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第十二話「自衛官毎の日常について」
テロリストの日常
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赤々と燃え上がるパトカーの残骸が、夕暮れの埠頭を照らす。
穴だらけになった鉄屑と化した人型……Tkー7が、倉庫にもたれかかる様に力尽きていた。
その近くには、大型の高振動ナイフで胴体を一突きにされた二十三式が力無く横たわっている。更に周囲には、数分前まで人間、もっと具体的に言えば、警察の特殊部隊の隊員だったものが散らばっている。
それらは、緊急出動した陸上自衛隊のAMW一個小隊と、通報を受けて駆けつけた新設の機動隊の成れの果てであった。
先ほどまで聞こえていたパトカーのサイレンとモータの駆動音、そして機関砲と高振動ナイフの機動音は、もう聞こえない。
不気味なほどの静寂の中、傷一つ付いていない三機のAMWがあった。丸っこい胴体に円形の頭部、太い四肢。露製AMW、ペーチルSだ。しかし、それらの機体は、通常型とは違う装備をしていた。
自分達が先ほどまで潜んでいたタンカーの上で、退屈そうな仕草で、大型の滑腔砲を担いでいる機体。大型の高振動ナイフを手の中で弄んでいる機体。そして、西側製のアサルトライフルを装備し、辺りを油断なく見渡している機体と、三者三様の様子で、通信で今し方終えた殺戮の感想を述べていた。
『つまんないよ先生、こんなチンケな仕事のために東の果てに来たの?』
通信機越しにそんなことを言って、滑腔砲の砲身をくるくる回しているのは、二十代前半か、十代後半に見える少女だった。
小さな顔に寒色系の白いセミロング。可憐な容姿でありながら、その眼には確かな冷酷さと残酷さを宿らせている。
『俺も同意見だぞオーケアノス、こちとら暴れ足りない欲求不満でどうにかなっちまいそうだぜ』
そう言って『あと一ダースは欲しかったな』と付け足すもう一機、ナイフを器用にジャグリングしていたペーチルを操縦していた男が言う。癖毛が目立つが、端正な顔立ちと、逞しい体つきをした男だ。
そしてオーケアノス、そう呼ばれた四十代ほどの強仕の男は「お喋りも大概にしておけ、ステュクス、アレース」と、同僚と、部下であり生徒でもある少女を諌めた。
本名ではないそれらの渾名は、それぞれの特技や経歴、性格などから付けられた、ギリシャ神話をモチーフとしたコードネームだった。
オーケアノスは、その性格から正々堂々とした、正面切っての実力勝負の作戦を好む。そして、教官、指揮官としての高い素質とカリスマから、多くの部下にして「生徒」を持つことから、この名前が付けられた。
数週間前まで、アメリカ西海岸において、生徒達と共に、米軍に苦汁を舐めさせ、国際指名手配されている程の人物である。それが今回、上層部からの意向を受けて、ある任務のために日本へ出向いて来たのだ。
そして、この男は日本に到着して早々、堂々とタンカーから、乗機のペーチルで姿を現した。AMWの密輸を事前に察知していた……否、故意的に情報を摑まされていた自衛隊と機動隊を、真正面から蹂躙し尽くし、生身の人間も含めて皆殺しにしたのだ。
「技量は悪くなかった。ただし、悪くなかっただけで良くもなかった。それだけの話だ」
乗機のコクピットの中で、無残な死骸となった自衛隊のAMWを眺めながら、彼は面白くなさそうに、自衛隊の戦力をそう評した。
練度不足では決してなかった。ただ、相手が悪かった。それだけだ。戦場では常にあること……もっとも、常に格下の相手をしているだけの、未だに平和ボケから抜け出せていない国の兵士には、本物の戦場など解らないだろう。それに、死んだ者には永遠に理解する機会などない。
「さて……」
彼は自分の操るペーチルを、適当な倉庫の中に移動させると、そこで降車姿勢を取らせ、コクピットから降りる。他の二人もそれに倣い、他の倉庫に機体を駐機させて、機体から降りてくる。
「先生、準備終わりました!」
自身が今しがた乗っていたペーチルを眺めていると、機体の中で作業をしていたステュクスが笑顔で駆け寄って来た。そのまま抱き着こうとしてくるのをさっと避けて、オーケアノスは少女の頭に手をやって一撫でする。嬉しそうに目を細める様子を見て微かに微笑む。その後ろから歩いて来た男、アレースに「首尾は?」とだけ短く聞いた。
聞かれたアレースは「仕掛けは問題ねぇ、あいつら、顔色変えて殺到してくるだろうぜ」と、警察官が所持しているのと同型の通信機を、ストラップに指をかけてぷらぷら揺らしながら笑う。通信機からは、無線担当らしい警察官の声が漏れているが、そんなこと構わずに通信機を放り投げる。
「よし、では行くとするか」
アレースの答えに満足したように頷くと、オーケアノスは二の腕に手を回してくっ付くステュクスをそっと身体から離して歩き始め、後ろから二人が続き、三人は埠頭から姿を消した。
それから数十分後、全滅の連絡を受けて駆け付けた警察と自衛隊が、倉庫内に放置されたテロリストの物と思われるペーチルを発見し、その検分を始めた直後。
コクピットの奥、歩兵用の携行火器が収まっている部分から『ピピピッ』と小さい電子音が鳴り、捜査員が不審そうな顔をした次の瞬間。
三機のペーチルは大爆発を起こした。
後々の調査によると、各機体に仕掛けられた爆薬は二百キロ。それが三つ。
埠頭の一角は紅蓮の炎に包まれ、倉庫はあっと言う間に吹き飛び、爆炎が吹き上がった。すぐ傍の海に、大小様々の破片を撒き散らされた。
付近に展開していた警官隊と自衛官、そして増援のTk-7四機がどうなったかは、言うまでもない。
AMW八機、パトカー十数台、人員の死傷者八十五名――自衛隊と警察は、東京事変以来最悪の損害を被った。
穴だらけになった鉄屑と化した人型……Tkー7が、倉庫にもたれかかる様に力尽きていた。
その近くには、大型の高振動ナイフで胴体を一突きにされた二十三式が力無く横たわっている。更に周囲には、数分前まで人間、もっと具体的に言えば、警察の特殊部隊の隊員だったものが散らばっている。
それらは、緊急出動した陸上自衛隊のAMW一個小隊と、通報を受けて駆けつけた新設の機動隊の成れの果てであった。
先ほどまで聞こえていたパトカーのサイレンとモータの駆動音、そして機関砲と高振動ナイフの機動音は、もう聞こえない。
不気味なほどの静寂の中、傷一つ付いていない三機のAMWがあった。丸っこい胴体に円形の頭部、太い四肢。露製AMW、ペーチルSだ。しかし、それらの機体は、通常型とは違う装備をしていた。
自分達が先ほどまで潜んでいたタンカーの上で、退屈そうな仕草で、大型の滑腔砲を担いでいる機体。大型の高振動ナイフを手の中で弄んでいる機体。そして、西側製のアサルトライフルを装備し、辺りを油断なく見渡している機体と、三者三様の様子で、通信で今し方終えた殺戮の感想を述べていた。
『つまんないよ先生、こんなチンケな仕事のために東の果てに来たの?』
通信機越しにそんなことを言って、滑腔砲の砲身をくるくる回しているのは、二十代前半か、十代後半に見える少女だった。
小さな顔に寒色系の白いセミロング。可憐な容姿でありながら、その眼には確かな冷酷さと残酷さを宿らせている。
『俺も同意見だぞオーケアノス、こちとら暴れ足りない欲求不満でどうにかなっちまいそうだぜ』
そう言って『あと一ダースは欲しかったな』と付け足すもう一機、ナイフを器用にジャグリングしていたペーチルを操縦していた男が言う。癖毛が目立つが、端正な顔立ちと、逞しい体つきをした男だ。
そしてオーケアノス、そう呼ばれた四十代ほどの強仕の男は「お喋りも大概にしておけ、ステュクス、アレース」と、同僚と、部下であり生徒でもある少女を諌めた。
本名ではないそれらの渾名は、それぞれの特技や経歴、性格などから付けられた、ギリシャ神話をモチーフとしたコードネームだった。
オーケアノスは、その性格から正々堂々とした、正面切っての実力勝負の作戦を好む。そして、教官、指揮官としての高い素質とカリスマから、多くの部下にして「生徒」を持つことから、この名前が付けられた。
数週間前まで、アメリカ西海岸において、生徒達と共に、米軍に苦汁を舐めさせ、国際指名手配されている程の人物である。それが今回、上層部からの意向を受けて、ある任務のために日本へ出向いて来たのだ。
そして、この男は日本に到着して早々、堂々とタンカーから、乗機のペーチルで姿を現した。AMWの密輸を事前に察知していた……否、故意的に情報を摑まされていた自衛隊と機動隊を、真正面から蹂躙し尽くし、生身の人間も含めて皆殺しにしたのだ。
「技量は悪くなかった。ただし、悪くなかっただけで良くもなかった。それだけの話だ」
乗機のコクピットの中で、無残な死骸となった自衛隊のAMWを眺めながら、彼は面白くなさそうに、自衛隊の戦力をそう評した。
練度不足では決してなかった。ただ、相手が悪かった。それだけだ。戦場では常にあること……もっとも、常に格下の相手をしているだけの、未だに平和ボケから抜け出せていない国の兵士には、本物の戦場など解らないだろう。それに、死んだ者には永遠に理解する機会などない。
「さて……」
彼は自分の操るペーチルを、適当な倉庫の中に移動させると、そこで降車姿勢を取らせ、コクピットから降りる。他の二人もそれに倣い、他の倉庫に機体を駐機させて、機体から降りてくる。
「先生、準備終わりました!」
自身が今しがた乗っていたペーチルを眺めていると、機体の中で作業をしていたステュクスが笑顔で駆け寄って来た。そのまま抱き着こうとしてくるのをさっと避けて、オーケアノスは少女の頭に手をやって一撫でする。嬉しそうに目を細める様子を見て微かに微笑む。その後ろから歩いて来た男、アレースに「首尾は?」とだけ短く聞いた。
聞かれたアレースは「仕掛けは問題ねぇ、あいつら、顔色変えて殺到してくるだろうぜ」と、警察官が所持しているのと同型の通信機を、ストラップに指をかけてぷらぷら揺らしながら笑う。通信機からは、無線担当らしい警察官の声が漏れているが、そんなこと構わずに通信機を放り投げる。
「よし、では行くとするか」
アレースの答えに満足したように頷くと、オーケアノスは二の腕に手を回してくっ付くステュクスをそっと身体から離して歩き始め、後ろから二人が続き、三人は埠頭から姿を消した。
それから数十分後、全滅の連絡を受けて駆け付けた警察と自衛隊が、倉庫内に放置されたテロリストの物と思われるペーチルを発見し、その検分を始めた直後。
コクピットの奥、歩兵用の携行火器が収まっている部分から『ピピピッ』と小さい電子音が鳴り、捜査員が不審そうな顔をした次の瞬間。
三機のペーチルは大爆発を起こした。
後々の調査によると、各機体に仕掛けられた爆薬は二百キロ。それが三つ。
埠頭の一角は紅蓮の炎に包まれ、倉庫はあっと言う間に吹き飛び、爆炎が吹き上がった。すぐ傍の海に、大小様々の破片を撒き散らされた。
付近に展開していた警官隊と自衛官、そして増援のTk-7四機がどうなったかは、言うまでもない。
AMW八機、パトカー十数台、人員の死傷者八十五名――自衛隊と警察は、東京事変以来最悪の損害を被った。
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