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第二十八話「戦場での再会と奪還作戦について」

白い巨人、発艦

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 それからきっちり五十分。他の機体も出撃準備を終えている。比乃も、揺れる格納庫内で機体を立ち上がらせていた。

『自衛隊機。child1、出撃準備は出来ているな!?』

 そこに、艦橋の戦闘管制官が通信越しに言って来た。船の近くで何かが爆発したのか、揺れが激しくなる。爆音まで聞こえてきた。管制官の後ろで、艦長が何事か叫んで指示を出しているのも聞こえる。

「こちらchild1、発進準備完了。いつでもいけます」

『本艦は敵航空機の攻撃を受けている。今は直掩機が凌いでいるが、どうなるかわからない。予定より早いが、上陸作戦を開始する。外は酷い状況だが……』

「覚悟の上です。任せてください、囮くらいにはなってみせますよ」

『任せたぞ。一番エレベータから飛行甲板に上がれ、幸運を祈る』

 機体の状況を確認。ステータス各値に異常なし、武装のチェック、短筒が一丁。高振動ナイフが二本。その他内蔵兵装にも異常なし。完璧に仕上げてくれた整備員と技術スタッフに感謝しながら、念じる。待機中のエレベータに向けてTk-11を歩かせながら、横を見る。すでに次の順番待ちをしているのか、直立姿勢で待機していた宇佐美のTk-7改がこちらに手を振っていた。それに比乃も手を振り返す。

 その時、艦が再び大きく揺れ、どこからか何かがひしゃげた様な、おっかない音が聞こえてきた。攻撃を受けたのか、比乃は気になったが、それを誰かに聞くよりも早く、エレベータが上昇を始めた。
 エレベータの警告灯が光を発し、少し耳障りな警告音が発せられて、Tk-11は飛行甲板へと迫り出した。空が見える。その空では戦闘機とミサイル、そして火の玉となった残骸が飛び交っていた。

 この中を上陸地点まで飛んでいけなど、正気の沙汰ではない。しかし、やるしかない。空母の側面から黒煙が上がっていた。格納庫内に居た時には気付かなかったので、直撃ではなかったようだが、何らかの損害を受けたらしい。センサーを見ると、艦が少し傾斜していることも判った。

 護衛のイージス艦も直援機も頑張っているが、悠長に最適のタイミングを待っている暇はなさそうだった。

『child1、発艦タイミングはそちらに任せる。武運を!』

「了解……child1、発艦します!」

 返事をして、機体に短距離走のクラウチングスタートのような姿勢を取らせる。次の瞬間、Tk-11は助走をつけるために、甲板上を駆け出した。どんどん飛行甲板の先端が、海が迫る。第四世代機の持つ爆発的な瞬発力で、機体が加速する。

 そして、あと一歩で海に転がり落ちるという所で足を踏み切り、背中の羽根が瞬いた。

 海へと投げ出された機体が、海面に着く直前で飛び上がる。フォトンウィングが、見えない床を蹴って跳ね上がる。羽根が一気に機体を前方斜め上方向へ持ち上げた。速度を重視して最大出力で力場を発生させて叩いた為か、テストを行った時よりも、機体の加速はずっと速かった。

 後方を映すサブモニターの中、第二エレベータから後続の機体が甲板へと出てくるのが見えた。その姿も瞬く間に遠ざかり、次の跳躍で巨大に見えた空母の姿が点のようになった。

 予想以上のGと、激しい振動がTk-11を襲う。機体が落下し始めるタイミングが掴めない。半場勘に近い感覚で、羽根を羽ばたかせて機体が墜落するのを防ぐ。

 今は上昇しているのか、それとも落下しているのか、もしやすでに墜落しているのでは――否、機体は確かに飛んでいた。フォトンウィング、羽根と名を称していても、空力学も糞もないこの陸戦兵器は、確かに陸地目掛けて不格好な飛行を続けていた。

「距離千……接近してくる機影」

 《距離千 八時方向 敵戦闘機》

 心視とAIがほぼ同時に報告してくる。例のミグもどきが、援護に駆けつけたラプターに機関砲を叩き込まれながらも、翼に抱えたミサイルを切り離す瞬間が見えた。短距離ミサイル――

「心視!」

 振動の中、自然と大きくなった比之の声に反応して、心視が短く「了解」と呟いた。その間にも、ミサイルが尻から火を噴き初め、こちらに向かってくる。接触まで後数秒。回避などできない。であれば、取れる手段は一つだった。

 Tk-11の羽根が少しでもミサイルから距離を取ろうと羽ばたき、機体を空中で跳躍させる。その勢いのまま、機体を反転。後ろを向きながら腰の短筒を引き抜いていた。

 この心細い武装一つで、短距離ミサイルの迎撃を試みる。あまりにも分が悪い賭けだが、やらずに撃墜されるよりは万倍もマシだった。無理矢理に射撃姿勢を取らせ、錐揉み回転しそうになる機体を、比乃が必死に、強引に制御する。

 主マニピュレータの操作を心視が引き継いだ。素早く照準。発砲、発砲、発砲。三発目の徹甲弾がようやくミサイルを捉える。真正面から撃ち抜かれた弾頭が筒のようになって爆発した。

「やっててよかった……シミュレータ……意外と、余裕だった」

「ほんとかよ!」

 冷や汗一つかいていない心視に、半分叫ぶように言い返して、再び跳躍、前方を向き直ったTk-11が再加速する。動揺もしていない心視に違い、比乃はHMDの下で冷や汗をかいていた。セミオートの上に短砲身の火器で、ミサイルの迎撃などという神業に等しい芸当、心視でなければできなかっただろう。それでも、三発必要だった。

 もうこんな心臓に悪いのはごめんだと、上空についたラプターに手を振ると、判っていると言わんばかりにラプターは主翼を上下に振って答えた。

「ほんとに大丈夫なんだろうな……」

 比乃の呟きに反して、援護についた三機のラプターは、執拗に攻撃を仕掛けてくるミグもどきを見事に迎撃して、上陸地点まで残り一キロの所まで守り切って見せた。後ろを見れば、後続で発艦したM6とTk-7改が、もう一キロ後ろに追いつこうとしていた。

 最後の跳躍。一気に加速した機体が地面に接地。土煙と火花を上げてTk-11が着陸した。それに続いて、スラスターを切り離したM6が、逆噴射をかけて軟着陸したTk-7改が、続々と空港の端に到達する。

 作戦の第一段階は成功。
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