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第十四章 変化
治療日
しおりを挟む今居る場所はアルク国の王城。
今回はオーブ伯爵やバース一族の件での報告とアルク国王の治療のために登城している。
「レーグル子爵の長子の様子は変わりないか?」
「今のところは。まだ薬に頼る必要がある状態ですが」
「制御できるようなってくれるといいが。神の力を暴走されては簡単に止められる者は居ないだろうからな」
ひと治療(閨)が終わってそのままベッドに俯せてる俺の項に口付けるアルク国王。
なぜなのか会話を交わしながらもずっとその辺りでモゾモゾしている。
「そこに口付けて何か意味が?」
「香りがいい」
香りフェチの魔王かっ!
すんすん匂いを嗅がれて心の中でツッコミを入れる。
「私の気の所為でなければまた元気に」
「なぜだろうな。この香りを嗅いでいるとその気になる」
「そんなところには何もつけていませんよ」
「身体から出ている香りなんだろう。以前から貴殿の香りに惑わされていたが、今日は以前にも増して惹かれる」
…………あ。
多分それ精霊神と魔神の混ざった香りだ。
前回の治療は神族に戻る前だったけど今回は神族に戻った後だから、以前より香りを強く感じるようになったんだろう。
「陛下」
「閨の時には名前で呼ぶ約束だろう?」
「カミロ。また痛くても知りませんから」
「その気になってしまったのだから甘んじよう」
笑ったアルク国王が首筋に這わせた舌でゾクゾクする。
精霊神と魔神が作ってくれた仮の身体の頃も雄性体より雌性体の方が感度が良かったけど、本来の神族の身体に戻ってからの雌性体はますます感度があがった気がする。
「口では忠告しつつ抑えが効かなくなるような善い反応をするのだから困ったものだ。私を試しているのか?」
「そんなつもりでは」
試すつもりなんてない。
襲撃や叙爵や裁判や婚約発表とお互いに忙しくて治療が出来なかった間にまた魔力神経が硬化していて、さっきの治療(閨)の最中に痛みに眉を顰める姿が見られたから痛くても知らないと忠告しただけで、この感度のよさは演技をしている訳でも煽っている訳でもない。
反応を見られないよう枕を抱えて悶える。
どうした俺(の身体)!
自分の身体なのにツッコミを入れるのもおかしな話だけど、ただ手や指で触られてるだけなのに感度が良すぎだろ!
【ピコン(音)!お答えします。シン・ユウナギの肉体が本来の神族に戻ったことと、初代エルフの彼の魂に開祖の特殊恩恵が馴染み能力値が上がったことにより親和性が高まりました】
『この状況でピコンする!?いや、どういうこと!?』
悶えてる最中に答えるのかよと思ったけど、それよりも魂に開祖の特殊恩恵が馴染んだとか親和性が高まったという話の方が気になった。
【開祖とは生まれ代わる前の彼である初代エルフのこと。生まれ代わった彼の中で封じられていた開祖の特殊恩恵を妖精王が解放し魂に馴染んできたため、開祖に戻りつつあります】
『えっと、つまり、アルク国王は初代エルフの生まれ代わりですってだけの単純な話じゃなくて、能力も神との関わりが深かった開祖の頃の状態に戻りつつあるってこと?』
ああもう、話も気になるし、気持ちいいしで忙しい。
【話は後にしますか?】
『気遣いありがとう!でもそこまで聞いたら気になる!』
ひとまず快楽を優先するか聞いてくれる辺り恐ろしく気が利く中の人だけど、この感度のよさもどうやら今の話に関係してるみたいだから気になってしまう。
【では要点だけ。開祖は神族と深い縁を持つ存在で、オリジナルではないものの神の力の模写も授かっています。今の彼の魂に開祖の特殊恩恵が馴染むほど彼は当時の能力を取り戻しますし、神族との縁も一層深まり肉体の親和性も高まります】
……神の力?
今この状況でそんな重大な話をする?
いや、気になるって言ったのは俺だけど。
「何に気を取られている?考えごとか?」
敏感になってる部分をキュッと摘まれて声が洩れる。
毎回中の人と会話してる時に察しが良すぎだろ。
【縁が深い者であるほど交わった際の快楽も高まります】
『結論を言うと、アルク国王と俺の親和性が高まったから以前より肉体の感度も上がったってことだよな?』
【お互いに。抗えない運命です】
物凄いざっくり纏めたな!
感度がいい理由は分かったけども!
【ではごゆっくりお楽しみください】
『要らない配慮をありがとう!』
また某ゲームの宿屋の主人が『ゆうべはおたのしみでしたね』の前日に言いそうな台詞を言った中の人の声は途絶えた。
「攻守交替です」
アルク国王の手を止め逆にベッドに押し倒す。
このまま続けさせていたら治療どころじゃ無くなる。
久々でまた硬化が始まっていたんだから様子を見ながらの治療をしないといけないのに。
「……なんか若返ってませんか?」
押し倒したアルク国王の身体を見てふと思う。
ガウンを着てたから気付かなかったけど、押し倒したことで乱れたガウンから見えた身体が以前よりも筋肉質なような。
元から鍛えた身体はしてたけど、それ以上に。
「毎日鍛えているからではないか?また治療前のように硬化してしまわないよう魔法も使ってレベル上げもしている」
「え?剣と魔法の鍛錬を毎日してると言うことですか?」
「ああ。最近は少し魔法が使い難くなったと感じていたが、以前ほどではないにしても硬化していると聞いて納得した」
完治してないのに元気過ぎだろ。
ただ、開祖の能力が増したのは時間と共に魂に馴染んだからという理由だけじゃなく、毎日鍛えているからだろう。
「約束しただろう?貴殿が精霊族を守るため鍛え続けているように私も鍛え続けると。ブークリエは守りの盾として、アルクは攻撃の弓矢として、英雄や勇者と共に精霊族を守ると」
ああ、約束した。
その約束を守って鍛えていたのか。
「妖精王さまが能力を解放してくださったお蔭で以前より全体の数値が上がっただけでなく、平常時の回復速度や睡眠による回復速度も上がった。体力も治療前より増えている」
硬化症が完治する前にそれとは恐ろしい。
模写と言え神の力も使えるようだし、俺の特殊鑑定から魔力神経硬化症の文字が消えた後はどこまでの強さになるのか。
今のアルク国王ならその力を悪用したりしないだろうと信用しているけど。
「まだ油断は禁物ですよ?無理はしないでください」
「ああ。公務ではなく鍛錬で体調を崩したとなったら主治医の貴殿に説教されそうだからな。神に誓おう」
そう言って笑ったアルク国王は俺の首の後ろに手を添えると引き寄せて口付ける。
「何かと顔は合わせていたが、やはりこうして肌を重ねると安心するし愛おしさも増す。変わらず、いや、以前にも増して美しくなったのは貴殿の肉体が神になったからだろうか」
「どうでしょうか」
多分気のせいだけど。
神族に戻っても両性になった以外の容姿の変化はないし。
「口付けるの好きですね」
「貴殿は嫌いか?」
「相手によります」
そんな会話をしながらも口付け返す。
俺にとってキスは嫌いな人じゃない限りおふざけの戯れ程度にする軽い行為だけど、それに意味があるかは人による。
戯れでするキスと好きでするキスは別物。
「そう言いつつしてくれているということは、少なくとも私と口付けるのは嫌いではないと受け取っていいのか?」
「どちらだと思いますか?」
「今日の貴殿は少々意地が悪いな。愛らしいが」
啄むような軽いものが徐々に熱を帯びる。
縁のある相手だと脳より身体の方が実感する。
神に近かった初代エルフの生まれ代わりのアルク国王は、この星で会った人の中で魔王の次に古い縁のある人。
「痛みはありますか?」
「いや。今回は大丈夫そうだ」
「良かった」
一度目の行為で多少は硬化状態が改善されたのか、回復をかけず入れた後に表情と言葉で確認した俺を下から見上げているアルク国王に痛そうな様子は見られない。
「先ほども思ったが、以前より狭くなっていないか?」
「狭い?中がですか?」
「ああ。締め付けられている感覚が強い」
「そちらの意味で痛かったりします?」
「いや。それはないが、貴殿は痛くないか?」
「私も大丈夫です」
雌性体の俺にアルク国王のソレがなかなかの凶暴サイズだったのは前からだし、さっきも今も痛みはない。
「なんだか今になってお互いに痛くないかを確認しているのが面白いですね。ここに居た時は毎日していたのに」
まるで初めてするみたいに。
笑った俺にくすりと笑ったアルク国王は身体を起こしてベッドに押し倒す。
「攻守交替と言ったのに」
「先に私にさせてくれ」
そう言ったアルク国王は俺の返事を聞くことなくまた口付け、抜けかけた分を埋めるように中にゆっくりと入ってくる。
「やはり今日はいい反応をする」
「……あまり奥は」
「そのような表情で言っては逆効果だろうに」
悪い顔してる!
俺との行為に戸惑ってた頃のアルク国王帰って来て!
「陛下、本当に奥は」
「そう呼ばれながらするのもなかなか興奮するものだな。国王の私が愛らしくなった英雄を翻弄できると思うと」
変な性癖を開眼してくれなくていいから。
両手をベッドに押し付けられては感度が良すぎる姿をごまかすことも出来ず、言葉通り翻弄される俺をアルク国王は口元に笑みを浮かべて見下ろしている。
「ここに居た時は毎日していたなどと口を滑らせるからだ。出来なかった期間の分もしたくなった」
そこかよ!
開祖に戻りつつあることは聞いたけど、この執着心(性欲?)や支配欲の強さは魔王なみ。
「私の愛おしい神は本当に美しいな。こうして抱いている最中でもまだまだ足りないと頭を巡って歯止めが利かなくなる」
人の顔を見ながら動き続けるアルク国王。
いや、こうしている時は国王じゃなくて一人の男だ。
本能で支配したい相手を組み敷く一人の男。
「……そこばかり」
「好きだろう?貴殿はここが」
「好きじゃない」
前回までの治療で雌性体の身体の弱点は知られている。
それこそ毎日していたんだから反応のいいところを覚えられてしまうのも当然だけど、感度も上がってる今の俺は最弱。
「違うのか。もっと手前か?」
完全に遊ばれてる。
俺の表情や反応で強がって言っただけだと本当は分かっていながら手前側までしか入れてこない。
「英雄。嘘をつくなら物足りない顔をしては駄目だろう?」
耳元で囁かれて背筋がゾクゾクする。
雌性体になると思考も雌性に釣られると聞いてもピンとこなかったけど、今の俺は確かに思考も雌性に釣られてるかも。
いや、それとも古い縁のアルク国王だからなのか。
「どこがいい。どこが好きだ?」
「……奥」
「ここか?」
「もっと……奥」
結局は快楽に負けて屈服した俺に悪い顔で笑ったアルク国王は奥深くまで入ってきて容赦なく動く。
少し前まではビッチな俺の行為に驚いていた男とは思えない変わりよう。
「今まで女性の背丈に何を思ったことも無かったが、普段の姿とは正反対の小柄で愛らしい英雄に私のものが根元まで入っていく様を見るのは堪らないものがあるな」
小柄な俺の雌性体を弄ぶとは悪い国王だ。
身体は小さい癖に凶暴サイズをしっかり根元まで受け入れられてることはさすがビッチな俺の身体とも言えるけど。
「……性癖が変わって小柄な女性が好きになったんですか?それとも……私の身体が好きなんですか?」
両手を押さえられたまま容赦なく動かれつつ見上げて聞くとアルク国王は口元を笑みで歪ませる。
「そんなもの英雄だからに決まっているだろう?聞かずとも分かっていることを私の口から聞きたかったのか?」
そういう訳じゃ……いや、そういうことだったのか?
意識してなかったけど。
「王位継承者としての教育を受けた私をこのように歯止めが利かない愚かな男にしたのは貴殿だろうに。国王はいついかなる時も理性を保たなければならないと厳しく育てられた私を」
動きが激しさを増して声が洩れる。
欲望という本能が剥き出しになっている国王のこんな姿は本来なら誰も見ることがなかった姿なんだろう。
「……私は今の陛下の方が好きです」
堪えられない喘ぎを含ませながらもそう答えるとアルク国王の動きがピタリと止まる。
「女性の姿になった時の私を快楽で支配したい煩悩まみれの男の顔をした今の陛下の方が好きです。ご立派な指南書で学んだようなお綺麗な性交を私は望んでいません」
俺にとって性行為はいかに気持ちよくなれるかが重要。
一貫して言っているように、やるなら相手も自分も気持ちよくならないと意味がないと思っている人間だ。
「続きを。私の身体で存分に気持ちよくなってください。陛下の身体で私を気持ちよくしてください」
「国王を唆すとは悪い英雄だ」
軽く額と唇を重ねたアルク国王は再び動き始める。
「…………」
やっぱり身体に重なる感触が以前とは違う。
アルク国王の言うように体調が良くなってまた鍛え始めたから筋肉がついただけかと思ったけど、それだけとは思えない。
俺に伸し掛るように重なっている肌の感触も触れている背中の手触りも違う。
「……陛下」
上半身を起こして見えた顔も違う。
元から35歳という年齢より若く見えたけど(これはエルフ族の特性らしいけど)、健康そうな肌艶に戻ったという理由以上に言葉通り若返っている。
「どうした。私の顔がそんなに気になるのか?」
容赦なく動きつつ俺の右手をとって手のひらに口付ける。
肌艶も含め顔つきや肉体が若返っているのはもちろん、人を翻弄しているその凶暴サイズのモノも若者のような元気さを取り戻しているのに、本人は気付いていなさそうだ。
「美しい神が乱れている姿も堪らなくそそられる」
人の顔をジッと見下ろしながら動くアルク国王は悪い顔。
国王という身分だから本性を抑えていただけで元からエス気質だったんだろうけど、顔を逸らせないよう人の掴んで悶えている姿を見ることを心から楽しんでいるのが分かる。
「もっと声を聞かせろ。防音をかけてあるのだから私以外の者には聞こえない。お綺麗な性交は望んでいないのだろう?」
若返ったことで行為自体も激しい。
執拗に俺の弱点を責めて楽しそうに眺めている。
培った年の功の余裕+肉体の若返りは危険すぎる。
雌性体で小柄になっている俺は特に奥の奥まで体内を荒らされてしまうから危険極まりない。
「抱けば抱くほど愛おしさが募るのだからどうしたものか。私にこのような感情を持たせた責任はとって貰うぞ」
抱きしめるように密着した身体は汗をかいているのにその感触に一切の嫌悪感はない。
アルク国王は感情を募らせているようだけど、俺の方もまるで元からアルク国王が自分のものだったような奇妙な感覚が生まれている。
「英雄。今この時の貴殿は私のものだ」
耳元で囁かれたそんな言葉にも不快感はなく、それどころか『何を当然のことを』と頭の片隅に思いながら果てた。
・
・
・
「無理をさせてしまったな。痛みはないか?」
「はい。大丈夫です」
俺の背中に口付けながら聞いたアルク国王。
通常の女性より頑丈な身体だけあって痛みはないけど、若返った影響か休むことなく行為が続いたことの疲労感はある。
「ただ、幾ら受胎しないとは言え無遠慮に出し過ぎです」
たしかに俺は妊娠することを心配しなくていい身体ではあるけど、散々出されたことに苦情を訴える。
「むしろ私は受胎してくれないかと思いながらしている」
「はい?」
顔だけ振り返ると目が合ったアルク国王は笑みを浮かべながら軽く口付ける。
「どちらの姿でも子を為せないことは聞いているが、創造主が奇跡のような確率でミスをしてくれないかと」
ええ……雌性体の俺を孕ませるつもりってこと?
驚く俺に笑いながら上から降りたアルク国王は隣に横になると今度は俺の髪を一摘みして毛先に口付ける。
「私はもう継承者を遺す役目は終えた。王妃たちのお蔭で多くの子に恵まれたからな。今はもう王妃との閨は行ってない」
「え?そうなんですか?」
「ああ。三妃との子を最後にそう決めた」
知らなかった。
だからアルク国王の性欲に付き合う王妃たちが苦労しなければいいけどと思っていたのに。
そこは王宮妃たちに頑張って貰うしかないな。
「言ったように私と王妃たちは国や御家のために成婚した者同士だ。互いの間にあるのは愛ではなく、閨も国のため王位継承者を遺す行為でしかない。王妃たちは立派にその役目を果たしてくれたのにいつまでも付き合わせる訳にはいかない」
ああ、そういう感覚なのか。
互いに閨の目的が王位継承者を遺すことだから、ある程度の年齢になったら教わるという『子作りの仕方』に倣っていれば問題なかったんだろう。
「きっかけは治療で今もなお治療だと分かっているが、私が抱きたいと切望して抱いたのは貴殿が初めてだ」
子作りのための性行為と快楽を得るための性行為の差。
快楽を得るための性行為がただ入れて出してなら『手抜きで気持ちいい訳ないだろ』と説教ものだけど、アルク国王や王妃は快楽が目的ではないから子供さえ出来れば良かったと。
「子はもう今居る愛児だけで充分だと思っていたが、国王としての務めではなく私個人が愛おしく思う者を抱いたことで芽生えた継承者ではない子が欲しいと思ってしまった。もちろん叶わない願いだとも理解しているが」
苦笑して俺に口付けるアルク国王。
王家に誕生した子供たちは国王や王妃の子というより国や国民のための子という意味合いが強い。
アルク国王自身も当然その意味合いの子供だった一人だ。
きっと王位継承者を遺す役目を終えたからこそ次は自分の子が欲しいと考えるようになったんだと思う。
未来の国や国民のために王家の者として相応しく育てなければいけない継承者を甘やかすことは許されないけど、他でもない自分の子で幾らでも親の愛を注ぐことの出来る子供を。
「子を為せない貴殿に言うのは私は酷い奴だな。すまない」
「いえそれは。子が為せないことに悩む人に言ったなら酷いですけど、私は子を欲しいと思っていないので」
そこは傷口のように気遣ってくれなくていい。
むしろ今でも出来なくて良かったと思ってるから。
愛せる自信が無い俺にとっては子を為す方が不安だ。
「子が欲しいという願いは叶えられませんが、国王の務めとは一切関係なく私を抱きたいという願いは叶えられます」
そう答えるとアルク国王は微笑して俺の頭を撫でる。
「そうか。私の最もの願いは治療後も変わらず貴殿とこうして過ごす時間が欲しいということだ。その願いを叶えてくれると言うのならばもう他を望むのは贅沢だな」
性行為では俺に子供が出来ないのは間違いないけど、王家という特殊な環境で生まれ育ったから芽生えた願いだと分かるだけに、願いは叶えられないと断言するべきじゃなかったか。
本人も叶わない願いだと理解してると言ってたくらいだし。
「陛下が奇跡を願うのは自由ですよ?陛下の個人的な願いに私が口を挟むべきではありませんので」
傷付けてしまったかなと心配になってそう付け足すとアルク国王は吹き出すように笑う。
「怒らせた時には誰よりも恐ろしいというのに、普段は美しくて心優しいのだから困ったものだ。じきに極刑になるとしても私の寵妃にして宮殿に閉じ込めてやろうか」
「駄目です」
抱きしめて笑いながら言ったことにダメ出しする。
もちろん冗談だと分かってるけど。
「今日は部屋に戻らず私の傍に居ろ」
「私はアルク国に関わる物事の報告と治療をするという理由で来ているので構いませんが、陛下はご公務があるのでは」
年の瀬に帰国する際に『次回の治療は早めに行う』と約束したのに予定外のことが続いてなかなか治療の日がとれなかったくらいだから、てっきり今日もアルク国王は忙しいものと思って公務に響かないよう早朝から登城したんだけど。
「期間が空いたために治療後に体調が崩れる可能性も考え一日空けてある。今日のことは事前に前倒ししてやっておいた」
「ああ、そうなんですね」
久々の治療だけに治療の影響でまた発熱したり身体が怠くなる可能性があるから、予定を組んで急遽中止になるということがないよう治療日ということで一日空けさせたんだろう。
今回の訪問は一週間以上前にアルクの師団長と話して国王に行事がないことと俺がヴェールに居る間の方がすぐ来れるという理由で決めたんだけど、一週間以上の余裕があったから忙しい国王の予定を一日空けるという強行が出来たんだろうけど。
「襲撃事件や裁判があったりで陛下もゆっくり休める状況ではなかったでしょうから、今日は治療に集中する日ということで国王のお勤めはお休みして身体を休めてください」
一番大変だったのは襲撃事件だろう。
王家の命を狙った国家反逆罪だから犯人の聴取にも国王は目を通さないといけないだろうし、広場はもちろん大聖堂まで爆破の影響を受けたアルク国は復旧工事にも時間がかかる。
目を通すスクロールだけでもかなりの量になってるだろう。
「貴殿が傍に居て休める自信はない」
「休まないなら貴賓室に戻ります」
「……仕様がない。善処しよう」
そんな仕方なしに言うことじゃないけど。
早朝から二回ヤったのにまだヤル気か。
「入浴前に魔法検査をしますね」
「ああ。今のところ異変は感じないが」
たしかに一度目は痛がる様子が見られたものの二度目を済ませた今はケロッとしている。
むしろ治療前より元気に見えるくらいに。
「陛下」
「ん?何か異変が出たか?」
「いえ。ただ、やはり若返ってますよね?」
「私が?」
魔法検査をかけながらジッと見れば見るほどそう感じて改めて若返っていることを話す。
「体調が安定して毎日鍛えていることで体力や筋肉が戻ってきたというのも無関係ではないでしょうが、35歳の御身体の肌艶やハリがただ鍛えたというだけでここまで若返るとは思えませんし、元から年齢より若く見えたもののお顔も若返ったように思いますし、下も元気になっていましたよね?勃った時の固さも元気さもまるで二十代のように」
明らかにおかしい。
これが数年鍛えた結果だというなら『筋肉もついて健康的になったから若返ったように見えるのか』と納得も出来たけど、アルク国王が昏睡状態になっていたのは年の瀬で、まだ三ヶ月やそこらしか経っていないのに。
「たまに会う者たちには若々しくなったとは言われるが、魔力神経以外は健康で身体を鍛えているからだろうと思っていた。下は使っていなかったから貴殿以外に言われてないが」
やっぱり俺以外にも若返ったと思う人が居たのか。
若々しいという表現以上に時間が巻き戻ったみたいに若くなってるのに、エルフ族の目は節穴かと思っていれば。
「ん?王宮妃宮殿にもお渡りしなかったんですか?」
「みなに報告があって行くことはあったが、個人に会ってはいない。そういう気分にもならなかったのでな」
「あれ?じゃあ下が元気だったのは溜まってたから?いやでも溜まってたからってあんなに角度も変わるものなのか?」
手を開いた時の指の角度で十代二十代三十代のアレの角度というけど、今日のアルク国王は明らかに以前よりも角度があって固くなっていたことは間違いない。
「まさかシモの事をそのように真剣な顔で悩まれるとは」
「失礼致しました。御無礼を」
「いや、話どころではない肉体関係をもつ相手なのだから謝る必要はないが」
謝った俺にアルク国王は苦笑する。
魔法検査の最中なのについ一人の世界に入ってしまった。
「若返りの薬を飲んでいたりしますか?」
「そのような薬があれば貴族がこぞって買い漁るだろうな」
「ですよね」
当然そんな薬はないか。
しかもアルク国王の変化は『若返り効果のあるコレでお肌がピチピチの二十代にターンオーバーしました』なんてレベルの話とは思えないし。
【ピコン(音)!検査結果が出ています】
『あ、はい。すみません』
検査結果が出ましたではなく『はよ見ろ』というように出てますと言われて中の人にも謝りながら画面を開く。
『よし、魔力神経以外は異常なし。発熱や怠さもなければ疲労状態にもなってないな』
連続で二回したから疲労にはなってそうと思ったけど、アルク国王が言っていたように体力が増えたようでそれもない。
『あれ?少しだけど広がってないか?』
【はい。開祖が馴染みつつある活性化された肉体と神族の体液による相乗効果で以前より治療効果が上がっています】
『ん?活性化された肉体?』
アルク国王の身体のことだよな?
活性化ってなんの話?
【開祖が魂に馴染むことで細胞が活性化します。検査結果から判断すると若返りもその活性化による影響と思われます】
『え?じゃあ馴染むほど逆行して若返るってこと?』
【開祖の肉体に戻らない限りそこまでの影響はありません。今後も馴染むことにより一定の若返りは望めると思いますが、それ以上は通常の精霊族より老け難くなったという程度かと】
いやそれでも凄いけどな?
俺たちの会話を聞いて検査結果から判断して教えてくれた中の人はほんっっっとに有能。
『検査も原因解明もありがとう。助かった』
【お役に立ちましたなら幸いです】
クズの俺には勿体ないくらい有能な中の人にお礼を言って検査結果の画面を開く。
「検査結果が出ました」
「ありがとう」
治療するごとに見せている病があれば載る項目と治療後の魔力神経の拡大図にプラスして、治療前の魔力神経の拡大図も履歴から引っ張ってきて並べて見せる。
「……ん?これは別々の部分の魔力神経か?」
「いえ。治療前にお見せした拡大図と治療後の今の結果で出た魔力神経の拡大図で、同じ部分を拡大してあります」
俺が言うより先に気付いたアルク国王。
今まで治療後の拡大図でも目視できるほどの変化はなかったけど、今回の治療では見て分かるくらい広がっている。
「妖精王が解放した開祖の特殊恩恵が陛下に馴染みつつあることで肉体の細胞が活性化したことと、私が神族の身体になったことによる相乗効果で治療効果が上がったようです。若返った理由も同じく陛下の細胞の活性化による影響かと」
「そ、そうだったのか」
俺の説明を聞きつつ目では拡大図を見ている。
目に見えて治療効果が出たことで驚きと喜びを同時に味わっているんだろう。
「まだ完治した訳ではないですが、第一段階だった軟化後の第二段階として御回復お慶び申し上げます」
胸に手をあて頭を下げるとギュッと抱きしめられる。
「ありがとう。これも貴殿と妖精王さまのお蔭だ。どれほど感謝を伝えても足りない。心からありがとう」
うん、鍛えてるんだからもう少し加減して。
そう思いつつも治療効果が目に見えて分かったことに俺も安心してアルク国王を抱きしめ返す。
「今後も継続して治療しましょう。完治するまで」
「ああ。これからもよろしく頼む」
この調子で治療をすれば予想したより早く完治しそう。
第三者の俺から見ると今でも充分立派な国王だと思うけど、病が完治して魔法が不得手というコンプレックスが消えた時に漸くアルク国王も自分に胸を張れるんじゃないかと思う。
神族の俺と縁の深い初代エルフ。
その人が本当の意味で自分が国王だと胸を張れるようになるまでしっかり治療を続けよう。
きっと妖精王もそれを望んでるだろうから。
喜びの伝わるアルク国王と笑みを浮かべた。
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気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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