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第十四章 変化
エラー
警備隊と警備官と医療師が到着した後は事情聴取。
門の外で見物していた人たちは警備隊から散開するように指示され居なくなり、一部の警備官と自警団は調査と亡骸の運び出しのために屋敷の中に入った。
パストルとレアンドルは増血剤の点滴を受けながら、他の人も診察を受けながらシートに座ったまま事情聴取を受ける。
レアンドルを刺したアメリア嬢も警備官から拘束されてすっかり大人しくなっていた。
「屋敷に火を付けたのもフーレ子息を刺したのも乳母だと」
「はい。自決する前に本人が話していました」
警備官に説明するシリル。
魔王と俺が救助に行った時にあの部屋に居て全ての状況を知っているのはシリルとアメリア嬢と数名の使用人だけだから、シリルが詳しく説明を聞かれている。
事の始まりはアメリア嬢の乳母。
二階の部屋の血の海の中で倒れていた人。
火災もパストルを刺したのもその乳母だった。
「理由は何か言っていましたか?」
「パストル子息の所為でアメリア嬢が後ろ指をさされることになると。婚約破棄の話し合いで揉めていてパストル子息やフーレ伯爵夫妻に強い殺意を持っていたようです」
話を聞いて溜息をつく。
婚約破棄の原因を作ったのはアメリア嬢なのに。
パストルはむしろ被害者だ。
「しかしなぜ屋敷に火を。ご令嬢の身も危険だというのに」
「そこまでは」
確かに屋敷に火を付けた理由が分からない。
自分が育てたアメリア嬢を可愛がっていて婚約破棄を申し出たパストルやフーレ伯爵夫妻に恨みを持っていたんだとしても、屋敷の中にはその可愛がっていたアメリア嬢も居るのに。
「火を付けた理由は分かりませんが、火災に気付いた時にはもう火の手が上がっていて部屋から出るに出られず、煙を吸って次々と倒れていく中でパストル子息が刺されました」
順を追って話すと、最初は火災に気付いたところから。
廊下は火が回っていて逃げられずどうしようとなっている間にも給仕のために居た使用人や侍女や侍従が次々に倒れていき、両親も倒れたのを見て声をかけながらしゃがんだパストルのことを乳母が背後から刺したらしい。
パストルの両親が倒れている息子を見て驚いたのも納得。
先に意識を失ったからフーレ伯爵夫妻はパストルが刺されたことを知らなかったんだと。
「出血量が多かったので救助を待っている猶予はないだろうと判断して、風魔法を使えるジェレミーにパストル子息を連れ先に逃げるよう言って、テラスから脱出させました」
そのタイミングで俺と魔王が現れた訳か。
確かにパストル一人を連れて行くくらいならジェレミーの風魔法をクッション代わりにして降りられる。
「そのあと乳母がフーレ夫妻も刺そうとしていてレアンドルと私で止めていたら、今度はアメリア嬢がレアンドルをナイフで刺して。そこまで見届けて満足したのか笑いながら首を切って自害しました。レアンドルに対しても幼い頃にアメリア嬢と婚約破棄したことを根に持っていたようです。そこまではモティフ夫妻も意識があったので二人からも聞いてください」
壮絶な状況が想像できて眉間を押さえる。
アメリア嬢を可愛がっていたから婚約破棄を申し出たパストルやレアンドルにも恨みがあったんだろうけど、毒を食らわば皿までというのか、自分が可愛がっていたアメリア嬢や雇い主の伯爵夫妻もろともパストルの家族やレアンドルの家族も揃ってる今日のタイミングで全員を殺すつもりだったんだろう。
「アメリア嬢のためと言うより自分が募らせた恨みや憎しみを晴らすことが目的の身勝手な犯行という印象ですね」
「恐らくは。亡くなっているのでもう理由を聞くことは出来ませんが、モティフ伯爵夫妻やご令嬢がそのあと屋敷から逃げられるかどうかは関係なかったのでしょう」
警備官とそう会話を交わす。
可愛がっていたアメリア嬢も居るのに屋敷に火を付けた理由は自分も含め全員で死ぬつもりだったから。
不名誉な理由でパストルから婚約破棄されたらもうアメリア嬢はろくな相手と結婚できないと悲観して、それならいっそ不幸になる前にと道連れにすることを選んだのかもしれない。
「モティフ伯爵夫妻も乳母が自害する時まで意識があったということですが、今までの証言に誤りがありますか?」
「最後の方は意識が薄れていて記憶が曖昧です」
「最後の方?どの辺りからですか?」
「ジェレミー子息がパストル子息を連れて逃げた辺りから」
警備官の質問に答えたのはモティフ伯爵。
魔王と俺が部屋に突入した時には既に夫妻も倒れてたけど、ジェレミーがテラスから飛び降りた辺りからモティフ伯爵も意識が薄れていたと言うことか。
「そのあと御息女がレアンドル子息を刺したかどうかは記憶が曖昧で断言できないと言うことですか?」
「はい。私も妻も」
「夫人も同じく分からないのですか?」
「はい」
「嘘をつくな」
証言するモティフ伯爵夫妻に言ったのは魔王。
「私どもは嘘など」
「夕凪真と俺が部屋に到着した時にはもう娘の隣に倒れていたが、まだ意識はあった。確認した俺と目が合ったことを忘れたか?意識を失ったのは俺が風魔法で外に運び出した後だ」
誰の味方でもない魔王が嘘をつく理由もない。
何より心の揺れで魂色が濁って見える魔王に嘘は通じない。
つまりモティフ伯爵夫妻が嘘をついているということ。
「被害者が目の前に居るというのに、まだ人を殺めようとした娘を庇うか。それとも自分の保身のため娘の罪を認めたくないのか?一度は自分が刺し殺そうとした男が治療で回復するやいなや嬉しそうに駆け寄る気狂いを育てた両親なだけある。自分が欲しいものは殺してでも手に入れようとする強欲な娘に育ったのはお前たちが甘やして何でも与えてきたからだ」
モティフ伯爵夫妻とアメリア嬢の前に行って見下ろす魔王。
「失礼な!私はき」
「誰が口を開いていいと言った」
何かを言いかけたアメリア嬢の口をガっと手で塞ぐ。
珍しくオコらしい。
そのまま顔を握り潰すのはやめてほしい。
「あの……あちらの方は」
「私の恋人で賢者のエヴァンジル公爵です。一緒にヴェールに来ていて消火活動と救助活動を手伝ってくれました」
「賢者公爵さまでしたか」
身分を聞いた警備官はそれ以上何も言わず。
賢者公爵も英雄の俺と同じ特級国民で、罪人を粛清する権限を国から与えられている人物だから。
まあ賢者公爵どころか魔族の王様なんだけど。
「お前たちが雇った者や気狂い娘の所為で多くの怪我人や命を奪われた者が居るのだから正直に話せ。不愉快だ」
怒りの滲むその低い声で身体がピリッとして、モティフ伯爵夫妻やアメリア嬢以外のみんなを囲むように魔障壁をかける。
「フラウエル、魔力を抑えろ。罪のない人まで酔う」
「ああ、苦しかったか」
魔王の魔力を浴びたのは少しの時間でも、その場に跪き苦しそうに胸を押さえるモティフ伯爵夫妻とアメリア嬢。
それほど魔王の魔力は人の精神や肉体を狂わせる。
「まだ聴取が終わってないのに」
「すまなかった」
魔力を抑えたことを確認して魔障壁を解き隣に行って三人に浄化をかける俺の頭に口付け失態をごまかす魔王。
不愉快だったからと言ってうっかり異世界最強の魔力を垂れ流すのは勘弁してほしい。
「人が亡くなっていても平然と嘘をつくモティフ伯爵夫妻や罪の意識のないアメリア嬢にはもう改心は期待しない。また苦しみたくなければ正直に話して終わらせろ。心や身体に傷を負った人や亡くなった人を静かに休ませてあげたい」
この三人に期待するだけ無駄。
娘を庇う親心か名誉を守りたい保身か分からないけど、全てを知る証人が少ないのをいいことに娘の罪を見ていないふりをする夫妻も、まだ自分は悪くないと人に食い掛るアメリア嬢も、自分たちの揉め事で人が亡くなったことに対する自責の念を一切感じられないから。
怒りよりも虚しさや諦め。
改心を望めない人たちに無駄な時間を費やすよりも早く終わらせて傷付いた人たちを早く休ませてあげたい。
「警備官。聴取の続きを」
「はっ」
浄化だけかけてあとは警備官に任せた。
・
・
・
聴取が終わったのは一時間ほど経って。
庭に寝かしていた亡骸も屋敷の中から運び出された亡骸も一旦は警備棟まで運ばれて安置されるから、後から到着した警備隊の魔導トラックに乗せられた。
安らかに眠れますように。
両手を組んで祈りながらトラックを見送る。
間に合わず助けてあげられなかった罪悪感も覚えながら。
「メテオール」
「レアンドル。点滴をして少し楽になりましたか?」
「ああ」
造血剤の点滴が終わったらしいレアンドルと一緒にシリルとジェレミーも俺の隣に来ると、魔導トラックが行った先を見ながら両手を組み瞼を閉じて祈った。
「改めて三人に紹介しておきますね。彼はブークリエ国の賢者のエヴァンジル公爵です。私がこの星に召喚されてすぐ知り合った方で、今は私の治療医で共同事業者で恋人です」
俺の直属の臣下のシリルや身柄を預かっているジェレミーはもちろん、ブークリエの本邸で暮らすレアンドルも魔王や四天魔や俺の補佐官のエディやラーシュと関わることになるから、今後のため魔王が何者かをしっかり伝えておく必要がある。
「エヴァンジル公爵閣下にご挨拶申し上げます。英雄公爵閣下の臣下を務めますシリル・バース・レーグルと申します」
「レーグル子爵が長子レアンドル・バースと申します」
「レーグル子爵が二男ジェレミー・バースと申します」
丁寧なボウアンドスクレープで挨拶をする三人。
賢者公爵の部分は嘘で申し訳ないけど、それ以上に敬う必要のある王への対応としては誤りじゃないから許してほしい。
「お前たちは血が繋がっているのか?」
「え?」
「確かに弟とそっくりだが」
レアンドルとジェレミーをジッと見比べる魔王。
「レアンドルの容姿のことでしたら少し前に魔力暴走を起こし瞳や髪の色が今の色に変化しただけで、私は二人の父でレアンドルとジェレミーも双子の兄弟で間違いありません」
「容姿の話ではない」
ハッと気付いて説明したシリルに否定しつつレアンドルに顔を近付けて首元の香りを確認する魔王。
「……エルフ?」
恐らく神魔族のレアンドルだけ魂色が違うんだろう。
魔王だけが見えている魂色は獣人のように尻尾や耳を隠せる種族でも生来の色を偽ることは出来ないと言っていたから。
レアンドルを治療する時に『俺の能力が効く身体だったことに感謝しろ』と言っていたし、レアンドルだけ自分の能力が効く魔族の香りや魂色をしていることが疑問なんだろう。
「シリルとレアンドルとジェレミーは親子で間違いない」
くんくんされて固まっているレアンドルが不憫で魔王の袖を軽く引っ張って止める。
三人が親子や双子の兄弟なのは事実だし、つい先日まではレアンドルもエルフ成分100%だったことも事実。
今度は俺をジッと見た魔王。
レアンドルも自分が神魔族に戻りかけてることはまだ知らないから、説明するのは二人になってからにしてほしい。
「そうか」
俺の必死な訴えが届いたのか追求するのを止めてくれた魔王はそれだけ言うと俺の頭に口付ける。
「少し無愛想で変わったところもある人ですが、能力も高いですし悪い人でもないのでよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺の香りをくんくんしている魔王の顔を押し退けながら言うと三人は頭を下げた。
「私からも改めて御礼をさせてください」
そう言ってその場にしゃがみ片膝を着いたレアンドル。
「御二方が治療をしてくださらなければ今頃私も亡くなった彼らと共に布に包まれ警備棟へ向かっていたことでしょう。英雄公爵閣下並びにエヴァンジル公爵閣下へ感謝申し上げます」
「息子だけでなく私も救出いただかなければここには居なかったかと。お救いくださいましてありがとうございます」
「私も回復していただいた一人。心より感謝いたします」
レアンドルに続いてシリルとジェレミーもその場に跪き御礼を言うと深く頭を下げる。
「そのくらいで。感謝の心はもう十二分に受け取りました。私の大切な婚約者とご家族が無事で良かった」
三人に目線を合わせてしゃがんで言うとレアンドルが抱き着いてきて、笑いながら背中を叩く。
全ての人を救うことが出来なかったことに心残りがない訳じゃないけど、助かった人が居ることを今は素直に喜ぼう。
屋敷の調査は続くものの聴取が終わった被害者はもう帰っていいとのことで、商業地区の屋敷に乗合馬車で帰って来た。
「あのさ、レアンドルのことだけど」
煤や血で汚れていたシリルとレアンドルとジェレミーは真っ先に風呂に入りに行って、俺は応接室で魔王と二人になって早速レアンドルの件を切り出す。
「以前のお前と同じで純粋なエルフではない」
「うん。やっぱり気付いてたよな」
「魂色がおかしい。純粋な精霊族でも魔族でもない」
魔王の隣に座って使用人が用意してくれたティーセットから二人分の紅茶を注ぐ。
「レアンドルは神魔族だ」
「……は?」
「いや、今は元神魔族って言うべきか」
ティーカップを渡して事情を説明する。
今はまだエルフ族だけど神魔族になる可能性があることも。
覚醒した俺のステータス画面の種族欄が人族から神魔族や神族に変化したように。
「みんなは魔法を暴走させた影響で容姿が変化したと思ってるけど、正確には今の白い髪と赤黒い目がレアンドルの実の姿。暴走させたのも神魔族の能力で、精霊族が扱う属性魔法にはない黒い炎が暴れ狂ってた。あれを見た時に真っ先に思い出したのがフラウエルの魔法だったから、半分エルフで半分神魔族の今のレアンドルにも魔族が混ざってるんだと思う」
だから精霊族には効かないはずの魔回復が効いた。
魂色が純粋な精霊族でも魔族でもない理由は神魔族だから。
「……あの少年も神だということか」
「今はエルフ族だけどな。少なくともステータス画面の種族はエルフ族のまま。だからレアンドル本人も自分が元神魔族だったことや神魔族に戻りつつあることも知らない」
神族から誕生した神魔族も神には違いない。
要は創造神の孫の立場にあたる種族だから。
「お前があの少年を伴侶に選んだ理由はそれか」
「うん。ステータス画面にエルフ族って出てる今はいいけど、俺の時のように神魔族って変わる日が来るかも知れない。その時に俺なら教えてあげられるし、もし種族で差別を受けても孤独にさせずに済む。それにまた神魔族の能力を暴走させたら周りの人も危険だからな。抑えられるよう鍛えさせないと」
シリルやジェレミーはそれでも息子や兄として受け入れてくれるんじゃないかと思ってるけど、他の人はまた別の話。
だからいつか種族が変わった時のために俺が神族だと知ってるアルク国王にはレアンドルが神魔族だと話しておいた。
もっとも俺が話す前から神の気配は感じ取ってたけど。
「神魔族は神族から誕生した種族だったか」
「そう。主神の精霊神と魔神が作った祖が神族で、神族が作った祖が神魔族。神族は主神の万能能力の一部を与えられた種族だから、神魔族は主神の万能能力の一部のそのまた一部の能力を与えられた種族って感じ」
主神が全能なら神族は壱。
神魔族は神族の壱の能力の内の一部を与えられた者。
一部と言っても全能の神の能力の一部には違いないから、神とは遠い存在になった生命にとっては危険な能力。
「いつか神魔に戻った時には少年も敬まわなくてはならない高貴な存在になるということか」
そんなことを言って紅茶で喉を潤す魔王。
今は魂色が不思議なエルフ族の少年の印象しかないから神魔族に変化した時のことがピンと来ないんだろうけど。
「前々から思ってたんだけど、フラウエルも本当は神族か神魔族なんじゃないかと思ってるんだけど」
「……は?」
口元からティーカップを離した魔王は俺を見る。
「俺が何者なのか記憶が戻ったのか?」
「そうじゃないけど。ただ俺が元から神族だったことが事実なら、神族の俺の対だったフラウエルも神族や神魔族だったんじゃないかと思って。それに最初会った時に精霊神がフラウエルのことを、ボクたちの子が作ったのが君って言ってたよな?今になって思うとそれって神魔族のことじゃないか?」
あの時はまだ神族だ神魔族だと知らなかったから『創造神から作られた人類はみな兄弟』とか思ったけど、今になって思い返せば『ボクたちが作った祖(神族)が作った祖(神魔族)』という意味だったんじゃないかと思う。
「そもそも普通の魔族が主神の魔神の血を色濃く継げるとは思えないんだよな。幾ら魔族の王とは言っても今までの魔王はフラウエルのようにオリジナルの祖の力は発現しなかったらしいし、普通の魔族にしては強過ぎるんだ。フラウエルは」
俺は神族だから神の能力(オリジナルの祖の能力)が使えるんだと納得できるけど、普通の魔族のはずの魔王がオリジナルの祖の能力を使いこなせていることがおかしい。
一生命に与えるには過ぎたる力だろう。
「……だが俺の画面には魔人族と出てるぞ?」
「俺のように変化する前例もある。そこは覚醒で変化するのか俺が思い出すことで変化するのか分からないけど。あと俺が居ないところでも精霊神や魔神と交信できてるよな?以前精霊神から貰った天啓でフラウエルも交信できるんだろうけど、少なくとも俺たち以外に神と交信できる人は居ない」
オベルティ元教皇のように【啓示】という能力で何かしらの神の声(恐らく精霊クラスの神)を夢の中で受けとれる人は居るけど、主神の精霊神や魔神と直接交信できる【天啓】という能力(しかも融合進化する能力)を与えられたのは俺たちだけ。
俺の半身だからという理由でぽんと与える能力じゃない。
「そう言われてみれば確かに。俺にとって魔祖は魔王なら当たり前に使える力で、天啓は精霊神が半身の様子を聞いたり俺が半身の役に立つようにと考え賜ったものと思っていたが」
魔王の当たり前は先代までの魔王には当たり前じゃない。
今はステータスに魔人族と出てるのが事実なんだろうけど、魔王もいつか神族や神魔族に変わる日がくる可能性は高い。
「厄災の王が俺たち二人を神魔の民たちと呼んだという話を以前したが、魔層の王という特別な役割を賜っている厄災の王の目には俺も神に準ずる者に見えているのかも知れないな」
有り得る。
デザストル・バジリスクはこの星の理を歪めるような話はしないから聞いても答えてくれなさそうだけど。
数千年の刻を生きてるデザストル・バジリスクにとっては今代の王たちもみんな駆け出しのひよっこな存在。
「まあ俺の正体に答えが出るのはお前が全てを思い出した時だけだろう。それに天地戦を控えた今自分が神族や神魔族だと分かっても困るしな。魔族を守ることが魔王の俺の役目だ」
神族の俺に役割があるように魔王にも役割がある。
そのためには自分が魔族でないと困ると。
俺は魔王が自分と同じ種族ならいいと思ってるから困ると言われて複雑な心境だけど、魔王には魔王の人生があるんだから俺がそこに対して何かを言うべきじゃないだろう。
魔王は魔族で俺は神族。
過去の俺と魔王は神族や神魔族という種族に生まれて対の者として一緒に居たんだろうけど、魔王が魔族に生まれ変わった今世での俺たちはきっと同じ種族になることは無い。
過去は過去。
今もその頃と同じである必要はない。
俺は俺の人生を、魔王は魔王の人生を生きればいい。
別々の個の存在として。
「半身?」
「ん?」
「いや……なんでもない」
「は?」
なにが『なんでもない』なのか。
呼んだのに一人で納得して話を終わらせないでほしい。
【ピコン(音)!魔王フラウエルとの古の縁が切れました】
「……は?」
【エラー。再接続できません】
「え?中の人?」
【エラー。再接続できません】
何が起きてるのか。
頭の中で中の人がずっと同じ言葉を繰り返している。
「半身?」
【エラー。再接続できません】
まるで壊れた機械のようにその言葉ばかり繰り返す中の人。
魔王との古の縁が切れたって言ってなかった?
それが原因でエラーになってるのか?
【エラー。再接続できません】
警報のように鳴り響く音と中の人の声。
頭が割れそうに痛い。
「半身!どうした!」
【エラー。再接続できません】
肩を掴んで俺を自分の方に向かせた魔王。
焦る魔王の目と目が合う。
フラウエルと俺の縁が切れた?
神族の頃から縁があったフラウエルと?
【エラー。再接続できません】
【エラー。再接続できません】
【エラー。再接続できません】
中の人が何度も繋ごうとしてくれているのかもしれないけど、その言葉だけが無常に続く。
【エラー。再接続できません】
【エラー。再接続できません】
【エラー。再接続できません】
あまりの痛みに気が遠くなってくる。
それでも繰り返される言葉は変わらない。
【エラー。再接続できません】
「……中の人……もういい」
声を振り絞ってそれだけ伝えると気を失った。
・
・
・
「***」
木々の生い茂る深い森に美しい湖。
瞼を上げた目に映ったのはそんな景色。
「見つけた」
「精霊神」
湖の畔で横になってた俺を上から覗くように見た精霊神。
「魔神が捜してたよ?」
「なんで?」
「え?知らないけど」
精霊神は俺の隣に座ると湖に両脚を入れる。
「冷たくないの?」
「冷たい?なに急に」
「え?水が冷たくないのかなって」
水が冷たくないのかと聞いただけで、そんな不思議そうに見られるようなことを質問した覚えはないけど。
「***は水が冷たいの?」
「冷たい。お湯なら冷たくないけど」
「へー。そうなんだ」
両脚をバタバタして水飛沫をあげる精霊神。
バタ足の練習でもあるまいし、子供か。
「だから冷た……くないな」
顔や身体に飛んだ水飛沫は冷たくない。
気温が高くて湖の水も温度が上がってる?
冷たくもなければぬるくも温かくもない。
「あれ?そう言えば***はどこ行ったの?」
「誰それ」
「え?***」
「知らない」
「どういうこと?」
「なにが?」
精霊神もきょとんとしてるけど俺もきょとん。
一体誰の話をしてるのか。
「精霊神。***。ここに居たのか」
「あ、魔神」
森の中から姿を現したのは魔神。
ホッとしたような表情で俺を見下ろす。
「さあ、帰ろう」
そう言うと魔神は俺を抱き上げた。
「ボクのことは運んでくれないの?」
「自分で飛べるだろう?」
「運んで欲しいなぁ。***を捜して疲れたのになぁ」
「一度でも疲れというものを体験してから言え」
文句を言いつつもふわりと精霊神を浮かせた魔神は俺を抱える腕とは反対の腕に精霊神を抱きかかえた。
「暫くは神殿で大人しくしておくよう言っただろう?まだ翼も戻っていないのに歩いて来たのか?」
そう言って俺の額に口付ける魔神。
翼の話を聞いて自分の翼を見るとボロボロ。
確かにこれでは飛べそうにない。
「ほんと***には過保護なんだから」
「私のことを言えないだろうに。***が神殿から居なくなったと言って捜していたのは精霊神もだろう?」
「だってまだ定着してないから」
「私も同じだ」
会話を交わして互いに頬に口付けた精霊神と魔神。
仲のいいことで。
「***はどうした。一緒に居るものと思えば」
「あ。ボクも聞いたんだけど、誰それって」
「ん?」
「誰か分からないみたいな言い方だった」
さっき精霊神にも聞かれたけど、誰それ。
知らない俺の方がおかしいような顔で見られても困る。
聞いたこともない名前なのに。
「……ひとまず神殿に戻ろう」
「うん」
魔神が開いた大きな黒い翼。
鴉色のそれを一度バサリと動かすと空に浮かぶ。
どこまでも続いていそうな青い空。
雲一つない。
空を飛んでいるのに風もなくて不思議な気分。
「***さま!」
「どこに行ってらしたんですか!」
真っ白の神殿の前に降りると待っていたのは二匹の狼。
同じ顔でぷくっと怒っている。
怒りながらも尻尾を振っているから嬉しいようだ。
「「お帰りなさい***さま」」
神殿の中から出てきたのは真っ白の衣装の二人。
一人は髪も肌も真っ白で目だけが銀色。
もう一人は髪と肌が真っ白で目だけが金色。
「ただいまって言わないの?人型種の挨拶なんでしょ?」
「うん。ただいま」
『お帰りなさい』
精霊神から言われて『ただいま』と言うと二匹の狼も二人の人も俺に『お帰り』と応えてくれた。
「***さま?」
「どうやら記憶が曖昧になっているようだ」
「え?」
「***のことを覚えていない」
魔神から話を聞いた二匹の狼と二人の人は俺を見る。
つまり***は俺の知り合いってことか。
名前を聞いても全く覚えがないけど。
「再生した影響だろう」
「記憶はそのままなのでは」
「そのはずだが」
再生ってなに?
何の話をしているのか分からない。
「すぐ思い出すと思うよ。***は***の***だし」
「***が居ないのは***が忘れてるから?」
「ああ。彼奴の方から***の傍を離れるとは思えない」
「***だからね。思い出したら姿を現すよ」
俺には分からないけどみんなは知ってる人らしい。
どうして忘れたのか分からないし、俺の知り合いでもあったなら忘れて申し訳ないけど、全く聞き覚えがない。
「一緒に水浴びしようか」
「今から?」
「好きだよね?」
「うん」
神殿の床に降ろされると精霊神が手を繋いで聞いてきて、水浴びは確かに好きだと思って頷く。
「水浴びの支度を」
「「はい!」」
ぴゅんと走って行った二匹の狼。
早いな。
「私どもはマッサージの支度をして来ます」
「うん。ありがとう」
マッサージまでしてくれるらしく二人の人もふわりと翼で飛んで行った。
「支度が済むまで果物でも食べるか?」
「果物?」
「神の実だ。好きだろう?」
「うん」
好きだと思って頷く。
精霊神と魔神はあまり食べないけど俺たちは好き。
俺たち?
たちって誰のこと?
意識せず思ったけど。
「ほら、行くぞ」
「食べ頃の実がなってるといいね」
「うん」
もう一度魔神に抱き上げられて頷いた。
【エラー。再接続できません】
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彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。