自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

文字の大きさ
60 / 344
第八話「級友のピンチとそれを救う者たちについて」

索敵

しおりを挟む
 廃工場の正面入り口付近には、二人の見張りが立っていた。
 この二人が不幸であったことを述べるならば、ただ、外で見張りをしていたことだろう。空気の切り裂く音に気付く間も無く、共に額に穴を開けて、そのまま地面に倒れる。その死体を、比乃と志度が音も立てずに近付いて物陰に引っ張り込む。

 人質救出は、立て籠もっている相手を一瞬で制圧できる物量を持って行うのが基本である。しかし、今回は協力してくれたメアリの護衛の兵を入れても十五人。しかも装備は拳銃が良いところで、晃がいう所の“軍隊っぽい武器”、つまり小銃を持っている相手を制圧するには、どうしても決定打に欠ける。

 一応、周辺には件の護衛と、紫蘭の護衛の内、戦闘経験があるベテランのSPを呼んで展開してもらっている。だが、全員で突入しても返り討ちに合う可能性があった。それほど、相手の戦力が不透明なのである。

 それに場所も問題だった。とうの昔に廃棄された工場の見取り図など、すぐに用意できるはずもなかった。なので、こうして比乃と志度が二人でクリアリングしながら、中の様子を伺うしかない状況になっている。

 索敵を担う二人の自衛官は、工場の裏口に周る。そこにあった裏口のドアノブを慎重に、ゆっくりと回して、視界が確保できる最低限だけ開ける。
 比乃がポケットから取り出した鏡を使って、隙間から中の様子を確認する。入り口から数メートルの位置に、ライフルを持った兵士が一人、見張りをしていた。幸いなことに、こちらに気付いた様子はない。

 志度がハンドサインで『殺るか?』と聞くと、比乃が『僕がやる』と返した。懐からコンバットナイフを音もなく引き抜く。
 念のため、その場で軽く脚を動かす。義足の静寂機能はしっかり働いていて、殆ど駆動音は出なかった。

 比乃から鏡を受け取った志度が中を見ながら、指で比乃に突入のタイミングを知らせる。

『三……二……一……』 

 中にいた兵士が、ふと視線をドアか逸らした。ネズミが走っていた。

『行け』

 そして兵士が視線を戻した時には、生身の頃よりも強靭になった脚力で突進してきた比乃のナイフが走り、その喉元深くに突き刺さった。ほぼ同時に、比乃の片腕が素早く動き、断末魔を上げようとした口を塞ぐ。動脈を断ち切られ「ひゅっ」と空気を漏らしたその兵士の抵抗は一瞬だった。

 しばらく痙攣していた兵士が動かなくなると、音を立てないように死体を横たえる。鮮血に染まったナイフと自身のグローブを見て、なんとなく、左右に振る。

(……うーん)

 比乃は生まれて初めて、生身で人を殺したが、特にこれと言った罪悪感や嫌悪感などと言った感情もなかった。本人もびっくりするほど、何とも思わなかった。AMWで敵機のコクピットを潰した時と大して変わらない。

 刷り込みレベルで行われた、幼少期からの訓練の賜物か――自分に殺人術を徹底的に仕込んでくれた安久と宇佐美に感謝しながら(二人は凄く嫌そうな顔をしそうだが)、コンバットナイフを敵兵の服で拭ってから懐に収める。比乃が志度に手招きして、中に招き入れる。

 志度も比乃の行為になんとも思わない様子で(比乃が殺さなければ志度が殺していたわけなので、当然なのだが)近寄って、兵士が立っていた奥の扉に耳を当てて、向こう側の様子を探る。そちらには誰もいないらしく、物音一つもしない。

 だが、この様子では、至る所に見張りが配置されていることが予想できる。中の様子を把握するだけでも一苦労しそうだった。しかし、このように強引にクリアリングをするにしても、あまり時間をかけていられない。二人は出来るだけ音を殺しながらドアを開けると、足早に駆け出した。


 五分後、最初に見張りを始末した正面入り口まで戻って来た二人の顔は、焦燥していた。じっくりとまではいかないが、中の様子は確認できた。アサルトライフルを持った兵士が十数人、拳銃を持っているリーダー格らしき西洋風の男が一人。
 その足元に、よく見えなかったが、恐らく紫蘭らしき人影が倒れていたのも見た。その時は思わず飛び出しかけたが、比乃の中の理性がそれをなんとか抑えつけた。

 クリアリングの際に処理した兵士を除いても、まだこれだけの人数がいたのでは、“通常の”強攻策は不可能に近い。素直に取引に応じる振りをして、用意した手札を切って賭けに出るしかない。
 比乃としては、出来る限り確実な安全策を用意してからが良かったのだが、そうも言えない状況になってしまった。

 みすみす馬鹿正直に出て行っても、恐らくどうにもならないだろう、生身では余りにも戦力差がありすぎる。比乃は、罠だと思っていても、行くべき時は行くという行動が取れる人間だが、それも事前に万全に策を用意してからが基本だ。今のような状況は、正規軍では想定していない。

 悩んでいる時間も惜しい。比乃は数秒だけ考えてから、覚悟を決めて、何もないように見える宙空に向けて合図を送る。

 何かが駆動する、低い音が静寂に響いて、何もない空間からメアリが現れた。そして比乃と志度の表情を見て状況を察すると、二人に向かってにこりとして言う。

「大丈夫、これでも私、修羅場は潜ってるんですよ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

処理中です...