アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

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18.おいしい種。

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 朝の光が眩しい。そろそろ起きないといけないけど、体がだるくて眠い。
 もう少しだけ寝ようと思い布団に潜ろうとすると、なんだか妙に心地が良い温もりがある。

 目を開けて見ると、すぐ近くにレムリアさんの顔があった。いつもの事なので、気にせずに起き上がろうとすると、いきなり抱きしめられた。
 肌に直接触れるぬくもりが不思議で、布団の中を見て見ると互いに裸だった。

「んっ……天華、さん?」
「あの、えっと……」

 ここでやっと、昨晩のことを思い出した。
 
 たしかレムリアさんが、媚薬で辛そうだったから手伝ったはず。そうしたらレムリアさんが止まらなくなって、そのままベッドに連れて行かれた。
 
 それで、行為の最中に名前を呼んだとたんに激しくなったんだけど……名前を呼ぶようにって、やっぱりどこかで聞き覚えがある気がする。
 
 ふと顔を上げると、眠そうなレムリアさんが目に入った。文句の一つでも言おうとした時、レムリアさんが、それはそれは幸せそうな笑みを浮かべた。

「天華さん、おはようございます」
「……おはよう」

 すごく幸せそうだから、結局文句なんて言えなくなってしまった。もう本当に、なんでこんなに幸せそうなんだろうと不思議に思ってしまう。

「あの、レムリアさん。ごはん、食べに行かない?」
「ごはん、ですか?……もう少しこのままで」

 そのまま腕に引き寄せられそうになるけれど、がんばって起き上がった。ふと振り向くと、どこか気だるげなレムリアさんが視界に映った。

 銀糸の髪がサラサラと肩や頬にかかり、紫水晶を縁取る長くフサフサな睫毛は少し伏せがちになり、凄まじい色気が溢れ出ている。

 はっきり言って、これは目の毒というものだ。これ以上を見ていると、なぜか従いたくなってしまうので、視線をレムリアさんから逸らした。

「でもほら、食堂ってたしか時間があるんでしょう?」
「そう、ですね。行きましょうか」

 レムリアさんを起こしてから服を着込んで、身支度を終わらせると、急いで食堂に行く。
 パンとジャムと軽い朝食をトレイに乗せて、空いている席へ移動しようとして周りを見渡すと、なんだか人が少ない気がする。

「こんなに少なかったっけ?」
「そうですね。おそらくですが、みなさん盛り上がってそのまま寝ているのでしょう」
「盛り上がってって……」

 つまりみんな、媚薬入りのお酒を飲んでそのまま楽しんだあげくに、朝寝坊しているということ。

 レムリアさんも、その朝寝坊仲間に入りかけていたから、きっと気持ちがよく解るのかもしれない。このまま立っていても仕方ないから、近くの空いている席に移動してトレイを置いた。

「レムリアさん、ここで良い?」
「ええ、そこで」

 2人で席に着くと、食事を食べ始めた。見た目は普通なのに、パンはカサカサしていてジャムは甘すぎる。
 そして塩をケチっているらしくて、味っけのないゆで卵は水で飲み込んだ。
 砂糖は保存目的で大量に使っているのは解るけど、塩をケチるってもしかして高級品なのかもしれない。

「塩って、高級品なの?」
「高級品というよりも……そうですね。自然から取れる塩と魔物から取れる塩の2種類がありますが、海や塩湖から遠い地方は、魔物から抽出した塩を使うようですよ」
「魔物から?」
「ええ。植物系の魔物に塩分を貯める習性の魔物がいるのですが、そちらから回収するそうですよ。質はよくありませんが、無いよりマシですよ」

 よく考えたら、元いた世界にも水を貯める植物がいるんだから、異世界に塩分を貯める植物系の魔物がいてもおかしくない。
 植物は塩に弱いけど、魔物だから平気だったと。それで水の代わりに塩分を溜めているのかもしれない。

 それに、ここは海から遠いし、自然の塩を調達できないから、質の悪い魔物塩を使っているんだろう。そう考えたら、ゆで卵の味が無いのも納得した。

「そっか、だからゆで卵に味がないのね。運搬費とか考えたら、魔物から抽出した方が安いし」
「このゆで卵に、塩は使っていませんよ。いくら魔物の塩で味が薄いとは言え、まったく塩気がないということは、ありえません」
「え、じゃあ塩が無かったの?」

 今まで魔物の塩の話しをしていたから、てっきり使われているかと思ってたのに。なんとなくレムリアさんの方を見ると、レムリアさんは考えるように少し首を傾げた。

「そうですね。魔物から取れる塩は、味が薄いので使わなくても大して変わらないと思ったのでしょう」
「てっきり極薄の味で、塩気がわからなかったと思ってたわ」

 あまり美味しくなかった朝食を食べ終えると、食器をトレイに乗せて返却口に戻してから部屋へと戻った。
 部屋に戻ると、旅立つ準備のために荷物をまとめ始める。準備が終わると宿屋を出て、少しだけ村を見て回ることした。

「農園とかあるのかしら?」
「あるようですが、製造に関係するからと見学はできないそうですよ」
「じゃあ、この村って見るものがまったくないんじゃないの?」

 見渡してみても、家と畑と塗装されていない道くらいしか見えない。
 たまに鶏と牛の鳴き声が聞こえるだけで何もない。

「そうですね。さきほど話した塩を作る魔物なら、見学ができると思いますが、行ってみますか?」
「え、いいの?というか、見学ってできるの?」
「あれは、ほとんどの村で飼っているはずですから。見るのも自由だと思いますよ」

 ほとんどの村ということは、もしかして家畜か畑みたいな感じなのかもしれない。
 畑作業をしている近くの村人に聞くと、村の奥の方に行けばあると言われたから、さっそく行ってみた。

 村の奥に向かうと、人通りがほとんどなくて見渡しが良くて、まるで家畜を囲っているような柵が目に入った。

「あれかな?」
「行ってみましょう」

 近寄ってみると、茎の太い、大きなホウレン草みたいな植物が適当に植えられている。
 乱雑に植えてあるだけなのに、なんで柵なんてしてあるんだろうと不思議に思って見ていると、なにか蠢いている気がする。
 
 まさかと思ってよく見て見ると、木の日陰になっているところに植えられていた植物が動いた。
 器用に桃色の根っこを地面から出すと、足のように左右に動かして日当たりの良い場所へ移動した。

「は?ホウレン草が動いてる……」
「ホウレンソウ?あれは、ソモギュールですよ」
「ソモギュールって?」
「先ほど説明した、塩を溜め込んでいる魔物ですよ。塩を溜め込んでいるのがソモギュールで、砂糖を溜め込んでいるのがシモギュールです」

 どう見ても、葉っぱがホウレン草にしか見えない。まあ、かなり成長しすぎて美味しくなさそうだったけど。
 
 ソモギュールというホウレン草もどきは、一番日当たりの良さそうな所に着くと、器用に根っこの先を地面に突き刺して根っこを潜らせていった。

「ソモギュールもシモギュールも、日光を好みますから、ああやって地面を移動するのですよ」
「あ、だから柵をしているのね。逃げないように」
「ええ、自由に動き回りますからね。柵をしないと、一晩で逃げてしまいます」
「一晩でって……元気ね」
「ええ、植物系の魔物は生命力に溢れてますから」

 魔物と言っても植物。生命力はやっぱり強かったらしい。
 それにしても、あれだけホウレン草に似ているんだから葉っぱも食べられるんじゃないかと考えてしまう。

「ソモギュールの葉っぱって食べられるの?」
「葉っぱですか?苦味が強いらしいので、あまり食用としては使わないそうですが……」
「苦味?アクが強いってことかしら……じゃあ、アク抜きすれば……」
「アク抜き?」

 あの植物系の魔物は、手間を加えれば美味しく葉っぱまで、食べられるかもしれない。
 そんなことを考えていると、不思議そうにこちらを見る、レムリアさんの視線に気づいた。

「う、ううん。なんでもないの」
「そうですか」

 もう一度、観察するようにシモギュールを見ていると、地面に茶色で三角形の形をした1センチほどの小粒が落ちているのに気づいた。
 
 どこかで見覚えがある形……昔、家庭菜園で植えたホウレン草の種とそっくりだった。
 だとしたら、これは種なんじゃないかと思い、近くで水遣りをしていたおばあちゃんに声をかけてみた。

「すみません、あの小さい三角形の小粒って……」
「ああ、あんりゃ種だべ。欲しけりゃ、持っていきな」
「え、いいんですか?」

 旅が落ち着いたら、きっと役に立ってくれそうな予感がする。それに適職審査で植物とは相性が良いとあったし、これは種を確保しておくべきかもしれない。

「あんなもん、ほっとけばいくらでも落としよる」
「ありがとうございます!」

 種をいくつも拾っては、小袋に入れていく。いっぱいになったところで、満足して小袋をしまった。

「あの、種をどうするのですか?」
「落ち着いたら、育ててみようと思って」
「……そうですか」

 レムリアさんは返事に困ったらしく、それ以上は何も聞かなかった。もしかして植物系の魔物を趣味で育てることは、おかしいことなのかもしれない。

 でも村で栽培しているんだから、個人が趣味で育ててもいいはず。そう思い、そっと種が入った小袋をしまいこんだ。
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