竜の女王

REON

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一章

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晩餐を終えたあとの執務室。

「これが正しい経費報告書か」
「はい」

家令から受け取ったのは女主人のシャルロットにかかった経費を正しく書いた方の報告書。

「旦那さまへ虚偽の申告をしておりましたことの罰はお受けいたします。申し訳ございませんでした」

隠すことも言い訳することもなく家令は深く頭を下げる。

「私は君を解雇するつもりだった」

そう甲斐性なしは頭を下げたままの家令に話す。

「顔をあげなさい」
「はい」

一年と二ヶ月で何があったのか分からないけれど、以前は素行の悪かった家令が別人のように変わったことは事実。

「今の私に君を責めることは出来ない。重責に耐えられず公爵の役割からも高貴な血筋の彼女からも逃げたのは私だ。彼女が相談できない状況を作った私が、家令として女主人の相談に乗り意向を汲んだ君を責められるはずもない」

たしかに報告の内容は虚偽の申告ではあったけれど、自分がシャルロットと向き合っていれば起きなかったこと。
それも私腹を肥やしたのではなく寄付に使ったのだから罰を与えるようなことではない。

「咎め無しだ。今後も家令として務めを果たすよう」
「光栄の至り。尽力してまいります」
「下がっていい。ご苦労だった」
「失礼いたします」

胸に手をあてて頭を下げると家令は部屋を出て行った。

「奥さまは一体どのような魔法を使ったのでしょうか。バートもですが、他の使用人も別人になったかのように自分たちの仕事に取り組んでおりました」

書類を渡しながら話すのは執事兼家令のドミニク。
同じ家令でもバートはこの屋敷を管理するハウス・スチュワード、ドミニクは全使用人の長であるランド・スチュワード。

「魔法か。たしかにドラゴニュート公爵家のシャルロットなら使えてもおかしくはないな」

魔法を使える者の数は極めて少ない。
それこそドラゴニュート公爵家のように特殊な力を持つ血筋に稀に生まれるだけで数も明かされておらず、普通に生きていれば魔法など生涯お目にかからない者が殆ど。

「奥さまの竜の力は魔法という可能性も」

付け加えるように言ったのは侍従兼従者のサシャ。

「魔法が使える貴重な存在を私のような若造に嫁がせるはずないだろう?王子と成婚して王妃になっているさ」
「まあ」

サインをしていた書類から顔をあげて呆れたように言う甲斐性なしにサシャは苦笑する。

「でも、愛らしくてお優しい奥さまでしたね。やはり噂話なんて信じるものじゃありませんよ。誰かが悪意を持って嘘を広めた可能性もあるんですから、自分の目で確かめないと」

サシャが言うと甲斐性なしのペンが止まる。

「サシャの言う通り私が愚かだった。ドミニクとサシャはシャルロットと向き合うよう最初から言ってくれていたのに。金だけ与えていれば夫の役目は果たしているなんて、そんなはずがないと言うのにな。見知らぬ土地にたった一人で嫁ぎ、夫すらも居ない屋敷でどれほど心細かっただろうか」

気の沈む甲斐性なしにドミニクとサシャは苦笑する。
こればかりは本人が深く反省しなければならないことだけに、慰めの言葉はかけられない。

「そこは奥さまにお許しいただけるまで償う他ありません。旦那さまが不在中にも奥さまはしっかりと女主人のお役目を果たしていてくださったのですから」

ドミニクが甲斐性なしに渡したのは使用人に関する報告書。

「亡くなった者が三名、他五名が追放か」

木にかけたハシゴから落ちて亡くなった従僕が一人。
家政婦長とシャルロットの侍女の一人だったエマの二人は屋敷の保管庫から財宝を盗み、売ろうとしていたところで仲間割れをして揉み合いになり橋から転落して亡くなった。
どちらの件も警備隊が入り事故死として片付いている。

他には、賭博場に行った料理人コックと補佐の四人が他の客と揉め警察沙汰になったことで、食材の質を落とし浮いた金を横領していたことが明らかになって追放。
従僕も一人、勤務態度の悪さを理由に追放されている。

「目をつけていた者たちが追放されているな」
「はい。屋敷の主人や私が不在なことを好機と助長したのか、若い女主人を甘く見ていたのか分かりませんが、奥さまが異変に気付いて目に余る者は追放処分、温情の余地のある者は反省を促すための見合った罰を与えたようです」

優しいだけでなく悪さする者に罰を与えることも出来る。
必要な両面を持っている奥さまは女主人に相応しい。
全使用人の長であるドミニクにとっては喜ばしいこと。

「一つ気になることが。ハシゴから落ちて亡くなった従僕と骨折した従僕も素行が悪くて目をつけていた二人ですよね?風で煽られて奥さまの寝室の下のタイル舗装に落下したようですけど、一体どこにハシゴをかけてたんですかね」
「「…………」」

サシャがふと気付いて言うと甲斐性なしとドミニクは顔を見合わせる。

「木にかけていて風に煽られたと聞いたが」
「庭師でもない二人が何のために高い木に?」
「つまり?」
「外から奥さまの寝室に行こうとしたんじゃないかと思って。もしそうなら、異様に目撃者は多いのに誰も奥さまの寝室に行こうとしてる二人を止めなかったってことになりますけど」

甲斐性なしは報告書を捲り当日の事故報告を確認する。
確かに仕事をしているはずの時間に従僕やメイドがなぜシャルロットの寝室が見える庭に集まっていたのか。
みんなが集まるような何かが木にあったのだとするなら、木も含め庭を管理する庭師が呼ばれなかった事も違和感がある。

「バートは執事室に、家政婦長は倉庫に居たようです」
「この時間なら二人が庭に居なくて当然だ。むしろ従僕やメイドがおかしい。庭の掃除をしていたのだとしても多すぎる」

本来なら屋敷の中で掃除や片付けと仕事をしている時間。
タイル舗装の掃き掃除をしてもせいぜい二、三人。

「バートに改めて聞こう」
「お呼びしますか?」
「いや。執事室に行って当日の業務日誌を見せて貰う」
「承知しました」

ここにあるのは事故内容の報告書だけ。
一日の業務日誌を見るために執事室へ足を運ぶことにした。

「ルカ」

執務室を出て歩いていると後ろから声が聞こえてきて、振り返るとセクシーなキャミソール姿の愛妾が走って来る。

「なぜここに居る」
「そろそろ仕事が終わると思って」
「そうじゃない。どうして夫婦の居住階に居るんだ」

主人の執務室があるのは西側。
許可もなく愛妾が入っていい場所ではない。

「家令から説明されていないのか?」
「聞いてないけど?」
「では私が言おう。西側は夫婦の居住階で許可なく入ることは禁じている。宿泊している来賓室に戻りなさい」
「どうして?私が入って減るものじゃないんだし。それより早くルカの寝室に行きましょうよ。待ちくたびれちゃった」

甘えるように腕を絡める愛妾にドミニクとサシャは呆れ顔。
甲斐性なしも屋敷の決まりごとに従う気のない愛妾にイラッとして眉を顰める。

「あら?」

聞こえてきたその声にハッとして三人はパッと顔を上げる。

「なぜ愛妾さまが居られるのですか?案内の際に夫妻の許可なく西側の居住階へ入らないようお願いしたはずですが。しかも公爵邸をそのようなはしたない姿で出歩くなど無礼ですよ」

可愛らしいネグリジェの上にガウンを羽織ったシャルロットの隣に居るのは足元を照らすためのランプを持ったバート。
本来なら居てはならない存在が居ることや下着のような姿で肌も隠さず出歩いていることに顔を顰める。

「一緒に居られるのですから旦那さまが来るようお呼びしたのでしょう。邪魔しては悪いわ。行きましょう?」
「承知しました、奥さま」
「ま、待ってくれシャルロット!」
「はい?」

甲斐性なしは慌ててシャルロットを呼び止める。
見上げる愛らしいシャルロットの表情に怒りや嫉妬といった感情は見られず、甲斐性なしは複雑な心境に。

「私もいま説明をして来賓室に戻るよう注意をしていたところだったんだ。家令からは聞いていないと言われて」
「バートはお願いしたと申しておりましたが?」
「ああ。聞いていないという発言が嘘だったと分かった」

聞いていないと発言したことは知らず愛妾を見て真っ先に注意したのだから、どちらが嘘をついているか明らか。
ここはの居住階なのだから女主人の許可なしに入ったことを家令のバートが注意するのも当然のこと。

「旦那さまはまだ執務室に居られると聞いて、それなら食事の際に途中になっていた話の続きをしておこうと部屋を出て来たのですが……。ふふ。そのようなお顔をされなくてもアンさまとのお時間の邪魔をするつもりはごさいませんわ。あの時にもお伝えしたワタクシの考えは変わっておりませんので、いつでも仰ってくださいね。ではみなさまおやすみなさいませ」

ふふっと笑って去るシャルロット。
バートも四人に挨拶をしてシャルロットの後を着いて行く。

「誤解を解かないと取り返しがつかなくなるかと」
「償いをさせてくれるといいですね。興味なさそう」

ドミニクとサシャの言葉が甲斐性なしの心に突き刺さる。

「成婚式どころか成婚の誓いにも代理を立てて一年以上も帰らなかった夫が漸く帰ったと思えば愛妾を連れて来てるんですから、目の前で愛妾との仲を見せつけて自分には好意がないことを伝えてると誤解してもおかしくないですね。だから連れて来るのは辞めるよう言ったのに。奥さま可哀想」

誰もが思うこと、むしろ本人すら思っていることをハッキリと言葉にされてますます甲斐性なしの心に矢が刺さる。

「仕えてる主人にそんな生意気なこと」
「黙って貰っていいですか?今のはルカの友人としての忠告ですから。前から疑問に思ってましたけど、俺が仕えてるのはアレニエ公爵だし、俺自身も侯爵家の令息なんで、自分より身分が低い貴女の指示に従う必要はないって理解できてます?ルカの愛妾だから顎で使われても堪えてましたけど、俺は奥さまの味方なんでよろしく。謎の多い奥さま可愛い」

愛妾は自分の言葉を遮りニヤニヤしながら言うサシャに唖然とし、そんなサシャにドミニクが拳骨する。
もっとも拳骨の理由は『奥さまに可愛いとは無礼だろう』という説教だったけれど。

「早く追いかけろよ。行って誤解を解いて謝り倒して話し合ってこい。あんなに重かったドラゴニュートの血筋が気にならないくらい奥さまに惹かれてるんだろ?手遅れだったとしてもせめて謝罪はしろ。これは幼なじみとしての忠告だ」

サシャに言われた甲斐性なしは大きく頷く。

「私を置いて行くつもり!?噂だってあの女が否定してるだけで本当か分からないじゃない!もし噂の方が事実ならあんなつまらない女に何の価値もないでしょ!?」
「私の妻への暴言は辞めてもらおう」

腕を離されそうになった愛妾は焦って強く掴み直し引き留めながら言うと冷たい目で見下ろされる。

「噂が真実かどうかは関係ない。私が一目見て惹かれたのはドラゴニュート公爵家の令嬢ではなくシャルロットだ。契約を交わしているだけに君を蔑ろにするつもりはなかったが、妻を侮辱するのならば即刻お帰り願う」

パシッと手を払い走って行く甲斐性なしの背中を愛妾は唖然として為す術なく見送った。

「勘違いしてるみたいですけど、ルカは奥さまの噂話を知っていても見下したことはないですよ。むしろ家督を継いだばかりの自分が高貴なドラゴニュート公爵令嬢の夫でいいのか悩み過ぎて今の状況になったくらいですから。ルカの口から奥さまを見下すような発言を一度でも聞いたことがありました?」

サシャから言われて愛妾はたしかにと気付く。
むしろ『いい話題じゃないな』と話を遮られていた。
家のために政略結婚させられた興味のない相手の話を聞くのが嫌なんだろうと思っていたけれど。

「ご理解いただけましたところで来賓室へお戻りくださいますようお願い申し上げます。西側はアレニエ公爵夫妻のプライベート空間となっております。旦那さまと奥さまの許可なく足を踏み入れる侵入者は排除しなければなりません」

綺麗なボウアンドスクレープをするサシャ。
その隣でドミニクも胸に手をあて頭を下げる。
丁寧に『早くここから出て行け』と忠告するその言葉で愛妾はキッと二人を睨むと「ふんっ」と言って去って行った。

「はーあ。このまま大人しくなればいいけど……無理かな。前日の深夜まで駄々こねて迷惑かけない約束で渋々連れて来て貰ったのに早々と奥さまに突っかかるし、招待された食事に平然と遅刻するし、入るなって言われても我が物顔で入るし。自分がただの愛妾だってことを忘れてんじゃないの?俺やドミニクさんまで顎で使うような立場を理解してない馬鹿だけど、さすがに奥さまの前では大人しくすると思ったのに。疲れる」

二人が仕えているのは甲斐性なし。
シャルロットは甲斐性なしの正式な妻で女主人だから仕えるし従うけれど、主人が摘み食いしているだけの遊び相手という立場の愛妾には二人を顎で使う権限はない。
そこを理解せずワガママを言って威張り散らす愛妾を別邸の使用人も嫌っている。

「旦那さまのご判断に従うまで。ただし奥さまに何かするようであれば私たちが排除する必要がある」
「奥さまは俺たちに守られる人じゃないと思うよ」

事故のことを聞きに行くところだったけれど甲斐性なしはシャルロットのところに行ってしまったから、サシャが部屋を指さし二人で報告書の確認の続きをするため再度部屋に戻る。

「気付かなかった?使用人が奥さまを怖がってるの」
「怖がってる?」
「うん。でも嫌々じゃなくて自分の意思で働いてるから、女主人に対しての敬意はあるんじゃないかな。もしかしたら使用人は奥さまの竜の力を見たことがあるのかも」
「竜の力を怖がっていると言うことか」

数日分の報告書をテーブルに置いて二人は対面同士でソファに座る。

「何かしらの原因がなければふわふわした可愛い奥さまを怖がる理由が説明できない。竜の力は怖いけど女主人としては立派な人でもあるから、恐怖と敬意が入り交じってるのかなって。その環境が使用人を別人のように変えた理由かも」
「ふむ。なるほど」

サシャは観察力に優れていて、食堂で夫妻の会話を聞いた使用人たちが怯える様子を見せたことに気付いていた。
シャルロットを虐げていたからいつ殺されるか分からないという恐怖心だとは気付きようがないけれど。

「俺としてはわがまま放題の愛妾より面白そうな奥さまに仕えたいけど、ルカが謝っても奥さまがどう判断するか。はっきり言って今の奥さまがルカを敬ってくれてるのは書類上の夫だからって理由だけで、目の前で愛妾と仲良くしようとどうでもいいくらい男としての興味は持たれてないからね」

追いかけるよう言ったものの受け入れてくれるかは別。
償いたいと思っていても拒否されたら終わり。
その先も当然ない。

「まあそれもそうだろう。肝心の成婚証を交わす時すら顔を見せない相手を好きになれるはずもない。むしろ離縁状を叩きつけられてもおかしくない状況だ。マイナスからスタートする夫妻が今後どうなって行くかは見守るしかない」

散々な扱いをされた人から今更惹かれたと言われても。
一般的にはそうなるだろう。
政略結婚だから例え愛はなくとも夫婦関係は続けるかも知れないけれど。

「まあ、報告書の確認は俺たちで頑張ろう」
「ああ」

二人はもう成り行きを見守るしかない。
あとは夫婦の問題だから。
苦笑した二人はテーブルの上の報告書を手にした。





「シャルロット!」
「旦那さま」

走って追いかけた甲斐性なしはシャルロットが寝室に戻る前に追いついて引き留める。

「話をする時間をくれないか?」
「アンさまはよろしいのですか?」
「私が部屋に来るよう呼んだ訳ではない」
「あら、そうでしたの。てっきり」

そこで言葉を止めたシャルロットをジッと見る甲斐性なし。

「バート、ここまででいいわ。ありがとう」
「光栄にございます」
「ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、奥さま」

バートはシャルロットに挨拶をすると甲斐性なしにも挨拶をして歩いて行った。

「すぐそこですが……ワタクシの寝室で話しますか?」
「いや。共用の私室にしよう」
「承知しました」

目前のシャルロットの寝室ではなく、互いの寝室の間にある夫妻の共用私室を選んだ甲斐性なしに着いて行く。
ベッドのない部屋を選んだことは評価しますわ。
と心の中で思いながら。

「花の香り?」

私室の扉を開けて電気を付けたあと、先に入らせたシャルロットに続いて足を踏み入れた甲斐性なしは独り言を呟く。

「温室で育てた薔薇を活けて貰いましたの。お花の香りが苦手なのでしたらさげさせますわ」
「いや。いい香りだ。思えば母が亡くなってからというもの花の香りなど久しく嗅いでいなかったな」

花瓶の黒薔薇を見た甲斐性なしは苦笑する。
母が亡くなり女主人が居なくなった屋敷はどこか無骨になっていたけれど、今日屋敷に戻って来たら花や飾りなど細部にまで気配りがされていることに驚いた。
母が居た時はこうだったと、花の香りで思い出した。

「シャルロット。改めて、本当に申し訳なかった」

深々と頭を下げて謝罪する甲斐性なし。
まず何より先にしなくてはならないことは謝罪。

「成婚式をあげず成婚の誓いすらも代理をたて君を避けていたこと、生家と離れた土地にたった一人で嫁いで来てくれたと言うのに一年以上も帰らなかったこと、そして今回愛妾を連れて来てしまったことも。全て謝らせてほしい」

頭をあげることなく甲斐性なしは話を続ける。
幾度謝罪しようと許されることではないことは承知でも。

「私は高貴な血筋の君と会うのが怖かった。家督を継いだばかりの私がなぜ引く手数多だろうドラゴニュート公爵令嬢の夫として白羽の矢が立ったのか、高貴な家系に育った令嬢を私のような若輩公爵が幸せにできるのか。考えれば考えるほど恐ろしくなって君から逃げてしまった。本当に申し訳ない」

全ての理由は会うことが怖かったから。
噂話を屋敷に帰らない口実にして逃げていた。
本当は噂話の内容など気にしてもいなかったのに。
高貴な令嬢を自分が幸せにできる自信がない。
ただそれだけのことだった。

「旦那さま、座って話しませんか?」

頭を下げたままの甲斐性なしの前に行ったシャルロットは袖を軽く摘んで声をかける。

「矢継ぎ早に話さずとも時間はありますもの」
「気が急いて君を立たせたままにしてすまない」

自分の気遣いのなさを反省する甲斐性なし。
謝らなければとまた自分の感情を優先してしまった。
手をとりソファまで行って先にシャルロットを座らせた甲斐性なしは自分もそのあと対面に座った。

「…………」

座り姿も品のあるシャルロット。
真っ白のネグリジェにガウンを羽織ってプラチナ色の髪を三つ編みにしているシャルロットの可愛らしさについつい目を奪われた甲斐性なしは言葉を忘れる。

「私の妻はこんなにも可愛らしい女性だったのだな」

成婚して一年以上が経って初めて知ったこと。
見惚れて口にしたことに甲斐性なしはハッとする。

「す、すまない。そのような時ではないと言うのに」

謝りに来たというのに見惚れるなど。
反省していないと不快に思われてもおかしくない。

「ふふ。旦那さまにも少年のようなところがありますのね」

クスクス笑うシャルロット。
不快に思わずに居てくれたことに甲斐性なしはホッとする。
たしかに初めて恋をして感情を隠せない少年のようだと自分を恥ずかしく思いつつ。

「私ではなくシャルロットの正直な気持ちを聞かせてほしい。私と会った今、離縁することを考えているだろうか」

そうされても仕方がないことをした。
自分はシャルロットに惹かれてしまったけれど今更。
離縁したいと望むならそれを叶えるのも贖罪の一つ。
困らないだけの慰謝料も払おう。

「離縁することは考えておりません。ただ、今までのことを許すかはこれからの旦那さまの言動を見て判断いたします。償ってくださるのでしょう?」

この成婚は政略婚。
だから簡単に離縁しましょうとはならないけれど、今までのことを許すかどうかはまた別の話。
なによりシャルロットの名残りが離縁を望んでいないのと、ロラも善(無罪)か悪(有罪)かの判断が出来ていないから。

「償うための時間の猶予をくれたことに感謝する」
「期待しておりますわ。旦那さま」

頭を下げて感謝を伝えた甲斐性なしは愛らしく笑うシャルロットに釣られて少し笑みをこぼした。
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