ホスト異世界へ行く

REON

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第九章 魔界層編

湯屋

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「よくここまで似せたもんだ」

一角領の視察を終わらせ宿で着替えてから訪れた湯屋。
雌性体で足を踏み入れた女湯の脱衣場は地上層の大衆浴場のような西洋風ではなく、ほぼほぼ日本の銭湯。
多少西洋風な部分も混ざってるのはここを作った本人が実際に日本の銭湯を見た訳ではないからだろうけど、先代勇者から話を聞いただけでここまで日本に寄せられるのは凄い。
絵でも描いて見せたんだろうかと思うほど。

それなりに混んでいる女湯。
女湯と言ってもで女湯と男湯に分かれているだけで、どちらにもシモは両性の人が居るらしいけど。

受付で渡された札に書かれている番号の棚へ行って荷物を籠に置き、湯着に着替えるために服を脱ぐ。

……うん、入ってからずっと視線が痛い。
変異種が珍しくて仕方ないのかみんな興味津々。
一応女湯だから俺はあまり周りを見ないようにしてるのに、周りの人たちは遠慮なく見すぎ。

俺が元の姿で男湯に入ってクルトが女湯に入るか?と聞いたら男湯は危険だから駄目と猛反対されたのも納得。
変異種とだけでこんなにも注目を浴びるのなら、雄性体よりは力の劣る雌性体が集まる女湯の方が多少は安全そう。

服を脱いだらますます興味津々に見られて首を傾げる。
あ、もしかして下着か?
俺が着けてる下着は雌性体用に地球の女性用下着の形を城の針子に教えて作って貰ったもので、本来魔界層にはないもの。
王都ではサクラやリサの影響で女性用下着も俺の知る形が流行してるらしいけど、魔界層にはないから珍しいんだろう。

後は刺青もか。
魔族にも刺青を入れてる人は居ないらしいから注目を集める理由の一つになってるようだ。
魔王城では俺の入浴の世話をする赤髪ですら話題にしないからこの世界では珍しいことを忘れてた。

まあ変異種とだけで見られるから今更。
仮に刺青を入れてなかろうと下着がこの世界のものだろうと変異種の時点で注目を浴びることは避けられない。
もう視線は気にせず湯着に着替えて大浴場へ向かった。

大浴場の中も例に漏れず日本風。
あちこちに同じ造りの湯着姿で客の背中を洗っている湯女ゆな(男女)が居るのを確認して空いてる洗い場へと座る。
男なのに湯と呼ぶのも変な感じだけど、竜人街では男女問わず湯屋で客の洗身や洗髪(性的なサービスも含む)を行う人のことを湯女ゆなと呼ぶらしい。

えっと、札はここか。
湯女ゆなに体を洗って貰うにはまず受付で申し出て(聞かれる)、渡された銀札を自分が座った洗い場の前にある金具に引っ掛けておけば手が空き次第順番に回ってくるらしい。

歩きながら目に付いただけでも銀札をかけていた客は多い。
と言っても銀札をかけてる客みんなが性的サービスを望んでる訳じゃなく、純粋に体を洗って貰いたいだけの客や付いた湯女ゆな次第という客が殆どらしいけど。

つまり性的サービスを望まれるかは湯女の腕次第。
体を洗って貰いたかっただけの客でも上手く丸め込めれば(交渉できれば)、湯女の通常の給料の他にもサービス料がいただけるという訳だ。

髪を洗っていると背後に人の気配を感じて振り返る。
驚いたような表情で立っていたのは雌性の湯女。
いや、驚くのは無言で後ろに立たれた俺の方だろうに。

「なにか」
「し、失礼しました。お世話させていただきます」
「あ、はい」
「一度流して洗い直しますか?」
「いえ、このまま洗ってくだされば」
「承知いたしました」

担当する湯女だったらしく慌てて挨拶をして俺の後ろにしゃがむと、洗い途中だった髪を優しく洗い始めた。

「お客さまお綺麗ですね」
「髪ですか?」
「髪はもちろんですが、お顔や瞳も全てにおいて」
「ありがとうございます」

洗った髪を丁寧に流しながら話しかけてきた湯女。
まあ女体の俺がイケてるのは同意(いつもの自賛)。

「先程は失礼しました。白銀の髪と瞳の方を初めて見たので驚いてしまって。お声がけもせず申し訳ありません」
「大丈夫です。逆に驚かせてすみません」

あの驚きは変異種だったからか。
実際には召喚された時にしていた髪色とカラコンの色で固定されただけで変異種として生まれた訳じゃないけど、髪染めもカラコンもない世界で見かけない特徴をしていれば変異種と思われても仕方ない。

「人の集まる竜人街でも変異種は珍しいんですか?」
「変異種自体が珍しいので極稀に見かける程度ですが大抵は角の形や肌の色などの些細な違いですので、お客さまほどハッキリした変異種の方には初めてお会いしました」
「そうなんですか」

姿が違う者を差別の目で見る人は地球にもこの世界にも居るけど、この人は変異種に偏見がある訳ではなさそう。

「普段から気を付けていることとは思いますが、竜人街でも人攫いには充分お気を付けくださいね。お客さまほどの貴重な変異種ともなると人の多い場所でも危険ですので」
「ありがとうございます。気をつけます」

うん、つい先日魔人街で拐われそうになったばかり。
魔物や人を対象にした売買の中でも変異種や亜種は高額で取り引きされるらしく、俺のように極めて珍しい特徴の変異種は狙われ易いと魔王も言っていた。

「あ、そうだ。湯屋に来たのが初めてで湯女の制度が良く分からないので教えていただけますか?受付の方から髪や体を洗ってくださる方だとは伺ったのですが、詳しいことは中で説明を受けて欲しいと言われたので」

雑談したあとは本題。
本当は宿でクルトから聞いたんだけど、情報を得るために知らないフリを装う。

「竜人街はどのような商いの街かご存知ですか?」
「遊郭街ですよね」
「はい。番台でお聞きになった通り湯女は浴場で洗髪や洗身のお手伝いをするのが役目ですが、それとは別にお客さまのご希望がございましたら妓楼で遊女が行うようなお役目を務めさせていただくこともございます」

直接的な表現は避けた説明だけど、妓楼の遊女と同じく床の相手をするよと言うこと。

「このあと洗身専門の湯女が参りまして改めてご説明をいたしますので、詳しいお話はそちらの湯女からお聞きください」
「分かりました。ありがとうございます」

湯女の仕事は、洗髪、洗身、マッサージと分かれている。
受付で払う湯女の代金に含まれているのは洗髪と洗身で、その先の別料金になるマッサージというのが所謂いわゆる床の相手。

綺麗に洗い流して丁寧に拭いてくれたあとタオルで巻いて、洗髪専門の湯女の役目は終了。
肩にバスタオルをかけて「少しお待ちください」と言って洗髪専門の湯女が離れる。
大抵は洗髪中に洗身専門の湯女が来てそのまま洗身に続くとクルトが言ってたけど、今日は混んでるから手が足りてないのか少し待たされるようだ。

顔を洗いながら鏡越しに他の客の様子を伺う。
洗身専門の湯女にも雌性と雄性の両方が居るけど(湯着を着てるからシモは不明)、どちらも洗い方が結構な感じで際どい。
湯女からすれば客がになってくれないとオプション料金が稼げないからまあそうなるか。

「失礼します。お待たせして申し訳ございません」

様子を伺っていた鏡越しの視界を遮った下半身と声。
後ろにしゃがんで頭を下げた湯女は(見た目)雄性。

「よろしくお願いします」
「よろしくお願い申し上げます」

顔をあげた湯女はコバルトブルーの瞳をした竜人。
随分と男前な湯女も居たもんだ。
これなら陰間かげま(男娼妓楼)で働いた方が稼げそうだけど。

「寒くありませんか?」
「大丈夫です」

俺が顔を洗い流している間に湯女は引っ張って来たカートから洗身に使うものを準備して、洗髪を担当した湯女が肩にかけて行ったバスタオルを外してカートにかけた。

「失礼して上半身だけ湯着を下ろさせていただきます」
「はい」

浴場の中では湯着(短い襦袢のようなもの)を着用。
性的なサービスのない地上層の大衆浴場は湯着の着用が必須だけど、竜人街では強制ではないらしく全裸の人も多い。
ただ俺はクルトからの「見知らぬ魔族に半身さまの素肌を(省略)」という強い圧を受けて着用している。

「こちらの絵画は洗い流してしまってもよろしいのですか?高尚な絵画士の作品のようですが」
「ああ。これは針を使って皮膚の内側にインクを入れているので洗っても落ちませんから大丈夫です」

上半身の湯着を途中まで下ろした湯女の手が止まり、背中の刺青を絵画と思ったらしく洗っていいのか聞かれて説明する。

「湯屋に長く勤めておりますが初めて拝見しました」
「私も自分以外で描いてる人を見たことがありません」

腕前は別として技術的にはこの世界でも可能だと思う。
それでもこの世界に刺青を入れてる人が居ないのは、その発想がない(+入れる意味もない)からだろう。

「お流しします」
「お願いします」

シャワーを使って体を流すところから。
情報を聞き出すためにもまずは多少なりとも打ち解けて貰う必要があるから回春オプションには一切触れず雑談する。

「お客さまは肌も真っ白ですね」
「変異種で申し訳ありません。私の世話をするのは不快ではないですか?みんなと違うところばかりでお恥ずかしいです」

わざと恥ずかしがる素振りで体を隠す。
内心では『だろ?(変わらぬ自賛)』と思ってるけど。

「不快なんてそんな。お綺麗ですよ」

知 っ て る (ドヤ
まあ竜人族の好みのタイプは知らないから本気でただのフォローをされている可能性もあるけど。

「不快に思われていなくて安心しました。以前から竜人街や湯屋には来てみたかったのですが、変異種の私では嫌がられるのではないかと気になって来る勇気がなくて」

コンプレックスを抱えた子アピール。
竜人街や湯屋に来るのが初めてな内気そうな子がまさか美人局つつもたせの情報を探ってるとは思わないだろう。

「ご自身の価値をご存知ないようですが、お客さまほどお綺麗な変異種でしたら好む者の方が多いでしょう。特に竜人街は妓楼の集まる欲望の街ですので、お美しいお客さまには大変危険な場所です。どうぞお気を付けください」

……あれ?本気で心配してくれてる?
善 い 人 か !
薄ら寒い演技をしてる自分との差に胸が痛い。

「湯女の身で出過ぎたことを申しました。御無礼を」
「温かいお心遣い感謝します」

しんどい。
さっきの洗髪専門の湯女もこの雄性湯女も善い人そうで、もっと踏み込んで情報を引き出したいのに心が折れそう‪。
ごめんクルト……俺の方は無理かも(弱気)。

「せっかく竜人街へ来たので一度陰間かげまにも行ってみたかったんですが、辞めて宿に居た方が良さそうですね」
「目当ての陰間があるのですか?」
「いえ。一人で竜人街へ行くのなら夜は陰間へ行くといいと知人が。お酒や会話で楽しませてくれると聞きました」

頑張れ俺、負けるな俺。
よく分かってないまま来てしまった無知な子を装え。

「…………」

体を洗ってくれながら湯女は無言になる。
いやそこは何か言おう!
無知な子に助言を!

「お客さま」
「は、はい」

ようやく言葉を発してくれて思わず吃る。

「陰間が何をするお店かご存知ですか?」
「お酒と会話を楽しむお店と聞いています」
「陰間は男娼がお客さまの床の相手を務めるお店です。たしかに酒と会話を楽しんで帰られる方も中にはおりますが、お客さまの場合は男娼の方がそれだけでは済まさないと思います」

うん、本当は知ってる。
沈黙はそれを話すかどうか考えていた間だったようだ。

「変異種でも相手をしてくださるのですか?」
「床の相手をお捜しなのですか?」
「そういうお店ということは今初めて知りましたが、変異種なんて誰も相手にしてくれないと言われてきたので。そういうお店の方なら私みたいな者でも相手してくれるのかなと」

ごめん善い人。
外に客を連れ出してオイタをしてる美人局つつもたせを炙り出したいから「じゃあ行かない」では済ませられないんだ。
無知で簡単に騙されそうな子を演じてるのはそのため。

「あ、受付でマッサージもできると聞いたのですが」

後は洗い流すだけになって強引に話題を変える。
他の湯女は際どい洗い方をしてるのにこの湯女は純粋に洗身してくれただけで別料金オプションの話題をしてくれなかったから、こちらから踏み込むしかない。

「失礼しました。他の話に集中して説明を忘れておりました。申し訳ございません」

忘れてたのか!
まあでもずっと親身に話してくれていたから、そっちの会話に集中させてしまった原因は俺にもある。

「番台で頂戴した湯女の料金に含まれているのは洗身のここまででマッサージには別途料金がかかります。その際にはお客さまが気に入った湯女をご指名いただき個室でマッサージを行いますが、マッサージの料金は湯女に直接お渡しください」

軽くタオルで拭いた体に替えの湯着をかけて着替えさせてくれながら忘れていた説明をする湯女に相槌を返す。
屯所で見た資料だと湯屋の中で起きた揉め事で一番多かったのはこの先の別料金オプションの内容と料金交渉だった。

「個室内でのことは指名した湯女と直接お話しください。お気に召した湯女が居られましたらご用命を賜ります」
「それは貴方でもいいんですか?」
「私ですか?」
「駄目でしたら他の方にお願いしますが」
「無礼なことをしてしまったのに私でいいのですか?」

淡々と話して自分は除外してるような言い方だったけど、失礼なことをしたという意識があってのことだったようだ。

「あまり多くの方に体を見られるのは……」

ク ル ト に 圧 を か け ら れ て る か ら 。
俺自身は風呂屋で肌を晒すことに抵抗はないし性別を変えてる偽りの体だから別にいいだろと思うけど、俺の体には違いないと言って極力晒さないよう釘を刺されている。

「承りました。個室の支度をいたしますのでお客さまは湯船に浸かって体を温めてください。充分に温まりましたら一度脱衣場へ戻っていただき、籠ごとお荷物を持ってあちらのドアから入っていただければ個室へとご案内いたします」
「分かりました」

なんかサラっとした湯女だ。
他の湯女は指名を貰おうとしている様子が見られたけど、俺についたあの湯女からは全く指名欲しさを感じない。
全員が床の相手をする訳じゃないとクルトが言っていたからあの湯女もそうなのかと思ったけど指名を受けてくれたし。

「変異種?」

本当は嫌だけど金のために渋々受けたんだろうかと考えながら湯船に浸かっていると斜め後ろから声が聞こえて振り返る。

「ごめんね。綺麗な子だから話しかけちゃった」

声をかけてきたのは金髪碧眼の竜人。
切れ長の目が少しキツく見えるけど美形。
湯から見えているのが膝かと思えば湯に浮いた胸だったという何ともけしからん爆乳の持ち主。
城の召使セルヴァンもそうだけど魔族は本当に爆乳が多い。

「竜人街の子じゃないよね?」
「はい。竜人街も湯屋も初めて来ました」
「そうなんだ?」

初対面なのにグイグイ来るな。
情報を集めたいから気軽に話してくれてありがたいけど。

「驚いた?竜人街は他の魔界とは全然生活が違うでしょ」
「はい。話には聞いていて以前から来てみたかったのですが、実際に来てみたら初めて見るものばかりで驚きました」

本当は日本人の俺には懐かしさ(本の挿絵で見た知識)を感じさせる街並みだけど。

「竜人族の変異種?角ないし」
「魔人族です」
「え?じゃあ魔人族なのに魔法が使えないんだね」
「……はい」
「あ、ごめんね。ズケズケ聞いちゃって」
「いえ」

魔人族って角がないと魔法を使えないのか(初耳)。
言われてみればたしかに大きさや形の違いはあれど魔人族はみんな角が生えている。

「竜人族には角がある人と無い人が居ますよね」
「うん。竜人は角があってもなくても魔法は使えないけど。必要ないから角なしで生まれる人が居るのかもね」
「なるほど」

進化の過程で不要な物は取り払ったと。
竜人族はそもそも祖龍の生まれ変わりの種族らしいから、魔人族よりも進化した人型種族とも言える。

「竜人街には誰かと来たの?」
「一人です」
「変異種なのに危なくない?大丈夫?」
「そんなに危ないですか?さっき湯女にも言われて」
「危ないよ。それじゃなくても変異種は貴重なのに。もしかして魔人界では人と会わない生活してる?」
「はい」

ばっちり集団魔王城で暮らしてますが。
ただ、そう言っておいた方が無知を装って質問し易い。

「危ないから家に来る?半身と暮らしてるから」
「宿はもうとってあるので大丈夫です」
「宿でも完全に安心はできないよ?宿泊客が変異種が居るって情報を流すかも知れないし」
「お気持ちだけ。ありがとうございます」

宿なら危なくないとは言わないけど(だからクルトが一番警備の整った高級な宿をとったんだし)、見知らぬ人の家に泊まる方がリスクが高いだろうに。親切心なのかも知れないけど。

「んー。心配だなぁ。この後の予定は?」
「マッサージをして貰ってから宿に帰ります」
「え?まさかラーシュ?」
「ラーシュ?」
「あなたを洗身してた湯女」
「見てたんですか?」
「近くに座ってたから」
「ああ、それで」

どうして誰が洗身していたかを知ってるのかと思えば。
変異種の俺は否が応でも目立つだろうし、近くに居たなら尚更知っていてもおかしくはない。

「ラーシュは辞めた方がいいよ」
「どうしてですか?」
「元は竜人街一の有名な陰間で一番人気のある男娼だったんだけど、問題を起こして辞めさせられて湯屋に来たの」
「問題?」
「自分の客を人買いに売ろうとしたって噂」

あの人が?
一番人気の男娼だったというのはあの容姿だから分からなくないけど、少なくとも俺が喋った感じだと悪事を働くような人には思えなかったのに。

「有名な話なんですか?」
「今日はお休みだからお客として来てるけど、私もこの湯屋で働いてる湯女なの。ここの湯女ならみんな知ってる」
「そうなんですか」

勤めてる人が言うなら事実なのか?
もし人売りに売ろうとしたのが事実なら、あの人が金欲しさに美人局つつもたせにも一枚かんでる可能性はある。

「普段は指名を受けないのに貴女の指名だけは受けるなんて怪しいよ。貴女が綺麗な変異種だから狙われてるのかも」
「え?特別に受けてくださったということですか?」
「うん。ラーシュがいいってお客さまは多いんだけどね」

聞けば聞くほど怪しい。
指名して貰いたい様子がなかったこともそれで納得できた。
ただし、この人の話を信じるなら……だけど。

「まだ受けてないから今なら取り消しできるよ。もしマッサージを受けたいならそれ専門のお店があるから私と行かない?竜人街にある他の楽しいお店にも案内してあげる」
「楽しいお店?」
「初めて来たんでしょ?危ないから私と半身で案内するよ」

さあどうするか。
俄然怪しくなって来た。
……この人が。

マッサージはキャンセルしてこの人に着いて行くか、元陰間の男娼だったらしいあの湯女から情報を探るか。
思うにこの竜人は俺があの湯女からマッサージを受けるのを邪魔したいようだから、あの湯女が何か特別な情報を持っている可能性がありそうで迷う。

「マッサージが終わってからでもいいのでしたら案内をお願いしたいです。無理でしたら残念ですけど諦めます」

美人局つつもたせをしてる本人として怪しいのはこの人。
美人局つつもたせを潰せる情報を持ってそうなのはあの湯女。
屯所で調書を見た限り美人局つつもたせは数人で行っているようだったから、自分の勘を信じるならあの湯女も無視できない。

「どうしてラーシュがいいの?」
「あの……かっこいいので」
「え?それだけ?」
「お恥ずかしながらまだその手の経験がないので、初めては自分がいいなと思えるあの方にお願いしたいと思いまして」
「それラーシュに言った?」
「経験がないことはお話で気付かれてると思います」

完 璧 だ な 俺 (自賛
主演男優(女優)賞とれるくらいに完璧な演技だ。

「そうなんだ。そういうことなら邪魔したら悪いね。それならマッサージが終わってから外で待ち合わせようか」
「何から何までご親切にありがとうございます。楽しみが増えました。出た後にどこへ行けばお会い出来ますか?」

必ず来ると信じさせるためにすっかり信用して喜んでいるふりをして、二角領の茶屋で二時間半後(マッサージの時間が二時間あるらしいから)に待ち合わせる約束をした。

「では後程」
「うん。後でね」
「はい」

湯船の中で着崩れた湯着を直して爆乳湯女とは後で会う約束をして別れ、脱衣場に自分の荷物を取りに行く。
後はあの湯女からどう情報を引き出すか。
そっちの方が骨が折れそうだ。

「お待たせしました」
「いえ。温まりましたか?」
「はい。気持ち良かったです」
「それは何よりです」

ドアを開けた向こう側は小さな脱衣場のような場所。
そこで待っていた湯女は先に籠を受け取り棚に置いたあと俺の背後に回ると、湯着を上半身だけ脱がせてタオルで拭いてから替えの湯着を肩にかけて残りの脚も拭いてくれる。
なるべく肌(胸)を見ないようにとの配慮が行き届いている。

「個室へ案内いたします」
「お願いします」

表情ひとつ変えないのは変わらず。
この人に口を割らせるにはどうすればいいか。
俺の荷物の入った籠を持って淡々と話したあと少し前を歩く湯女の後を着いて行った。

「どうぞこちらへ」
「失礼します」

案内されたのは湯屋の二階。
行灯あんどんの淡い光に照らされた部屋のド真ん中に布団がデーンと敷かれていて、紛れもなくの部屋。
いかにもこれからな雰囲気を醸し出している。

「お酒は如何ですか?」
「あまり強くないので少しだけいただきます」
「どうぞこちらへおかけください」
「失礼します」

座らされたのは布団の上。
制服から浴衣に着替えてある湯女は小型冷蔵庫から透明の酒瓶を出すと、枕元に布をかけ用意されていた硝子製の徳利とっくりに瓶の中身を注いで猪口ちょこサイズのグラスを渡す。

「おぎいたします」
「ありがとうございます」

透明のグラスへ注がれた酒。
徳利に注いでる間に鑑定を使ってしっかり確認したけど、竜人街ではお馴染みのリュウカ酒と出ていた。

「一緒に呑んでは叱られてしまいますか?」
「今日は上がりましたので御一緒させていただきます」
「では今度は私が」

今日の仕事はこれで終わりらしく、手酌しようとする湯女から徳利を受け取りグラスに注ぐ。

「いただきます」
「頂戴いたします」

さあ呑め。
呑んで酔って口を割れ。
そう内心で思いながらグラスを口に運ぶ。

俺の視線に気付くことなくクイっと呑み干した湯女。
あ、この人酒が強い。
酒を飲み慣れてるその飲み方に、酔わせて口を割らせる作戦は無理そうだと瞬時に察した。

「あ。先に料金をお渡ししておきます。お幾らですか?」
「要りません」
「はい?」
「もう勤務時間外ですので」

今日は上がったというのは俺のマッサージで今日の仕事は終わりって意味じゃなくて、そのまま『今日の仕事は終わった』って意味だったのか!

「払います。お酒もいただいて部屋も利用してるのに」
「この部屋は私の持ち部屋でこの酒も私物。自分の部屋に人を招いたというだけで湯女の仕事とは無関係です」

あっさりそう言った湯女の表情はやはり変わらず。
プライベートで部屋へ入れた割に下心も感じない。

「そういう訳には」
「ではお名前だけ伺います」
「名前?シンです」
「シンとお呼びしても?」
「はい。どうぞ」
「私のことはラーシュとお呼びください。改めてよろしくお願いいたします」

一体何を目的に俺を部屋へ連れて来たのか。
対面に座って酒を呑んでるだけで手を出す訳でもなければ楽しんでいる様子もない。

まさかさっきの話は本当で人売りに引き渡すつもりか?
それまで呑ませて時間を潰しているだけとか。
そんな人には見えないけど。

意図の読めない行動に首を傾げた。

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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

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