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二章
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しおりを挟む「ご馳走さまでしたー」
「満足してくれた?」
「うん。お腹いっぱい」
繁華街からかなり離れた土地で食事をした。
いくら何でも警戒しすぎじゃないかと思ったけど、食事は美味しかったからまあ良い。
「この後どうする?」
「帰る。遠いし」
「このまま帰るの?」
「だって戻るのにまた時間かかるよね?」
「そうだけど」
もう満足したから帰りたい。
いつもはカラオケに行ったりするけど今日はそんな気分じゃないし。
「門限に間に合わなくなっちゃう」
そんなものないけど。
母親は夜になると清掃の仕事に行ってるから。
「1時間だけ」
「また今度ね」
車に乗ってもグタグタ煩い。
いつもはここまでじゃないんだけど。
面倒だから切り時かな。
「ウタちゃんって〇〇高だよね」
高校名を言われてパッと顔を見る。
「〇〇高の1年生だよね。刺された子たちと同じ」
「………」
「学校側も大変だよね。偏差値が高くて真面目な校風が売りの学校だったのにこんなことになって。実際には生徒が深夜の繁華街で男ひっかけて遊んでるような学校だったんだから」
どうして知ってるの?
学校の名前なんて今まで訊かれたことがないのに。
「オジサンを手玉に取ってるつもりだったんだろうけど、その辺はやっぱ子供だけあって考えが甘いよね。唐沢琴子ちゃん」
慌てて降りようとしたら車を急発進させてオジサンは笑う。
「何する気!?」
「やることは1つしかないよね。目的はそれだけだし」
今まで食事と買い物で満足してたのに。
オジサンが若い子を連れて歩けるだけで満足しなさいよ。
「もしかして自分に物凄い価値があるとでも思ってた?ないよそんなもの。辛うじて価値があるのは若い身体だけ。好きな物を食べさせて何か買ってあげてればその内と思って待ってたけど、もう良いや。価値のない子にこれ以上はめんどくさい」
ムカつくこのオヤジ。
人のこと見下して。
「琴子ちゃんみたいな子って人を平気で馬鹿にするけど自分が馬鹿にされると怒るよね。それも頭が悪いなって面白かったけど、さすがにそれが続くとね。いい加減に飽きるし腹が立つ」
頭悪いって、そんなこと思ってたの?
いい子とか偉いとかしか今まで言わなかったのに。
「今まで琴子ちゃんに遣った分を返して貰うよ」
「お金なんてない!」
「金がないなら別の物で良いよ」
「警察に行くから!」
「行けば?学校や親に援交がバレても良いなら」
バレるのは困る。
学校はまだしも親はマズい。
「ちなみに本気だよ。嫁さんにバレたからもう別に良い」
「はあ!?」
「嫁さんが雇った探偵の浮気調査で分かったんだ。琴子ちゃんの情報。まさか俺が学校も本名も知らずに浮気してるとは思わなかったんだろうね。見せられて知ったよ」
そんな物で。
奥さん空気読んでよ。
余計なことして。
「慰謝料を払って離婚する。そのあと援交で捕まるかもね。だからその前に琴子ちゃんから返して貰う」
何もかも失った人の強み。
自棄になってるから何も怖くないんだ。
誰かに助けて貰おうとスマホを出す。
待って……誰に連絡すれば良いの?
久美たちはもう居ない。
バレるから親にも話せない。
「連絡するんじゃないの?して良いよ」
「………」
「もしかして助けて貰える人が居ないのかな?性格が悪いから友達さえ居ないんだね」
居たよ。三日前までは。
今は居ないだけでまた作れば良い。
ただ、今は誰も居ない。
「降りて」
「は?」
「ほんと琴子ちゃんって何の価値もない」
停まったのは全く知らない場所。
どこなのここ。
「降りないならホテル行くよ」
それはイヤ。
冗談じゃない。
ドアを開けるとオジサンは笑う。
「自分の顔を鏡でよく見れば?男を手玉に取れるような価値ある顔じゃないから。自分のことをもっとよく知らないと痛い目にあうよ?じゃあね」
援交しといて偉そうに。
自分の方が平凡顔の癖に何を言ってるの。
こんな所で置き去りにするなんて最低。
「どうやって帰るかな」
スマホで地図を開いて場所を確認する。
全然知らない名前の場所だし、車でかなりかかったんだから歩いて帰れる距離でもない。
「他の財布に迎え来させよ」
車を持っている財布に片っ端から連絡をする。
他の財布に置いて行かれたとは言えないから友達に変えて。
『無理。行ったら帰りが夜中になる。他の男に頼め』
『友達?高校生なのに車乗ってるんだ?下手な嘘。じゃ』
『貢がせてる男にキレられたんだろ?自業自得。歩け』
返って来たのはそんな返事ばかり。
一気に送っちゃったから今更〝友達〟の部分を別の人にも変えられない。
『行ってやっても良いよ。ヤラせるなら』
『迎えに行ったらやらせてくれんの?』
どいつもこいつもムカつく!
ヤラセるなら今のオジサンとしてるって言うの!
見返り求めすぎでしょ!
『そんな意地悪なこと言わないで、迎え来て♡』
『キモ』
『だから歩けよデブ』
『誰がヤラセもしない女迎え行くんだ。ガソリンの無駄』
『何それ。自分が可愛いとでも思ってるの?ジョーク?』
『じゃ、って言ってんだから送って来るなよ。空気読め』
なにコイツら。
性格が悪いのばっかり。
しょせん財布。
『ずいぶん遠くまで行ったね。大丈夫?』
性格の悪い奴ばっかりの中にマトモなのが1人。
やっとマトモな返事が来た。
『そうなの。喧嘩したら降ろされちゃった。助けて』
『見返りは?』
「はあ!?女子高生と一緒に居られるのが見返りでしょ!」
『私と車の中で二人っきり♡とかかな?』
『それのどこが見返り?』
『見返りにならない?』
『ならない。せめて人並だったら良かったのに』
『馬鹿にしてる!?』
『え?本当に気づいてなかったんだ?貢いで欲しくて気づいてないフリしてるんだと思ってたのに本当に馬鹿だったんだな。そりゃ途中で降ろされて置いていかれもするよ。ご愁傷さま』
「ムカつく!」
頭にきて変な返事をした財布の連絡先を消す。
いい加減に誰がマトモな返事よこしなさいよ。
変な人は消し終わってしばらく待っても返事がこない。
何で連絡返さないのよ。
確認してもやっぱり返事はきてない。
「何で無視?連絡したんだから返しなさいよ」
返事が来てない人にもう一度送っても1人も返して来ない。
「頭きた。電話にしてやる」
声を聞けば誰か迎えに来るはず。
そう思って電話をかけると〝お客さまのおかけになった~〟のガイダンスが流れる。
まさかと思って残った数人にかけると全員同じガイダンスが流れて驚いた。
番号を変えたか着拒されてる。
だから連絡をしても返事がこなかったんだ。
「え、じゃあどうやって帰るの?」
本当に誰も居なくなった。
久美たちも財布も。
「何これ。気持ち悪い」
一人二人ならまだ分かるけど、全員?
偶然なんて思えない。
今まで上手くやってたのに。
『始まるよ。憎しみの連鎖が』
今日会った男の言葉を思い出してゾクリとする。
まるでこうなることが分かっていたみたいで怖い。
駅まで行って電車で帰ろ。
そこに1人で居るのが怖くて歩きながら地図で駅を検索する。
「えっ!駅までこんなにあるの!?どんな田舎よ!」
歩いたら駅まで1時間くらいかかる。
でも立ち止まるのも怖いし、みんな迎えに来ない薄情者だから歩くしかない。
「ほんと最低!どいつもこいつも最低!」
怖いのとムカつくので大きな声で文句を言いながら歩いた。
「琴子!どこ行ってたのっ!」
何とか電車で帰って来たものの疲れてぐったりしてるのに母親から怒鳴られる。
「友達と遊んでたら時間に気づかなくて」
「友達って誰。久美ちゃんたちはもう居ないのに」
あ、そうだった。
いつも遊んでた久美たちは居ないのに失敗。
「別の子。久美たち以外にも友達くらい居るよ」
「じゃあもうその子と遊ぶのはやめなさい!」
「クラスメイトが死んだら遊んじゃいけないの?」
「夜遊びのことを怒ってるの!どうして話をすり替えるの!」
面倒くさい。
なんで今日に限って早く帰って来てるのよ。
「煩いなあ。そんなだから不倫されるんだよ」
母親の弱点。
これを言うといつも黙る。
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言われることが分かってて余計なこと言わなきゃ良いのに。
あんな父親に縋ってて情けない。
だから調子にのって不倫するんだよ。
階段を駆け上がって自分の部屋に入る。
もう今日は疲れたから寝よ。
明日学校に行く前にお風呂に入れば良いや。
明日新しい友達を作らないと。
その人たちと遊びに行って新しい財布も見つけよ。
今までの人たちはみんなバイバイ。
ベッドに入ってそのまま眠った。
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