竜の女王

REON

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開幕

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とある世界のとある場所に在る双子星。
古の時代、二つの星は一つの星だった。

ただ、星の守護神である双子神の仲は悪く争いが絶えず、緑豊かだった大地はいつしか荒れ果て、美しかった水も枯れ果て、せっかく芽生えた脆く小さな生命までもが息絶えてしまう。
星を創造した主神は悲しみ怒り双子神を滅して星を二つに分けると、片方の水の星に守護神を一体、もう片方の火の星にも守護神を一体を置き双子星の行く末を静かに見守ることにした。

幾星霜を経てようやく水と火の星に新たな生命が芽生える。
最初は脆く小さなものだった生命を二体の守護神は大切に大切に守り育て、大切に大切に守り育てられた脆く小さな生命はやがて多くの種に分かれて行き、水と火の星はあらゆる生命が命を育む星となっていった。

生命の存在しない星には名前がない。
名付けられていない星は主神の祝福を得られない。
だが、二体の守護神が脆く小さな生命を大切に守り育て星に多種の生命が根付いたことで主神は大層お喜びになり、豊かな緑と水に恵まれた水の星に『光の星ルミエール』と名付け、火山と広大な大地が広がる火の星には『闇の星テネブル』と名付けて神の祝福を与えた。

星を育み生命を誕生させた二体の守護神。
その功績を称え主神は二体に特別な力と実体を授ける。
生命が増えたことで生じる問題でも解決できる特別な力を。
こうして光の星ルミエールの守護神は竜の始祖に、闇の星テネブルの守護神は吸血鬼の始祖となり、幾星霜と続いた守護神の役割を終えて自由を与えられた。

これが双子星の創世記。
その事実を知る者は主神と二体の始祖とその子孫のみ。





「こんにちは、ロラ」

ロラは自分の名前を呼ぶ声にゆっくりと瞼をあげる。

「ごきげんよう」

横たわっていた自分を見下ろす存在にロラは答えて立ち上がると髪やドレスなど軽く身なりを確認する。

「ヴァンピール公爵が娘、ロラ・カタストロフですわ」

息をするように慣れた仕草のカーテシーで挨拶をしたロラ。
艶やかで美しい黒髪がサラリと肩から落ちた。

「ご丁寧にありがとう。私は神竜だよ」

ロラを見下ろしていたのは巨大な神竜。
自分を見ても一切動じないロラにフフと笑う。

「ところでドラゴンさん。ここはどこか教えてくださる?」
「名前はない。私が創ってロラの魂を連れてきた」

物どころか名前すらもない真っ白の世界。
そこに在るのは巨大な漆黒の神竜とロラだけ。

「まあ。ワタクシ、死にましたの?」
「うん」
「谷底に落ちましたものね、馬車。それはもうグシャリと」
「そうだね。馬車もロラもグシャリと」

神竜から聞いて自分の最期を思い出したロラは納得して軽く手を叩く。

「グシャリとした私を見られるのは少々恥ずかしいですわ」
「心配は要らないよ。すぐに幻魔獣の餌になったから」
「それは良かったですわ。幻魔獣さんのお役にたてたなら」

弱者は強者の血肉となることが世の理。
しっかりと幻魔獣の血肉となったことにロラはホッとした。

「それでワタクシに何をお望みかしら。国を滅ぼせばよくて?」
「話が早いね」
「あら。本当に破滅がお望みでしたの?」
「そこはロラに任せるよ。まずはこれを見て」

神竜の言葉のあとフワリと現れた光の玉。
ロラの前でゆらりと揺らめいたかと思えば人の姿になる。

「ごきげんよう、愛らしいお嬢さま。ワタクシはヴァンピール公爵が娘、ロラ・カタストロフですわ」

光の玉から人の姿に変化したのは灰色の髪と瞳の少女。
神竜の時と同じくロラはカーテシーをしながら挨拶する。

「まあ。どうなさったの?愛らしいお顔が台無しでしてよ?」

ポロポロと涙を零す少女。
そんな様子を見たロラは豊かな胸の谷間から出したレースのハンカチで少女の涙を拭う。

「私の願いは一つ。光の星で彼女の肉体に宿り生きてほしい」
「彼女の人生は彼女のものでしてよ?」
「それが出来なくなってしまったんだ」
「どういうことですの?」

ポロポロと泣く少女から神竜を見上げたロラは首を傾げる。

「彼女は心が死んでしまった。そして肉体も滅ぶ間近だ」

ロラの頭の中に浮かぶ光景。
目の前でシクシク泣いている少女の肉体は水底にあった。

「今は私が時間を停めているけど、魂のない肉体の時間を長く停めて置くことはできない。少々手荒な手段になるけど、彼女の、シャルロットの記憶と人生の記録を直接ロラに送るよ」

ロラの頭の中に少女の記憶と人生のが次々と流れこむ。
少女が誕生した時から水に沈んでいる今までの記憶と記録が。

「理解しましたわ。こちらの愛らしい御方、シャルロット嬢も特殊な役割を持つ一族に生まれてしまいましたのね」
「そう。ロラと同じように宿命を持つ一族だ」

ヴァンピール公爵家。
その名の通りロラは吸血鬼の一族。
善悪の審判をくだして滅ぼすのがヴァンピール家の役割。
その審判で一国を滅ぼしたこともある。

苦しませない死こそがヴァンピール公爵家の慈悲。
カタストロフの名に相応しく一切の容赦もなく人の命を奪うヴァンピール公爵家は人々から恐れられていた。

「彼女は竜の一族に生まれながら竜の力を持っていなかった。始祖の誕生から長い長い刻が経ってしまったからね。竜の血が薄まって竜王を継承できる者も誕生しなくなっていたから、彼女のように竜の力を持たない子が生まれるのも必然だった」

ドラゴニュート公爵家、シャルロット。
この星の貴族であれば『神の祝福を賜ることができる』と信じられているミドルネームを教会に名付けて貰うけれど、シャルロットはそれすらも付けて貰えないまま。
竜の一族の証である黒髪と赤い瞳を持たず生まれた恥晒しと。
せめて竜の力を持っていればまだ救いがあったのだろうが、シャルロットには竜の力もなかった。

「同じ黒い髪と赤い瞳でもシャルロット嬢の居た星とワタクシの居た星とでは真逆の扱いなのですね。ワタクシの居た星では、赤の瞳は血の赤、黒の髪は闇の黒。死の一族と言われておりましたのに」

ロラは漆黒の長い髪と血のような真紅の虹彩を持つ。
一点の濁りもないロラはヴァンピールの象徴と言われていた。

「灰色の瞳と灰色の髪。竜に愛されなかった竜の。それが一族や周囲の人からのシャルロットへの評価だった」
「愚かですわ。こんなにも愛らしいと言うのに」

ところどころ欠けているシャルロットの魂。
それでもなお清く美しい。

「シャルロット嬢。貴女は生まれ変わらなければならないわ。貴女を心から愛し大切にしてくれる者たちが居る世界に。愛され過ぎて少し困ってしまうくらいがちょうどいいわね」

ポロポロ欠けてゆくシャルロットの魂にロラが触れる。

「貴女の魂に刻まれる名前はアフェクシオン。愛情よ」

ロラから名を貰ったシャルロットの魂は輝く。

ワタクシが貴女の欠けた魂を取り戻すとお約束しますわ。その刻まで神の腕に抱かれてお眠りなさい。そして刻が来たら生まれ変わりなさい。来世ではたくさんの愛情に囲まれたよい人生を」

光の玉に戻ったシャルロットの魂は弾けて消えた。

「ありがとうロラ。シャルロットに祝福を授けてくれて」
「清らかな魂に祝福を授けるのはヴァンピール一族の者として当然のことですわ」

大きな頭を下げて感謝を口にした神竜にロラは事も無げに答えて艶やかな黒髪を耳にかける。

ワタクシも行きますわね。そろそろ限界でしょう?」
「うん。でも行く前に受け取ってほしい」
「ドラゴンさんを?」

首を傾げたロラの前で神竜は自分の目に鋭利な爪を突き刺すと黄金の眼球を抉り取る。

「これを食べて」
「わざわざワタクシに合わせて小さくしてくださったの?紳士ね」
「ロラの口は小さいからね」
「ふふ。ヴァンピールはですもの」

飴玉のように見える神竜の黄金の瞳を受け取ったロラは一切の躊躇もなくパクリと口に含んでこくりと喉を鳴らした。

「感じますわ。これがドラゴンさんの力ですの?」
「やはりロラは凄いね。本来であれば継承しない者に竜の力を継承するのは少し心配だったけど、問題なさそうだ」
「ええ。体によろしくない異変は特に感じられませんわ」
「良かった。それが竜の真の力だよ」

腹部に両手を添えたロラの頭の中に流れこむ膨大な知識。
シャルロットの星のあらゆる言語といった基本的な知識から、新しく得た竜の力の知識や能力の使い方のような知識まで。
全ての知識を受け取ったあとロラは瞼をあげた。

「ロラはそのままでも十分に強いけど、ロラが居た闇の星とシャルロットが居た光の星では自然環境から違うからね。私の願いを叶えてくれたこととシャルロットに祝福を授けてくれたお礼に、の役に立つもので恩返ししておくよ」
「律儀ですこと」

口元を押さえてロラはフフと笑う。

「ロラ。いや、これからは何と呼べばいいかな」
「肉体のシャルロットでも魂のロラでも構いませんわ。ワタクシはこれからシャルロット・ロラ・カタストロフを名乗りますから」
「シャルロットの名前も残してくれるんだね」
「彼女の肉体に宿り生きてほしいと願ったのはドラゴンさんでしてよ?肉体と名が揃わなくては彼女でなくなってしまうわ」

光の星で彼女の肉体に宿り生きてほしい。
ロラはその願いを聞き入れてシャルロットの肉体で生きる。
名前はシャルロットが光の星で生きていた大切な証。

「必要な時は呼んで。ロラが生きている間私は君のものだ」
「ありがたくちょうだいしますわ。またお会いしましょう」

神竜を見上げるロラの体がシャルロットの時のように輝くと真っ白の部屋の地面から神竜にも負けない巨大な黄金のホールクロックがせり出し、針がカチリと音をたて逆回転を始めた。

「君の思うまま自由に生きて、ロラ」
「ありがとう、ドラゴンさん。ごきげんよう」

ホールクロックから荘厳な鐘の音が鳴り響く中、上品にカーテシーをしたロラの魂は空気に溶けるかのようにスっと消えた。

『ルミエールに生きる全ての竜たちよ。我が子孫たちよ。長き沈黙の刻を経て新たな王が誕生しようとしている。彼女の名はシャルロット・ロラ・カタストロフ。我の主君であり審判をくだす宿命を持つ者。美しき竜の女王が誕生した暁には忠誠を』

光の星ルミエールに響き渡る神竜の啓示。
竜だけに聞こえる啓示を受けた竜たちはある場所に向かう。

物語は静かに幕を開けた。
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