復讐するならストーカーの彼とともにやり遂げましょう。憎しみの連鎖にはお気をつけて

園田美栞

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やっと見つけた。彼女は覚えていないだろうけれど。

暗い夜、コンビニから戻ってきた葵はそう思いながら車に乗り込み、運転席に座っていた友人に珈琲缶を渡した。

「後悔はしないか?」そう聞く友人ににこりと笑って水の入ったペットボトル開けた。外を見れば白いマンションの灯りだけが入口辺りを照らし、自分たちは暗闇の中に紛れる。誰が入って来ているのかがよくわかる格好の場所だ。葵は「来たら教えてくれ」と座席を下げ横になった。その様子をちらりと友人は見ながら外を観察する。時間がどのくらい過ぎただろうか。隣に座る葵は寝息を立て、月は傾きかけていた。

「来た!」運転席に座る男は葵を叩いた。運転席の男はスマホで写真を撮っていたが

「あれ?」と声を上げた。

「どうした?」助手席に座る葵が目を擦りながら聞くと運転席の男はスマホを見せる。外では男女が喧嘩をしている声が聞こえる。葵はにやりと笑った。

「成功だな」車を発進させた。もう少し寝るとまた座席を倒した葵をちらりと横目で見ながら今日は隣に座るこいつの気分がいいみたいだと黒井は喜んだ。助手席に座る男は安心したかのように眠りについた。後部座席に座る別の男もにこやかにしていた。誰も車も通らない道の中、三人は自分たちの家へ向かって行った。

 助手席に座りながら葵は眠りながらもいつも同じ夢を見ていた。目を閉じれば一人の少女が現れる。いつも同じ記憶が蘇り、葵の心を明るくしてくれる。

彼がこんな行動をとったのには訳があった。あんなことがなければ彼女ば自分の中にずっと残る天使のままだった。

ある日、久しぶりに彼は中学の友人に会った。

「なぁ、最近どうよ」とその友人は聞いてきた。葵と違ってガタイのでかいそいつは彼が飲んでいるテーブルの横にいたはずが皿などを持ってこちらに来た。

迷惑そうな顔をしながら

「いつも通りかな。特に何も変化はないし」

そう答える葵に友人はそうかと言って写真を見せてきた。スーツを着て地味な葵と違い、ちょっといかした様な服装をしていて、偉そうな髭まで生えてる。目の前に座る髭はポケットに手を入れなにかを探っていた。その様子を見ながらジョッキを口元に当てながら見てると

「見ろよ、俺彼女できたんだ。付き合ってもう3年は経つかな」

意気揚々とスマホを見せる友人に葵は眉を寄せ、それを覗き込んだ。

「覚えているか?中学の時のあの子だよ」

嬉しそうに、幸せそうに話す友人に「おめでとう」というしかなかった。写真に写る彼女はあの天使そのものだった。それに、しっかりと10年経っていて大人びていた。さらに綺麗な彼女がそこには映し出され、葵は思わず微笑んでしまった。

「かわいいよな、お前も覚えてんじゃないかなって思ってよ」

「うん、覚えてる」

テーブルに肘をつき応える葵の前でクッとビールを飲み干す。

「それで?今そのことを僕に?」

「…まぁな、たまたま隣に知ってる顔があったからなぁ…結構久しぶりだもんな」

髭の男は名刺を取り出し葵に渡した。見ればどこかのカタカナが多い会社のようだった。

「何するところなの?」

両手で受け取った葵は目の前に座る髭に聞いた。

「広告系だな、テレビとかに使われるあんな感じ」

「へぇ…」

「まぁ有名人とか多いわけよ」

「いいじゃん」

受け取った名刺をテーブルの上に置いた。ジワリと水が浸み込み変なシミができる。それを髭に見られないようそっと陰で隠しながら横目で見ては微かに笑った。

「お前もどこか勤めてんだろ?」

スーツ姿の葵を見て髭は聞いてきた。なんでこんな奴に教えなきゃならないのかと思い

「僕、名刺なんて持ってないから」と誤魔化し

「何してるんだ?」と聞かれても

「まぁ色々…。そんな華やかなものじゃないよ」と笑った。とっととこの場から立ち去りたくて目の前の料理を片づける。だが、胸がいっぱいなのか中々入らない。

  変なことを思い出しちゃった。振り返りたくもない過去の記憶。車の中でシートに背中を預けながらま夜空を眺めた。月が綺麗に輝きそろそろ新月になる。(どこに隠れようが君を見つけ出し手に入れる)葵はその月に向かって胸の奥で囁いた。
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