貴方の憎しみ譲ってください

REON

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二章

4

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その夜、風呂に入って机に向かっているとスマホが鳴る。
見知らぬ番号。誰の……あ。

「はい」
『夜分遅くにごめん。優香の兄です』

やっぱり。
渡されたメモに書かれていた番号だと気づいて慌てて出るとお兄さんの声だった。

『受験生だったよね。勉強中だったかな』
「大丈夫です。もう今日の範囲は終わったので」

本当は勉強など全く進んでいない。
気を抜くと涙が出るから勉強に集中すればと思って机に向かったけど、教科書を開いてもノートは1・2行書いただけでほぼ白紙のまま。

『ごめん。牧君しか訊ける人が居なくて』
「本当に大丈夫ですから。どうしたんですか?」

教科書もノートも閉じてお兄さんに問いかけながらベッドに移動して座る。

『母が優香の部屋を片付けるって言うからその前にと思って優香のパソコンを開いたんだけど、何か変なサイトにアクセスした履歴があって』

もう片付けを?
亡くなったばかりなのに?
そんなことをまず思ったけど、変なサイトという言葉が気になってどんなサイトなのかを訊いた。

『それがアクセスしてみても404 Not Foundなんだ』
「え?ページが見つからないってことですよね」
『うん。でも何度もそのアドレスにアクセスしてる』

どういうことなのか。
何かを観ようとアクセスしたんだろうけど。

『一昨日の深夜だけで数十回。朝までアクセスしてる』
「朝まで?」
『最初は間違ったアドレスにアクセスしたのかと思ったけど、何十回も朝までアクセスしてたとか普通じゃない気がして』

それは確かに尋常ではない。
よほどそのアドレスに観たい何かがあったんだろう。

「濱名さんがアクセスした後に閉鎖したとか?」
『でもそれならどうして何度もアクセスしたんだろう。何かしらのページがあったのなら一度で観るよね?わざわざ何度も閉じて開いてしないで』

言われてみれば。
仮に何か調べものをしていたんだとしても何度も同じアドレスにアクセスし直すとは考え難い。

『牧君に訊いても困らせるだけかなとは思ったんだけど、自分で調べてみてもアドレスの情報が出て来なくて。何かのサイトだったなら少しは引っかかるかと思ったんだけど』

アドレスで調べても情報の出ないサイト。
それはもう〝本来なにもないアドレスだから〟と考えるのが普通だけど、どうしてそのなにもないアドレスに濱名さんは何度もアクセスしたのか。

「俺にもそのアドレスを教えてくれますか?」
『うん』

デスクトップパソコンを立ち上げお兄さんから教えて貰ったアドレスを打ち込むと、確かにページが見つからないことを報せる〝404 Not Found〟が出た。

「一昨日までココに何が……」

何度もアクセスしたなら適当なアドレスだったともアドレス間違いだったとも思えない。
濱名さんはココに何があるかを知っていて、それを観たくて何度もアクセスしたのだと考えるのが妥当だ。

『今日見せたチャットあったよね』
「はい」
『あんな感じのがあったのかな。これだけ観たってことは』
「濱名さんの悪口ってことですか?」
『分からないけど気になって。最後の履歴がこれだから』

お兄さんはまだ濱名さんの足跡を辿っている。
亡くなった原因は事故だったけど、一昨日の朝の不可解な行動の理由がなんだったのかを知りたい一心で。

「俺も少し調べてみます」
『あ、いや。アドレスに見覚えがないならそれで』
「濱名さんが何を観たかったのか俺も知りたいので」

お兄さんが探しても情報が出てこなかったんだから俺が探したところで何も得られないかも知れない。
でも俺もお兄さんと同じくこのアドレスに何があったのかを知りたかった。





「おはようツトム」
「おはよ」

朝いつもの時間に学校へ行くと正門を通ってすぐ背後から省吾に声をかけられる。

「遅くまで勉強してたのか?」
「え?」
「欠伸。ここまででもう3回目」

昇降口に入って靴箱からシューズを出していると省吾からそう指摘される。

「いや、ちょっと調べものを」
「調べもの?」
「うん」

お兄さんとは少しだけにする約束だったけど、結局寝ずにあのアドレスの情報を探してしまった。

「何を調べてたんだ?そんなに」
「サイト。404 Not Foundの」
「ん?ページが見つからないって意味だぞ?」
「それは知ってる。今は404 Not Foundになるそのアドレスに何があったのかを調べてた」

シューズに履き替えて教室に向かいながら昨晩の経緯を話す。
昨日の夜にお兄さんから連絡が来てアドレスに見覚えがないかと訊かれたことを。

「それ探せるものなのか?アドレスしか情報がないのに」
「結局なにも分からないまま」

受験生なのにと言われてしまえばそれまで。
でも今の俺には手につかない勉強よりも濱名さんが何を観たかったかの方が大切だった。

「牧君、佐渡君、おはよう」
「「おはよ」」

教室に入るとクラスメイトの椎名さんから挨拶される。
佐渡は省吾の苗字だ。

「お兄さんの方は?」
「分からない。あの後は連絡きてない」

ロッカーにバッグを押し込みながら返事を返す。
下手にこちらから連絡をしてしまうと、何か情報が見つかったのではないかとぬか喜びさせてしまうかも知れないから。

「まだ調べるのか?」
「うん。何を観たかったのか知りたい」
「牧君」

一番後ろの自分の席に座ると省吾も前に座り、返事をしたところでまた椎名さんから呼ばれる。

「あの、大丈夫?」
「なにが?」
「昨日休んだから」
「ああ。移る病気だった訳じゃないから安心して」

体調を崩した訳ではない。
あの4人の話題を聞きたくなくて足が動かなかっただけで。
心配せずとも受験真っ只中のみんなに移してしまうような病気で休んだ訳ではない。

「ツトム、省吾。おはよ」
「「おはよ」」
「椎名さんもおはよ」
「おはよう」

正樹が眠そうな目で登校してくると椎名さんは正樹に挨拶を返して走って行った。

「あれ?俺やっちゃったパターン?」
「なにを?」
「椎名さん。何か話してたんじゃないの?」
「昨日休んだけど大丈夫かって訊かれたから、移るような病気だった訳じゃないから安心してって答えた」

椎名さんの姿を見ながら訊いた正樹に説明すると、こちらを向き直して「あー」と洩らす。

「悪魔かよ」
「悪魔だな」
「俺?」

こちらを見て言った2人に首を傾げると大きく頷かれる。

「まあ良いや。ツトムだし」
「なんだそれ」
「ツトムだし」
「2回も言うな」

俺だから良いとは失礼な話。
正樹は中学の時からこういう奴だけど。

「バッグ仕舞って来る」
「おうよ」

もう話は良いらしく、正樹はバッグを仕舞いにロッカーへ行って省吾は制服からスマホを取りだす。

「アドレス教えろ」
「誰の?」
「メアドじゃなくて調べてたサイトアドレス」
「協力してくれんの?」
「俺が調べても意味ないかも知れないけど」
「ありがとう。助かる」

自分も休み時間にまた調べようと思っていたからスマホにメモしてきたアドレスを省吾に見せた。

「おっはよー」
「「おはよ」」
「なにしてんの?ゲーム?」
「パットで増量した胸が肩に乗ってる」
「はー?してませんからー」

省吾の背後に張りついたのは幼馴染の白井。
一見頭の足りないギャル系だけど実は頭が良い。

「ツトムもう大丈夫なの?」
「なにが?」
「昨日休んだでしょ?」
「ああ。移る病気じゃないから心配しなくて良い」
「移されるのが嫌だから訊いた訳じゃないし!悪魔か!」
「悪魔だからな」

白井からも悪魔呼ばわりされて省吾は同意して笑う。

「なになに?何か楽しそう。悪魔が出て来るゲーム?」
「違うし!ボケか!」
「え?何で俺怒られた?」

バッグを仕舞って戻ってきた正樹も巻き添え。
省吾はスマホを片手にまだ笑っていた。

「で、それ何やってんの?」

正樹は隣の席の椅子を借りて俺の隣に置きスマホを覗きこむ。

「アドレス間違ってるじゃん」
「いや。これで合ってる」
「え?エラー出てるよ?」
「うん。やっぱ何回アクセスしてもこれ」
「どういうこと?」

画面を見て不思議そうに顔を上げた正樹と白井に、濱名さんのお兄さんのことは伏せてこのアドレスにあったはずのを調べていることを説明した。

「アドレスを検索しても駄目?」
「昨日やってみたけど何も引っかからない」
「じゃあ無理じゃん」
「分かってるけど、どうしても知りたい」

白井が言う通り無謀だとは分かっている。
どんなサイトだったのかさえ分からないんだから、アドレスだけで情報を探すことは広大な砂漠の中からコインを探すようなものだ。

「おはよ」
『おはよ』
「集まって何してんの?」
「調べもの」

どうにか探す方法はないかと考えていると優弥も登校してきて正樹の後ろから省吾と俺のスマホを覗く。

「Not Foundって出てるけど」
「このアドレスに何があったのかが知りたいんだ」
「以前はあったサイトが閉鎖したってことか?」
「多分」

何もないアドレスに何度もアクセスしたとは考えられない。
濱名さんが観た時も既に閉鎖されていたのかも知れないけど、何度アクセスしてみたところで閉鎖されているページが再開しているとは思えない。

それなのに濱名さんは深夜から朝にかけアクセスした。
閉鎖されていることを諦めきれない何かがあったのか、再開するような情報を得ていてそれを信じて何度も確認したのか。

「みんなでエラー見てて怖いんだけど」
「どうしたの?それ。なに待ち?」

白井の友人で俺たちのクラスメイトでもある女子が数人来て興味ありげに省吾と俺のスマホを見る。

「あれ?このアドレス」

省吾のブラウザにはURLが出ていてそれを見た1人がスマホを指差す。

「404じゃない?これ」
「見ての通り」
「じゃなくて『404』にアクセスしてたの?ってこと」
「何か知ってるのか!?」
「え?うん。私もアクセスしたことあるから」

砂漠の中のコインを見つけた。
詰め寄るように訊いた俺に情報を持っている渡辺は引き気味に答え、省吾から少し落ち着くよう咎められる。

「今はアクセスしても何もないよ?」
「今は?やっぱ閉鎖したのか?」
「ううん。そもそも4時4分にしかないの」
「4時4分限定ってこと?」
「そう。それ以外は404 Not Foundだから『404』なの」

時間限定のサイト。
昨晩探していた間はアドレスの情報を検索していて直接アクセスしていなかったから、あれだけパソコンに向かっていても偶然繋がる奇跡さえ起こりようがなかった。

「牧が『404』にアクセスしたいの?」
「知り合いが何のサイトか知りたがってて」
「ああ。そうなんだ。じゃあ安心した」
「なにが?」
「牧は何のページか知らずに探してたってことだよね?」
「うん」

何が良かったのかと問えば渡辺から返ったのはそんな返事。

「何のサイトなんだ?渡辺は繋がったんだろ?」
「貴方の憎しみ譲ってください」
「ん?」
「そう書いてあるだけ」
『は?』

訊いた省吾だけでなく俺を含め、話を聞いていたみんなが同じ反応をする。
そんなサイトになんの意味があるのか理解できないのも当然だと思う。

「後輩から聞いたんだけど、憎しみを譲れるんだって」
『………』
「待って。友達と興味本位で観ただけだから」
「吃驚させないでよ。私のこと憎んでるのかと思った」
「自分って言う辺り色々してる心当たりがありか」
「ギブ!」

白井の首を絞めるフリをする渡辺。
みんなは笑っていたけど俺には笑えなかった。

「譲るってどうやって?」
「選ばれた人の時だけリンクがあるらしくて」
「紗弓の時は?」
「なかった。多分誰かが冗談で作ったページなんだと思うよ?何人かでアクセスしてみて確かにページはあったけど誰もリンクなんてなかったもん。リンクが出た人だけが憎しみの内容を書いて送れるとか言ってたけど」

例え冗談だったとしても濱名さんがアクセスしようとしたことは間違いない。

「……ツトム」

省吾は濱名さんがアクセスしようとしていたことを知っているから俺が動揺してることに気付いたらしく立ち上がった俺の名前を呼んだけど、他の人には悟られないよう「トイレ」とだけ答えて教室を出た。

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