自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第二十八話「戦場での再会と奪還作戦について」

開戦する海上戦

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 明朝、モロカイ島沖の海上。

 海軍基地を出てから十数時間経っていた。艦隊の現在地はハワイから数十キロ。その近距離で、戦闘の火蓋は切って落とされた。
 事の前哨戦は、米軍の早々に発艦した航空機と、空母を取り巻く大小様々の水上艦、俗に言うイージス艦、それに対するテロリストによって空港に配備された対艦装備によるミサイルの応酬で始まった。

 イージス艦の放った対地ミサイルが、空港に備えられた地対艦ミサイルが、空母、空港からそれぞれ発艦、発進した航空機から放たれた短距離ミサイルが、海上を乱れ舞う。

 米軍としては、もはや無傷で空港を取り戻そうという甘い考えは持っておらず、容赦なく対地ミサイルを投射する。テロリスト側もまた、遠慮も出し惜しみもする理由を持たず、次々と対艦ミサイルを撃ち上げる。

 イージス艦の妨害電波が、いくつかのミサイルの進路を狂わせる。それでもなお迫る弾頭を、ある艦は旧来の単装砲で、またある艦は、最新装備である対空レーザーで撃ち落として行く。近接防御用の火器は、課せられた役目を果たさんとフル稼働した。

 その上空では、空港を早々に離陸した、対艦ミサイルを腹に抱えている機種不明機、形状はロシアのミグに近い。その敵機が空母を狙い襲い掛かる。それを迎撃するために、米軍のFー22“ラプター”とFー35“ライトニングⅡ”が飛ぶ。

 この時代において、対空ミサイルは、航空戦の絶対的な武器ではなくなった。矛よりも盾、対ミサイルの妨害技術が、上回りつつあるのだ。それ故に、航空戦はまず牽制目的のミサイル戦から、次第に、旧世代のドッグファイトへと移行して行く。

 一斉射されたお互いの短距離ミサイルで形成された弾幕を潜り抜けたミグもどきとラプターが、猛然と尻の取り合いを始める。
 すでに、正式採用から数十年が経ったFー22は、現代においても、世界中の戦闘機群において、格闘戦最強の名を轟かせている。だが、数ヶ月前から米空軍、海軍が相対しているテロリストのミグもどきの動きは、それを凌駕しつつあった。

 とてつもない運動性能に加速力、対艦装備まで搭載可能なペイロードまで兼ね揃えた、製造元不明のミグもどきが一機、今、正に米軍のラプターの背後に着こうとしていた。

「くそっ、化け物め!」

 ラプターのパイロットが悪態を吐きながら、自分の持ち得る技術を総動員して、後ろに着いたミグもどきを引き剥がそうとする。しかし、それを嘲笑うかのように、敵機は後方についたまま離れない。

 戦闘機と戦闘機が、まるで木の葉がこがらしに巻き上げられ、絡み合うように飛び交う。そして、どちらともなく、火の塊となって落ちて行く。その眼下を、十隻のイージス艦に守られた空母が、ハワイ島南部ママラ湾に向けて悠々と進んで行った。



 その空母の中、発進準備を進めているTkー11のコクピット。その中で、比乃は外から入ってくる情報を目にして、HMDの下で悩ましく額に皺を寄せて呟いた。

「このどんぱちの中を飛んで行くのか……」

「……正気の沙汰じゃ、ない?」

「ないね……」

 後部座席に収まっている心視の言葉に同意した比乃は、HMDに海上の地図を表示させた。自身が飛ぶことになるルートを再確認する。

 ルートと言っても、海上に障害物はないので、最短距離で、一直線に上陸予定地点へと飛んで行くだけだ。問題は、その海上で未だに航空戦が行われているということだった。

 飛行が可能と言っても、一直線に真っ直ぐしか飛べない陸戦兵器である米軍のM6やTkー7改などは、航空機からしたら良い的である。急制動や方向転換が可能なTkー11は、逆に速度が足りず、狙われでもしたら、やはり良い的になってしまうだろう。

 それにもう一つ、心配事があった。今のところ、空母艦隊は順調に目標地点へと移動しつつあるが、上空での航空戦や艦隊戦は、今も激しさを増している。それこそ、こうしている間にも、この空母に対艦ミサイルが突き刺さって、撃沈される可能性すらあるのだ。

 米軍の航空隊を信じて待つしかないのだが、比乃はそれが歯痒くて仕方がなかった。しかし、まさか甲板に出て、直接対空戦闘を行うわけにもいかないし、結局は待つしかない。

「目標地点まで一時間、か」

 一時間も戦闘をやり続けられる戦力を持った軍隊同士の激突。物量と言えばの米軍はともかく、やはりテロリスト側の戦力規模が異常である。

 いったい、どこからこれだけの戦力を調達してきたのだろう。それに、兵器の質も尋常ではない。米軍機と互角か、それ以上の性能を持つ戦闘機など、それこそロシアか、日本が鋭意開発中の、机上の空論に過ぎない新型機くらいしかない。

 その戦闘機は、フォルムこそロシア軍機に似てはいるが、細部は異なる。それにあの国が、あれだけの性能を持つ機体を国外に出すはずがない。謎は尽きなかった。

「まさか、独自の生産拠点を持っている?」

 ぼそりと、比乃はその考えに行き着いて呟いた。すぐにそれはないと首を振る。それだけの大規模な拠点をテロリストが持っていたら、すぐに各国の情報網に引っかかるはずである。だが、そのような情報は、どの国からも公開されていない。

 故に解らない。あれだけの戦力をテロリストが保持出来る理由が、戦闘機だけでなく、製造元不明の高性能なAMWを所持している理由が、考えれば考える程、さっき、自分で否定した「独自の生産拠点を持っている」という答えに行き着いてしまう。

「……やめだ、やめ」

 これ以上は、自分の身分で考えても仕方がないことである。何より、今は目の前の作戦のことを考えるべきだ。比乃は思考を切り替えた。

 まず、今回の作戦の趣旨である上陸作戦。そこでの自分の役割を思い出す。比乃と心視が乗るTkー11は、フォトンスラスターを持つM6やTkー7改に比べると足が遅い。なので、他の機体に先行して発艦することになる。上陸タイミングを合わせるためだ。

 それ故に、Tk-11は敵の航空戦力に真っ先に目を付けられる。味方の戦闘機が直掩に付いてくれることにはなっているが、想定外の事態を考えておくべきだろう。比乃は、自機の腰に装備された短筒のスペックを思い出しながら、その想定外に対応するための手段を考える。

 自分たちは程の良い囮とも言えるが、それで他の機体が無事に上陸できる確率が上がるのであれば、損ではあるが仕方のない役回りと言える。今更、それに文句を言っても仕方がない。であれば、少しでも無事に上陸できる算段を考えるべきである。

「心視、シミュレートは大丈夫?」

 先程から無言でいた心視に声を掛ける。聞かれた心視はHMD内で走らせている映像とデータを見ながら、いつもの口調で答えた。

「余裕で、大丈夫」

 発艦予定時刻まで、残り五十五分。
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