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二章
【琴子(ことこ)】1
しおりを挟む────────何が起きたって言うの?
友人が4人亡くなった。
深夜の繁華街で通り魔に襲われて。
いつも一緒に遊んでるけど、私は熱を出して寝ていた。
朝になったらもう熱は下がってたけど、母親から物凄い勢いで起こされ話を聞いて驚いた。
1階に駆け下りテレビでニュースを見ると友人の名前が。
久美、七海、深雪、真美の4人。
同じ高校に通うクラスメイト。
久美は小学校の時から同じ学校に通っていた。
久美の家に電話をしても誰も出なくて、七海と深雪と真美の携帯に連絡をしても返事がこないまま。
学校に行けば詳しいことが分かるかもと急いで支度をして家を出ようとすると担任から電話が来て「取材には答えないように」と言われた。
これだけニュースになっているから報道陣がいるんだろう。
母親からも関わらないよう念を押されて家を出た。
走って行くと学校の前には報道陣。
久美たちは被害者のはずなのにまるで犯人みたいに。
「君、何年生!?」
「ニュースはご覧になりましたか!?」
「刺された子たちのことは知ってる!?」
登校する生徒に群がるハイエナ。
私にもかかる声を無視して走って校門をくぐった。
「琴子!」
「七海たちが刺されたってほんとなの!?」
クラスに行くと数人が走ってきて私を質問攻めにする。
「ちょっと待って、私も何も知らないの」
「いつも一緒なのに昨日は一緒じゃなかったの?」
「熱が出たから家で寝てた」
「たまたま?一緒に行ってたら刺されてたね」
なにその言い方。
でもクラスメイトが言ったそれは事実で。
……ゾッとした。
「席につきなさい!」
気性荒く教室へ入って来たのは本田。
このクラスの担任。
まだ始業前に来ていきなり怒鳴るなんてヒステリーばばあ。
「みんなニュースで見たと思うけど」
「本田先生。ちょっと」
「はい」
みんなが席についたことを見て話し始めたと思えば教頭が来て本田を呼ぶ。
「えっ!?」
廊下から聞こえた本田の声。
何があったのかとみんながザワザワする。
しばらくすると本田が戻って来て、教頭も後のドアから教室に入って来た。
「……みんなニュースで見たと思うけど、このクラスの重田さんと鈴木さんと安さんと山本さんの4人が昨晩亡くなりました」
教頭が居るから本田は小さくなりながら話す。
やっぱり久美たちが死んだって話は事実だったんだ。
「それからもう一人。濱名さんが先ほど通学途中で事故にあって亡くなったそうです」
優香が?
久美たちのことはニュースで知っていたみんなも優香が死んだことは突然で驚きを隠せずにザワザワする。
久美と七海と深雪と真美。
そして優香。
亡くなった5人の名前を聞いてゾッとする。
七海たちは優香を虐めていた。
ただ気に入らないという理由で。
昨日それがバレて主任教師からたっぷり説教をされたばかり。
……私だけ。
優香を虐めていた一人の私だけが生き残った。
虐められていた優香まで死んだのに。
これ、ただの偶然なの……?
「これから全校集会を開きます。体育館に集まってください」
それだけ伝えると本田と教頭は教室を出て行った。
「濱名さんまで事故って」
「このクラスだけで5人も亡くなるって何なの?」
「怖。このクラス呪われてんじゃん?」
「やめろよ。変なこと言うな」
クラスメイトは女子も男子も口々に会話を交わす。
この状況で冷静になるのは難しいと分かるけど。
「琴子だけ生きてる」
どこからか聞こえた声でパッと顔をあげる。
誰が言ったのか分からない。
みんなが私を見ていた。
────────それが三日前の話。
今日は優香のお葬式。
優香の父親が喪主。
家がお金持ちだけあって優香の葬儀は参列者が多い。
父親の職業って偉大。
何をしてる人なのか知らないけど。
あ、ツトム先輩。
優香を好きだった先輩は友達に肩を借りて立ってる状態。
三日前の全校集会で校長が久美たちの話をしたあと優香が事故で亡くなったことも〝おまけ〟のように話したら、その時初めて知ったのかツトム先輩は泣き崩れた。
優香が死んだ話はおまけだったのに。
事件と事故じゃ重大さが違う。
それなのに空気を読まずに優香のことで泣いてた。
男でもあんなに泣くんだ。
恥ずかしくないのかな。
そう思った。
ここでもツトム先輩は泣いている。
今日は取り乱してないけど、やっぱり恥ずかしい。
肩を貸してる友達も恥ずかしいんだろうなあ。
と思ってたのに。
肩を貸してる先輩たちまで泣いてる。
さすが類友。変な人たち。
そんなことより久美たちのお葬式はいつだろう。
事件だから優香みたいにさっさと出来ないのかな。
ああ、早く終わらないかなあ。
つまらない。
欠伸を我慢していると涙が滲みゴシと拭ったタイミングで優香のお兄さんと目が合った。
今日もカッコイイ。
優香も顔は良かったけど、兄妹だけあってお兄さんも美形。
タイミングよく涙が出てくれたから『妹のために泣いてくれてる子』とでも思ってくれたかな?
そのあとは前を向いているお兄さんの横顔を眺める。
今回のことをきっかけに近づけないかな。
七海ももう居ないし。
まあ本当は居ても関係ないんだけどね。
数ヶ月前に逆ナンで声をかけた大学生の中にたまたま優香のお兄さんが居て一緒にカラオケに行った。
カラオケに行ったと言ってもお兄さんは一緒に居た友達から誘われて断れず付き合っただけで、歌いもせず座っていただけ。
押しに弱い人なんだと思う。
私たちだけじゃなく一緒に居た友達とも『話しかけられれば返事をする』程度で、ただジュースを飲んで画面を見ていた。
カラオケの後に強引にアドレスだけは聞き出したものの、勉強があるからと一人だけ帰って行った。
七海は次の日お兄さんを落としたとか言ってたけど絶対嘘。
久美と真美もお兄さん狙いだったから嘘をついただけ。
言わなかったけど多分深雪も。
そのくらいお兄さんは一人だけ別格にかっこよかった。
どうして嘘だと分かるのって?
七海は嘘をつくと手の指をしきりに動かすから。
分かりやすい癖なのにみんなが気づいてないのが凄いけど。
もしくは分かってるけど七海がどんな嘘をつくのか楽しんでたのかもね。
その七海も真美も久美も深雪も居ない。
だったら私でしょ。
行くしかない。
友達なんてこんなもの。
子供の頃から友達だった久美が死んだことはさすがにショックだったけど、ツトム先輩みたいに泣くほど悲しくない。
それでも友達かって?
友達だよ。
そうだね、良いね、可愛い、可哀想、分かる。
それだけ言ってれば友達って成り立つの。
正確には私たちはかな。
他の友達同士はどうなのか知らないから。
でも私たちにはそれで良かった。
もし私じゃない誰かが生き残っても同じだったと思う。
生きてる間はずっと友達。
死んだらそれでおしまい。
軽くバイバイ。
葬儀が終わって棺を運ぶ時。
よし、今だ。
そう思ってクラスメイトの列を抜けてお兄さんに近づく。
最初は『この前はご馳走さまです』で良いかな。
「牧君。今日はありがとう」
「……お兄さん」
ちょっと邪魔。
いつの間にお兄さんの近くに来てたの?
まだ向こうで泣いてて良かったのに。
ほんと毎回空気読んでよ。
「みんなも。毎日優香に会いに来てくれてありがとう」
え?死んでから毎日来てたの?
きしょ。
「今日はお別れさせて貰いに来ました」
「優香も喜ぶよ。本当にありがとう」
お兄さん善い人すぎでしょ。
付き合ってた訳でもないのに毎日来るとか迷惑だし。
早くどこかに行ってよ。
邪魔でイライラしているとツトム先輩が私の方を向く。
瞬く間にその眉根は寄った。
「よく顔出せたな。虐めてた癖に。どんな面の皮してんだ」
は!?それお兄さんの前で言う!?
「ツトム。今は我慢しろ」
「濱名さんの見送りめちゃくちゃにしたくないだろ?」
「……すみませんでした」
ツトム先輩は友達から止められてお兄さんに謝る。
ほんと空気の読めない人。
「帰っていただけますか?」
お兄さんが言ったのはツトム先輩……じゃなく私。
「貴女には見送って欲しくありません。お帰りください」
「待ってください。私は虐めてなんか」
「帰ってくださいっ!これ以上妹を侮辱するな!」
信じられない。
どうして私が恥かくの?
最低。泣いてるし。
恥ずかしいひ……と
「言われて当然だよね」
「よく来ようと思ったよね」
「先生も何で呼んだの?普通虐めてた子は呼ばないでしょ」
「一応じゃん?悪いと思ってたら辞退するだろうし」
「恥ずかしくないのかな。平気な顔で参列して」
本当に信じられない。
どうして私が悪者扱いされてるの?
怒鳴られて恥をかいたのは私なのに。
「あったまくるっ!」
敷地を出てこれみよがしに置いてある花輪を蹴る。
「なんで私が優香のせいで恥かくのよ!」
花輪に書かれてる名前だけでも憎らしい!
クラスメイトだって止めなかったんだから同じでしょ!
「死ね!」
ああ、死んでた。
「お嬢さん。花輪を蹴るのは感心しないなあ」
「は!?余計なおせ……わ」
誰この人。
物凄くカッコイイ。
優香のお兄さん以上に。
「何があったのか分からないけど、死者への冒涜だよ?」
「えっと……死んだ子に虐められてて、つい」
咄嗟についた嘘に男の人は「そうなんだ」と目を細める。
背が高くてスラっとしていて脚も長い。
うーんと言って口元に手を持って行くその仕草もしなやか。
「僕には事情が分からないけど今の行動は感心しない」
「はい。反省してます」
「そ。善い子だね。素直に反省出来る子は好きだよ」
やった。信じた。
ただの出任せなのに。
「じゃあね」
「あの!話を聞いてくれませんか!?」
「話?」
「このままだとまた何かに八つ当たりしちゃいそうで」
逃がしてなるものか。
せめて名前と番号だけは知りたい。
こんな美形は早々出会えないから。
「それを聞くのが僕で良いの?」
「お兄さんが良いんです。誰も虐められてたこと知らなくて」
「ああ、そっか。なかなか言えないよね」
「はい」
「分かった。じゃあ話して少しでも気が晴れるなら聞くよ」
「ありがとうございます!」
神さまありがとう!
後は押して押して落としてやる。
警戒心が薄くてチョロそうだし。
「どこで話そうか」
「お任せします」
なんならホテルでも。
って、いきなりそれはないか。
まだ明るいし、制服だし、連れこみ難いよね。
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