自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第四話「起死回生の方法とその代償について」

機士の切り札

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・TanK-X9 flame

▼書き込み1
防衛省の構想の中に「多方面に渡る特化機体の開発」っていうのがあって、今開発されてるTk-X9にもそれが含まれてるのは間違いない。
けど、世間からコストがなんだとかせっつかれてるし、そんなの用途毎に造ってたら倍になった防衛費だって底を尽く。
それなら、Tk-7で自衛隊がやってるようことの拡大版として、用途に合わせて武装だけじゃなくて装甲や機能を付け替える形にすれば、一から造るよりもずっと低コストで利に適ってるはず。
参考画像であがってる写真のTk-X9はかなり大型だし、あれが着せ替え機能を持ってる可能性は、かなり高いと思う。
つまり、次期主力機は着せ替え人形。

▼返信
ミリオタの妄想乙

 『某匿名掲示板より』

 ***

 様子がおかしい。

 比乃がそう思ったのは、HMD越しに斜めになった外界を見ながら、身体を動かそうとしても、思ったように動かないからだ。

 胴体と両腕が、何かに押さえ付けられているようで、指先も痺れたように動かない。
 下半身、両方の足が内側から熱を持ったようにとにかく熱かった。
 頭を持ち上げようとしても、不思議と力が入らない。
 息をすると、全身が響くように痛む。
 耳鳴りが止まらない。
 状況が解らない。
 朦朧とする。

 HMDで視界が塞がっていて比乃には解らなかったが、彼は今、自分の胸部を圧迫している装甲板にもたれる形になっていた。頭を持ち上げようとしても、力が入らず、身体は動かない。
 その代わりに、思考を読み取った機体が「がりがり」という異音を鳴らして、替わりにTk-9の頭部を稼働させてHMD越しに外の様子を見せた。
 はっきりとしない意識の中、白い西洋鎧のような機体が見える。

(あ、そっか……今、戦闘中だっけ)

 意識を失っていたのは一瞬か……敵はこちらを見ていない、奇襲のチャンス――だと言うのに、機体が思った通りに動かない。
 Tk-9の正面装甲を押し潰したターコイズの一撃は、頑強な表面第一装甲を強引に押し込んだ。そして内部の操縦系統と操縦者の身体を押し潰しながら突き進み。内側に僅かな空間を残した所で止まっていた。

 その小さい空間が、辛うじて比乃の命を救ったのだ。それに加え、相転移装甲がなければ、Tk-9の胴体には大穴が空いて、比乃はこの世から消失していただろう。
 しかし、メインの操縦系統をぐしゃぐしゃのスクラップにされた機体は、もう通常の手段では動かない。

(そもそも……なんで戦ってたんだっけ)

 ぼんやりする思考とは裏腹にやけに鮮明な視界の中、タンザナイトの白い機体が比乃の一番機に背を向ける。その先には電磁砲を破棄し、通常兵器に切り替えて戦闘を続行している三番機がいる。
 ただでさえ、近接戦闘用の装備が不足している機体だ。相手が手負いとは言え、通常兵器では太刀打ちできない。

(そうだ、こいつを止めないと……駐屯地が)

 人が死ぬ、大事な人が死ぬ。
 家族を失った自分を迎えてくれた新しい家族が、親になってくれた人達が、殺される。
 抵抗手段もなく、焼かれる施設、蹂躙される、見知った顔の好きな食堂のメニューまで知っている同僚達。
 そして、自分をあの地獄から救い出して、新しい居場所を与えてくれた部隊長(チチオヤ)が死ぬ。

 記憶の片隅、まだ夢に見る程こびりついた古い光景が、走馬灯の様に脳裏に浮かぶ。
 五年も昔の記憶、東京事変の最中。大規模テロに巻き込まれた比乃とその両親は、避難所に向かう途中にAMWに襲われた。
 その危機的状況を、自衛隊の機体がその武器を横合いから高振動ナイフで切り払って助けたのだ。

 しかし、あの時の自衛官は、そのテロリストにトドメを刺さなかったのだ、当時まだ残っていた、今となってはくだらないしがらみに従って。

 結果として、聞くはずがない降伏勧告を無視して回避運動を取って飛び跳ねたテロリストのAMWが、比乃の前を走っていた父を踏み潰した。
 尻もちをついた比乃の顔にかかった、固形物とも液体とも取れる何かの感触は、まだ記憶にこびり着いて残っている。
 比乃の後ろにいた母は、半狂乱になって叫んでいた。次の瞬間には、二十三式の、対AMWには圧倒的に力不足であり、人体には過ぎる破壊力を持つ射撃の跳弾を受けた。母は破裂するようにしてバラバラになった。
 比乃にそれが当たらなかったのは、テロリストのAMWが動き出した余波で地面に横倒れになっていたからか、それともただの偶然か。

 倒れたまま恐怖のあまり蹲って両手で塞いだ耳に、何かを切り裂く音と巨大な物が倒れる音がして、それから巨人の足音がどこか遠くに去って行ってからも、ただの小学生でしかない比乃は、硬直したまま動けなかった。

それが、自分の本当の家族の最後だった。今はもう、顔も正確に思い出せない人たちの記憶。

 そして機士になってから、復讐とかそんなことではなく。かつての両親のような被害者を出さないことを願い、比乃は自衛官として訓練を積んだのだ。それから幾度となくテロリストと戦い、勝利することで、その願いを叶えてきた。
 しかし、ここで自分が敗北すれば、目の前の敵はそんな比乃の努力を嘲笑うように、容赦なく駐屯地を破壊し尽くすだろう。

 潰された父親が、部隊長と被った。
 ばらばらにされた母親が、同僚と被った。
 機体毎串刺しにされた名前も知らない自衛官が、心視と志度に重なった。

 想像するまでもない、最低最悪の光景だ。
 あの白い機体は、それをやろうとしている。
 それだけは、絶対に。絶対に許せないことだった。
 故に、

 「――殺す」

 テロリストの思惑など、目的など、その胴体に収まっている人間のことなど、どうでもよい。罪悪感など抱かない、あるのは強い使命感――いつものように敵を殺して、皆を守るのだ。

 ぼんやりしていた思考が鮮明になっていく。いつの間にか、耳鳴りと脳内に響く「がりがり」という音が消えていた。頭の中は、完全な無音になった。
 自分の声すら聞こえない、喋れているかも解らない。それでも、比乃はHMDに備え付けられた集音マイクに向けて、ぼそりぼそりとAIに命令する。

 《了解 外部装甲のパージを実行》
 《予備動力起動》
 《思考操縦を補(サブ)から主(メイン)に変更》
 《受信感度を無制限に設定 完了 テスト》

 座席の後ろに設置されている装置。機士の脳波を読み取り、変換して機体の駆動部に伝える。AMWに備わるもう一つの制御系が、過剰動作に音を上げる。
 比乃は自身の脳から伸びた目に見えないケーブルが、それと完全に繋がったのを感じた。
 痺れていた指先が、挟まって動かない両腕が、熱しか感じなかった両足が、聴覚が――全ての生身の感覚が、機械の身体と入れ替わる。
 AMW乗りの間で良く言われる「人体の延長」ではなく「人体との入れ替わり」と表現される現象が成されて行き、

 《完了》

 AIが告げるのとほぼ同時、鎧を脱ぎ捨てた比乃Tk-9が、武器を手に猛然とその身を躍らせた。


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