アルテアースの華 ~勇者召喚に巻き込まれ、適職が農民で子宝に恵まれるってどういうことですか?!~

暁 流天

文字の大きさ
26 / 33

25.導きの御使い。

しおりを挟む
 ラズライエルさんは何も言わずに、ただ静かに見つめてくる。
 その視線に耐え切れずに、ラズライエルさんに声をかけた。

「……それは、どういうこと?」

 ラズライエルさんは、導くはずだったと言った。
 いったいどこに導くつもりで、そしてどうして天使であるラズライエルさんが、私のところに来たのか不思議だった。

「……テンカさんは、間違って勇者召喚に巻き込まれたんだよね?」
「そうだけど……」
「その時に、女神アルテフェルミアさまを見たはずだよ」

 あの時に見た稲穂のような黄金の髪に新緑の瞳の、慈愛に溢れた美女は、やっぱり女神さまだったんだ。
 夢うつつで、本当に現実だったのかもわからない状況だったから、夢だったんじゃないかと思ってた。

「たしかに見たけど……とても綺麗な女の人を」
「……川の流れのように、テンカの居た世界からこちらの世界に来るのは一方通行なんだ」

 元にいた世界に帰れないということは、一番最初に聞いた。
 だから驚いたり悲しんだりすることもなく、たんたんと話しを聞くことができた。

「流れを変えるためには、もう一つ川の流れを作らないといけない……でも、君は勇者に引っ付いて来てしまったから」
「だから流れを変えられなくて、勇者召喚の場に出てしまったということ?」

 ラズライエルさんは、返事をするように軽く頷いた。

「アルテフェルミアさまが君を見つけた時には、すでに闘神の召喚陣の中にいたらしくて……どうすることもできなくて、それでテンカさんに加護を与えたって」

 加護と聞いて、思い当たることがあった。
 あの時、意識はしっかりしていなかったけど、何か熱いものが流れ込んできたことは覚えている。

「それで加護って、私はいったい何を与えられたの?……まさか、作物を育てる才能?!」

 考えてみれば、あの国に召喚された時の職業適性が水と相性が良いから農民と出てたけど、まさかそんな加護が?!

 でもそれで上手に田園畑を作っていけば、たしかに生活には困らない。加護といえば加護になる。
 1人で納得していると、ラズライエルさんは不思議そうに首を傾げた。

「作物?……アルテフェルミアさまは豊穣も司ってるけど、そんな農民程度じゃないと思うよ?女神さまの加護だし」
「でも私、バルトレイで受けた適性で水と相性が良いから、農民が適職って……それに子宝にも恵まれるとか出たんだけど」

 バルトレイで言われたことを話すと、ラズライエルさんは少し俯くと、考えるように口元に手を軽く添える。

「……水はたぶん、君自身の性質だよ。それにアルテフェルミアさまは、愛と豊穣を司っているから……豊穣は植物適性だし、子宝は……まあ、愛のある行いをすれば自然とできるから」

 まさか愛の部分が子宝になっていたなんて、どうすればいいのか解らない。
 どう考えても、使い道が思いつかない。

「そう落ち込まないで……バルトレイの適性なんて、気にすることはないよ。それよりここからが本題だよ」
「本題?」

 私にとっては職業適性の方が本題だったんだけど、ラズライエルさんにとっては些細なことのようだった。

「アルテフェルミアさまも、君を闘神バルトスの守護する国に送ることは良くないことだとわかっていたんだ。だから君を、アルテアースに連れてこようとしたんだよ」

 さすが女神さまと、心の底から思った。
 加護を与えてくれただけでなく、ちゃんと後のことも考えていてくれていたんだと思うと、女神さまに感謝の気持ちでいっぱいになる。

「それで僕が、君をアルテアースまで導く役目を仰せつかったんだ」
「でも、アルテアースの大神殿まで一度も会ったことなかったわよね?」
「問題は、そこだよ。僕はちゃんとアルテアースからバルトレイまで行って、君を探したんだけど見つけきれなかった」
「え、バルトレイに居たの?」

 あまりに意外で驚いた。まさかアルテアースからバルトレイまで、探しに来てくれていたなんて。

「もちろん。それで勇者が旅立ったという噂を聞いて、慌てて後を追いかけたんだけど……」
「そこでも見つけられなかったの?」

 そういえばバルトレイにいた頃は、王城の一室を借りていたから、街中を探していたら見つからなかったのかもしれない。
 しかも、買い物をする時にしか外には出なかったし。
 そういえば、あの買い出しの時にレムリアさんと出会ったんだっけ。

「いや、ちゃんと見つけたよ……上空から探していたら、水浴びの後に襲われかけているのを発見したんだ」
「え、うそ……あの時に居たの!?」
「うん。一番良いタイミングを狙ってたら、誰かに邪魔されたけどね……まあ、ついさっき誰に邪魔されたかわかったけど」

 タイミングを狙っていたと聞いて、思考が止まった。
 
 ちょっと待って、よく考えてみると、タイミングを狙わずに見つけ次第すぐに回収してくれたら、私はあんな目にあわなかったはず。
 
 さすがに酷いと思い、文句を言おうとした時、ラズライエルさんはレムリアさんの方へと進んでいた。

「ねえ、そこの精霊もどき」
「……精霊もどきとは、失礼ですね」
「だって君、精霊の気質が強いし。それよりさ、君でしょ?あの時に邪魔したの」

 精霊もどきと聞いて、まるでレムリアさんが精霊に近いと言っているように聞こえる。
 もしかして精霊師を極めると、精霊に近くなるのかもしれない。これは本人に聞いてみるのが一番早いけど、なんだか聞きづらい。

 ラズライエルさんが手の平から光の玉を出すと、光の玉の中からレイピアのような細い剣が出現した。
 その細剣を慣れた手つきで掴んだ。

「君のせいで、導き手の役目を全うできなかったんだよね……でもまだ、守護天使にはなれる可能性があるから」
「だから、なんだというのですか?」
「……僕が彼女を守護するから、君はいらないよ」

 ラズライエルさんは、威嚇するように剣先をレムリアさんに向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...