自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
44 / 344
第六話「イベント会場における警備と護衛について」

任務開始

しおりを挟む
 船着き場で事が起きていることをまだ知らない比乃は、呑気に鍋の出来具合を見て満足していた。

「さて……」

 やっとカレーの煮込みが完了、あとは粗熱を取ってから、足元に集まっているギャラリーが持つ皿に担当の自衛官が配膳するだけだ。
 AMWでカレーを作るなど生まれて初めてだったが、コクピット内にも空調越しに漂う臭い的に、味はそれなりになっただろう。比乃が一仕事終えたと一息ついた、その直後だった。

『報告! 不審車両数台が今、ゲート付近の道路を暴走中――いえ、こちらに向かって来ています!』

 イベント会場の正門にいた警備員から、この場にいる全自衛官へ成された報告に、それを予期していた者、または来るのではないかと思っていた者、そして内側に入り込んでいた敵は、偶然にも全員同時に「来たか」と呟いた。

 それから数瞬、比乃らのいる場所から少し離れた所から鉄と鉄がぶつかる破壊音。客の悲鳴。そして大型モータの動き出す音が鳴り響いた。

 AMWを満載したキャリア数台が、正門を突き破って来たのだ。そして、その中身が解き放たれたのだと、比乃はすぐさま理解した。
 そして、このタイミングでの襲来と事前の情報からして、事は護衛対象がいるフェリーの船着場でも起こっていることも、同時に察した。

 比乃は直ちに通信機を操作する。目の前のテロリストを処理するのは、残念ながら自分の役目ではない。そのことを伝えるために今、現場にいる中で最上階級である第八師団の清水一尉へと繋げる。

「こちら第三師団の日比野三曹です。清水一尉へ、私は当初の任務を果たしに独自行動を取らせていただきます」

『話は聞いています。がしかし、相手の数が数です。今連絡を受けましたが、AMWは確認できただけで十機、稼働状態にあるとのことです……援護はお願いできませんか』

 一尉の縋るような言葉に、比乃は少し考えてから、

「浅野と白間は置いて行きますので、そちらから指示をしてやってください。こちらの案件は自分一人でなんとかします」

『ありがとうございます。正直、二人に残ってもらえるだけでも助かります。こちらはぺーぺーしかいないので……また、今こちらに入った情報ですが、有明二丁目から三丁目に向けて不審大型車両が数台向かって行ったようです、目的は……』

「言わずもがな……こちら方の案件でしょう」

 王女たちがいる埠頭は、陸地への道が一本しかない。そこを封鎖するのが相手の目的だろう。

『申し訳ないのですが、我々にそちらまで対応する戦力はありません。どうも観客の中にも小武装のテロリストが混ざっていたようで、混乱を大きくするのが目的でしょうが、少々手こずっています』

「問題ありません。それに、二人がいれば、駐屯地からの増援がなんて必要ありませんよ」

『それはなんとも頼もしい……協力に感謝します、では』

「それでは……さて、心視、志度、聞いてたね?」

『聞いてたけど……』

『ほんとに比乃一人で大丈夫か?』

「なんとかするよ。二人はここに出てきたAMWの撃破を最優先、特に心視は町中で銃火器使えないんだからちゃんと接近戦で仕留めること。それと清水一尉の指示にはちゃんと従うんだよ、わかったね?」

 それだけ二人に指示すると、自分が作ったカレーが入った寸胴鍋に蓋をした。そして比乃は二人の返事を待たずに、早々に観客とマスコミが避難誘導されて無人となったその場から、Tk-7を駆け出させる。
 有明西埠頭フトウ公園の脇を通り……ここから船着場がある小島まで五、六百メートル。

 ――届くか?  否、届かせる。

「両スラスタ出力最大!」

 《了解 一番二番スラスタパワー最大》

「跳べぇ!」

 シミュレーターではないぶっつけ本番、半ば祈りの様に比乃は叫んだ。Tkー7の腰脇に搭載されている二メートルほどの長方形の装置。一年前に受けた比乃の苦情を真摯に取り入れた結果、小型化と大幅な改良が施された跳躍補助スラスターは、その叫びに応えるように、噴射口から猛然と光を吐き出した。そして、地を蹴った機体に莫大な推力を与える。

「う、うおお?!」

 危うく錐揉み回転しそうになった機体を四肢を振り回して強引に安定させる。強烈なGに小柄な身体がシートに沈む。猛烈な勢いで流れていく風景に、比乃は呻いた。最大出力でも届かないかもしれないと思っていたが、それはとんだ思い違いだった。

(こ、小型化したのに出力が跳ね上がってる?!)

 揺れる機体の中で「これ作ったやつバカなんじゃないの!」と思わず叫びながら、根性と気合で機体姿勢を制御し続ける。

 一年前にテストで使った時とは比べ物にならないそのパワーに目を白黒させながら、もうすぐ目の前になっていた着地地点に激突する前に、スラスタをくるりと反転させて逆噴射をかける。

 逆方向の慣性に身体がへし折れるかという衝撃を受けるが、どうにか気絶せず、受け身を取るように地面を転がってTkー7は着陸した。

 そのまま、すぐ傍のコンテナの陰に転がり込んで、周辺を警戒する。そこには転がっていたのはAMWの残骸が複数、それが全部で六機。

 大型の高振動ブレードでやられたのか、胴体が真二つになった物や、巨大なランスが突き刺さった物もあったりと、残骸の状態はさまざまだが、それらは戦闘がついさっき発生していたことを示すようにまだ黒煙や炎を上げている機体が多い。

 周囲に動いている機体がいないことを確認してから、自分の機体の状態を確認。

 各関節に異常なし、スラスタの状態を見ると、技研が想定する出力での連続噴射で三十秒しかないと言われていた特殊燃料――フォトンバッテリーの残量が五割を切っていた。

 どうも、出力を最大で使うことは想定されていなかったらしい。もしくは、最大出力で数秒吹かしても燃料を半分しか使わないフォトンバッテリー(フォトン粒子を専用コンデンサに詰めた蓄電池)の燃費が凄いのだろうか、比乃には判断がつかなかった。

 この運用データを受け取ったら、研究員は貴重なデータだと小躍りして喜ぶだろう。

「うちの技本関係者にはマッドしかいないのか、Tk-9と言い……ん?」

 周囲を見渡していてたtkー7のカメラが動態を拾い上げた。それは、胴体を横薙ぎに切り裂かれた残骸の近くを、這うように動いている人だっだ。

 おそらく、戦闘の生き残りだろう。そう判断した比乃は、その生存者の近くに機体を寄せた。一応、用心のために拳銃を取り出してから、コクピットハッチを解放する。

 空気の漏れる音と共に頭部が後方にスライドすると、まずそこから比乃が頭を半分だけだし、目視で、その人物の様子を確認する。

 身体のシルエットと、ワインを零したような赤褐色の長い髪からして女性。西洋人。足を負傷しているようだが、出血はしていない、そして非武装。味方でも敵でも、目的は違うが保護の必要性有りと判断。

 コクピットから身を乗り出して、駐機姿勢の機体からタタッと素早く降りると、その女性に走り寄って一応、英語で話しかけた。拳銃を向けたままだが、できるだけ優しい口調を意識する。

「自衛隊の……あー、国王陛下の関係者から王女殿下の保護を指示された物です。貴方の所属を教えてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...