コクリと一口飲み込む。
ずっと動きっぱなしだったせいか、体にものすごく浸透していくのがわかった。



「それ、1000円ね。」


「ぶっ!!!!」


「嘘だよ。からかってみただけ。」



タツルの冗談に、吹き込んだ様子の藍里を見て、クスクスと笑っていた。




「それにしても、チョコレートめちゃくちゃつけますね。玲子さん。チョコ……足りるといいんだけど。」



玲子はフルーツをフォークに突き刺す度にチョコレートをこれでもかというほど付けていた。


「ね。けど、あんたが食べた時はびっくりした。」

「ん?」


「い、いや………だって、玲子さんは誰かにフルーツにチョコをつけてあげるなんてこと、絶対にしなかったからさ。あの人だけなんだ。チョコつけて食べる人。他のホストやヘルプは絶対に食べないよ。」


「あぁ。それで………。」






どうやら、タツルも少しは玲子のことを知っているようだ。少しでも、情報が得られるならと希望を持ち、藍里はタツルに口を開く。





「あの………玲子さんなんですが…………。」













「玲子さん!!!!!?????」








突如、グラスが砕け散る音と、ライトの叫び声に藍里はばっ!と振り返る。
見ると、数人のホストに囲まれていた玲子は、呻きながら喉を抑えていた。




そして、テーブルに突っ伏すかのように、大きく前のめりに倒れ込んだ。






「きゃぁぁぁあああぁああ!!!!!」




1人の女性客の悲鳴を合図であるかのように、パラダイス内は大混乱に陥った。





「全員そこから動かないで!!!」





藍里が、叫びながらその場に駆け寄り、玲子の首筋に手を当てる。







「そんな……!いつから…!?」





玲子がどうなってしまったのか………。藍里の漏らしたその言葉で十分であった。





しおりを挟む

処理中です...