竜の女王

REON

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二章

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「到着ですわ」

再びオペラに戻ってきた五人。
要塞の外に転移してロラは軽く背伸びをする。

「凄い魔法だね。一瞬で他国と行き来できてしまうなんて」

クリスは消える魔法陣を見ながら改めて感心する。
一連の騒動の解決までにかかった時間はわずか数時間。
本来なら船で数時間かかるスフェール国まで一瞬で行けてしまうんだから、転移魔法がいかに凄い魔法なのかは明らか。

「たしかに便利な魔法ではありますけれど術士の知識にない場所には転移できませんし、それでなくとも魔力の消費が多い上に転移する物の総量と距離でも消費量が増えますから、無限に使える訳でもありませんの。一人で移動するなら消費量の少ない瞬間移動テレポートという魔法を使った方が楽ですわ」

行ったことがないスフェール国にも転移できたのは神龍の知識があったお蔭で、知識にない場所には行けない。
それに今は実の肉体ロラだから魔力の消費量の多い転移魔法も使えたけれど、シャルロットの肉体で来ていたら使えなかった。

「消費の多い魔法を二度も使って大丈夫?他の魔法も使っていたから身体が辛くなっているんじゃないか?」

魔力を使いすぎて辛いんじゃないかと心配するクリス。
カイとレアも頷いて心配そうにロラを見る。

「問題なくてよ?この姿ならあと数百回は行けますわ」
「心配せずともこの姿のシャルの時は全ての能力が強化されている。私が竜の姿になっている時と同じように」
「そうなのですか」

ロラ本人と当主から聞いてホッとする三人。
つまり破壊竜が二匹居るようなものなのだけれど、それはそれこれはこれ。

「着いて早速ですけれど、水脈を探しますわね」
「ああ。頼んだ」

屋敷に転移せずオペラに戻ってきたのはそのため。
この街で商いをしている人や生活している人のため、水問題は少しでも早く解決した方がいい。

「私たちは下がっておいた方がいい?」
「居て大丈夫ですわ。地中を探るだけですから」

邪魔になるかと思って聞いたクリスに答えながらロラは長杖を地面に突き刺す。

「始めますわ」

長杖に魔力を通すと地面に魔法陣が広がり、そこから四方八方に向かって稲妻のように光の筋が走って行く。

「あ。見つけましたわ」
「「もう!?」」

光の筋が走る美しい光景を眺めていたクリスとカイは驚く。
まだ始めて一分もかかっていないのに。

「すぐそこですもの。光が止まった場所が水源ですわ」

ロラが指さした先。
ここから見ても光が途切れているのが見えるくらい近い。

「まさかこんなにも傍にあったとは」
「街の近くはあえて掘削しなかったのでしょう?」
「ああ。街の近くに手当り次第深い穴を空けては地盤が緩んで危険だ。しかも掘削中は通行止めにもしなければならない。一か八かで領民に不便を強いる訳にはいかなかった」

そこから水源を確保できる確証があれば迷わず掘削した。
ただ、水が出るかどうか一か八かの賭けの状況では街の傍に深い穴を掘る訳にはいかなかった。

「水源を確保するついでに温泉も作りませんこと?」
「ん?」
「疫病を防ぐためにも身体を綺麗にすることは必須ですわ。平民でも利用できる大衆浴場を作りましょう」

唐突なロラ(シャルロット)の提案。
たしかに平民は毎日お風呂に入れるほど裕福ではないから身体を拭くのが精々だけれども。

「その水源から大衆浴場を作れるくらいの水を確保できるのかどうかの問題と、お湯にするための火力も必要になるよ」

クリスの言うことはご尤も。
水源は見つけたけれど、そこからどれほどの水が出るか。
生活用水ですら距離のある場所から引いてギリギリを保っているこの街では、大衆浴場よりまずそちらの方が優先。

「もう。クリスお兄さまったらワタクシの話をしっかり聞いておりませんでしたの?温泉ですわ。お・ん・せ・ん」

ぷくっと膨らむロラ。
そんな仕草も可愛らしいけれど。

「つまり、水源の他にもお湯が湧く場所を見つけたと?」
「正解ですわ」

今度はドヤるロラ。
多くの人が暮らしているこの街では、生活用水の確保が最優先だということはロラにも分かっている。
ただ、その水源とは別に温泉の湧く場所も見つけたから、人々の疫病を防ぐために大衆浴場を作ろうと提案した。

「水源を見つけるだけでなく温泉も見つけるとは」

そう言って当主はふっと笑う。
魔獣の氾濫で水源が枯れて以来この街の水問題には頭を悩ませていたけれど、ロラという能力の高い魔法使いが現れたお蔭で今後は領民の生活が大きく改善される期待を持てた。

「この街の領主はドラゴニュート公爵。つまりお前だ。領主のシャルがやると言うなら私やクリスも協力するだけのこと」

当主は何百年も前に隠居した身。
領地の管理は全てドラゴニュート公爵に任せている。
今の公爵はロラなのだから、ロラが領主。

「クリスお兄さまもそれでいいですか?」

家令や執事の居ない今はクリスがロラの補佐をしている。
そのクリスが反対することを勝手にはしたくない。
下からチラリと覗き込むようなあざとい仕草で了承を得ようとするロラにクリスも笑い声を漏らす。

「水源の他にあるってことなら反対しないよ。優秀な妹を無能な領主と罵られたくないから問題点を指摘しただけで」
「ありがとうございます、クリスお兄さま!」

嬉しそうにクリスへ抱き着いたロラ。
背が高くてキリリとしたこの姿の時でも変わらず無邪気で可愛らしいのだから困ったものだ。
当主から突き刺さる視線を感じながらもクリスは苦笑した。

「源泉の方は街から近いのか?」
「水源と反対方向に歩いて十分以内というところかしら」
「歩いて行けないほどではないな」
「ええ。引き湯という手もありますし」

クリスから離れたロラは水源と反対方向を指さす。

「まずはそちらを見に行こう」

そう言うと当主は歩いて四人から離れて竜に変身した。

「わぁぁああ!とーしゅおっきい!」
「凄い!かっこいい!」

巨大な漆黒竜。
カイとレアも知識として当主が竜に変身できることは知っていたものの、実際に見るのは初めてで大興奮する。
人々から破壊竜と呼ばれる竜の姿を見て怖がるよりも大興奮できる二人はしっかりドラゴニュートの血筋。
大人でさえ怖がるのだから、普通の子供なら大泣きしている。

『四人とも背に乗れ』
「え?私たちもですか?」
『なんだ。嫌なのか』
「当主の背に乗るなど恐れ多いことを」
『シャルは気にしていないが?』

垂らした尻尾をスタスタ登るロラにスンとするクリス。
当主の背中に乗った者の話など聞いたことがないのに、全く気にする様子もなく当然のように乗っている。

……今更か。
誰も寄せ付けない厳格な当主も妹のことは溺愛している。
妹はこの星で唯一当主と対等に接することが出来る存在。

「今魔法で浮かせますわね!」
「乗れるから大丈夫だよ!」

片腕にカイ、片腕にレアを抱えたクリスはひょいと飛び上がると、当主の背中にストンと降りた。

「なんですの?その跳躍力。羽根でも生えてますの?」
「そんなに驚く?私も一応ドラゴニュートだよ?凄い魔法も竜の力も使えるシャルロットのように優秀ではないけど」

真顔で言われたクリスは苦笑する。
始祖の力を持つ当主とロラが別格だから霞んでしまうけれど、本家の前公爵の息子のクリスも決して弱い訳では無い。
武の才ではないけれど竜の力も持っている。

「お兄さまは高い所にもぴゅーんって飛び乗れるんです」
「まあ。そうなの?」
「あと足も早いでしゅ」
「夜でも遠くまで見えるんですよ」
「素晴らしいわ」

クリスの能力を嬉しそうに説明するカイとレア。
兄が大好きだと伝わるそんな二人にロラも驚いてみせる。

『竜眼か』
「はい。竜眼と韋駄天スカンダ霧氷ジーヴルの三つを」
『ほう。いい能力を持っているではないか』
「精進して参ります」

そう会話を交わしながら当主は翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。

『シャル、案内しろ』
「二時の方角に真っ直ぐ飛んでくださいませ」
『ああ』

空を飛んで僅か一・二分ほど。
ここと言われて止まったのは山の麓だった。

「もうちゅいた」
「すぐ近くだったね」
「当主の背に乗せて貰ったからね」

残念そうなカイとレアにクリスは笑う。
仮に子供の足で歩いていたら十分以上かかっただろうけど、巨大竜の当主に乗せてもらえば一瞬の出来事。

『屋敷に戻る際にまた乗せてやろう』
「わあ!いいのですか!」
「やったー!」

カイとレアはまた乗せてくれると聞いて大喜び。
可愛い二人にロラはくすくすと笑い、クリスは苦笑した。

『源泉の独特な香りはしないな。硫黄泉ではないのか』

ゴツゴツした岩ばかりの場所。
当主は辺りの香りを嗅いで確認する。

「源泉が湧くには自然の力が必要ですわ」
『どういうことだ?』
「大自然の力を回復して差し上げますの」

源はここにある。
けれど今のままでは温泉となるお湯は湧かない。
説明しながらロラはまたインベントリから長杖を取り出す。

「このままここでお待ちになって」
「待って!この高さから!」

この高さから飛び降りるのかと驚くクリスの声も聞かず、ロラは当主の背からヒョイっと飛び降りる。

「苦しかったですわね。すぐに楽にして差し上げますわ」

地面に落下しながら長杖に魔力を流したロラは大自然に声をかけながら振りかぶると、地面に向かって長杖を投げた。

ドカーンと辺り一帯に鳴り響いた爆発音。
空気がビリビリと振動するほどに。

「シャルロット!」

カイとレアは驚いてクリスにしがみつき、クリスもシャルロットを心配して名前を呼ぶ。

もくもくと上がる煙。
それはまるで火山が爆発したかのよう。

『匂いがする』
「え?」

竜の姿になって嗅覚の良くなっている当主が呟く。

『本当に湧いたようだ。温泉が』

煙が晴れると地面には大きな穴が。
そこからロラが四人に向かって大きく手を振っていた。

「……とんでもないな。私の妹は」

自分など足元にも及ばないと改めて感じたクリス。
私の妹はまさしく破壊のドラゴニュート。

「お姉しゃましゅごい!」
「凄すぎます!」

穴から湧き出る天然の温泉。
水が枯れて久しい地で本当に温泉が湧いたことに当主はフッと笑うと地面に降下した。

「待って!どうして衣装を!?」
「早速入って確認しようかと」
「自分の身体で確認するつもり!?」

四人も降りたことを確認したロラが突然するりと衣装を脱ぎ始めたのを見て慌てて止めるクリス。

「泉質を確認するのは専門家が居るから!」
「調べずとも入って問題ないお湯だと分かっておりますわ」
「え?」
「教えてくれましたもの。妖精が」

妖精?
お伽噺などに出てくるあの妖精?

「妖精が居るのですか?」
「居るわよ?カイの頭や肩にも乗っていてよ?」
「わたしにもいましゅか!?」
「もちろん。妖精は清らかなヒトが好きなの」

説明しながらレアの肩に向かって指を出すロラ。
恐らくそこに居るということなのだろうけれど、残念ながら見えない。

「大自然が回復したことで誕生したのか」
「ええ」
「煩わしいほどに誕生したな」
「ふふ」

辺りを見渡した当主は頭の上から何かを掴む仕草をする。

「……もしや当主にも見えているのですか?」
「ああ。幼い頃から見えていた。この数は初めて見たが」

仕草で察して聞いたクリスに当主も当然のように答える。
ドラゴニュートとヴァンピールの違いはあっても始祖の力を持つ二人には他の人には見えない妖精が見えている。
古代の守護者たちはみんな見えていた。

「この辺りが水と緑豊かだった頃には妖精の姿も多く見かけていたが、魔獣の氾濫が起きたあとはすっかり滅んでしまった。大自然が広がる場所には妖精が居ると思っていい」

大自然と妖精は切っても切れない関係。
魔獣の氾濫で妖精が居なくなったことで力を得られなくなった水源が枯れ、水源がなくなったことで木々や草木も枯れた。
オペラの水問題は全て大規模な魔獣の氾濫から始まった。

「こちらの源泉は観光客向けの少しお高めの温泉宿にして、大衆浴場には引き湯するのはどうかしら。それなら人の数も分散されますから妖精さんも暮らし易いと思うのですけれど」

そう提案したロラの周りで飛び回る妖精たち。
妖精が居るここは懐に余裕のある観光客向けの少しお高めの温泉宿にすることで、ゆっくり温泉に浸かりたい人だけが利用する場所にしようというロラの気遣い。

「それがいい。妖精は争いを嫌う。心に余裕のある者が利用する温泉宿であれば大衆浴場よりは争いも起きないだろう」

誰もが利用できる大衆浴場には様々なヒトが来る。
中には気性の荒い者も居て争いが起きることも考えられる。
温泉は大自然の恵みなのだから妖精のこともしっかりと考えなければならない。

「じゃあ決定で」

そう言ってロラはインベントリから出したタオルを当主とクリスとカイとレアの手に渡す。

「この妖精の湯の最初の利用者はワタクシたちですわ。五人でのんびりと浸かって家族団欒いたしましょう」

何としてでも温泉に入りたいらしい圧の強いロラに当主とクリスは苦笑する。

「壁を作ってやる。せめてそちらで脱げ」
「ふふ。そうしますわ」

そんなにも入りたいならと折れたのは当主。
竜の手に変えた片手を地面に突き刺すと地面がせり出して壁になった。

「レアはワタクシと着替えましょう?」
「はーい!」

元気に返事したレアを抱っこしてロラは壁の向こうに行く。

「……私たちもお言葉に甘えて入ろうか」
「はい!」

苦笑して言ったクリスにカイも元気に返事をする。
貴族家では使用人が入浴前の脱衣から入浴中の洗髪や洗身はもちろん入浴後に拭いて服を着させるまでやってくれるから、その機会を親が作らない限り家族と入ることはない。

「平民は家族と入るのですよね?」
「そうらしいよ」
「仲が良くて羨ましいです」
「そうだね」

水や火種を節約するためだけれど。
仲がいいから一緒に入っていると思っているのならそう思わせておこうと、クリスは真実は言わず微笑してごまかしながら衣装を脱いだ。

「わーい!みんなでお風呂!」
「レアお待ちになって!石の上で転んだら怪我しますわ!」

小さな身体にバスタオルを巻き付け壁の向こうから飛び出して来たレアのすぐ後に、髪を上で結んであるロラも胸元でタオルを押さえながら慌てて出て来る。

「あら」

クリスとカイはまだタオルを巻く前。
悪気はなかったけれど二人の全裸を見てしまったロラはそれだけ言って口元を手で隠す。

「元気なのは結構だが、怪我をしたら泣くのは自分だぞ」

レアをヒョイっと抱き上げたのは当主。
ドラゴニュートは普通の人よりも肉体が頑丈だとは言え、まだ竜の力が発現していない幼いレアが整備されていない岩ばかりの場所で転んだら大怪我をしてしまう。

「慌てずとも温泉は逃げない。走らないように」
「はーい!」

当主がロラにレアを渡している間にクリスとカイは急いで腰にタオルを巻いて隠した。


「髪や身体も洗えるとは思わなかったよ」
「外でも入浴できるように一通り持ち歩いてますの」
「そんな機会はないと思うけど」
「ありますわよ?遠征の時に宿がない時とか」
「そんな時でも入浴する発想になるのが凄いけどね」

温泉に浸かる前にまずは洗髪と洗身から。
外で入浴するために洗髪剤や石鹸を持ち歩いていることにクリスは苦笑したけれど、洗髪剤や石鹸どころかバスタブも持ち歩いていることまでは知らない。

「お湯で流しますわよ。お顔を隠しておいてね」
「はーい」

ロラに髪を洗って貰ってレアはご機嫌。
人から洗って貰うことはいつものことでも、洗ってくれているのが姉だということが嬉しかった。

「さあ、いいわよ」
「ありがとうございましゅ!」
「ふふ。どういたしまして」

ニコニコで可愛らしい天使。
髪にタオルを巻いてあげるロラの表情は緩みきっていた。

「カイも背中を洗ってあげますわ」
「ぼ、僕は自分で出来ます!」

声をかけられて真っ赤な顔で断るカイ。
家族と一緒に入れることを喜んでいたけれど、ロラ(シャルロット)が女性だということにハッと気付いてからは見てはいけない気がして顔を向けられなくなってしまった。

「残念ですわ。カイも洗って差し上げたかったのに」
「カイはもう九歳だから。恥じらいも感じる歳だよ」
「姉弟ですのに」

シャルロットは逆にもう少し恥じらいを持って欲しい。
自分の容姿が如何様な代物なのか理解してくれたら。
カイの心境を慮ってフォローをしつつもそう思うクリス。

ちなみにクリスもロラの方は見れていない。
幼さを感じる普段のシャルロットの時は抱き着かれても『私の妹は愛らしいな』という感情にしかならないのに、姿が変わったこちらのシャルロットの時は違う感情が芽生える。
何故なのか兄妹に思えず一人の女性に見えてしまう自分をおかしいと思うし、戒めてもいるけれど。

「じゃあクリスお兄さまのお背中を流しましょうか?」
「気持ちは嬉しいけど遠慮しておくよ。シャルロットも早く洗って温泉に浸かった方がいい。風邪をひいてしまう」
「心配しなくともドラゴニュートは身体が頑丈ですのに」
「絶対に引かない訳ではないからね」

クリスは自分の感情に戸惑っているけど、正常な感情。
何故ならロラの姿の時には赤の他人だから。
シャルロットは妹に見えてロラは一人の女性に見えてしまうことは何らおかしいことではなく、むしろ色欲の特性を持つロラが普段以上に肌を見せている今でもふらりと誘われてしまわないクリスは自制心が強い。

「人のことはいいから自分を洗え。水源も見に行くのだから」
「もう。みんな冷たいですわ」
「背中を洗うことだけが家族団欒ではないだろう」
「そうですけれど」

先に洗い終えた当主からも言われてロラはぷくり。
ロラに悪気はなくシャルロットが出来なかった家族団欒を経験させてやりたいだけと当主も分かっているけれど、今の自分は色欲の特性が色濃くなるロラに戻っていて、無自覚にもクリスやカイの本能を擽ってしまっていることを自覚して欲しい。

九歳のカイはまだその本能が曖昧だとしてもクリスは別。
シャルロットの一つ上で十七歳のクリスは今まさに多感な年頃だろうに、ロラの色欲に抗えていることにむしろ感心する。
自分を抑えられる奴だと分かったからこそロラが暮らす本家で一緒に暮らすことを認めたのだけれど。

「当主、先に温泉に浸かるのでしたらレアも一緒に入れてあげてくださいませ」
「ああ。兄たちが終わるまで私と入ろう」
「はーい!」

ロラから髪と身体を洗って貰って先に終わって待っていたレアは当主に抱っこと両手をあげる。

「当主にお任せして申し訳ありません。すぐ洗いますので」
「たまにはいいだろう。ゆっくり洗え」

一族の者が今の当主を見たら驚くだろうと苦笑するクリス。
子供を抱いていることも、面倒を見てくれていることも。

「とーしゅのからだ硬いでしゅ」
「痛いか?」
「大丈夫でしゅ」

3メートルはある高い背丈に鍛えられた身体。
力加減を誤れば大怪我をさせるから抱くのもそっと。
まだ幼いレアの身体を気遣いそっと腕に抱いて温泉に浸かる当主の姿を見てロラはくすりと笑う。

ロラが家族団欒に拘るのはシャルロットの為だけではない。
親の温もりも知らず、居るだけで怖がられるからと人を避けて孤独に生きてきた破壊竜にも何かを感じて欲しいから。

ロラの行動が当主とシャルロットを満たしていく。
人々から恐れられて孤独を選んだ破壊竜の心を。
虐げられて命を絶ったシャルロットの欠けた魂を。

少しずつ、確実に。
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