貴方の憎しみ譲ってください

REON

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二章

2

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ほんと脚長い。
真っ黒の髪に真っ黒の服。
細くてもしっかり付くものは付いてて、歩く後ろ姿もやっぱりしなやか。

「もう少しだから」
「はい」

振り返っても美形。
絶対に落とす。

あれ?あれれ?
見とれながら着いて来たけどこの方角はもしかしてホテル街。

お兄さん女子高生イケる口?
もしかして女子高生だから声かけちゃった系?

左右に並ぶピンクな看板。
この時間だからネオンは灯ってないけど。
お兄さんはどの店にするか悩んでるのかなかなか入らない。

どこでも大丈夫。
汚いおじさんだったらリッチなホテルじゃなきゃ嫌だけど、お兄さんならどこだって文句ないから。

「着いたよ」
「…………」

お兄さんが入って行ったのはホテル……じゃなくて公園。
ここじゃさすがに出来ないよお兄さん。

「なに?猫が」
「ここ猫が多いんだ」

公園のあちらこちらから近づいて来た猫。
よく来て餌付けでもしてるのかな?

「座りなよ。ここ」

ベンチに座ったお兄さんは隣を指さす。
距離が近いから良いか。
制服が汚れないと良いけど。

「ヤダ待って!毛がつく!」

私が座った途端に猫が膝に飛び乗り慌てて立ち上がる。

「こっちおいで。制服についたら取るの大変だから」

お兄さんが話しかけるとまるで言葉を理解してるかのように猫が1匹2匹とお兄さんに寄り添った。

「立ったまま話す?」
「座ります」
「そ。隣どうぞ」
「はい」

不思議な人。
なんだか掴みどころがない。

「それで?僕は何を聞けば良いのかな?」

いきなり本題に入った。
まだ考えてなかったのに。

「じゃあ私がどんな虐めをされてたかを」
「分かった。聞いてるね」

どんな虐めなのか話すのは簡単。
そんなことは考えなくても話せる。
ただ、虐められてたのは私じゃなくて優香だけど。

優香にした虐め。
悪口や厭味はもちろん、体操服を捨てたり。
そうそう。チャットでも優香の話をしてたっけ。
私は打つのが面倒であまり書きこまないけど『うた』ってハンドルネームを使ってる。

猫を撫でながら「うんうん」と聞くお兄さんに、七海たちが書いたことを自分が書かれたことのように話して聞かせた。

「そっか。辛かったね」
「……はい」

ハンカチで目元を隠すとお兄さんは神妙な声で返してくる。
我ながら良い考え。
これで良い雰囲気になるはず。

「虐めっ子って可哀想だよね」
「え?」
「頭の出来が」
「はい?」

予想外の言葉が返って来てお兄さんを見る。

「心が貧しいよね。顔も凄いブスそう。性格は顔に出るって言うけど性悪なことが表情に出てて凄いブス。よくその酷い面で恥ずかしげもなく外を歩けるなって思うよ。人を虐めて自分が優位に立ってるつもりなんだろうけど頭も心も貧しいよね。その単純でくだらない優越感が。つついたら簡単に砕け散りそうな薄っぺらい優越感。ブスが調子にのっててウケる」

……このお兄さん、カッコイイけど口が悪い。

「ブスブス言いすぎかと」
「ん?なんで君が怒るの?君を虐めてた子の話なのに」

そうだった。
私は虐められてる側として話してたんだった。

「もう忘れちゃいなよ。虐めてた奴のことなんて」
「そうで」
「なんて、忘れられないよね。虐められた側はそれこそ死んでも呪ってやるってくらい虐めた奴のことを憎んでるのに」

こんな話よりもっと色気のある話をと思って同意しようとしたのに、お兄さんは私の言葉を遮り口唇で弧を描いた。

「嘘は感心しないなあ……ちゃん」

その名前を聞いて血の気が引く。
この人どうして。

「人を呪わば穴二つって知ってる?人に害を及ぼせば自分にも返って来るってこと」

お兄さんは立ち上がってゾッとする綺麗な笑みを浮かべる。

「始まるよ。憎しみの連鎖が。自分がしたことを身を以て知ると良い」

私に口を開かせる余裕さえ与えてくれないまま、お兄さんは軽快な足どりで公園を出て行った。

憎しみの連鎖?
何を言ってるの?
ううん。それよりどうして私が『うた』だと知ってたの?
一緒にチャットをやってた久美たちしか知らないのに。

怖い。
急に誰かに見られてる気がして走って公園を出た。



「葬儀は終わったの?」
「うん!」

家まで走って帰って飛びこむようにベッドにもぐる。
まだ外は明るいのに怖い。

なんだったのあの人。
憎しみの連鎖って何が始まるの?
自分がしたことって?

身体はブルブル震える。
走ったことだけが理由じゃなく呼吸もあがっている。

「琴子。食事は?」
「要らない。いま食べたくない」
「……そうよね。クラスメイトのお葬式だったんだから。気が利かなくてごめんね」

そんなのどうでも良い。
葬式は強制だから行っただけ。
そんなことより私自身が今大変なの。

「後で食べられそうなら少しだけでも食べてね」

ドアの外で声をかけていた母親が階段を降りる足音がした。

「何で私が散々な目に合うの?恥かくし変な男に会うし」

カリカリカリカリ。
あ、いけない。
また爪を噛む癖が出ちゃった。

「ツトム先輩が余計なこと言うから。ほんと空気読んでよ」

あんな先輩のどこが良かったの七海は。
良いのは顔だけじゃない。
空気を読めないし人のことを睨んで感じ悪いし。

カリカリカリカリ。

優香のお兄さんも顔だけだったなあ。
あんな大勢の前で恥かかされて最悪。
妹が死んで泣くってシスコンなの?
気持ち悪い。

カリカリカリカリ。

イケてたお兄さんだってそう。
どこからどこまで知ってて声をかけたのよ。
ブスブスブスブス言いすぎだから。
顔が良ければ許される訳じゃないんだからね。

カリカリカリカリ。

大体、七海が優香で遊ぼうって言ったのに私が悪いの?
別に優香のことは何とも思ってなかったけどさ。
やらないって言ったら私がハブられるんだからやるでしょ。

カリカリカリカリ。

クラスメイトも自分たちだって止めなかった癖に。
恥かかされて当然のはずがないでしょ。
よく参列出来たって強制なんだから行くしかないじゃん。
アンタたちもよく参列したわ。

カリカリカリカリ。

ああ、もう。
ほんとツイてない。
こういう時は財布に奢らせるに限る。

カリカリカリカリ。

今日はどれにしようかな。

カリカリカリカリ。

この財布は給料日前。
完全にアウト。

カリカリカリカリ。

この財布は給料日後だけど色々と口煩い。
今日は笑って聞ける余裕ないからダメ。

カリカリカリカリ……カリカリカリカリ……カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……

「決めた」

今日の財布はこの人。
ちょっと変態だけど好きなもの食べさせてくれる。

〝会える?少し落ちこんでるから話を聞いて欲しいなあ。〟

送信っと。

「あ、爪がボロボロ。つけ爪すればいっか」

お風呂に入ってスッキリしよ。



午後8時繁華街。
今日もここには人が溢れている。

「ウタちゃん」
「遅ーい!」
「ごめんごめん。仕事だったから」

この人が今日の財布。
既婚で子なしの46歳。
身長体型普通。顔も平凡。
でもお金持ち。

「今日は違うとこに行かない?」
「違うとこ?」
「ここで三日前に事件あったじゃん。警察が多いんだよね」
「あ、そっか」
「ウタちゃんも高校生だからちょっとね」
「分かった。他のとこ行こ」

私も補導されたくないし。
久美たちと同じ学校のクラスメイトなんて知られたら面倒。

「車で来てるから」
「そうなんだ」
「たまには別の場所に行こうと思って」
「返事くれた時に言ってくれたら別の場所で待ったのに」
「連絡した後に事件のこと思い出したから」

まあそうだよね。
私と違って久美たちと知り合いな訳じゃないから。
ここに居る人たちだって事件のことは知ってるだろうけど、わざわざそんなこと考えて歩いてる人なんて居ないだろうし。

「警察が居なさそうな場所が良いよね」
「うん」
「ここからは離れちゃうけど帰りは送るから」
「分かった」
「お腹空いてるよね?」
「うん」
「何が食べたい?」
「任せる。美味しいの」

車に乗ってはすぐに走り出す。
あ、ちなみに名前は孝介さん。
苗字は知らない。興味もない。

「どこまで行くの?」
「繁華街じゃないとこ」
「変なとこに行かない?」
「行きたいなら行くよ?」

行きたい訳ないじゃん。
46歳のオジサンが何を言ってるの?

「孝介さんのこと信じてる」
「そんなこと言われたら食事に行くしかないなあ」
「優しいもんねー。だから大好き」
「俺もウタちゃん好き」
「両思いだね」

チョロいオジサン。
奥さん、このオジサンの何が良かったの?
財産かな。うん、財産だな。

「ウタちゃんの着てるそれって前回買った服だよね?」
「そう。孝介さんと会うから着て来たの」
「似合うね。可愛いよ」
「ほんと?お世辞でも嬉しい」
「ほんと。今日は時間的に無理だけど、また買いに行こう」
「嬉しい!大好き!」
「ほら。運転中は危ないよ」

そんなこと言って顔がだらしないけど。
ごめんねと笑顔で言って掴んでいた腕から手を離した。

オジサンなんてどれも大して変わらない。
女子高生ってブランドに弱くてチョロい。
目的だって顔に書いてある。

さすがに私もオジサンがみんなこうとは思ってないけど。
私が知ってるオジサンは、ってこと。
家の父親も含めて。

私のはお金さえ持っていればそれで良い。
財布の家庭を壊すつもりもない。
飽きたら連絡が途切れても良い。

家の父親も早く飽きれば良いのに。
ブサい父さんなんて母さんしか愛してくれないんだから。

今はせいぜい貢ぐと良いよ。
母さんの愛が尽きるまで。
尽きた後に母さんしか愛してくれないって知れば良い。

後悔して醜い生涯で終われ。
そのブサい顔にお似合いの死に方で。

「ウタちゃん。大丈夫?」
「あ、ごめんね。黙っちゃって」
「落ちこんでるって言ってたね。そのこと考えてたのかな?」

ああ、書いた。
ただの口実だったけど信じてたんだ。

「友達と喧嘩しちゃって。でも考えたら私が悪かったかも」
「偉いね。自分が悪かったって言えて」
「大事な友達だから。これからも友達で居たいから謝る」
「それが良い。今日は美味しい物をたくさん食べて元気出そ」
「ありがとう。話を聞いてって言ったのにごめんね」
「全然。会えただけで嬉しいよ」

今更理由を考えるのも面倒で話を終わらせる。
呼んだのはただ遊びに出て憂さ晴らしがしたかっただけ。
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