復讐するならストーカーの彼とともにやり遂げましょう。憎しみの連鎖にはお気をつけて

佳代子

誰かに後を付けられているのはなんとなくわかる。それが元カレと別れた時から、いやその前から薄々感じていた。でも決定的なものが取れず、誰に相談したらいいのかわからない。防犯カメラをつけようか悩んだけど今の生活でいっぱいいっぱいだったし、気のせいって言われたらそんな気もするし…それに、同じ事務仕事をしている結衣に聞いたとしてもその弱みにつけこまれるに決まっている。元カレと別れた原因も結衣にあった。しらを切り通しているつもりだろうが、わかる。それに実際見たのだから。結衣が元カレと会っているのを。

あぁイライラする。四六時中気に入らない子の隣で仕事をするのはストレスになる。だから佳代子は休憩時間に私は公園でお弁当を食べるのが日課だ。手元が暗い気がしてふと顔を上げると、知らない男性がそこに立っていた。スーツ姿で線が細い、華奢と言えばそうなのかもしれない。サラサラした髪が風に少し靡いていた。

「えっと…」誰かにものを食べているのを見られるのが恥ずかしく、慌ててパタンと蓋を乗せるとその男性は

「すみません、食事中に声なんかかけて…」と詫びた。その顔がとても可愛らしく見えた。

「もしかして北川さんですか？」思い出した。顔と名前がなかなか覚えられない佳代子でも、その横顔に見覚えがあった。以前喘息持ちとかで来院した人だった。顔は格好よくキラキラして見える彼は私のタイプに近かった。依然付き合っていた人とは全く違うタイプに見えた。

「隣いい？」と佳代子が座る隣を指さした。コクンと頷くと小さな声でお礼を言って腰を下ろした。会話が弾まない。やがて彼は遠くを見ながら前かがみになって

「嬉しいです、名前を憶えてくれて。中々そんなことはないのに」と少し俯き加減に、悲しそうに言った。なにか彼に慰めの言葉をと佳代子は探したが出てくる言葉は何もなく、あまり知らない彼を放って置くこともなぜかできなくてただ隣に座るだけだった。

　それからも北川は定期的にこのクリニックを訪れた。何の仕事をしているのか聞いても彼は答えなかった。謎の多い彼に佳代子はひかれて行った。そのほかの日でも、昼休みに公園に行けば北川はいた。緊張しているのかあまり話さないが、その雰囲気が佳代子にとっては良かった。ふと隣を見れば綺麗な顔立ちの男が座っている。胸がドキドキして緊張して何を話したらいいのかわからない。遠くを見ている彼に

「何を見ているのですか？」不意に気になって佳代子は聞いた。

「…空とか、自然を見るのが好きなんです。仕事の休みにここに来て心を落ち着かせるのがいつもで…」と答えた。不思議な趣味を持っているなと思いながら佳代子はそっと目を閉じてみた。風の音、爽やかな空気のにおい、少しずつ遠くの方から青い匂いがしてきた。近くにある芝生や乾いた土のにおいを感じた頃「遠くから鳥のさえずりが聞こえるでしょう」と優しい声が聞こえてきた。そっと目を開けると北川の声だと分かり佳代子は微笑んで頷いた。