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第四話「起死回生の方法とその代償について」

機士の反撃

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(やばいやつは倒した……あとは)

 胴体に突きを食らい、そのまま沈黙したTk-9の前で、しばし呆然としたように立ち尽くしていた白い甲冑鎧。ターコイズは、何かを押しつぶしたような感触を振り切るように頭を巡らた。人を殺めてしまった感触を今は無視し、白鴎は仲間の戦闘状況を確認する。
 緑川の操るジェイドは右足を欠損しているが、そもそも浮遊して移動するのでそこまで影響はない。精々バランスを欠くだけだ。相対している相手に押されてはいるが、まだ持ち堪えられるように見えた。

 問題は紫野のタンザナイトだ。左腕を失って弓矢を射ることができなくなっている。
 故障した狙撃銃を捨てた自衛隊のAMWが、大型のナイフを取り出して近接戦を仕掛け、弓の押付と手下を片刃刀にして応戦しているが、片腕がない分それでも分が悪く見える。

(紫野を助けた後に緑川に加勢して、タイミングを見計らって逃げる……これしかない)

 作戦の達成は成らないが、全滅するよりはマシだと判断した。そして今倒した自衛隊の機体に背を向けた。その背後から、鉄材が崩れ落ちるような音がした。その時、白鴎は搭乗者を失ったAMWが倒れたのだと思った。
 しかし、ターコイズの"耳”は、そこから鳴る低いモータ音を聞き取り、自身の中にいる白鴎に正確に伝えた。

「なんだ……?」

 白鴎は振り返る。そして驚愕した。
 今しがた撃破したと思っていた敵の装甲が、ばらばらと剥がれて自壊して……否、その中から、胴体部分に折り畳まれていた細長い腕が、猫科の動物が伸びでもするように展開した。続いて分厚いブーツでも脱ぐような動きで、ホバーユニットから骨格(フレーム)と最低限の稼動部がついた細い足を引き抜いた。細い機体が、一歩踏み出した。

 その胴体は、まるで骨格標本に心臓と肺だけを括り付けたように、今は半分潰れて拉げているコクピットブロックと、動作を停止したフォトンドライブユニット、そして予備動力の大型バッテリーがくっ付いている。
 頭部だけはそのままで、アンバランスなその外形と、拉げた部分から赤い、破損部分から漏れたオイルと、搭乗者の体液が混ざった赤黒い液体を垂れ流し、見る者を畏怖させるには充分な迫力めいた物をまとっていた。

 その骨格標本は、地面に転がった残骸の中から二振りのナイフ――刺突攻撃に特化した高振動スティレットと、刃に爆薬を詰め込んだ刃物の形をした手榴弾でもある炸薬ナイフを両手に一本ずつ拾い上げ

 次の瞬間には、その細い身体を宙に舞わせていた。

「何っ?!」と白鴎が反応するよりも早く、ターコイズが上からの一撃を銃剣の刃で受け止め、膂力で跳ね飛ばす。吹っ飛ばされた骨格標本は苦も無く着地すると、隙も見せずすぐさま地を蹴る。
 地面を這うような低姿勢での突撃に対し、ターコイズは撃ち下ろす形で銃剣から光弾を放つ。

 しかし、銃口を向けた時にはその細い機体は横っ飛びに跳ねて、弾丸は地面を抉るのみだった。続けて連射するも、右へ左へジクザクに、まるでバッタのように跳ね回る機体を捉えることができない。
 
「くそっ、ゾンビかよ、化物め!」

 毒付く間に骸骨が急接近、空中に身を躍らせながら、右手の刺突剣を突き出した。
 ターコイズがその一撃を身を捻ることで避けられると、そのまま後方に着地。銃剣を構えるよりも早く、両腕を広げて飛び掛かって組み付く。
 衝撃、振り向いた白鴎の視界いっぱいに、逆三角形の頭部とブレードアンテナが映る。

 西洋鎧に背後から絡みついた骨格標本が、右手の刺突剣をくるりと回転させて逆手に持ち直す。ターコイズの胴体に走った罅割れの中に突き刺し、執拗にぐい、と押し込んで来る。
 装甲の内側、甲冑の中の骨格を構成するひだの隙間に、高振動による切削刃が突き刺さる。それが甲高い音を立てて装甲を削る。そこは白鴎が収まっている球体の外皮があった。

「……っ、この!」

 白鴎が慌てて骨格標本を引き剥がそうとするが、人体を模した関節構造をしているターコイズでは、圧倒的な出力を持つ手そのものが届かない。
 ターコイズがじたばたと無様に両腕を振り回し身体を捻る間にも、骨格標本は容赦なく高振動スティレットを中の球体目掛けて叩きつける。

――死ね、死ね、死ね!

 猛烈な殺意が込められた何度目かの刺突を受け、甲冑の内側からばきりと破壊音が鳴る。もう一撃――と振り上げた高振動スティレットが、過負荷に耐えられなかったのか振り下ろす前に刀身が砕け散った。

 これで残るはもう片方の炸薬ナイフのみ――柄だけを握った腕をターコイズが遂に掴むと、そのまま虫でも払うように横合いに投げ飛ばす。
 投げ飛ばされた機体は空中で一回転して姿勢を整えて着地すると、追撃の銃撃を右へ左へ短距離の跳躍で回避する。

 着地と跳躍を繰り返し、骨格標本が再度距離を詰める。
また組み付かれると思ったターコイズが右手で銃剣を振り上げて叩きつけるが、その斬撃は地面を叩いた。
 左へ避けた骨格標本を追うようにして、そのまま横に薙ぎ払う――それもしゃがんで避けられる。

 そして右腕を左側に振ったことでがら空きになった胴体、先程何度も刺突剣を突き刺した隙間目掛けて、炸薬ナイフが差し込まれ、そこに骨格標本が自身のフレームが歪むほどの凄まじい勢いで回転蹴りを放った。

 歪むどころか脚部がへし折れる勢いで放たれたその蹴りで押し込まれた炸薬ナイフが、罅が入った球体の表面を切り裂き、遂にその先端を球体の内部へと侵入させた。

 球体の内側、白鴎の目の前に頭を出した刀身が次の瞬間。
 内蔵された数十キロの成形炸薬を起爆させ、搭乗者が悲鳴を上げるよりも早く、爆発の光が覆った。

 堅牢な白い外装の内側から爆炎を噴き上げて、あれほどしぶとかった白西洋鎧は呆気なく仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
 それを見届けた骨格標本も、スイッチが切れるように動きを止めて、力なく倒れた。
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