森野探偵事務所物語 ~2~

巳狐斗

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第1話 ホストクラブ

第1話 ホストクラブ

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映像に映っていたの器の底の模様は『青色』だった。

だけど、タツヤが警察から受けとったという…………証拠品の器は朱色。




映像を色んな角度から確認したかったが、どの映像も、もの陰に隠れていたり、タツル自身で見えなかったりと、タツルが器をすり替えた様子が見つからなかったが、器の底の色が変わったところを見ると、すり替えた可能性が高い。


だがしかしだ。仮にそうなると犯行動機は?何故、玲子さんだけを狙ったのか。そもそも、どうやって玲子さんだけに毒を食べさせることが出来たのか…?



いや、もしも、あの後に急いで洗ったとしたら、排水溝に毒が残っている可能性がある。




藍里は、すぐに笠村達に電話をして事情を話すと、すぐに調べてくれるということだった。









翌日。


昨日の夜のビデオの一件から、藍里はそればかり考えていて、昨日講義を忘れてしまっていたことは、その教授に言われてから気づいたのだった。







「………こういうのね、本当はかなりペナルティつくけど、森野くんは成績いいし、特別だよ?全く………講義を忘れちゃうなんてね……。」



自分の講義を忘れ去られた教授は、溜息をつきながらテーブルの上にサラサラとなにか書いていた。
藍里はそれに対して『す、すみません…。』と呟いた。


教授は、ブツブツ言いながらさらに何か書き出し、藍里に書類を差し出す。すると、ヒラリと一枚の紙が藍里の足元に落ちた。

煌びやかな文字には、『麻田  麗奈』と記されていた。



「あれ?この人……。」


「ん?あぁ。言っておくが、この人は先日亡くなられた麻田玲子の娘さんじゃないよ?本人も、同姓同名で困ってるって言っていたし。」


「言っていた……?あの、その方もしかして、『アイランド』というキャバクラ?みたいな店で働いてます? 」



その藍里の質問に、教授は目を見開く。


「どうして知っている…?……あ。そうか。玲子さんの噂………聞いてのことか。ほら、娘さんを夜の店にって……。」



「あぁ。まぁ………そんなところです。」



教授の言葉に詰まりながらも答えると、教授は

「確かにその噂があるにはあるが、この子には無関係な事だ。そもそも、この子の家柄は元はそう大したことは無い。ごく一般の家庭で育ってるよ。」


それに………。

と付け加えた教授は、藍里の方を見て

「玲子さんは、約束を守る気はなかったらしい。」

とだけ答えた。『え…?』と声を漏らした藍里は目を丸くした。

「それは、体を売ったからだ。話をして稼がずに体だけで金を得るなんて援助交際と同じだ。よって、そのナンバーワンは認められない。と言われたそうだ。」

「そのナンバーワンはって……その方、ナンバーワンになったんですか!?」

「うん。今は分からないけどね。続けてはいるという話は聞いたよ。」

「そう……ですか。」


藍里は机の上にある名刺をジッと見たあと、なにか思いついたかのように口を開く。

「あの、すみませんが、その名刺少しお借りしてもいいですか?」

「ん?いいけど、どうするんだ…?」

そこまで言いかけた教授はハッと何かを思い出したかのような顔をすると、

「言っておくぞ?君みたいな学生諸君がやってもいい職業じゃない。というか、在学中の身でありながらそんなことは許さないからね?」

「いや、違いますって!その、えっと……。」

藍里が必死に理由を考えていたその時だ。
教授室の部屋がノックされたかと思うと、現れたのは香苗だった。

「あれ?香苗…?」

「やっほ!藍里!先生ー!レポートの再提出でっす!」

香苗は軽々しい言葉と共に、教授に数枚の紙を渡すと、さらに続けた。

「ていうか、さっき聞いちゃったんだけど、先生!うちらその人に用があるの!」

香苗の思わぬ言葉に藍里も、教授も目をぱちくりさせた。

「彼女に……?」

「実は……その人うちらの友達かもしれなくって、ちょっと話がしたいんですよ!ね!藍里!」

香苗が、藍里に向かってウインクをすると、その意図を理解したのか、藍里は教授に何度も頷いた。



怪訝そうな顔をした教授は

「まぁいいが、そういった店に手をあまり出さないようにな。」

と言って藍里に名刺を渡した。

「ありがとうございます!すぐお返しします!」


そう言った藍里は香苗とともに部屋を出て、扉を閉めてから藍里は香苗に手を合わせた。

「香苗ありがとう~……言い訳なかなか思いつかなかったから助かった……。」


「いいのいいの!いっつもレポート助けて貰ってるし!こんくらいしか、私は出来ないけどね!」


「いやいや!ものすごく助かったよ!今度なんか奢るね!」

「んふふ♪じゃあ楽しみにしてるね!」


含みのある笑みを浮かべた香苗に、藍里は手を振って大学を出た。




電話をかけると、麻田麗奈と名乗るホステスは以外にも快く受け入れてくれて、隣町の有名な喫茶店で待っているということだった。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「えぇ。確かにあの時私はライトのお祝いにでてたわ。ま。ライトは私のところになかなか来れなかったけどね。」


麗奈は、ピンク色に輝くネイルを口元に当てて答えた。




「あの時、確かヘルプの方がいましたよね?」


「え?どうして知ってるの?」




藍里の言葉に麗奈は怪訝そうな顔をしたがすぐになにか思い出したかのように声を上げると



「そういえば、あなたいたわね。内勤として。」

「え、ええ。まぁ。」


言葉を濁した藍里に彼女は気にせずにさらに続けた。


「ヘルプに入ったのはタツルなんだけどね?何だか女性の心をよく知ってるような子だったわ。」


「聞き上手……ということですか?」


「それももちろんあるわよ。…けど、仕草とか持ち物もそうだったわね。」


「持ち物?」

「実はあの時、私アレが来たのよ。」

「アレ……ああ…。」


『アレ』という言葉に藍里は思わず納得した。
アレ  とは、女性が月に一度来る アレ のことだ。



「けど、先月とはかけはなれた時に来てたから、私もうびっくりしちゃって、こっそりそのタツルって人に『女性従業員がいる?』と聞いたのよ。


そうしたらね?タツル、席を離れたかと思ったらびっくりしちゃった……。ナプキンを持ってきたのよ。」




「え………ナプキンを…!?」





思わぬ言葉に藍里は声を上げた。それと同時に麗奈が指を立てて『しーっ!』のポーズを摂ると共に、藍里も思わず口を塞いだ。



「え……?ナプキンをもってきたのですか?」


「そう。私、女性従業員しか分からないだろうから、読んでって言ったのに、タツルはナプキンを……しかも、ちゃんと袋にくるんで渡してきたのよ。」


「なんか、女子力が半端ない……。むしろなんで持ってるんだ…?」


「私もその時は考えなかったわ。なんせ、血がすごかったし、体調的にそれどころじゃなかったからね。」


たしかに。と、藍里は頷いた。






その時だ。
藍里のスマホから着信音が流れた。
一言ことわって、電話の相手を確認すると、そこには『笠村』という名前が浮き出ていた。





「笠村さん。森野です。」


『おう。さっき鑑識から、排水溝、そしてチョコレートソースが入っていたという器をもう一度調べて見た結果が出た。器に至っては何種類かあったから全部調べたんだが、一つだけ………青色の器だけに、毒物の反応がでた。洗ったからか、小さい反応だったけどな。さらに、排水溝にも、ほんと僅かにだが、反応があった。


これで、確定したな。』



「はい。毒は、チョコレートソースの中に入っていたことは間違いありません。………だけど、笠村さん。そうしたら、矛盾が生じてしまいます……。」


『矛盾……?なんだ?』


「あのチョコは、私も口にしていたんです。けど、私は体調不良もなければ、今もピンピンしています。」


『それは、本当か?』


「はい。ライトさん達も見ていたので間違いありません。疑わしいのなら、確かめてもらっても構いません。」


そこまで言った藍里に笠村は何も答えずに、ウーンと、唸り始めた。

『…どうなってる…そこがわかりゃ、犯人も特定できると思うが………。』




笠村の言葉に、藍里もつられて唸った。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翌日。
藍里は輝に誘われて近くの喫茶店でココアを啜っていた。


「なーんで私生きてるんだろ?」


突然の藍里が呟いた言葉に、輝がメガネの奥から目をぱちくりさせた。


「……どうしたの?突然。」


「玲子さんは、毒入りのチョコを食べた。それは間違いないんだけど、その問題のチョコ、私も食べてるからさ、どうして私だけが生き残ってるのかなと思ってさ……。」


「うーん、アレルギーとかだったら、出ると思うよ?ピーナッツとか、フルーツとか……。」

「でも、玲子さんにはそんなもの一切ないってライトさん言ってたし……あのチョコも、アーモンドとかナッツ系が入ってるような感じはしなかったよ。」


「そうか……。」


そう呟いた輝が、読んでいた本をパタンと閉じると、正面を向いた。


「事件解決しようとする気持ちはいいけど、たまには頭を冷やさないと。わかるものも分からなくなるよ。」


コーヒーを啜った輝の言葉に頷いた藍里は、釣られるかのようにココアを1口飲んだ。



「失礼します。お水注いでもよろしいですか?」


店員さんがやってきて、にこやかに氷水が入っているグラスを示す。



「ああ。お願いします。」

「私も……。」


輝の言葉に藍里も答えると、店員さんは慣れた手つきでグラスに氷水を注いだ。
2つとも注ぎ終わり、藍里が早速ひとくち飲もうとしたところで、ピタリとその手が止まった。









氷水………。









「藍里?どうかしたの?」





輝の言葉が全く聞こえていないのか、藍里はじっと氷水を見つめている。







そして、ハッと目を見開くと







「………そうか…………!だから私助かってるのか……!!!」





と、声を漏らした。




なんの事かわからない輝は、頭の中に『?』をいっぱいにさせていた。









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